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第61話 報告
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「親戚の家?」
「ええ、お呼ばれされたから言って来るわ。貴方は体の調子が戻っていないでしょうし、大人しくお留守番してなさいな」
夕食のテーブルでお袋が切り出した話。
てっきりこの間の事件に進展でもあったかと思ったが、親戚に会いにいくという他愛ないものだった。
親戚。そういえば俺にも居るわけだよな当然。
「その家って遠いのか?」
「そうね、馬車に乗って駅まで行って、それから汽車に乗って……。ま、忙しく乗り換える必要があるから遠いわね。数日家を空けるから侍従長の言う事をよーく聞くのよ? 私が居ないからって寂しがって周りに迷惑かけないようにね」
「いや、別に寂しくはならんだろ」
「……照れ隠しが上手いのね」
(何言ってんだ負けず嫌い)
しかしそうなると、事件の調査はコセルアあたりに一任されるって事か。
案件がデカいだけに、お袋が直接動く必要があると思ってたんだが。
俺としては商団が今どうなってるとか、死んだ貴族の家門がどうなるのかとか。
あの屋敷の後始末がどうなるのか、とかそういう話を早く知りたいんだけど。
俺が直接あちこちに行けりゃいいんだが、しばらく大人しくしてろと言われた以上は、な。
実際わがまま言った挙句に暴れ回った訳だし、その分言う事を聞くのが子供心って奴だろ。
親戚がどうとか、確かに気にはなるが……無理してついて行きたい程じゃないしな。
どうせその内会う事にもなるだろ。それが別に今じゃくても何も困らんしな。
「それで、いつ出発なんだ?」
「あら、やっぱり寂しいのかしら? なんだかんだ言っても甘えが抜けてないわね」
「いや、二日後ならライベルと朝から町に出かける約束してるから、見送りは出来ねえぞって」
「……貴方って本当に可愛くないわね。明日の朝出るのよ。思惑が外れて残念ね」
「別にそんな事言ってねえだろ」
この捻くれもの。
俺一人で遠くに出る事は出来ないが、近場の町くらいなら同伴で出かけていいという許可は貰ってる。
最近は体も動かせてないから、気分転換がしたい。
実は前からライベルにスイーツショップに付き合って欲しいと言われていた。
丁度いいからその約束を果たそうと思って、二日後に町へ出かける事になった。それぐらいなら体に負担って訳じゃないしな。
しかし、記憶を失くす前の俺は町へあまり行きたがらなかったというが。本当に今の俺とは違う考えだな。
別に屋敷の中が悪いと言ってるんじゃなくて、気分転換で外の空気を吸うってのはいい事だって話だ。
……インドアらしいって割には、何で誘拐された日は外に出たんだろう?
何回か考えたが……やっぱり分かんないな。
お袋は拗ねたのか、もう喋る事も無くフォークを肉に刺して口に運ぶばかりだ。
◇◇◇
何故、侯爵が屋敷を留守にする事になったのか。
それは日中の出来事が関係していた。
執務室の扉を叩く者がある。調査を行っていたコセルアだ。
「侯爵様、コセルアです。お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「……どうぞ」
扉を潜って来た彼女の手には書類が収まっている。
そこに調査結果が書かれているのは想像に容易い。
「まだ完全と言える程ではありませんが、ある程度纏まりましたのでご報告に参りました」
「じゃあ早速聞かせてくれる? ……多分、想像通りだと思うけれど」
確信があるのか、侯爵はテーブルに肘をついたままその結果を聞く姿勢を取る。
彼女の長年の経験が、そうさせているのだろう。
「では。もはや屋敷の主もいませんので踏み込んで調べたところ、新しく目ぼしいものは出てはきませんでした。地下を調べたところ、確かに魔物が拘束されていた痕跡はありました。しかし、坊ちゃまの証言から考えても数のつり合いが取れません。そこに多少の痕跡しか無かったとすると……」
「あの時、誰かが召喚していたのでしょうね。件のローブが有力でしょうね。あの子も取り逃がしたのを悔しがっていたわ。……やっぱりまだあの子には早かったかしら」
「侯爵様が坊ちゃまを態と見逃した事、あの方が知れば面白くは思わないかと」
実のところ、侯爵は息子の思惑に気づいていた。
なのに態と行かせたのは、それ程の実力を身につけたと考えたからだ。
今後も騎士団に協力するというのであれば、実地での経験が必要だろうと見送ったのである。
だが、一つ予想外だったのは……。
「魔物が目覚めるなんてね。後ろめたい人間を大勢巻き込むとは思わなかったわ。おかげで余計な経験を積ませる事になってしまった。いつかそのツケは払って貰わないと」
「そのお手伝いはさせて頂きます。しかし、敢えて魔物を暴れさせる事情があったなどと……背後に居る人間は余程の大物に思えます。これ程の大事を起こしても構わないと考えるとは」
「やる人間は限られるでしょうね。まったく、人の土地でそんなもの持ち込んで欲しくないのだけれど。……それで、例の商団については」
悩むように額に手を置く侯爵が口にした例の商団とは、当然カルソン商団の事。
最早持ち主が居なくなり、堂々と持ち帰った書類に記されたその正体を探る為に、連盟に問い合わせを行っていた。
「ええ、お呼ばれされたから言って来るわ。貴方は体の調子が戻っていないでしょうし、大人しくお留守番してなさいな」
夕食のテーブルでお袋が切り出した話。
てっきりこの間の事件に進展でもあったかと思ったが、親戚に会いにいくという他愛ないものだった。
親戚。そういえば俺にも居るわけだよな当然。
「その家って遠いのか?」
「そうね、馬車に乗って駅まで行って、それから汽車に乗って……。ま、忙しく乗り換える必要があるから遠いわね。数日家を空けるから侍従長の言う事をよーく聞くのよ? 私が居ないからって寂しがって周りに迷惑かけないようにね」
「いや、別に寂しくはならんだろ」
「……照れ隠しが上手いのね」
(何言ってんだ負けず嫌い)
しかしそうなると、事件の調査はコセルアあたりに一任されるって事か。
案件がデカいだけに、お袋が直接動く必要があると思ってたんだが。
俺としては商団が今どうなってるとか、死んだ貴族の家門がどうなるのかとか。
あの屋敷の後始末がどうなるのか、とかそういう話を早く知りたいんだけど。
俺が直接あちこちに行けりゃいいんだが、しばらく大人しくしてろと言われた以上は、な。
実際わがまま言った挙句に暴れ回った訳だし、その分言う事を聞くのが子供心って奴だろ。
親戚がどうとか、確かに気にはなるが……無理してついて行きたい程じゃないしな。
どうせその内会う事にもなるだろ。それが別に今じゃくても何も困らんしな。
「それで、いつ出発なんだ?」
「あら、やっぱり寂しいのかしら? なんだかんだ言っても甘えが抜けてないわね」
「いや、二日後ならライベルと朝から町に出かける約束してるから、見送りは出来ねえぞって」
「……貴方って本当に可愛くないわね。明日の朝出るのよ。思惑が外れて残念ね」
「別にそんな事言ってねえだろ」
この捻くれもの。
俺一人で遠くに出る事は出来ないが、近場の町くらいなら同伴で出かけていいという許可は貰ってる。
最近は体も動かせてないから、気分転換がしたい。
実は前からライベルにスイーツショップに付き合って欲しいと言われていた。
丁度いいからその約束を果たそうと思って、二日後に町へ出かける事になった。それぐらいなら体に負担って訳じゃないしな。
しかし、記憶を失くす前の俺は町へあまり行きたがらなかったというが。本当に今の俺とは違う考えだな。
別に屋敷の中が悪いと言ってるんじゃなくて、気分転換で外の空気を吸うってのはいい事だって話だ。
……インドアらしいって割には、何で誘拐された日は外に出たんだろう?
何回か考えたが……やっぱり分かんないな。
お袋は拗ねたのか、もう喋る事も無くフォークを肉に刺して口に運ぶばかりだ。
◇◇◇
何故、侯爵が屋敷を留守にする事になったのか。
それは日中の出来事が関係していた。
執務室の扉を叩く者がある。調査を行っていたコセルアだ。
「侯爵様、コセルアです。お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「……どうぞ」
扉を潜って来た彼女の手には書類が収まっている。
そこに調査結果が書かれているのは想像に容易い。
「まだ完全と言える程ではありませんが、ある程度纏まりましたのでご報告に参りました」
「じゃあ早速聞かせてくれる? ……多分、想像通りだと思うけれど」
確信があるのか、侯爵はテーブルに肘をついたままその結果を聞く姿勢を取る。
彼女の長年の経験が、そうさせているのだろう。
「では。もはや屋敷の主もいませんので踏み込んで調べたところ、新しく目ぼしいものは出てはきませんでした。地下を調べたところ、確かに魔物が拘束されていた痕跡はありました。しかし、坊ちゃまの証言から考えても数のつり合いが取れません。そこに多少の痕跡しか無かったとすると……」
「あの時、誰かが召喚していたのでしょうね。件のローブが有力でしょうね。あの子も取り逃がしたのを悔しがっていたわ。……やっぱりまだあの子には早かったかしら」
「侯爵様が坊ちゃまを態と見逃した事、あの方が知れば面白くは思わないかと」
実のところ、侯爵は息子の思惑に気づいていた。
なのに態と行かせたのは、それ程の実力を身につけたと考えたからだ。
今後も騎士団に協力するというのであれば、実地での経験が必要だろうと見送ったのである。
だが、一つ予想外だったのは……。
「魔物が目覚めるなんてね。後ろめたい人間を大勢巻き込むとは思わなかったわ。おかげで余計な経験を積ませる事になってしまった。いつかそのツケは払って貰わないと」
「そのお手伝いはさせて頂きます。しかし、敢えて魔物を暴れさせる事情があったなどと……背後に居る人間は余程の大物に思えます。これ程の大事を起こしても構わないと考えるとは」
「やる人間は限られるでしょうね。まったく、人の土地でそんなもの持ち込んで欲しくないのだけれど。……それで、例の商団については」
悩むように額に手を置く侯爵が口にした例の商団とは、当然カルソン商団の事。
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