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第58話 死闘の末に

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「っダラァ!!」

 俺の見せた隙に向けて爪を振り下ろそうとする化け物へ、俺は斧を手放して短槍を取り出して懐へ飛び込む。

 背中に風圧を浴びながらも間合いを掻い潜って、そいつのドテっ腹へと槍を突き立てる。

「!? ――ブモァアア!!」

 意識してない一撃をモロに食らって、それでもすぐさまにもう片方の爪を俺に向けて放ってくる。

「チっ……」

 別にこれで仕留めるなんてこっちも思ってない。
 槍を勢いで抜いてそのまま地面を転がるようにして回避する。

 起き上がるついでにハルバードも回収し、短槍を戻す。

(有利なのは俺か? その割には、怒らせただけに見える)

 腹からどくどくと流れる血を物ともせず、ヤギ野郎は怒髪天を衝く勢いで向かって来る。

「キレてんのはテメェだけだってか? ――ああンッ!!」

 迫ってくる奴の巨体を睨みながら、俺は吐き捨てるようにそう言った。

「ブモオオオオオオオオオ!!!!」

 俺の言葉に反論するが如く、その目を赤く光らせたと思ったら口からマナの塊が飛び出す。

「クっ……!」

 咄嗟に飛びのける事は出来たが、その衝撃までは殺せない。
 体中に切り傷が入った上に、態勢を完全に崩してしまった。

 野郎が吐き出したあと、メラメラと陽炎が立ち込めながら地面が抉れ、巻き込まれた人間やら魔物やらの死体が黒い炭と化した。
 その上に射線上にあった塀も吹き飛んでるときた。

「アチィなァ、ええ? ……お陰様で――余計頭が沸騰したぜッ!!」

 第二射を吐き出そうとする。その直前に体を起こした勢いで足にオーラを叩き込んで上空に跳び上がる。

 俺の居た場所が吹き飛ぶ。それだけじゃ飽きたらず、野郎はジャンプして飛び掛かろうとしている俺に、ビームを吐きながら口を向けてきた。

「ナメんじゃねぇ!! テメェは下なんだよッ!!」

 到達する汚ぇ吐しゃ物にハルバードを振るう。
 斧の刃先から飛び出る斬撃がぶつかり、辺りを閃光が支配する。

 衝撃だけは俺に届く。――それでも……。

 地面に叩き落とされ、体中の骨が悲鳴を上げても。――それでも俺は口を開いて、歯を牙に見立て、ハルバードを振りかぶってヤギ野郎に斬りかかる。

 光はまだ死んじゃいない。
 視力の戻らないヤギ野郎の胴体へと到達する斧。

「!? ブ、モォ……」


 振りぬいた背中に、舞い上がった上半身がボトっと落ちる。


 俺の目にもやっと光が戻ったようだ。
 辺りはもう、反吐を催す生物の成れの果ての悪臭と血と……そして優しい月明りだけだった。

「終わったのか……」

 達成感は無い。目的はほぼ失敗、言ってしまえばその尻拭いを済ませただけだ。
 コセルアは……、――ッ!?


 途端、今までにない強烈な痛みが頭の中をかき回しながら支配していく。


(がァッ! な、なんだ!? 急に――何!?)

 いつぶっ倒れても可笑しくないような痛みの中、視界がチラつき始めても、それでも誰かが目の前に立つのを分かる。


 黒いローブ姿、顔まで覆ったダレか。見た事は無くても心当たりがある。


「て、テメェが……くっ!」

 足が解れそうになるのを必死に抑え、そいつに手を伸ばそうとするも、急に風が吹いて思わず目を閉じる。
 次に目を開いた時、そこにはもう誰も居なかった。

 奴は消えた。何故か今は感じなくなった頭痛と一緒にスゥと。

 足から力が抜ける。しばらく立てそうに無いな。

「何だったんだ本当に……、ん?」

 小さい何かがトコトコと近づいて来た。
 それは黒くて丸っこい……。

「……犬?」

 その犬は、だらりと下がった俺の手の指をペロペロと舐め始める。

「こいつもオークションの商品、なのか?」

 まだ生まれて数ヶ月くらいだろうか? 持ち上げたそいつは軽く小さく、顔の近くまで持ってくるとキャンと鳴いた。

「あら? 家を抜けだしてまでやる事が子犬と遊ぶ事なんて……随分と可愛いところがあるのね」

「……ぁあ?」

 目の前に急に影が差し込んだかと思えば、いつの間にか目の前にはお袋が立っていた。
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