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第41話 親孝行
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そんな俺の心情を知ってか知らずか、お袋は再び口を開いた。
「短槍はリーチを失った分、切り返しが得意な武器よ。切り詰めた間合いではその判断が生死を決めると言っていいわ」
「なる、ほど……。言われてみればそうだな」
「それに槍の特性を突きだけで留めない事も覚えておきなさい。これは長槍でも同じ事が言えるけれど、時に鈍器としての活用が出来る。使う場面は少ないけれど、それが相手の無意識の油断を誘うのよ」
「それも、アンタの言いたかった意表に入ってるてのか?」
「そうね……。でも折角の障害物を活かしきれてないから満点はあげないわ。仕方ないからこれは宿題ね」
いつ提出するんだそれ?
だがこれで終わりって訳じゃねぇはずだ。さっきの感覚が俺の手に残ってる内に、どう手数を増やすか……。
俺はまた短槍を構える――っ。
咄嗟にまた柄の方を前に出して構えていた。この感覚はよく分からねぇが攻撃の警告だ。
……と思っていたのに、全然攻めて来ねぇな。どうなってんだ?
まるで無理矢理構えを取らされているような……まさか!?
「ようやく気付いたわね。おおまけにまけて五点だけあげようかしら」
「そいつはどうも。俺のイメージで間違ってなけりゃ、こいつもオーラってことか?」
「相手の恐怖心を刺激して強引に行動を取らせる。言わばプレッシャーね。それを自在に操るのもオーラの応用よ。……ただし、格下にしか通用しないけれど」
それは暗に俺の事をどうしようも無いヘボって言ってるようなもんじゃねぇのか? アンタ相手じゃ実際そうだから何も言えねぇが。
ちょっとゲンナリだな。
「覚えておきなさい。戦わずして勝つ、それはあらゆる兵法の理想よ。無駄な労力を使わない上に相手に敗北を悟らせるなんて、これほど楽な事もそうは無いわ」
そりゃ楽だ、出来たらな。
それを出来るように覚えろって事か。
だが覚えはある。前世で不良に絡まれた時、睨んで怯ませた経験がある。
……問題は怯むだけで中々下がらないって事だが。その程度で引き下がるならそもそも当時の俺のガタイを見て絡んじゃ来ないだろうしな。
あれの応用だと思えば、確かに出来そうな気がするな。
「分かってるでしょうけど、これは触りに過ぎないわ。オーラの応用は貴方の想像を超える。そのイメージを膨らませるのも重要な事よ」
「イメージ、ねぇ。雲を掴む話にも聞こえるが……」
「取っ掛かりはもう掴んでるでしょう? その最初一歩が何よりも難しいのよ。後は反復練習と経験と想像力を鍛える事。三十点の生徒相手にここまで熱心に教えるんだから、私も親切よね」
「……おい、あんな事言ってるがホントに評価してくれてるんだろうな?」
「……お坊ちゃま、お気持ちは分かりますが侯爵様は確かに評価をしておられます。あの方はあのような形で素直さを表現される方なのです」
それを素直と言うのか。やっぱめんどくせえな。
「さて、これで悩みの一つは解決ね。そうでしょう? そうよね。では、次に行きましょうか」
「何も言ってねぇだろ、おい」
「多少、強引だと思われますでしょうが、侯爵様は親子の時間の充実にはしゃいでいるだけですので。どうか、多忙なあの方の為にもお付き合いをお願い致します」
侍従長が一々フォローしなきゃならんのか。
大体目立つなだの自分が言っておいて付き合わせてるじゃねぇかよ。
と、思わんでもないが。……確かに普段忙しそうなのは確かだ。
(仕方ない、俺も息子だ。キッチリ付き合うのも親孝行だろうよ)
そんな事を考えながら、思い出したのは前世の両親だ。
結局最後まで俺のわがままを聞いてくれた二人。そしてその二人よりも先に死んだのが俺だ。
直接恩を返せねぇなら、その代わりを今のお袋に少しでも返すべきだな。
「何してるの? 早く付いて来なさいな」
「……へいへい」
今日中に外出出来るか、それは今はおいて置くか。
「短槍はリーチを失った分、切り返しが得意な武器よ。切り詰めた間合いではその判断が生死を決めると言っていいわ」
「なる、ほど……。言われてみればそうだな」
「それに槍の特性を突きだけで留めない事も覚えておきなさい。これは長槍でも同じ事が言えるけれど、時に鈍器としての活用が出来る。使う場面は少ないけれど、それが相手の無意識の油断を誘うのよ」
「それも、アンタの言いたかった意表に入ってるてのか?」
「そうね……。でも折角の障害物を活かしきれてないから満点はあげないわ。仕方ないからこれは宿題ね」
いつ提出するんだそれ?
だがこれで終わりって訳じゃねぇはずだ。さっきの感覚が俺の手に残ってる内に、どう手数を増やすか……。
俺はまた短槍を構える――っ。
咄嗟にまた柄の方を前に出して構えていた。この感覚はよく分からねぇが攻撃の警告だ。
……と思っていたのに、全然攻めて来ねぇな。どうなってんだ?
まるで無理矢理構えを取らされているような……まさか!?
「ようやく気付いたわね。おおまけにまけて五点だけあげようかしら」
「そいつはどうも。俺のイメージで間違ってなけりゃ、こいつもオーラってことか?」
「相手の恐怖心を刺激して強引に行動を取らせる。言わばプレッシャーね。それを自在に操るのもオーラの応用よ。……ただし、格下にしか通用しないけれど」
それは暗に俺の事をどうしようも無いヘボって言ってるようなもんじゃねぇのか? アンタ相手じゃ実際そうだから何も言えねぇが。
ちょっとゲンナリだな。
「覚えておきなさい。戦わずして勝つ、それはあらゆる兵法の理想よ。無駄な労力を使わない上に相手に敗北を悟らせるなんて、これほど楽な事もそうは無いわ」
そりゃ楽だ、出来たらな。
それを出来るように覚えろって事か。
だが覚えはある。前世で不良に絡まれた時、睨んで怯ませた経験がある。
……問題は怯むだけで中々下がらないって事だが。その程度で引き下がるならそもそも当時の俺のガタイを見て絡んじゃ来ないだろうしな。
あれの応用だと思えば、確かに出来そうな気がするな。
「分かってるでしょうけど、これは触りに過ぎないわ。オーラの応用は貴方の想像を超える。そのイメージを膨らませるのも重要な事よ」
「イメージ、ねぇ。雲を掴む話にも聞こえるが……」
「取っ掛かりはもう掴んでるでしょう? その最初一歩が何よりも難しいのよ。後は反復練習と経験と想像力を鍛える事。三十点の生徒相手にここまで熱心に教えるんだから、私も親切よね」
「……おい、あんな事言ってるがホントに評価してくれてるんだろうな?」
「……お坊ちゃま、お気持ちは分かりますが侯爵様は確かに評価をしておられます。あの方はあのような形で素直さを表現される方なのです」
それを素直と言うのか。やっぱめんどくせえな。
「さて、これで悩みの一つは解決ね。そうでしょう? そうよね。では、次に行きましょうか」
「何も言ってねぇだろ、おい」
「多少、強引だと思われますでしょうが、侯爵様は親子の時間の充実にはしゃいでいるだけですので。どうか、多忙なあの方の為にもお付き合いをお願い致します」
侍従長が一々フォローしなきゃならんのか。
大体目立つなだの自分が言っておいて付き合わせてるじゃねぇかよ。
と、思わんでもないが。……確かに普段忙しそうなのは確かだ。
(仕方ない、俺も息子だ。キッチリ付き合うのも親孝行だろうよ)
そんな事を考えながら、思い出したのは前世の両親だ。
結局最後まで俺のわがままを聞いてくれた二人。そしてその二人よりも先に死んだのが俺だ。
直接恩を返せねぇなら、その代わりを今のお袋に少しでも返すべきだな。
「何してるの? 早く付いて来なさいな」
「……へいへい」
今日中に外出出来るか、それは今はおいて置くか。
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