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第39話 親と子のフレアイ
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そうして外に出て侍従長に案内された場所がある。
「ここは……。初めて来たな、室内演習場ってところか?」
「その通りでございます。お坊ちゃまはいつも第一演習場……つまるところ屋外訓練施設を御利用なさっていましたので、訪れるのは初めてでしょう」
「まぁな。雨の日の朝は頭痛が酷くてトレーニング自体やってなかったから。そうか、そういう時ってみんなここ使ってたのか」
「悪天候の時だけ、という訳ではございませんが……おおよそその認識で構いません」
案内されたのは屋内トレーニング施設だった。
中にはダンベルやらバーベルやら、様々なトレーニング器具が置いてあった。
そして施設の奥、今俺達がいる場所は広場がある。
「ここに俺を案内したって事は、こいつの扱い方をレクチャーしてくれるって事か?」
手に持った短槍とやら。今からこいつを使うからこそここまで連れて来たはずだ。
じゃないと、どう考えてもこんな所まで案内しない。
そしてその疑問に対して、想像通りの回答をしてくれた。
「ええ、正しくその通り。しかしながら――」
「うん?」
想像通り、ではあったがそれ以上の何かしらの意図があったようだ。
「――貴方の相手をするのは私よ」
そんなセリフと一緒に、入口から入って来たのはお袋だった。
その恰好はいつものドレス姿とは違う。コセルア達が普段着ているような訓練用の恰好に近い。その上、髪も後ろに束ねている。
そして、その腰には剣を佩びている。鞘の形状からいってサーベルだろうか。
「アンタが?」
「そうよ。私は当家の主であると同時に騎士団の団長を兼ねているの。驚いたかしら?」
「いや、こんな所に来て家の仕事の方は大丈夫なのかと。昨日も書類と睨めっこしてなかったか?」
「…………」
何だよ睨んできて?
俺は息子としての心配をしてるだけだってのによ。今の返しの何が不満だったんだ?
そんな事を考えていた時、隣に立つ侍従長が俺の耳元に届く程度の小声で話しかけてきた。
「お坊ちゃま、侯爵様は今日という日を密かに楽しみにしておられたのです。御本人は隠しているつもりのようでしたが……。どうかここは喜んで差し上げては頂けませんでしょうか」
「え? ……ああ……、まさかアンタが直々に手取り足取り教えてくれるなんて思わなかったぜ。驚いて変な事口走っちまった。いくら息子とはいえ、こりゃあラッキーだよな」
ここまで言えば十分だろ。侍従長にアイコンタクトを取る。
……よし、問題無いようだな。
「侯爵様がお相手とわかって、思っても無い事を言ってしまったようですね。お坊ちゃまは照れておられるようです。可愛らしいとは思いませんか?」
「……そうね、喜んで貰えたようでなによりだわ」
めんどくせぇなおい。
まあいい、仕切り直しといくか。
「で、これから一体何をするんだ? 見た所、アンタの得物は剣のようだが……こいつの扱い方を教えてくれるんじゃないのか?」
俺が持ってるのは短槍、お袋持ってるのはサーベル。
お互いに違うものを持ってるってのにどうしようってんだ?
「そうね。……貴方、この部屋を見て何か思うところは無いかしら?」
そう言われてぐるりと見渡す。
そういえば訓練用の施設にしては妙に天井が低いような。三メートルあるかないかってところか。
それに……そうだ不自然に柱が多い。普通こういうトコって柱は見えない位置にあるはずだ。なのが至る所、それも不規則に建ってやがる。
まさかと思って、その柱の一つを手で触る。
表面はザラザラとしていて、細かい傷から深い傷まで、それがいくつも入っていた。
見えて見ると天井にも。
これは……。
「実戦さながらの訓練施設って事か。悪条件で満足にドンパチ出来るように上にも横にも障害物がある。……って答えで十分かよ」
「そうね……及第点を上げようかしら」
及第点だぁ? 何だよ、今のじゃ不満だってか。手厳しいもんだぜ。
「お坊ちゃま。この場合における侯爵様の及第点は満点に近いもの、とお受け取り下さい」
いつの間にか侍従長が隣に立っていて、囁くようにそんな事を言って来た。
何だよ、やっぱめんどくせえな。
「折角私の貴重な時間を上げるのだから、実戦形式で教えて上げるわ。基礎はこれからもコセルア達に教えて貰いなさい。それで短槍についてだけど……」
そこで言葉を切ったお袋。……なんだ妙に肌がざらつくような――ッ!?
俺は咄嗟に、両手に力を入れて短槍の柄を斜め上へと突き出す。
途端、まるで数倍の重力が一気に体を押しつぶすような感覚が、俺の片膝を着かせた。
槍の柄にサーベルが当たる。いつの間に剣を抜いたのか? そしていつの間に距離を詰めていたのか? 天井スレスレ程度に上段から振り下ろされたサーベルが尋常じゃ無い程に重かった。
「ぐ、ぐぉ……ァ!」
「短槍については扱い方を知ってるだけ、だけれど一流の使い手と戦った経験が私にはあるわ。その経験を活かして、貴方にレクチャーをしてあげる」
「お、おいおい……そりゃあつまり――アンタも教えるのは手探りって事じゃねぇか……っ」
「……細かい事はこの際いいでしょう」
人の事を半ば叩き潰しておきながら、涼しい顔していい加減な事をほざくお袋。
何より冗談じゃねえのは、軽口を叩くだけでやっとって状況だった。
めんどくせえな、あらゆる意味で……っ!
それからしばらく、お袋の大雑把な匙加減による蹂躙が続いた。
「ここは……。初めて来たな、室内演習場ってところか?」
「その通りでございます。お坊ちゃまはいつも第一演習場……つまるところ屋外訓練施設を御利用なさっていましたので、訪れるのは初めてでしょう」
「まぁな。雨の日の朝は頭痛が酷くてトレーニング自体やってなかったから。そうか、そういう時ってみんなここ使ってたのか」
「悪天候の時だけ、という訳ではございませんが……おおよそその認識で構いません」
案内されたのは屋内トレーニング施設だった。
中にはダンベルやらバーベルやら、様々なトレーニング器具が置いてあった。
そして施設の奥、今俺達がいる場所は広場がある。
「ここに俺を案内したって事は、こいつの扱い方をレクチャーしてくれるって事か?」
手に持った短槍とやら。今からこいつを使うからこそここまで連れて来たはずだ。
じゃないと、どう考えてもこんな所まで案内しない。
そしてその疑問に対して、想像通りの回答をしてくれた。
「ええ、正しくその通り。しかしながら――」
「うん?」
想像通り、ではあったがそれ以上の何かしらの意図があったようだ。
「――貴方の相手をするのは私よ」
そんなセリフと一緒に、入口から入って来たのはお袋だった。
その恰好はいつものドレス姿とは違う。コセルア達が普段着ているような訓練用の恰好に近い。その上、髪も後ろに束ねている。
そして、その腰には剣を佩びている。鞘の形状からいってサーベルだろうか。
「アンタが?」
「そうよ。私は当家の主であると同時に騎士団の団長を兼ねているの。驚いたかしら?」
「いや、こんな所に来て家の仕事の方は大丈夫なのかと。昨日も書類と睨めっこしてなかったか?」
「…………」
何だよ睨んできて?
俺は息子としての心配をしてるだけだってのによ。今の返しの何が不満だったんだ?
そんな事を考えていた時、隣に立つ侍従長が俺の耳元に届く程度の小声で話しかけてきた。
「お坊ちゃま、侯爵様は今日という日を密かに楽しみにしておられたのです。御本人は隠しているつもりのようでしたが……。どうかここは喜んで差し上げては頂けませんでしょうか」
「え? ……ああ……、まさかアンタが直々に手取り足取り教えてくれるなんて思わなかったぜ。驚いて変な事口走っちまった。いくら息子とはいえ、こりゃあラッキーだよな」
ここまで言えば十分だろ。侍従長にアイコンタクトを取る。
……よし、問題無いようだな。
「侯爵様がお相手とわかって、思っても無い事を言ってしまったようですね。お坊ちゃまは照れておられるようです。可愛らしいとは思いませんか?」
「……そうね、喜んで貰えたようでなによりだわ」
めんどくせぇなおい。
まあいい、仕切り直しといくか。
「で、これから一体何をするんだ? 見た所、アンタの得物は剣のようだが……こいつの扱い方を教えてくれるんじゃないのか?」
俺が持ってるのは短槍、お袋持ってるのはサーベル。
お互いに違うものを持ってるってのにどうしようってんだ?
「そうね。……貴方、この部屋を見て何か思うところは無いかしら?」
そう言われてぐるりと見渡す。
そういえば訓練用の施設にしては妙に天井が低いような。三メートルあるかないかってところか。
それに……そうだ不自然に柱が多い。普通こういうトコって柱は見えない位置にあるはずだ。なのが至る所、それも不規則に建ってやがる。
まさかと思って、その柱の一つを手で触る。
表面はザラザラとしていて、細かい傷から深い傷まで、それがいくつも入っていた。
見えて見ると天井にも。
これは……。
「実戦さながらの訓練施設って事か。悪条件で満足にドンパチ出来るように上にも横にも障害物がある。……って答えで十分かよ」
「そうね……及第点を上げようかしら」
及第点だぁ? 何だよ、今のじゃ不満だってか。手厳しいもんだぜ。
「お坊ちゃま。この場合における侯爵様の及第点は満点に近いもの、とお受け取り下さい」
いつの間にか侍従長が隣に立っていて、囁くようにそんな事を言って来た。
何だよ、やっぱめんどくせえな。
「折角私の貴重な時間を上げるのだから、実戦形式で教えて上げるわ。基礎はこれからもコセルア達に教えて貰いなさい。それで短槍についてだけど……」
そこで言葉を切ったお袋。……なんだ妙に肌がざらつくような――ッ!?
俺は咄嗟に、両手に力を入れて短槍の柄を斜め上へと突き出す。
途端、まるで数倍の重力が一気に体を押しつぶすような感覚が、俺の片膝を着かせた。
槍の柄にサーベルが当たる。いつの間に剣を抜いたのか? そしていつの間に距離を詰めていたのか? 天井スレスレ程度に上段から振り下ろされたサーベルが尋常じゃ無い程に重かった。
「ぐ、ぐぉ……ァ!」
「短槍については扱い方を知ってるだけ、だけれど一流の使い手と戦った経験が私にはあるわ。その経験を活かして、貴方にレクチャーをしてあげる」
「お、おいおい……そりゃあつまり――アンタも教えるのは手探りって事じゃねぇか……っ」
「……細かい事はこの際いいでしょう」
人の事を半ば叩き潰しておきながら、涼しい顔していい加減な事をほざくお袋。
何より冗談じゃねえのは、軽口を叩くだけでやっとって状況だった。
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