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第48話 読めない行動
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それもつかの間、直ぐに目を開いた。
「いえ、侯爵様とほぼ同じ事を仰ったので」
「お袋も俺と同じ事言ったのか? ……アンタ、もしかしなくても俺を試したな」
「申し訳ございません。坊ちゃまの推理が侯爵様と似ていると思ったので、つい。やはり親子、とでも言いましょうか」
「やれやれだぜ……。それってさ、喜べばいいのか?」
「少なくとも、あの方は喜ばれるかと……」
本当かねぇ。
あのクールなツラの上、言葉のキャッチボールが苦手なお袋が喜ぶ姿がいまいち思いつかない。
『貴方が私と同じ考えに至るなんて、普段から頭の体操をしている成果かしら? そんな姿、見た事はないけれど』
なんてくらいじゃないのか? なんせ偏屈だからな。
「まあいいさ。呼び止めて悪かったな」
「いえ、この程度」
「何時までも廊下で話してるもんじゃねぇし、解散って事で」
「分かりました。では、これにて失礼致します」
会釈をした後、廊下の向こうへ消えて行くコセルアを見送り、俺もその場から離れる。
元々、お袋の執務室近くなんて偶々通り掛かっただけだしな。こんな場所に用は無い。
「さてと……ん?」
不意に背後から視線を感じた。
振り返ると、執務室の扉を少し開けたお袋がジーッとこっちを見ていた。
「な、何だよ?」
「別に……。でも、こうして目が合ったのだから……何か言う事くらいはあるでしょう?」
「偶然目が合ったみたいな言い方しやがって……。あぁ……本日もお日柄がよく――」
「可愛げないわね。じゃあもう好きにしなさい」
そう言うと、扉を閉めて奥へと引っ込んでいった。
ほんとに何なんだよ、おい。
………………
………。
「……って事がここに来る途中にあった。一体お袋は何がしたかったんだか」
「う~ん、案外坊ちゃまとお喋りがしたかった、とか? もしくは自分の推理を聞いて欲しかった、とか?」
「まさか。……まあいいや、分からねえ事はいつまでも考えたって仕方ねぇしな」
元々の目的であるライベルとの待ち合わせ場所。
屋敷の一角にある談話室だ。
今日はそこで授業の真似事をする事になっていた。
今回に関しては俺達だけじゃない、ゼーカも来ている。
最近じゃすっかり屋敷の生活も慣れたみたいで、他の使用人からも大分可愛がられている。最年少だしな。
まだまだメイド見習い、覚える仕事は沢山あるが、あちこちと動いて周りから信頼を得たみてぇだな。その証拠にお菓子やら果物やら、いろんな物を貰うらしい。
「おうゼーカ、何だその絵本?」
「ジジューチョーからもらった。まずはこれ見て、知ってみるように、らしい」
「え!? 侍従長から貰ったの!? ……ぼくがあの人から貰うものなんてお叱りくらいなのに」
幼児向けに分かりやすくマナーについて描かれた絵本。
丸っこいキャラクターが、物語仕立てでマナーの大切さについて学んでいる様子描かれている。
しっかしライベルの奴、何勝手にショック受けてんだよ。お前がドジなんだから仕方ねぇだろ。
だが、あの厳しい侍従長も流石に子供相手には優しくなるか。
思えば、ゼーカが後ろを付いて回るところを何回か見たな。
「よかったな」
「ん、面白いぞ」
思えばこいつはあの事件の被害者。
まだ南部の森に行けないらしく、ゼーカが故郷に帰るのもしばらく掛かるようだ。
(ゼーカみたいに巻き込まれた人間が居るかもしれねぇんだ。……落とし前は必ずつけさせてやる)
だが、今は目の前の問題を片づけるとしようじゃねえか。
「おらとっとと立ち直れ」
「そんな事言われましても……もしかしてぼくって結構ダメな子なのかなぁって」
「全く……ゼーカからも活入れてやってくれ」
「……ライベル、情けない。ジジューチョーもよく言ってる」
「ゼーカちゃんまで!? ……ああ、ぼくもうダメだぁ」
やり過ぎたか? 余計に落ち込んじまったよ。
「いえ、侯爵様とほぼ同じ事を仰ったので」
「お袋も俺と同じ事言ったのか? ……アンタ、もしかしなくても俺を試したな」
「申し訳ございません。坊ちゃまの推理が侯爵様と似ていると思ったので、つい。やはり親子、とでも言いましょうか」
「やれやれだぜ……。それってさ、喜べばいいのか?」
「少なくとも、あの方は喜ばれるかと……」
本当かねぇ。
あのクールなツラの上、言葉のキャッチボールが苦手なお袋が喜ぶ姿がいまいち思いつかない。
『貴方が私と同じ考えに至るなんて、普段から頭の体操をしている成果かしら? そんな姿、見た事はないけれど』
なんてくらいじゃないのか? なんせ偏屈だからな。
「まあいいさ。呼び止めて悪かったな」
「いえ、この程度」
「何時までも廊下で話してるもんじゃねぇし、解散って事で」
「分かりました。では、これにて失礼致します」
会釈をした後、廊下の向こうへ消えて行くコセルアを見送り、俺もその場から離れる。
元々、お袋の執務室近くなんて偶々通り掛かっただけだしな。こんな場所に用は無い。
「さてと……ん?」
不意に背後から視線を感じた。
振り返ると、執務室の扉を少し開けたお袋がジーッとこっちを見ていた。
「な、何だよ?」
「別に……。でも、こうして目が合ったのだから……何か言う事くらいはあるでしょう?」
「偶然目が合ったみたいな言い方しやがって……。あぁ……本日もお日柄がよく――」
「可愛げないわね。じゃあもう好きにしなさい」
そう言うと、扉を閉めて奥へと引っ込んでいった。
ほんとに何なんだよ、おい。
………………
………。
「……って事がここに来る途中にあった。一体お袋は何がしたかったんだか」
「う~ん、案外坊ちゃまとお喋りがしたかった、とか? もしくは自分の推理を聞いて欲しかった、とか?」
「まさか。……まあいいや、分からねえ事はいつまでも考えたって仕方ねぇしな」
元々の目的であるライベルとの待ち合わせ場所。
屋敷の一角にある談話室だ。
今日はそこで授業の真似事をする事になっていた。
今回に関しては俺達だけじゃない、ゼーカも来ている。
最近じゃすっかり屋敷の生活も慣れたみたいで、他の使用人からも大分可愛がられている。最年少だしな。
まだまだメイド見習い、覚える仕事は沢山あるが、あちこちと動いて周りから信頼を得たみてぇだな。その証拠にお菓子やら果物やら、いろんな物を貰うらしい。
「おうゼーカ、何だその絵本?」
「ジジューチョーからもらった。まずはこれ見て、知ってみるように、らしい」
「え!? 侍従長から貰ったの!? ……ぼくがあの人から貰うものなんてお叱りくらいなのに」
幼児向けに分かりやすくマナーについて描かれた絵本。
丸っこいキャラクターが、物語仕立てでマナーの大切さについて学んでいる様子描かれている。
しっかしライベルの奴、何勝手にショック受けてんだよ。お前がドジなんだから仕方ねぇだろ。
だが、あの厳しい侍従長も流石に子供相手には優しくなるか。
思えば、ゼーカが後ろを付いて回るところを何回か見たな。
「よかったな」
「ん、面白いぞ」
思えばこいつはあの事件の被害者。
まだ南部の森に行けないらしく、ゼーカが故郷に帰るのもしばらく掛かるようだ。
(ゼーカみたいに巻き込まれた人間が居るかもしれねぇんだ。……落とし前は必ずつけさせてやる)
だが、今は目の前の問題を片づけるとしようじゃねえか。
「おらとっとと立ち直れ」
「そんな事言われましても……もしかしてぼくって結構ダメな子なのかなぁって」
「全く……ゼーカからも活入れてやってくれ」
「……ライベル、情けない。ジジューチョーもよく言ってる」
「ゼーカちゃんまで!? ……ああ、ぼくもうダメだぁ」
やり過ぎたか? 余計に落ち込んじまったよ。
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