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第50話 月夜の出撃

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「しっかし、そいつも運がいい。そんなヤバいもん運ぶ連中に見つかってたら、今頃あの世だったろうぜ」

「本人もそれを分かっているのか、夜に外へ出るのは止めたそうです。現在判明したのはそこまで、調査対象が貴族となれば、いくら領地に居を構えているといっても迂闊には手が出せません。それに見つからないように夜に動いていたとなれば相手も慎重なはず、下手に動けば証拠を隠されてしまう可能性があります」

「物が運び込まれるって噂が出るぐらいなら、昼間も物が動いて可能性があるな」

「そして恐らく、そちらは目くらましの為のダミーかと。本命は人の居ない夜中」

「今まで以上に動き難くなるな。……次から次に問題が起こるなんて、アンタも大変だ」

「仕事ですので。それにもしかしたらその問題同士、繋がっている可能性がある。そう侯爵様も仰っていました。……坊ちゃまも同じ事を考えておられるのでは?」

「……買い被り過ぎなんじゃねえか?」

「いえ、そうは思いません。坊ちゃまは聡明な方であると確信しております」

 自信のある言い分に、思わず頭を掻いてしまった。
 そう褒められるのは、あまり慣れていないもんだから。

「そんな期待されると、俺も下手が打てなくなるじゃねえか。ズルいなアンタ」

「申し訳ありません。ですが、坊ちゃまならば一角の人物になれると、やはり私は確信しております」

「……そりゃあどうも」

 そしてまた、お互いそこで別れた。
 今回はコセルアが執務室から離れたところで捕まえたから、お袋に話を聞かれる事もない。
 だから視線を感じる事も……ん?

 もしやと思い、廊下の角の向こう執務室を見る。……居た。
 扉を開いてジッとこっちを見ていた。

 お袋が口をパクパク動かしたかと思えば、また奥へと引っ込む。

(な、ま、い、き。……おいおい)

 ◇◇◇

「ふぅ……。さて、今日はこんなところでいいだろ」

 夕陽も落ち始めた時間帯。そろそろ演習場から出なきゃな。
 それに今日は行かなきゃならん場所がある。


 シャワーを浴びて着替えた。指輪も嵌め直し、後は事前にシーレルに頼んでおいた軽食を持って完了だろう。

 先日、コセルアから話を聞いた俺は、その貴族の屋敷について独自に調査をする事に決めた。
 決行は今日、夜動き出すという情報を元にこの時間まで待っていたんだ。

 外で月を見ながら飯を食いたいと嘘をついてしまったのは、シーレルに悪かったがな。
 また、事前に馬を借りる許可も取ってる。お袋に言った時、ごねられると思いきやすんなりと貰えたのは拍子抜けだったな。

 俺の行動に制限を掛けなくなってるのは、やっぱ俺がある程度力を付けてきたからだろ。と思いたいが。

『あんまり遠くには行かない事ね。分かってるでしょうけど』

 釘こと刺されたがな。だが遠くへってのは守れない話だ。


 馬舎へと着いた。そこでとある人物と待ち合わせをしている。

「お待ちしておりました、坊ちゃま」

 コセルアだ。だが制服を着ていないし、剣も身に着けていない。

「一応、また忠告をしておきますが……本当に向かわれるのですね?」

「ああ。だからアンタも連れて行くと決めたんだ。お袋にも許可を取ってる。……飯食う許可だけどな」

 俺が何を言うか分かっているので、これ以上は何も言っては来ない。
 ただ僅かに、小さな溜息を吐くだけだ。

「さあ行くぜ。なぁに、夜明けまでに帰ってくりゃいいんだ。出来たらの話だがな」

「あまり不安にさせるような事を言って頂きたくはありませんが……。仕方ありません、御身はお守りします」

「その意気だ」

 互いに馬に跨り、先行するコセルアについて行く。
 目的地は勿論……ふざけた事をしている阿呆の元へだ。
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