身勝手で一方的な別れを告げられたので、これからは私も好きにやらせていただきます

こまの ととと

文字の大きさ
上 下
6 / 33
第一章

第6話 アレコレ整えて

しおりを挟む
 あの後、コイツの名前やら事情やらも聞いてファミレスを出た。
 
 この背の高く、くすみのある深い紫色の髪の男の名前はエレトレッダ・レドーサ。
 どうにも前に居たパーティからは追い出されたらしい。本人曰く非常に不当な理由らしいけど、本当かしら?

 ちなみに私たちが今向かっているのは、装備品を整える為のショップ。
 中に入ってみると、これが品物の質、量共に申し分が無い。

「ほえ~。中々立派な店構えだなぁ」

「当たり前でしょ。この街で一番の品揃えだって評判なんだから」

「なんで街に来たばっかのお前が偉そうなんだよ? そういう情報ってのはどうやって仕入れてんだ?」

「この手の情報は事前に仕入れておくもんでしょ」

 手に入れたタウンマップにも、ここがオススメの装備屋だって書いてあった。
 だからここに来たのだ。

「そうか……。そうかもな」

「なんっか頼りないわね、アンタも一端の冒険者じゃないの?」

 そういえば、半ば勢いで組むことになってけど、コイツって何が得意なのかしら?
 あの身のこなしからして前衛タイプだと思う。魔法を使うって感じにも見えないし。

 エレトレッダ――もうエルとでも呼びましょう――は剣が並べられた置き場へと向かい、二本の剣を掴んで見せた。

「やっぱこれだね」

 エルが手にとったのは護拳の無いサーベルに頑丈そうな両刃のナイフ。
 長刀と短剣の二刀流ってこと? 正直、故郷じゃ聞かないスタイルね。
 どっちも鍔を持たないデザインだけど、それが妙にエルの合うような気がした。

「こういう剣は割りとどこでも売っているってところがいい。気兼ね無く使い潰せる。これが何より大事」

「ふぅん、確かにね。アンタはそういうチョイスなワケね」

「スタイルなんざ千差万別だろ。そういうお前は買うもん無ぇのかよ?」

「あるわよ。アンタと違ってちゃんと考えてるんだから」

「ふぅん」

 興味無さそうな返事。
 そりゃスタイルなんて千差万別だけど、もうちょっと気にかけてもいいんじゃない?

 なんて思いながら、私は自分に馴染んだ武器――クナイ――をいくつか調達する。
 バッグにも入ってるけど、消耗品だしね。これがメインの武器ってわけじゃないけど、買っておいて損は無い。

 その後も必要な道具もいくつか見繕って、私達は店を後にした。

 会計の際、エルがそれとなく奢ってもらおうとして来たが、普通に断った。
 ご飯代出したんだから、自分の武器ぐらい責任持ちなさいっての。

「よし、一通り揃うもん揃えたしやることと言ったら一つよね!」

「ああ、今日の宿を一体どうするべきか……」

「違うでしょ! もっと大事なことがあるでしょうが!?」

「そんなこと言ったってお前、いくらなんでも野宿は嫌だぜ。それもこんな街中で。朝飯はホームレスのおっさん達と一緒に炊き出しに並べってのかよ!」

「誰もそんな話はしてないでしょうが! アンタってば冒険者としての自覚あんの?!」

「馬鹿野郎お前、こちとらこの筋一年と二ヶ月だぜ? ベテラン様に対する口の利き方ってのがなってないんじゃねえのか?」

「って、たった一年ちょいじゃない。アンタこそそれでよく偉そうにできるわね?」

「んだよ。結局何をお望みなワケよ?」

 私は呆れたように溜息を吐いた後、「まずはパーティの登録でしょうが」と吐き捨てるように言ってのける。

 するとコイツは目を丸くする。盲点だったとでも?
 これから冒険者としてやっていくのなら、届け出を出さないと。不法冒険者でお縄行きだ。

「……へっ、お前にしちゃあ随分とまともなこと言うじゃねぇか。ま、これも全てそう考えつくように仕向けた俺の誘導が優れていたってことなんだけどな。感謝しろよ」

「嘘ばっか言ってんじゃない! こんなところでいつまでもこんなバカなことやってる意味なんてなにも無いんだから、とっとと行くわよ!」

「ぐえっ!?」

 腕を強引に掴んだ私は、そのままずるずる街中を引きずっていく。

「ばっ、急に何すんだ!?」

「ほら大人しくついてくる!」

(なんて強引で可愛い気の無い女だ。きっと今まで彼氏の一人も出来なかったんだろうな。紳士に対する配慮ってもんがない。まったく、これだから礼儀知らずの田舎の小娘は……)

「……アンタまたなんか失礼な事考えて無い?」

 ビビッと来て掴んだ先のエルの顔を見る。

 段々この男の思考が読めるようになった気がするわ。嬉しくないけど。

「……ったく、分かったよ。黙ってついて行きゃあいいんでしょうが」

「最初から素直にそうしてればいいの。ホント、世話の焼ける男ね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

下げ渡された婚約者

相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。 しかしある日、第一王子である兄が言った。 「ルイーザとの婚約を破棄する」 愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。 「あのルイーザが受け入れたのか?」 「代わりの婿を用意するならという条件付きで」 「代わり?」 「お前だ、アルフレッド!」 おさがりの婚約者なんて聞いてない! しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。 アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。 「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」 「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

処理中です...