身勝手で一方的な別れを告げられたので、これからは私も好きにやらせていただきます

こまの ととと

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第一章

第1話 勝手な男の言い分

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「君に告げなければならない――他にも付き合ってる人が居るんだ」

「……は?」

 ある日の事、幼馴染であり婚約者であった男からの、まさかの爆弾発言。



 私達の出会いは、取り立てて珍しくもない。
 同じ故郷で生まれ、そして同い年として同時に教育を受ける仲。

 物心のつく前からの出会い。

 家が近く、最も気心の知れた仲――だと私は思っていた。



 最初に告白して来たのは彼の方。

「あの……僕と付き合って欲しい。将来を前提に、君と過ごしていきたいんだ」

 あまり気が強いと言えない彼――ハルゴ――の、精一杯の情熱だった。
 だから私は感動したし、正直なところ異性としてそこまで意識してはいなかったが、その告白でグッと彼の事が気になり始めた。

 そうして私達は付き合い始めた。当時の私達はまだ十四歳。人によっては男女仲を茶化すようなお年頃。
 同年代では、割と早く出来たカップルだったと思う。

 私達は付き合ったのきっかけにしてか、同年代でのカップルが増えた。
 親友の女の子からは、好きな人に告白が出来た。勇気をくれてありがとうと感謝されたっけ?

 別に私が何かしたわけじゃない。その子には元々勇気があった。それを引き出しただけに過ぎないと思う。

 でも、そのきっかけになれたのなら……。そう思うと誇らしかった思い出がある。


 まあ、そんな話は置いといて。

 それから数年後、少し早いがお互いに結婚も意識するような歳になった時――私は振られた訳だ。



「聞こえてないのかい? 好きな人が――」

「聞こえてない訳じゃないのよ。わかる? 私の今の気持ち」

「い、いや。じゃあ返事が欲しいんだけど……」

「何が”じゃあ”なのか知らないけどね。私が今言いたいのは――呆れてものが言えないって事! わかる?」

「そ、そういう事か。君には悪いとは思わないでもない。でも、男としてあえて謝らない。僕は本当の愛を見つけたんだ。それに嘘をつけないから、君の返事だけが欲しい」

「そういう言い方をすればカッコが付くってって考え方がねぇ――既にカッコが悪いってのよ! それがわからないから、そんなあなたに惚れた私に呆れてものが言えないのよ」

「君が僕を好きな気持ちがよくわかった。それでも僕はっ!」

「もういいわ。そこまで言われてまだ私に気持ちが残ってる。本気でそう思ってるあなたの独りよがりが、所詮あなたの本性ってことなんでしょうよ。……だからこの数年間、それに気付かなかった私が一番の馬鹿で、呆れてしまって仕方が無いわっ」

 吐き捨てるようにつぶやいた。
 お互いを思いやる。お互いの気持ちを伝えあう。そういう事をかかさなかったつもりだけれど、それも私の思い上がりだったんでしょう。

(はぁ……)

 心の中の溜息。

「結果的に君を捨てる事になってしまったけれど、せめて理由を知らないと納得は出来ないと思う。残念だが終わった関係だけれど、それでも最後まで君には誠実でいたい、わかってくれるね?」

「……」

 何言ってんのコイツ?

 落ち始めた好感度が、音を立てて急速に下落する。
 冷めた私の視線に気付きもせず、目の前の横暴な野郎は話を続けた。

「彼女と出会ったのは偶然……神様の気まぐれと言っていいだろう。まず最初に目を奪われたのはその麗しい髪だった。深い森の隠された草原に咲く鮮やかな黄色い花。それから次に魅了されたのは、透き通るような声に。花の周りを弾むように飛び回るミツバチのような愛らしさを聞き取った。そして最後、トドメを刺されるように惹かれたのはその首元。晴れ渡る空にたゆたう白い雲を連想とさせ――」

「……正直に言いなさい、本当に惹かれたのはどこよ?」

「……白い雲の下に広がる雄大な山脈、とでも言おうか」

「あなたって人は!!」

 結局、言いたいのはそこか!

「ぐわーっ!?」

 色んな怒りと勢いに任せて、思わず投げ飛ばしてしまった。



 そのまま元婚約者の家に行って破談を宣告。
 その際、引きずってきた元婚約者を突き出した。

 残念、そうな顔をしながらも受け入れてくれたおじ様とおば様。

 名残惜しいけど仕方がない。けれど、二人は最後まで誠実で本当にいい人達だった。

「この罰当たりもんが! 二股かけるとはどういう了見だ!!」

「どこのアバズレに引っかかった! このバカ息子!!」

「痛い!? いたたた!!? やめっやめて! それにいくら二人でも彼女の悪口は許さないぞ、文句があるなら僕だけにぶつけ――」

「お望み通りにしてやるわ!!」

「――ぐえっ!?」

 粗相をした息子を蹴飛ばしながらも、玄関まで見送りに来てくれた二人に見送られ、私もまた自分の親へと説明をしに行く。



「そうか、お前の晴れ姿を見られないのは残念だが仕方がない。……そうだな、これもちょうどいい機会だと考えて、気分転換に外へと出てみるか?」

「そうね。未練すら粉々にされたし、ちょうどいいかも」

 私達の住んでいる、この場所には掟がある。
 結婚を控えていた私には関係なかったけど、それもなくなった。

 だったら、外の世界ってのを見てみようじゃないか。

 もしかしたら、新しい出会いがあるかもしれないし、ね。

 という経緯で、私は生まれ故郷を離れることになった。

 目指すは都会。思いっきり荒波に揉まれてみましょう!

 幼い頃から、この地で鍛えたこの技。冒険者になって、試してみるのも悪くない。


「さあ、そうと決まれば出発よ!」


 長の娘として身分を遠くに置き去りに、そうして故郷を飛び出した。

 婚約を破棄された哀れな女のレッテルを怒りで踏み倒して、私――ラゼクの新たな人生が幕を開けたのだ。
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