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第31話 悩む少年
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「……っ……! ……ふぅ」
「坊ちゃま、本日も訓練お疲れ様です。始めた当初に比べ、その成長は非常に著しく思います。これも坊ちゃまのたゆまぬ努力の成果、お相手を仕る私としましても教え甲斐がございます」
「そりゃどうも……」
「何かお悩みでしょうか? いつもと身の入り方に違いはありませんでしたから、それ程のものでは無いかと思いましたが」
それ程って事は、少しは気づいていたって事か。勘の鋭い女だな。
「アンタの言う通りだ。別に、ちょっと引っかかりがあるってだけさ。アンタに教えられたオーラってのを出せるようになったが……初めての時程、いまいちリキの入れ方っていうか……」
「感覚が掴めずにいる、と? それは仕方がありません。坊ちゃまはあくまでも手にしたばかり、赤ん坊が初めて手に取るおもちゃの扱い方をわからないのと同じです」
「それはつまり……」
「焦る事もないかと。何事も経験、そして時間が重要ですので。坊ちゃまならば直ぐに難なく扱えるようになると考えます」
「世辞の言葉でも、少し楽にはなるか」
「いえ、世辞など……。坊ちゃまはご自身の力と向き合おうとしている、何よりその心構えに感服するばかりです」
「……わかった、素直に受け取りゃいいんだろ」
これ以上言うと、俺が意地の悪い事をしてるみてえだ。
実際、今の俺の悩みはわがまま以外の何物でもねぇ。出来ねぇ事の癇癪を零すなんざ、これじゃガキだな俺も。
「坊ちゃま、再度申し上げますが焦る必要はありません。仮に必要に迫られてしまったとしても、いきなり扱えるものでもなく、日々の積み重ねのみが確かな力として現れるのです。……が、しかし」
「ん?」
珍しいな、コセルアの奴が言い淀んだ。何か言いにくい事でもあんのか?
それから割と直ぐ、また口を開いて俺の疑問に答えてくれた。
「こうして指南役を仰せつかっておりますこの私も、同じような悩みを抱いておりました。第一歩、それを踏み込んだと思ったのもつかの間、次にどう進めばいいのか……。むしろあの頃の私の方がそれに頭を悩まされていたと自負出来ます。そんな事に囚われてばかりで、日常生活でもミスを誘発される程。そう考えれば坊ちゃまは囚われ過ぎてはいらっしゃらない。そういう点で、あの頃の私よりも優秀であると言えます」
「意外なもんだな、冷静なアンタにもそういう熱い時期があったって事か」
「若気の至り、とでも言いましょうか。……坊ちゃま、僭越ながら一つアドバイスをさせて頂きます。焦る気持ちは誰かに聞いて貰えば、直接の解決にはならずとも意外な形で助けられる事もございます。今の私の言葉そうなれば、とも思っております」
「そうか……。ま、実際モヤモヤは晴れた気分だ。アンタにはいつも助けられるな」
「光栄でございます。しかし仕える者として当然であるとも考えております」
「そうかよ。……ああ、代わりに俺からもひとつ言っておくが」
「何でしょうか?」
「若気の至りってのは止めろ。大して歳の変わらねぇ俺まで老けた気分になるし、お袋なんて今に杖を突いて歩くになっちまうしな。……お互い、もっと若者でいようじゃねえか」
「っ……。承知致しました、坊ちゃま」
そう言って答えるコセルアはほんの少し、ごくわずかに微笑む……ように見えた。
表情のほとんど変わらない女だが、いつも同じじゃない。そういう発見も、日々の積み重ねが物を言った結果なのかはたして。
こいつも笑うんだってこった、当たり前か。人間なんだしよ。
「それでは改めまして……本日の訓練、お疲れ様でした」
「ああ……!」
「坊ちゃま、本日も訓練お疲れ様です。始めた当初に比べ、その成長は非常に著しく思います。これも坊ちゃまのたゆまぬ努力の成果、お相手を仕る私としましても教え甲斐がございます」
「そりゃどうも……」
「何かお悩みでしょうか? いつもと身の入り方に違いはありませんでしたから、それ程のものでは無いかと思いましたが」
それ程って事は、少しは気づいていたって事か。勘の鋭い女だな。
「アンタの言う通りだ。別に、ちょっと引っかかりがあるってだけさ。アンタに教えられたオーラってのを出せるようになったが……初めての時程、いまいちリキの入れ方っていうか……」
「感覚が掴めずにいる、と? それは仕方がありません。坊ちゃまはあくまでも手にしたばかり、赤ん坊が初めて手に取るおもちゃの扱い方をわからないのと同じです」
「それはつまり……」
「焦る事もないかと。何事も経験、そして時間が重要ですので。坊ちゃまならば直ぐに難なく扱えるようになると考えます」
「世辞の言葉でも、少し楽にはなるか」
「いえ、世辞など……。坊ちゃまはご自身の力と向き合おうとしている、何よりその心構えに感服するばかりです」
「……わかった、素直に受け取りゃいいんだろ」
これ以上言うと、俺が意地の悪い事をしてるみてえだ。
実際、今の俺の悩みはわがまま以外の何物でもねぇ。出来ねぇ事の癇癪を零すなんざ、これじゃガキだな俺も。
「坊ちゃま、再度申し上げますが焦る必要はありません。仮に必要に迫られてしまったとしても、いきなり扱えるものでもなく、日々の積み重ねのみが確かな力として現れるのです。……が、しかし」
「ん?」
珍しいな、コセルアの奴が言い淀んだ。何か言いにくい事でもあんのか?
それから割と直ぐ、また口を開いて俺の疑問に答えてくれた。
「こうして指南役を仰せつかっておりますこの私も、同じような悩みを抱いておりました。第一歩、それを踏み込んだと思ったのもつかの間、次にどう進めばいいのか……。むしろあの頃の私の方がそれに頭を悩まされていたと自負出来ます。そんな事に囚われてばかりで、日常生活でもミスを誘発される程。そう考えれば坊ちゃまは囚われ過ぎてはいらっしゃらない。そういう点で、あの頃の私よりも優秀であると言えます」
「意外なもんだな、冷静なアンタにもそういう熱い時期があったって事か」
「若気の至り、とでも言いましょうか。……坊ちゃま、僭越ながら一つアドバイスをさせて頂きます。焦る気持ちは誰かに聞いて貰えば、直接の解決にはならずとも意外な形で助けられる事もございます。今の私の言葉そうなれば、とも思っております」
「そうか……。ま、実際モヤモヤは晴れた気分だ。アンタにはいつも助けられるな」
「光栄でございます。しかし仕える者として当然であるとも考えております」
「そうかよ。……ああ、代わりに俺からもひとつ言っておくが」
「何でしょうか?」
「若気の至りってのは止めろ。大して歳の変わらねぇ俺まで老けた気分になるし、お袋なんて今に杖を突いて歩くになっちまうしな。……お互い、もっと若者でいようじゃねえか」
「っ……。承知致しました、坊ちゃま」
そう言って答えるコセルアはほんの少し、ごくわずかに微笑む……ように見えた。
表情のほとんど変わらない女だが、いつも同じじゃない。そういう発見も、日々の積み重ねが物を言った結果なのかはたして。
こいつも笑うんだってこった、当たり前か。人間なんだしよ。
「それでは改めまして……本日の訓練、お疲れ様でした」
「ああ……!」
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