上 下
32 / 64

第32話 気が楽になる相談

しおりを挟む
「……ひぃ……っ……はぁ……、あ……もう終わりです、よね? じゃあ部屋に戻りましょう、ボクもうクタクタで」


「……お前がもう少し我慢出来るようになりゃ、綺麗に終われるんだけどよ」

「ふぇ?」

 他の騎士からタオルを受け取ったライベルが息も絶え絶えになって帰りたいと言ってくる。
 内心溜息をついた俺は、その腕を引っ張って屋敷に戻って行くのだった。

 ――ふっ。

 不意に誰かの……いや、コセルアが静かな笑い声が聞こえて来た。
 今日はいい日になるかもな。



「今日のライベル君も汗に濡れて頑張って、もう思わず抱きしめたくなったわ!」

「いやあ、タオルと水筒を渡す栄誉。今日は僕のものとなってラッキーだったよ。あとでみんなに自慢してあげないと」

「お前狡い。オレだってしばらく声を掛けるだけだったのに。くそっ明日こそストレッチに相手になってみせる!」

「…………本当、何で綺麗に終われないのだろうな」



 シャワーを浴びているその時、誰かの溜息を聞いたような気がしたが……当然ここには汗を洗い流す俺とライベルしかいない。

「どうしたんですかぁ? 急にソワソワして」

「何でもねぇよ。お前ちゃんと全身洗えよ、汗臭ぇ奴なんて傍に置きたくねえぞ」

「ぼ、ぼくはいつも身だしなみに気を付けてるじゃないですか。汗を流した量なら坊ちゃまの方が多いはずですし、念入りにするならそっちじゃ……」

「あ、生意気言ってんじゃねえぞ」

「わ!? 急に水を掛けないで下さい!」

 ◇◇◇

 やっぱ色々考えたが、あのオーラで切る感覚をものにするなら、日頃から刃物を扱うべきかと思う。
 普段棍を使ってて、その都度オーラを纏って切るなんて器用な事をこの俺が出来るとも考えにくい。

 そうなると、棍の先に刃でも着けるか? いや、それじゃあ携帯性もいまいちだ。
 そもそも長物自体持ち歩くには不便なんだ、だからと言って今更剣に持ち帰るのも違うだろう。

 都合よく物を出し入れ出来たりする、アイテム的なのでもないもんか……。
 流石に都合が良すぎるか。でもなぁ……。

 一つ悩みが終わったら、また別の悩むが沸いて来る。俺という奴はどこまでも未練に囚われて人間らしいというか。

 未練か……。

 最近、薄れたかと思っても綺麗に残ったままの記憶。あいつとの思い出がこびりついているのも未練だからか? だが、それは惜しいからじゃないはずだ。きっと。

(二度と会えないから永遠にケリを着けられない。だから嫌でも消えてくれないのか。呪いのような生き方は死ぬまで続くのか。それともまた、次の生とやらでも思い出すってのか)

 一つ確かなのは、二度目の人生での楽しい思い出が頭の中に入ってるって事だ。
 これからもそれが続けば、呪いと対抗する力になるかもしれない。

(誰かに聞いて貰う、か……。コセルアのありがたい説法、早速実践に移すか)

 丁度良く、部屋の扉を叩く音が聞こえて来た。

「坊ちゃま、いらっしゃいますか?」

「ああ、勝手に入って来い」

「では……」

 侍従のスーツで部屋に入って来るライベル。このどこか頼りないヤツに、一つ頼ってみようじゃねぇか。

「お前さ、便利なアイテムとかについて何か知らないか? 例えば……」

 そういう相談をしている時、目の前の会話だけを楽しんでいる俺の中から元カノとの思い出は、確かに浮かんでは来なかった。

 頼りないヤツの頼りになる部分だ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

最強執事の恩返し~大魔王を倒して100年ぶりに戻ってきたら世話になっていた侯爵家が没落していました。恩返しのため復興させます~

榊与一
ファンタジー
異世界転生した日本人、大和猛(やまとたける)。 彼は異世界エデンで、コーガス侯爵家によって拾われタケル・コーガスとして育てられる。 それまでの孤独な人生で何も持つ事の出来なかった彼にとって、コーガス家は生まれて初めて手に入れた家であり家族だった。 その家を守るために転生時のチート能力で魔王を退け。 そしてその裏にいる大魔王を倒すため、タケルは魔界に乗り込んだ。 ――それから100年。 遂にタケルは大魔王を討伐する事に成功する。 そして彼はエデンへと帰還した。 「さあ、帰ろう」 だが余りに時間が立ちすぎていた為に、タケルの事を覚えている者はいない。 それでも彼は満足していた。 何故なら、コーガス家を守れたからだ。 そう思っていたのだが…… 「コーガス家が没落!?そんな馬鹿な!?」 これは世界を救った勇者が、かつて自分を拾い温かく育ててくれた没落した侯爵家をチートな能力で再興させる物語である。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

処理中です...