50 / 64
第50話 月夜の出撃
しおりを挟む
「しっかし、そいつも運がいい。そんなヤバいもん運ぶ連中に見つかってたら、今頃あの世だったろうぜ」
「本人もそれを分かっているのか、夜に外へ出るのは止めたそうです。現在判明したのはそこまで、調査対象が貴族となれば、いくら領地に居を構えているといっても迂闊には手が出せません。それに見つからないように夜に動いていたとなれば相手も慎重なはず、下手に動けば証拠を隠されてしまう可能性があります」
「物が運び込まれるって噂が出るぐらいなら、昼間も物が動いて可能性があるな」
「そして恐らく、そちらは目くらましの為のダミーかと。本命は人の居ない夜中」
「今まで以上に動き難くなるな。……次から次に問題が起こるなんて、アンタも大変だ」
「仕事ですので。それにもしかしたらその問題同士、繋がっている可能性がある。そう侯爵様も仰っていました。……坊ちゃまも同じ事を考えておられるのでは?」
「……買い被り過ぎなんじゃねえか?」
「いえ、そうは思いません。坊ちゃまは聡明な方であると確信しております」
自信のある言い分に、思わず頭を掻いてしまった。
そう褒められるのは、あまり慣れていないもんだから。
「そんな期待されると、俺も下手が打てなくなるじゃねえか。ズルいなアンタ」
「申し訳ありません。ですが、坊ちゃまならば一角の人物になれると、やはり私は確信しております」
「……そりゃあどうも」
そしてまた、お互いそこで別れた。
今回はコセルアが執務室から離れたところで捕まえたから、お袋に話を聞かれる事もない。
だから視線を感じる事も……ん?
もしやと思い、廊下の角の向こう執務室を見る。……居た。
扉を開いてジッとこっちを見ていた。
お袋が口をパクパク動かしたかと思えば、また奥へと引っ込む。
(な、ま、い、き。……おいおい)
◇◇◇
「ふぅ……。さて、今日はこんなところでいいだろ」
夕陽も落ち始めた時間帯。そろそろ演習場から出なきゃな。
それに今日は行かなきゃならん場所がある。
シャワーを浴びて着替えた。指輪も嵌め直し、後は事前にシーレルに頼んでおいた軽食を持って完了だろう。
先日、コセルアから話を聞いた俺は、その貴族の屋敷について独自に調査をする事に決めた。
決行は今日、夜動き出すという情報を元にこの時間まで待っていたんだ。
外で月を見ながら飯を食いたいと嘘をついてしまったのは、シーレルに悪かったがな。
また、事前に馬を借りる許可も取ってる。お袋に言った時、ごねられると思いきやすんなりと貰えたのは拍子抜けだったな。
俺の行動に制限を掛けなくなってるのは、やっぱ俺がある程度力を付けてきたからだろ。と思いたいが。
『あんまり遠くには行かない事ね。分かってるでしょうけど』
釘こと刺されたがな。だが遠くへってのは守れない話だ。
馬舎へと着いた。そこでとある人物と待ち合わせをしている。
「お待ちしておりました、坊ちゃま」
コセルアだ。だが制服を着ていないし、剣も身に着けていない。
「一応、また忠告をしておきますが……本当に向かわれるのですね?」
「ああ。だからアンタも連れて行くと決めたんだ。お袋にも許可を取ってる。……飯食う許可だけどな」
俺が何を言うか分かっているので、これ以上は何も言っては来ない。
ただ僅かに、小さな溜息を吐くだけだ。
「さあ行くぜ。なぁに、夜明けまでに帰ってくりゃいいんだ。出来たらの話だがな」
「あまり不安にさせるような事を言って頂きたくはありませんが……。仕方ありません、御身はお守りします」
「その意気だ」
互いに馬に跨り、先行するコセルアについて行く。
目的地は勿論……ふざけた事をしている阿呆の元へだ。
「本人もそれを分かっているのか、夜に外へ出るのは止めたそうです。現在判明したのはそこまで、調査対象が貴族となれば、いくら領地に居を構えているといっても迂闊には手が出せません。それに見つからないように夜に動いていたとなれば相手も慎重なはず、下手に動けば証拠を隠されてしまう可能性があります」
「物が運び込まれるって噂が出るぐらいなら、昼間も物が動いて可能性があるな」
「そして恐らく、そちらは目くらましの為のダミーかと。本命は人の居ない夜中」
「今まで以上に動き難くなるな。……次から次に問題が起こるなんて、アンタも大変だ」
「仕事ですので。それにもしかしたらその問題同士、繋がっている可能性がある。そう侯爵様も仰っていました。……坊ちゃまも同じ事を考えておられるのでは?」
「……買い被り過ぎなんじゃねえか?」
「いえ、そうは思いません。坊ちゃまは聡明な方であると確信しております」
自信のある言い分に、思わず頭を掻いてしまった。
そう褒められるのは、あまり慣れていないもんだから。
「そんな期待されると、俺も下手が打てなくなるじゃねえか。ズルいなアンタ」
「申し訳ありません。ですが、坊ちゃまならば一角の人物になれると、やはり私は確信しております」
「……そりゃあどうも」
そしてまた、お互いそこで別れた。
今回はコセルアが執務室から離れたところで捕まえたから、お袋に話を聞かれる事もない。
だから視線を感じる事も……ん?
もしやと思い、廊下の角の向こう執務室を見る。……居た。
扉を開いてジッとこっちを見ていた。
お袋が口をパクパク動かしたかと思えば、また奥へと引っ込む。
(な、ま、い、き。……おいおい)
◇◇◇
「ふぅ……。さて、今日はこんなところでいいだろ」
夕陽も落ち始めた時間帯。そろそろ演習場から出なきゃな。
それに今日は行かなきゃならん場所がある。
シャワーを浴びて着替えた。指輪も嵌め直し、後は事前にシーレルに頼んでおいた軽食を持って完了だろう。
先日、コセルアから話を聞いた俺は、その貴族の屋敷について独自に調査をする事に決めた。
決行は今日、夜動き出すという情報を元にこの時間まで待っていたんだ。
外で月を見ながら飯を食いたいと嘘をついてしまったのは、シーレルに悪かったがな。
また、事前に馬を借りる許可も取ってる。お袋に言った時、ごねられると思いきやすんなりと貰えたのは拍子抜けだったな。
俺の行動に制限を掛けなくなってるのは、やっぱ俺がある程度力を付けてきたからだろ。と思いたいが。
『あんまり遠くには行かない事ね。分かってるでしょうけど』
釘こと刺されたがな。だが遠くへってのは守れない話だ。
馬舎へと着いた。そこでとある人物と待ち合わせをしている。
「お待ちしておりました、坊ちゃま」
コセルアだ。だが制服を着ていないし、剣も身に着けていない。
「一応、また忠告をしておきますが……本当に向かわれるのですね?」
「ああ。だからアンタも連れて行くと決めたんだ。お袋にも許可を取ってる。……飯食う許可だけどな」
俺が何を言うか分かっているので、これ以上は何も言っては来ない。
ただ僅かに、小さな溜息を吐くだけだ。
「さあ行くぜ。なぁに、夜明けまでに帰ってくりゃいいんだ。出来たらの話だがな」
「あまり不安にさせるような事を言って頂きたくはありませんが……。仕方ありません、御身はお守りします」
「その意気だ」
互いに馬に跨り、先行するコセルアについて行く。
目的地は勿論……ふざけた事をしている阿呆の元へだ。
9
お気に入りに追加
195
あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。
大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。
ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。
主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。
マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。
しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。
主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。
これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです
かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。
強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。
これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。


フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる