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第35話 婚約者との約束

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 あの時の事があってから、俺はしばらく外出禁止になった。
 俺個人はとにかく、お袋の心情を考えれば文句は言えた立場じゃないがな。

 だからといってまたアルストレーラと出る気は……しばらくはいい。
 あっちも体の傷が治ったばっかりだろうし。
 俺よりも重症だったのを考えればな。何より大人しくしてる期間が延びてくれるし。

 ……いや、あの性格はそのままなんだが。

『やあボクが来たよキミ! だけれど残念なのは気軽な外出は控えろと家族や執事にも言われていてね、冒険の機会は先延ばしになってしまったのをまず謝罪させて欲しい。本当に済まないね! え? じゃあなんで此処に来たって? おいおい、謝罪は直接言うのが礼儀というものだろう。その上キミが寂しくないようにこうして顔を出してきた訳さ! ボクは勿論寂しかったよ。やはり同じ冒険という青春を大いに刺激される経験を共にした仲であるのだからこの感動を会う度に共有して確かめたいと思ってしまうのは果たしてボクのわがままなのだろうかと考えなくもないのだけれどしかしキミという男の子の器はきっとこの子供のようでもあるいじらしいボクの――』

『分かったからもう帰ってくれ。大人しくしてろ』

『なるほど! つまりボクの身をどこまでも案じる事こそがボクに対する友情に報いるという事を言いたいんだね? やはりキミという男の子は相手を思う海のように深く広い心の持ち主でありそして――』

『帰ってくれよもう……』

 なんて事がこの前あった。
 頭から血を流してはずなんだがなぁ、なんであんなに元気なんだ?

 そんなんだからしばらく顔を見たくない。

 実際奴が大人しくし始めてからは平和だった。
 裏で動いてる奴らがいるのは気になるが、何より手がかりがない以上どうする事も出来ない。

 一旦それを頭の片隅に追いやり、一人で外に出れないまでも日々の充実って奴を楽しんでいたつもりだ。

 朝のトレーニングはいい汗を流せるし、日中のライベルによる授業――何だかんだで家庭教師はまだついてない――も面白くはある。なんていうか、知りたい事を知るってのは楽しいもんだと確認出来た。学校での授業は頭に入らなかったんだがな。

 それ以外だと侍従長によるマナーレッスン。

「お坊ちゃまは大変に飲み込みが早く、いい意味で手ごたえがありません。……ただでさえ記憶を失くされて一からの再開となりますのに、その勤勉さには頭が下がる思いです」

「頭ん中が吹っ飛んじまったからこそだ。余計につまんねぇ事でアンタに迷惑をかける訳にもいかねぇからな。それに、アンタの教え方が上手いせいでこっちもいい意味で手ごたえが無ぇ。頭を悩ませる必要が無いって感じでな」

「お坊ちゃま……。その乱暴な言葉遣いには思うところが多分にありますが、しかし今のような思いやりのあるお言葉が聞けただけでわたくしは感無量でございます。まさか、あのお坊ちゃまから……」

「そんな感動する事かよ……」

 この侍従長、普段は鉄面皮と言っていいくらいにキリっとした顔つきで使用人達を震え上がらせる女傑だが、どうにも俺がまともにするだけで勝手にジーンとする癖がある。
 今なんてハンカチを取り出して眼鏡を取ってまで目の端をサッと拭いてるしな。

 以前の俺はどんだけ言う事を聞かなかったんだって話だ。
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