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第44話 フレアイその3
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「……ん、まあ食後の運動程度にはなったわね」
「そいつは……よかった、な……」
気づけば夕方。
息も絶え絶えで寝っ転がる俺に対し、相変わらずの涼しい顔のお袋。
力量さは織り込み済みだが、こうまで手も足も出ないといっそ清々しいくらいだな。
それでもムキになっている内にオーラが斧に纏った。ま、それを叩きこもうとしてもサーベルで少し反らされただけで簡単に防がれる訳なんだが。
「その斧――ハルバードについてはこれからも基礎を磨いておきなさい。似たような見た目の木斧も後でプレゼントしてあげるからコセルアと励む事ね。それと一つ……これからはオーラを意識して出さない事を覚えなさい」
「スイッチの切り替えを、キッチリ体で覚えろって事か?」
「そうよ。オーラの出し方なんて初歩も初歩の話。それに普段使わないからと言って少し感情的になった程度で出てしまうようでは全くダメ。意識して扱う事が重要なのよ。意識して使う事でより力を込める事が出来るわ」
言い分はなんとなく分かる。
感情が高ぶっただけで一々オーラを垂れ流していたら、普段の生活も厳しそうだ。
それが大した量じゃなくても、オーラやマナってのは有限らしい。一度空になったら回復するまで待つ必要がある。
他にもついオーラが出た事で指先が強化されて物壊したり、他人をビビり散らしてしまう。
そしてコントロールが完全なら、お袋の言ったように効率的な力の入れ方が出来るはずだ。
それだけじゃないのかもしれねぇが、取り敢えずはそれだけでも簡単に思いつくな。
「アンタの言う通りだな。つまんねぇ事でムキになるのは控える」
「あら素直ね。普段からそうだとこっちも余計な気を遣わなくて済むわ」
「……俺はツッコまねぇぞ」
「? ……とにかくこれで貴方の悩みの一つは解決したでいいでしょう。いいわね? はい解決よ。解決ついでに――はい」
お袋は懐から何かを取り出した。
起き上がってそれを見ると、そいつは指輪だった。
「これを受け取りなさい。貴方の悩みをまた一つ解決してくれるわ」
「受け取れって、これ俺の指に合うのかよ?」
「グズグズ言わないの。少し褒めたと思ったらまた口答えだもの、親からのプレゼントはもっと嬉しそうに受け取るものよ。素直になりなさい」
さっきの言葉が褒めたつもりかよ。
仕方なくそれを受け取る。しかしこれ大き目だぜ? 適当に右手の中指にでも嵌めてみるが、やっぱりスカスカ――っ!?
「縮んだ……? どうなってんだこれ?」
「これでその指輪は貴方を登録した事になるわ。以後、それは貴方以外に扱えないから安心なさいな」
扱うってなんだよ? もしかしなくても、やっぱ何かしらのアイテムってやつなのか?
「それは収納の術式が施されたアーティファクト。試しにそこに転がってる斧を拾ってみなさい」
「こうか? ……何も起きないぜ」
「何をやってるの? 拾った後は物を入れたいと念を込めるのよ、それで完了。それくらいは察しなさいな。いわゆる行間を読む力がないのよ。想像力の欠如はオーラを扱う上でとても不便な事を覚えておきなさい」
「いや、どう考えても今のはアンタの説明不足だろうが。……っち、仕方ねぇ」
何か納得出来ないが、言われたように念とやらを込めてみる。
(入れ、斧……。いや、これはなんか締まらねぇな)
と、思いはしたが、次の瞬間には腕が軽くなる。ハルバードが入ったって事なんだろう。
「で、これもライベルから聞き出したのかよ?」
「……何を言うの? 偶々そういう話を聞いたから、折角だし用意しただけよ。しつこいわね貴方。捻くれてるというか――面倒臭い性格ね」
「…………はあ!?」
何故面倒臭い性格をした奴に面倒臭いと言われなきゃならんのか。
流石に納得がいかんぞ、おいっ!
◇◇◇
「ひぃ……疲れました~」
と、情けない声を出しながら厨房に入って来たのはライベルだ。
その言葉の通りに肩を落としてトボトボと歩いて来た。
「よおライベル。随分と絞られたみたいだな」
「あ、坊ちゃま。そうなんですよ、抜き打ち自体は何回かあったんですが、今日に限って何故かいつもより厳しくて……。四六時中あれがダメ、これがなってないって。それでへとへとで。……シーレル料理長、お願いですから何か甘い物食べさせて貰えませんかぁ?」
「う~ん。そうだね、こういうのは……いかがかな?」
ライベルが仕事の合間にここによく立ち寄るせいか、とやかく言わずにシーレルも受け入れる。
このおっさんの場合、人一倍人ががいいから来る者は拒まないないんだよな。
そんなシーレルがライベルに差し出したのは……。
「ええっ~と、マグカップ? ですか? へぇ、チョコレートケーキの器になってるんだ。初めて見ました」
「御託はいいから食べてみろよ。疲れてんだろ?」
「あ、は~い。……んん! 甘~い! フワフワして、それでいてしっとりしてて美味しいですぅ。これって新作ですか?」
フォーク片手に悦に浸るライベル。どうやら気に入ったようだ。
疲れた体に糖分が染みていく感覚、甘い物が好きになった今の俺ならわかる。
「そいつは……よかった、な……」
気づけば夕方。
息も絶え絶えで寝っ転がる俺に対し、相変わらずの涼しい顔のお袋。
力量さは織り込み済みだが、こうまで手も足も出ないといっそ清々しいくらいだな。
それでもムキになっている内にオーラが斧に纏った。ま、それを叩きこもうとしてもサーベルで少し反らされただけで簡単に防がれる訳なんだが。
「その斧――ハルバードについてはこれからも基礎を磨いておきなさい。似たような見た目の木斧も後でプレゼントしてあげるからコセルアと励む事ね。それと一つ……これからはオーラを意識して出さない事を覚えなさい」
「スイッチの切り替えを、キッチリ体で覚えろって事か?」
「そうよ。オーラの出し方なんて初歩も初歩の話。それに普段使わないからと言って少し感情的になった程度で出てしまうようでは全くダメ。意識して扱う事が重要なのよ。意識して使う事でより力を込める事が出来るわ」
言い分はなんとなく分かる。
感情が高ぶっただけで一々オーラを垂れ流していたら、普段の生活も厳しそうだ。
それが大した量じゃなくても、オーラやマナってのは有限らしい。一度空になったら回復するまで待つ必要がある。
他にもついオーラが出た事で指先が強化されて物壊したり、他人をビビり散らしてしまう。
そしてコントロールが完全なら、お袋の言ったように効率的な力の入れ方が出来るはずだ。
それだけじゃないのかもしれねぇが、取り敢えずはそれだけでも簡単に思いつくな。
「アンタの言う通りだな。つまんねぇ事でムキになるのは控える」
「あら素直ね。普段からそうだとこっちも余計な気を遣わなくて済むわ」
「……俺はツッコまねぇぞ」
「? ……とにかくこれで貴方の悩みの一つは解決したでいいでしょう。いいわね? はい解決よ。解決ついでに――はい」
お袋は懐から何かを取り出した。
起き上がってそれを見ると、そいつは指輪だった。
「これを受け取りなさい。貴方の悩みをまた一つ解決してくれるわ」
「受け取れって、これ俺の指に合うのかよ?」
「グズグズ言わないの。少し褒めたと思ったらまた口答えだもの、親からのプレゼントはもっと嬉しそうに受け取るものよ。素直になりなさい」
さっきの言葉が褒めたつもりかよ。
仕方なくそれを受け取る。しかしこれ大き目だぜ? 適当に右手の中指にでも嵌めてみるが、やっぱりスカスカ――っ!?
「縮んだ……? どうなってんだこれ?」
「これでその指輪は貴方を登録した事になるわ。以後、それは貴方以外に扱えないから安心なさいな」
扱うってなんだよ? もしかしなくても、やっぱ何かしらのアイテムってやつなのか?
「それは収納の術式が施されたアーティファクト。試しにそこに転がってる斧を拾ってみなさい」
「こうか? ……何も起きないぜ」
「何をやってるの? 拾った後は物を入れたいと念を込めるのよ、それで完了。それくらいは察しなさいな。いわゆる行間を読む力がないのよ。想像力の欠如はオーラを扱う上でとても不便な事を覚えておきなさい」
「いや、どう考えても今のはアンタの説明不足だろうが。……っち、仕方ねぇ」
何か納得出来ないが、言われたように念とやらを込めてみる。
(入れ、斧……。いや、これはなんか締まらねぇな)
と、思いはしたが、次の瞬間には腕が軽くなる。ハルバードが入ったって事なんだろう。
「で、これもライベルから聞き出したのかよ?」
「……何を言うの? 偶々そういう話を聞いたから、折角だし用意しただけよ。しつこいわね貴方。捻くれてるというか――面倒臭い性格ね」
「…………はあ!?」
何故面倒臭い性格をした奴に面倒臭いと言われなきゃならんのか。
流石に納得がいかんぞ、おいっ!
◇◇◇
「ひぃ……疲れました~」
と、情けない声を出しながら厨房に入って来たのはライベルだ。
その言葉の通りに肩を落としてトボトボと歩いて来た。
「よおライベル。随分と絞られたみたいだな」
「あ、坊ちゃま。そうなんですよ、抜き打ち自体は何回かあったんですが、今日に限って何故かいつもより厳しくて……。四六時中あれがダメ、これがなってないって。それでへとへとで。……シーレル料理長、お願いですから何か甘い物食べさせて貰えませんかぁ?」
「う~ん。そうだね、こういうのは……いかがかな?」
ライベルが仕事の合間にここによく立ち寄るせいか、とやかく言わずにシーレルも受け入れる。
このおっさんの場合、人一倍人ががいいから来る者は拒まないないんだよな。
そんなシーレルがライベルに差し出したのは……。
「ええっ~と、マグカップ? ですか? へぇ、チョコレートケーキの器になってるんだ。初めて見ました」
「御託はいいから食べてみろよ。疲れてんだろ?」
「あ、は~い。……んん! 甘~い! フワフワして、それでいてしっとりしてて美味しいですぅ。これって新作ですか?」
フォーク片手に悦に浸るライベル。どうやら気に入ったようだ。
疲れた体に糖分が染みていく感覚、甘い物が好きになった今の俺ならわかる。
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