裏切られ献身男は図らずも悪役貴族へと~わがまま令息に転生した男はもう他人の喰い物にならない~

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第55話 忠義の少年

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「――なんだっ!?」

 すぐさま状況を確認する為に窓ガラスから中庭をのぞき込む。
 
 そこにあったのは――檻が破られて中から飛び出した大型の魔物と、それに襲われる人間達の光景だった。

「おいおいっ……! 目が覚めたってのか、あの化け物!!」

「直ぐに脱出しなければ! ここに居てはいずれ襲われてしまいます」

「ああ……っ」

 想定外の事態が起きた。
 眠らされているはずの魔物が目覚めて人を襲う。まさかだったぜ。
 ……いや、本当ならそういう想定もしておくべきだった。

「チッ……。考えが足らなかったみてえだな。頭に血が上った俺のミスだ」

「いえ、坊ちゃまが悪いとは思いません。ともかく今は、下に降りて屋敷からの撤退に専念すべきでしょう」

「ああ、つまんねぇ事考えんのはあとだ。走るぞ!」

 廊下を進み、階段を降り、元来た道をとにかく走る。
 途中であわただしく走る音を聞いた。屋敷の人間が慌てているんだろう。鉢合わせしないように下を――。

「ぎゃああっ!!?」

 廊下の向こうで悲鳴が聞こえたかと思うと、肉をむしるような不快極まりない音が響く。
 その正体は直ぐに顔を見せた。

「グゥウウ……!」

 口元を血の色で染めて、ドレスの切れ端を咥えたそいつは、廊下の向こうからこっち見て唸っていた。

「あの化け物、窓の外からは見えなかったぜ。別の檻も開いたってのか」

「どうやらそのようです。先に外へ、後から追いかけます」

「アンタの腕は疑ってねえ。直ぐに追いかけて来いよ!」

「はっ」

 コセルアは前へ、俺は後ろへ。互いに反対の道を進む。
 直ぐに背後から聞こえてきた、コセルアのサーベルと化け物の爪がぶつかる音。

(相手は精々人間大の化け物だ。遅れをとる訳がない……問題は――)

 他に居ないとも限らないって事だ。


 外への扉へと手を掛ける。覚悟してドアノブを回し、開いたその先には……。


「ウゥゥゥ……ガラアア!!」

「ぁ……ぁぁ……っ」

「テメェ何してんだッ!?」

 外に出て待ち受けていたのは、食事中の魔物。当然その餌は人間だ。服装から見るにこの屋敷で働いていた使用人だろう。
 飯の時間を邪魔されたと思ったのか、その猫型の魔物は俺を見て唸り声を上げながら飛び掛って来た。

「クソッタレが!」

 咄嗟に短槍を展開して突き刺す。一撃で脳天を貫き、そのまま地面に叩き捨てる。
 だがそんな事はどうでもいい。

 倒れている使用人の少年に駆け寄る。
 その体が赤に染まっていて、呼吸もロクに出来無い状態だった。

「おい……っ。最後に何か言い残す事はあるか?」

「ぁ……ぅ……ご、しゅじんさまを……たす……っ」

 そこまで言って、力が尽きたようだ。目を開いたまま、ライベルと同じ位の歳の少年は動かなくなってしまった。

「クズばかりじゃなかったのか……。化け物を持ち込んだ本人だってのに、それでも情があるってのかよ……」

 正直なところ、参加者も主催もどうなろうと自業自得だと思ってる。
 危険なもんに手を出して、それで喜んでいるようなどうしようもねぇ連中だからだ。

 でもこいつは違ったようだ。
 どんな経緯でクズに仕えてたのか知らないが、そのクズの為に命を散らしたんだ。

 少しでも……こいつ一人だけかもしれないが。……それでもイイ奴は確かに居たんだ。

(死に際の人間の頼みだ、聞かねぇ訳にゃいかねえ。……俺は頼み事すら思いつかなかったんだ。最後の面倒は見てやりたい)

 確かに、ここで裏切り者が死んだらそこでこの件は終わってしまう。
 誰が裏に居るのか? 何でお袋を裏切ったのか? それが永遠に分からなくなる。

 誰が関与してたかも分かんないままだ。

「せめて来世じゃまともな奴と出会ってくれ……。あん?」

 瞼を閉じさせていた時、不意に茂みが動くのが見えた、魔物か?
 注意深く観察していると、枝に服の一部が引っかかってるのが見える。あの服の色――ゼブローンが着てたのと同じじゃねえか。

「……まさか」

 近くによってみれば、それは確かにあの廊下で見た裏切り者――ゼブローンの震える姿だ。
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