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第40話 素直に褒める母

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「柱の活かし方がなってないのよ。ただ隠れて隙を伺うだけじゃなくて、もっと意表を突いて来なさい」

「そりゃあ不意打ちが成り立つならって話だろうが。相手にバレてる状況で何が出来る……ッ」

 一方的にボコボコにやられながらも、それでも持ちこたえられてるのは単に手加減されてるから。
 つーか今までやり合って来た連中の中で一番ヤベーじゃねぇか。こっちがいくら攻めても相手は涼しい顔で防いで叩きのめしてくる。

 俺の息はとっくに上がっても、あっちは汗の一つも掻いてねぇときた。
 服だって俺は所々擦り切れて血が滲んでんだぞ。あっちは無傷なのに。

「息子にここまでやっておいて、よく過保護を気取れたもんだぜ」

「何を言ってるの? 私が直接面倒を見た方が手加減は確実でしょう? それもギリギリ無事に追い込めるのは私だからだって感謝をするべきじゃないかしら」

 言いやがる。死にかける程度で収まるレベルの手加減が自分にしか出来ないからって外に出したくなかったって?

(そもそも外じゃアンタレベルなんかと出会わねぇんだよ……!)

 とは思うがこのままジリ貧じゃそれこそ何にもなんねぇ。

 柱と柱を移動しながら、俺は隠れてジャケットを脱いだ。
 それをお袋の居る位置に向かって投げるっ。

「ん?」

 気を取られている隙に反対側から飛び出して、回り込むように側面から攻め――ようとしたが何かを感じとって突き出した槍を天井に向ける。
 瞬間、柄に向かって衝撃が走る。

「ぐぅ……!」

 吹き飛ばされながらも、視界に入ったのはお袋が足を突き出した姿だった。
 蹴り飛ばされたらしいと認識したのは、背中が固い柱にぶつかって肺の空気を外に出した時だ。

「ぅぁ……っ。……どうやらまだ合格ラインは貰えそうにねぇな……っ」

「猪口才なやり口は嫌いじゃないわ、戦いにおいてはだけど。私以外にならそこそこ通じたかもしれないわね」

「イヤミか! っち……、まだまだァ!」

 小細工を通してくれる相手じゃないのはよーくわかった。
 格上相手に正面切るのは愚策以外の何者でもねぇが、やるしかねえ!

 短槍を握る両手に改めて力を入れる。
 右手は刃の根元へ、左手は石突部分へ。

 突く形からまずは縦で――ッ!
 姿勢低く床を蹴り、その勢いに任せてスリーステップ。
 刃と柄が一直線になる様にして上から振りぬく。狙うは相手の首だ。

「ん」

 半身だけ反らして回避するお袋、だがそれは読み通りだ――ッ。

 右手を刃の根元から下げて左手の上に添える、この瞬間に今まで以上の力が入る。
 本当の狙いそれは――脇腹ッ!

 振り下ろした槍先の腹を、お袋の脇腹目掛けて振り上げる。

 ――おらブッ飛べぇえッ!!


 その俺の期待空しく、ぶち当たったのは一瞬にして構えられたサーベルだった。


「ッチィ!!」

 狙いが外れたからといって呆然としている余裕はない。
 バックステップでその場を離れる。……しまった!? 背中には柱がっ!

 万事休すか、俺はせめてと思い歯を食いしばってお袋を睨みつける。

 ……てっきりあの刃を潰して鈍器と化したサーベルが飛んで来るかと思ったが、お袋はサーベルを持った腕をだらんと下げて何もしてこなかった。

「……あ?」

「今のはそこそこ……まぁ悪くなかったわ。三十点、っていったところかしら」

「はぁ?」

 一体何がどうしたって? お袋は何かを納得するかのように俺の顔をジッと見て来た。
 どういう状況だよ?

「お坊ちゃま……」

 呆気にとらわれていた俺の傍に侍従長が現れる。今度は何だ?
 そうして、また俺にしか聞こえないようなボソッとした声で話しかけてきた。

「こんなに早く侯爵様から高い評価を得られるとは、感心するばかりです」

「おい、俺は今三十点って言われたんだぞ?」

「あの方の評価は倍の数字でお受け止め下さいませ。あの様子から、まるで百点満点での評価のように思われるかもしれませんが、実質的に五十が最高点となります」

 は? ……じゃああれで喜んでるとでも言いたいのか? 相変わらずの涼しい顔で。
 ……やっぱ捻くれてるだろ。
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