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第56話 憤怒
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「だ、誰だ!? い、いやこの際誰でもいい! か、金は言い値で払うからっ私をここから連れ出してくれ!!」
気づいたかと思いきや、そいつは命乞いをしてきた。
この惨状の切っ掛けを作った本人の癖に。
こいつは、責任も取らずに自分だけが逃げる事を考えてやがったのか!
ゼブローンの胸倉を掴む、デブなその女がさらに恐怖を滲ませ、俺はもっと苛立ちを覚えた。
「な、何をするんだ!? わ、たしが誰だと! 侯爵様の重鎮であるこの身にもしもの事が起きたらっ! せ、責任問題では済まされんぞ?!!」
「とっくに済まされねえ事を仕出かしたヤツが何をほざきやがる!! あの化け物共も!! テメェが欲張って仕入れ無きゃ血を見る事も無かったんだろうがッ!! テメェの部下だってなァ!!」
「何故それを!? ち、違う! 私の責任ではない、本当だ! こ、侯爵様の指示でオークション用に集めたのだ! あの方が王室に対する謀反を起こす資金準備の為に……ぐぅう!?」
「よくもまあこの状況で嘘を並べられたもんだ……ッ。謀反だあ? 何のメリットがあってそんな事をするってんだ、ああ? ――本当の事を言いやがれ!!」
空いた手でゼブローンの首を絞めつける。
入る力はギリギリで抑えてる。俺の理性がイカれちまうギリギリで。
(こんなヤツの為に死んだのか……。こんなっ、どうしようもねぇクソアマの為にッ!)
悔しくて仕方無かった。
どんなに尽くしたって、それを何とも思わないこのクズが。
尽くされる事を当たり前だと思ってるクズが。
大事なのは自分だけ、自分の責任すら気にもしねぇ!
無性に腹が立つ。
こんな奴を信じて死んだ男がいる。
嫌でも思い出す、あの楽しかった日々の事を……、その無様な終わりをっ。
報われない事が悔しいんじゃないっ……、見向きもされない事が悔しいんじゃない!
(クズの本性に気づきもしなかった事が悔しいんだッ! そんなヤツを信じ切った自分が許せねぇんだ!! そんなゲス共の為にッ、死んだヤツが居た事が――腹が立って仕方ねえんだよッ!!!)
「や、めろ……!? わ、わかった言う! 全ては計画だったのだ、侯爵を陥れる為に……その為にホーケス族、も……――があっ!? ……」
そこまで喋って吐血したゼブローン。締めた首の脈がどんどん弱まって行くのを感じる。
一体どういう事だ? なんで急に?
疑問に思っても、すでにそいつは事切れていた。手を離して放り出す。
「……消されたってのか」
横たわったゼブローンを見下ろす。その顔は最後まで醜悪で恐怖に歪み切っていた。
(呪い……。確かライベルが言ってたな、魔導士の中には呪いを得意とする奴がいる。違反を犯すと死ぬ、だったか)
じゃあこいつも誰かと契約してやがったのか。
でもそれじゃあおかしい、こいつが死ぬ直前に喋った事といえば事件の裏についてだ。
死ぬと分かっていてそれをベラベラと喋る訳が無ぇ。
「こいつも騙されてたって事か……。――結局こんな結末かよ、おい……ッ」
ホシは殺され、そしてこのクソみてェな惨状と来た。
むかっ腹が立って仕方が無い。
本当ならここで逃げるのが賢い選択だ。それは分かってる。
中庭の方で悲鳴が聞こえる。どうせクズ共だ、それも分かってる。
つんざくような化け物の声が響く。相手しても仕方ない、それも分かってるッ。
だがここまでいい様にやられて、肝心な部分を持ち逃げされて。
掌の上で踊らされてッ。
イイ奴まで一緒に馬鹿を見て……ッ! そしてそいつの最期の頼みすら叶えられなくなった!
――俺の我慢が、もう言う事を聞かない。
「そうかよ……そんなに、そんなに人を怒らせてェってならなァ――望み通り暴れてやろうじゃねぇかッ!!」
ハルバードを取り出し、俺は中庭目掛けて突っ走った。
気づいたかと思いきや、そいつは命乞いをしてきた。
この惨状の切っ掛けを作った本人の癖に。
こいつは、責任も取らずに自分だけが逃げる事を考えてやがったのか!
ゼブローンの胸倉を掴む、デブなその女がさらに恐怖を滲ませ、俺はもっと苛立ちを覚えた。
「な、何をするんだ!? わ、たしが誰だと! 侯爵様の重鎮であるこの身にもしもの事が起きたらっ! せ、責任問題では済まされんぞ?!!」
「とっくに済まされねえ事を仕出かしたヤツが何をほざきやがる!! あの化け物共も!! テメェが欲張って仕入れ無きゃ血を見る事も無かったんだろうがッ!! テメェの部下だってなァ!!」
「何故それを!? ち、違う! 私の責任ではない、本当だ! こ、侯爵様の指示でオークション用に集めたのだ! あの方が王室に対する謀反を起こす資金準備の為に……ぐぅう!?」
「よくもまあこの状況で嘘を並べられたもんだ……ッ。謀反だあ? 何のメリットがあってそんな事をするってんだ、ああ? ――本当の事を言いやがれ!!」
空いた手でゼブローンの首を絞めつける。
入る力はギリギリで抑えてる。俺の理性がイカれちまうギリギリで。
(こんなヤツの為に死んだのか……。こんなっ、どうしようもねぇクソアマの為にッ!)
悔しくて仕方無かった。
どんなに尽くしたって、それを何とも思わないこのクズが。
尽くされる事を当たり前だと思ってるクズが。
大事なのは自分だけ、自分の責任すら気にもしねぇ!
無性に腹が立つ。
こんな奴を信じて死んだ男がいる。
嫌でも思い出す、あの楽しかった日々の事を……、その無様な終わりをっ。
報われない事が悔しいんじゃないっ……、見向きもされない事が悔しいんじゃない!
(クズの本性に気づきもしなかった事が悔しいんだッ! そんなヤツを信じ切った自分が許せねぇんだ!! そんなゲス共の為にッ、死んだヤツが居た事が――腹が立って仕方ねえんだよッ!!!)
「や、めろ……!? わ、わかった言う! 全ては計画だったのだ、侯爵を陥れる為に……その為にホーケス族、も……――があっ!? ……」
そこまで喋って吐血したゼブローン。締めた首の脈がどんどん弱まって行くのを感じる。
一体どういう事だ? なんで急に?
疑問に思っても、すでにそいつは事切れていた。手を離して放り出す。
「……消されたってのか」
横たわったゼブローンを見下ろす。その顔は最後まで醜悪で恐怖に歪み切っていた。
(呪い……。確かライベルが言ってたな、魔導士の中には呪いを得意とする奴がいる。違反を犯すと死ぬ、だったか)
じゃあこいつも誰かと契約してやがったのか。
でもそれじゃあおかしい、こいつが死ぬ直前に喋った事といえば事件の裏についてだ。
死ぬと分かっていてそれをベラベラと喋る訳が無ぇ。
「こいつも騙されてたって事か……。――結局こんな結末かよ、おい……ッ」
ホシは殺され、そしてこのクソみてェな惨状と来た。
むかっ腹が立って仕方が無い。
本当ならここで逃げるのが賢い選択だ。それは分かってる。
中庭の方で悲鳴が聞こえる。どうせクズ共だ、それも分かってる。
つんざくような化け物の声が響く。相手しても仕方ない、それも分かってるッ。
だがここまでいい様にやられて、肝心な部分を持ち逃げされて。
掌の上で踊らされてッ。
イイ奴まで一緒に馬鹿を見て……ッ! そしてそいつの最期の頼みすら叶えられなくなった!
――俺の我慢が、もう言う事を聞かない。
「そうかよ……そんなに、そんなに人を怒らせてェってならなァ――望み通り暴れてやろうじゃねぇかッ!!」
ハルバードを取り出し、俺は中庭目掛けて突っ走った。
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