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第60話 愛いらしきと戯れ

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 この部屋には俺とライベルだけじゃない。ゼーカも来ている。
 なんだかんだこいつも、ここ数日毎日ライベルと来てるな。

「……ん? そうだぞボッチャマ、ライベルわんわん泣いてた」

「い、いや。わんわんは泣いてないよゼーカちゃん。それにほら、わんわんならここに居るじゃない」

 そう、ゼーカは今子犬と戯れて居た。
 あの日、俺が出会った黒い子犬だ。

 一匹だけ放っておく事も出来ず、屋敷へ連れ帰った。

 取り敢えず、小さい犬は子供に見せたら喜ぶだろうとゼーカに世話を頼んだ。
 二つ返事で引き受けてくれた上に、よく世話もしているようだ。

 この屋敷で自分よりも小さいのもあってか、ゼーカは子犬を自分の弟のようにあちこち連れ回しているようだ。

 そのおかげか、子犬はこの屋敷に来て数日だっていうのに、もう屋敷中の人間に可愛がられている。
 やっぱり子供と小動物の組み合わせは誰でも和ませる効果があるようだ。お袋が両方の頭を撫でるところをよく目撃する。
 あの侍従長ですら優しい顔を見せる時がある。……ライベルは普段との違いが分からないようだが。

 そんな、みんなのアイドル犬の名前は――。

「ラナタタ、おて。……ん、よし。ほらおやつだぞ」

「キャン!」

 もう芸を覚えたのか。子犬だから覚えるのが早いんだろうか。
 お手を披露したラナタタへ、ポケットに入れてた干し肉を進呈するゼーカ。

 そう、ラナタタ。それがこの犬につけられた名前だ。命名はゼーカ。
 どういう意味か聞いたら。

『わかんないけど、どっかできいた』

 らしい。
 流石に本人がそれじゃあお手上げだ。

 与えられた干し肉を美味そうにかぶりつくラナタタ。その頭を撫でるゼーカ……の頭を何故か撫でるライベル。

「……お前は何してんだよ?」

「え? は! いや、なんというかつい。だって可愛くないですか? 見てるだけでほっこりするじゃないですか。この光景は何日経っても飽きませんよ。……あ、飽きないといえばその小説」

「お前今すげえ切り替え方したな。で、これが何だって?」

「ここに来る前に書庫に寄ったんですけど、久しぶりに小説が置いてあるのを見たんですね。それでつい、誰が借りてたんだろうって中に入ってた貸出カードを見たら……侯爵様の名前が書いてあってちょっとビックリしたんですよ」

「……お袋が借りてたのかよ。見るんだな、恋愛小説とか」

 似合わないとは思うが……ま、趣味なんて人それぞれだしな。
 どうせなら個人で買えばいいのにと思わんでもないが。


 お袋といえば、例の事件の調査結果はいつ出るんだろうな?


 流石にまだ掛かるか。
 もどかしいが、今はただこの体が治るのを待つしかないな。

「ねね? ゼーカちゃん、ぼくもおやつ上げていいかな?」

「今のでなくなったぞ」

「そんなぁ……。坊ちゃまは持ってませんか?」

「あ? っち、ほらよ」

「ありがとうございます! ほら、ラナタタくんお手。……いやゴロンじゃなくて」

 ……でもしばらくは、こんな日常を噛み締めてもいいか。
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