裏切られ献身男は図らずも悪役貴族へと~わがまま令息に転生した男はもう他人の喰い物にならない~

こまの ととと

文字の大きさ
上 下
35 / 64

第35話 婚約者との約束

しおりを挟む
 あの時の事があってから、俺はしばらく外出禁止になった。
 俺個人はとにかく、お袋の心情を考えれば文句は言えた立場じゃないがな。

 だからといってまたアルストレーラと出る気は……しばらくはいい。
 あっちも体の傷が治ったばっかりだろうし。
 俺よりも重症だったのを考えればな。何より大人しくしてる期間が延びてくれるし。

 ……いや、あの性格はそのままなんだが。

『やあボクが来たよキミ! だけれど残念なのは気軽な外出は控えろと家族や執事にも言われていてね、冒険の機会は先延ばしになってしまったのをまず謝罪させて欲しい。本当に済まないね! え? じゃあなんで此処に来たって? おいおい、謝罪は直接言うのが礼儀というものだろう。その上キミが寂しくないようにこうして顔を出してきた訳さ! ボクは勿論寂しかったよ。やはり同じ冒険という青春を大いに刺激される経験を共にした仲であるのだからこの感動を会う度に共有して確かめたいと思ってしまうのは果たしてボクのわがままなのだろうかと考えなくもないのだけれどしかしキミという男の子の器はきっとこの子供のようでもあるいじらしいボクの――』

『分かったからもう帰ってくれ。大人しくしてろ』

『なるほど! つまりボクの身をどこまでも案じる事こそがボクに対する友情に報いるという事を言いたいんだね? やはりキミという男の子は相手を思う海のように深く広い心の持ち主でありそして――』

『帰ってくれよもう……』

 なんて事がこの前あった。
 頭から血を流してはずなんだがなぁ、なんであんなに元気なんだ?

 そんなんだからしばらく顔を見たくない。

 実際奴が大人しくし始めてからは平和だった。
 裏で動いてる奴らがいるのは気になるが、何より手がかりがない以上どうする事も出来ない。

 一旦それを頭の片隅に追いやり、一人で外に出れないまでも日々の充実って奴を楽しんでいたつもりだ。

 朝のトレーニングはいい汗を流せるし、日中のライベルによる授業――何だかんだで家庭教師はまだついてない――も面白くはある。なんていうか、知りたい事を知るってのは楽しいもんだと確認出来た。学校での授業は頭に入らなかったんだがな。

 それ以外だと侍従長によるマナーレッスン。

「お坊ちゃまは大変に飲み込みが早く、いい意味で手ごたえがありません。……ただでさえ記憶を失くされて一からの再開となりますのに、その勤勉さには頭が下がる思いです」

「頭ん中が吹っ飛んじまったからこそだ。余計につまんねぇ事でアンタに迷惑をかける訳にもいかねぇからな。それに、アンタの教え方が上手いせいでこっちもいい意味で手ごたえが無ぇ。頭を悩ませる必要が無いって感じでな」

「お坊ちゃま……。その乱暴な言葉遣いには思うところが多分にありますが、しかし今のような思いやりのあるお言葉が聞けただけでわたくしは感無量でございます。まさか、あのお坊ちゃまから……」

「そんな感動する事かよ……」

 この侍従長、普段は鉄面皮と言っていいくらいにキリっとした顔つきで使用人達を震え上がらせる女傑だが、どうにも俺がまともにするだけで勝手にジーンとする癖がある。
 今なんてハンカチを取り出して眼鏡を取ってまで目の端をサッと拭いてるしな。

 以前の俺はどんだけ言う事を聞かなかったんだって話だ。
しおりを挟む
script?guid=on
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

実家から追放されたが、狐耳の嫁がいるのでどうでも良い

竹桜
ファンタジー
 主人公は職業料理人が原因でアナリア侯爵家を追い出されてしまった。  追い出された後、3番目に大きい都市で働いていると主人公のことを番だという銀狐族の少女に出会った。  その少女と同棲した主人公はある日、頭を強く打ち、自身の前世を思い出した。  料理人の職を失い、軍隊に入ったら、軍団長まで登り詰めた記憶を。  それから主人公は軍団長という職業を得て、緑色の霧で体が構成された兵士達を呼び出すことが出来るようになった。  これは銀狐族の少女を守るために戦う男の物語だ。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...