裏切られ献身男は図らずも悪役貴族へと~わがまま令息に転生した男はもう他人の喰い物にならない~

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第62話 出来た部下

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 連盟はこの国で商売をする際に、加入し登録を行わなければならない。
 身分証明の代わりにもなるし、持っていれば様々なサービスも受けられたり、事業を立ち上げる際の手助けもしてくれる。

「結論から申し上げますと、そのような商団は存在しないとの事です。中央へ問い合わせを行ったところ登録されておりませんでした」

「それって本当なの? 一部のスタッフが賄賂でも握らされてたら分からないわよ」

「……侯爵様、この件は――旦那様が直接動かれました。まず間違いないかと」

「……そう。だったら情報屋の方はどうかしら?」

 少しばかり大人しくなった侯爵が言った情報屋。この場合それは情報ギルドの諜報員である。
 裏の事情を詳しく調べる際には不可欠な存在であり、その怪しさに反して多方面から信頼を勝ち得ている組織だ。

「契約書を見せて依頼したところ、その契約内容に不審な点を覚えたようです。契約書に使われたサインの筆跡が、以前詐欺で調査していた人物に似ていたとの事。そこから現在の身元の調査を行ったのですが……」

「殺されたのね?」

 侯爵の目線が少し細くなる。

「はい。その人物が借りていた部屋から死体が出てきました。そして、その人物が所属していたと思われる組織もまた、全員が行方不明。壊滅したと思われます」

「結局後手ね、逃げるのがお早いこと……。関わった人間は全員死亡。罪を犯した貴族達も責任の所在を求める相手も私の領地で亡くなってもうどうにもなりません、なんて」

「ですが事実です」

「事実だから困ってるのよ。私の事を貶めたい連中は、この状況を面白可笑しく裏で吹聴する事でしょうね。真犯人は私、王室にバレる前に死人に全責任を押し付けた、といった感じかしら。……はぁ」

 彼女にしては珍しく溜息を吐くが、それも仕方のない事だ。

 元々ゼブローン男爵の素性を疑っていた侯爵は、いつ尻尾を出すのかと優遇し、油断させて泳がせておいた。
 男爵はその性格上、決して大物ではなく、利己的で目先の欲に囚われやすいという本質を見抜いていたからだ。

 自分の息子に事件を任せたのも、この程度ならと箔をつけさせる為であった。
 が、蓋を開ければ厄介なバックが付いていて、その上で大々的な粛清劇が行われるという始末。

 ゼーカの一件と何かしらの繋がりがあるという予測こそ立てられたものの、あれ程強行的な口封じをしてくるとまでは読めなかった。

 王室との繋がりが強い侯爵家の領地で大事件を起こせば、それは王室への敵対行動とも取れるからである。

 そして王室と侯爵家の関係を面白くないと思っている一部貴族が、これを隙と見るだろう事は想像に難くない。

「心中お察し致します。それに私としても、坊ちゃまへの配慮が足らずに怪我をさせてしまいました。処分は如何様にでも」

「その場合、高を括って泳がせた私が一番処分を受けなければならなくなるでしょう。だから貴女に対してとやかく言うつもりはないわ。結果的にだけれど、あの子の成長も少し見れた事だし」

 あの日の夜、報告を受けた侯爵は何事も無ければその内戻ってくるだろうと構えていた。
 しかし、妙な胸騒ぎに襲われ現場へと急行。ついでに息子に恰好の良い所を見せられればという下心もあった。

 その結果、屋敷の惨状とヤギ頭の魔物が絶命する瞬間を目撃する事になる。

「事件については胸糞の悪い話だけど。あれだけの魔物を退治出来たのはせめてもの慰めね。短期間での成長という点では上等でしょう。ただ、あの魔物……」

「何か気になる事でも?」

「昔見た事があるの。……遠い、とても遠い地でね」

「……この国には存在しないという事でしょうか?」

「出会う事はまず無いわね。そして知らない人間の方が多いでしょう。……よりにもよって」

 それだけ言って侯爵は口を閉ざし、椅子に深く腰掛ける。
 やがて目も閉じて沈黙が訪れた。

 コセルアはその様子に、遠い過去を思い出す印象を受ける。
 この様な侯爵はほとんど見た事が無かったが、敢えてそれを口にする事もなくじっと時が来るのを待った。

 そしてしばらく、ようやくその瞬間は訪れた。

「仕方ない、私が直接中央へ行くしかないわね。前々から呼ばれているし丁度いいわ。ついでに”あの子達”の顔を見に行くのもいいでしょう」

「久方ぶりになりますね。きっと、あの方々も喜ばれる事でしょう」

「さて、ね。どうせだし貴女もついて来なさいな。久しぶりなのはお互い様な事でしょうし」

 中央、それが差す言葉はこの国おいて一つしかない。
 王城を有する、王都『グラーデリア』とその周辺地域である。

 そこにある侯爵家の別邸にはとある人物達が住んでいた。侯爵家の二人の令嬢である。
 ある事情で、その二人は父親と共に暮らしていた。

「貴女の成長を見せて上げるのも悪くないわ。私の育てた最高傑作だもの、偶には自慢しないとね」

「私には大変勿体ない評価です。どうか、そのお言葉は小侯爵様へお送り下さい」

「あの子が貴女くらい素直だったらそうしたかも知れないわね。……さて、しばらく家を空ける事になるから、きっと寂しい思いをさせてしまうわね」

 侯爵は子煩悩で。かつ、子供には自分の優れた所を見せたがるところがある。
 しかし彼女は偏屈でかつ天邪鬼な面を持っており、それを素直に表現する事が出来ない。

 さらに質が悪いのは、本人にその自覚が無い事である。

「……そうですね」

 そう肯定はしたものの、果たしてあの坊ちゃまが寂しがったりするだろうか。
 コセルアはそう思った。
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