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第28話 報いを受ける怪物
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俺はボスの突進を回避して、アルストレーラの隣まで駆けて行く。
「よお、いい格好じゃねぇか」
「ふふ、戦場での傷は騎士としてのボクをより美しく見せてくれるさ」
「それだけほざけりゃあ心配もねえな。……お互い、このままじゃあ倒すどころじゃねえがな」
あっちは一撃で俺達を沈めるパワーがあるし、経験もある。
対してこっちは一太刀も入れてないと来た。
こいつは精神的にキツいって話だ。だが……。
「下がる理由にはならねえ。野放しにしたらこの状況を仕組んだ奴の思う壺だ」
「だろう? ボクもそれは面白くない。……今からちょっとしたマジックをお見せしよう。キミからは拍手を貰いたいな」
マジック。つまり奥の手って事か。
化け犬は、その筋肉を活かした力強い踏み込みで俺達に向かってくる。
それに対して、アルストレーラは再び剣を鞘に納めると……その体を、何かが包み始める。
「そいつは……オーラってやつか」
「今のボクの全力を披露しようじゃないか。成功したら褒めて称えて、お願いだ」
オーラ。
トレーニングをつけてくれた時、コセルアから聞かされていた話だ。
『我々のような近接戦闘を行う者には、剣術などの戦闘法に加え、オーラと呼ばれる力を基本的戦術と致します。それは魔法を扱う魔導士にとってのマナに近しいものであり、人間がその身に持つエネルギーの一つとなります』
そう言ったコセルアは木刀を手に持って……。
「さあ行くよボス君ッ! イレスカトラの一大妙技、とくと味わってくれたまえ!!」
身を包んでいたオーラは、剣にも到達して今まさに迫り来る化け犬のボスへと抜き放たれた。
風切り音と共に現れたのは斬撃、だったんだろう。
一瞬にしてエネルギーの塊みてぇのが出て来たと思ったら、それが頭の一つに食い込み、そして切り落としていた。
「ガァアアアア!?!?」
残った方の口から痛みの咆哮が聞こえる。
だが飛びかかって勢いがそのままだ。
力尽き、それでも不敵に笑うアルストレーラはその末路を勝手に悟っているようで――俺はそれが気に入らなかった。
「……えっ?」
アルストレーラに向けて横っ飛びし、そのまま飛びつくように押し出す。
さっきまで俺達が居た場所にはあのボスが、無様な態勢で突っ込んでいた。
「キミ……」
「褒めて欲しいんだろ? そいつを聞く前に死ぬなんざ心残りだ。違うか?」
「……まいったね。これじゃあジェントルを守るレディに成り切れない」
「お互い様と行こうぜ。……あとは任せな」
アルストレーラをそのまま地面に寝かせたまま、俺は棍を構えた。
相手は起き上がろうとしてる化け犬のボス。ここまで手間掛けさせたクズ野郎だ。
(思い出せ、さっきのこいつと――あの時のコセルアをッ!)
あの時、コセルアは手に持ってた木刀にオーラを纏わせ……そして訓練ようの巻き藁を真っ二つに叩っ切った。
奴が態勢を立て直そうとするのが見えた。だがまだだ、まだ焦るな!
「き、キミ!?」
背後からアルストレーラの声が焦った聞こえてくる。だがまだだ……!!
(今までトレーニングじゃ出来無かった。だが、今なら――やるっきゃねぇ今なら……!)
あの時の感動と高揚感、そしてアルストレーラの心意気をこの足りねぇ頭に叩き込めば……!
体の奥、いや、そう言っていいのかもわからねえところから熱が生まれるのを感じる。
それがどこかなんて問題じゃねえ。クソッタレをブッ潰すだけの気概をこいつに叩き込む!
「……光った。キミ、まさかキミも……」
体は熱いのに、頭が冷えて来る。今なら出来るって確信をくれる。
体から腕へ、腕から得物へ広がる……!
「テメェのイキがりもこれまでだな……クソ犬ッ!!」
オーラが足に息を吹き込んでいく。
爆発するみてぇに地面を踏みぬいた俺の足裏が、まるでジェット噴射の勢いで俺の体をブッ飛ばす。
狙うもう一つの首!
「お別れの時間だ――」
「ッ……」
「――テメェの首にバイバイしな……!」
鉄の塊に過ぎない俺の棍が、オーラを纏って刃となって首を切り飛ばす。
草っぱらに血をぶちまけながら宙を舞っていた首は、ボトっという気の抜けた音と共に地面に落下した。
(ふぅ……、ッ!?)
途端、これまでにない頭痛が俺の脳みそに噛みついてきやがった!
「ぐぅうっ!」
「き、キミ? 一体どうしたんだいキミ!?」
(何だよこれよぉ……、力のツケとでも言いてぇのか。くそっ)
心配する声に振り向く暇は無い。
このままだと意識が……。
(ナメんじゃねぇ!!)
左手の拳を強く握った俺は、そいつで力一杯自分のドタマに叩きつけた。
「お、おい!? 本当にどうしたんだい!」
「…………何でもねぇ。さっさと行くぞ」
痛みで痛みを中和。馬鹿としか言いようのねぇ馬鹿理論に掛けて殴りつけた結果、少しはマシになった。
時間ぐらいにはなったはずだ。
「ついて来い!」
倒したボスだって本命じゃないんだ。
俺は言う事を聞かなくなりかけてる体を無理矢理従わせて、茂みに隠していた二人の元へと走った。
「……へっ、何とか。何とかってか……」
茂みを覗くと気絶したままのガキ。そして……。
「こっちも無事だ! やり遂げたね、ボク達……!」
はっ、元気のいい声を出しやがって……。
「ああキミ!?」
体の無理も限界だった。
倒れて行く体、必死の形相で駆け寄ってくるアルストレーラのツラを見て、ふと思った事。
(そういや、犬連中を見て無いな……)
そうして視界が黒み掛かって行き……。
「よお、いい格好じゃねぇか」
「ふふ、戦場での傷は騎士としてのボクをより美しく見せてくれるさ」
「それだけほざけりゃあ心配もねえな。……お互い、このままじゃあ倒すどころじゃねえがな」
あっちは一撃で俺達を沈めるパワーがあるし、経験もある。
対してこっちは一太刀も入れてないと来た。
こいつは精神的にキツいって話だ。だが……。
「下がる理由にはならねえ。野放しにしたらこの状況を仕組んだ奴の思う壺だ」
「だろう? ボクもそれは面白くない。……今からちょっとしたマジックをお見せしよう。キミからは拍手を貰いたいな」
マジック。つまり奥の手って事か。
化け犬は、その筋肉を活かした力強い踏み込みで俺達に向かってくる。
それに対して、アルストレーラは再び剣を鞘に納めると……その体を、何かが包み始める。
「そいつは……オーラってやつか」
「今のボクの全力を披露しようじゃないか。成功したら褒めて称えて、お願いだ」
オーラ。
トレーニングをつけてくれた時、コセルアから聞かされていた話だ。
『我々のような近接戦闘を行う者には、剣術などの戦闘法に加え、オーラと呼ばれる力を基本的戦術と致します。それは魔法を扱う魔導士にとってのマナに近しいものであり、人間がその身に持つエネルギーの一つとなります』
そう言ったコセルアは木刀を手に持って……。
「さあ行くよボス君ッ! イレスカトラの一大妙技、とくと味わってくれたまえ!!」
身を包んでいたオーラは、剣にも到達して今まさに迫り来る化け犬のボスへと抜き放たれた。
風切り音と共に現れたのは斬撃、だったんだろう。
一瞬にしてエネルギーの塊みてぇのが出て来たと思ったら、それが頭の一つに食い込み、そして切り落としていた。
「ガァアアアア!?!?」
残った方の口から痛みの咆哮が聞こえる。
だが飛びかかって勢いがそのままだ。
力尽き、それでも不敵に笑うアルストレーラはその末路を勝手に悟っているようで――俺はそれが気に入らなかった。
「……えっ?」
アルストレーラに向けて横っ飛びし、そのまま飛びつくように押し出す。
さっきまで俺達が居た場所にはあのボスが、無様な態勢で突っ込んでいた。
「キミ……」
「褒めて欲しいんだろ? そいつを聞く前に死ぬなんざ心残りだ。違うか?」
「……まいったね。これじゃあジェントルを守るレディに成り切れない」
「お互い様と行こうぜ。……あとは任せな」
アルストレーラをそのまま地面に寝かせたまま、俺は棍を構えた。
相手は起き上がろうとしてる化け犬のボス。ここまで手間掛けさせたクズ野郎だ。
(思い出せ、さっきのこいつと――あの時のコセルアをッ!)
あの時、コセルアは手に持ってた木刀にオーラを纏わせ……そして訓練ようの巻き藁を真っ二つに叩っ切った。
奴が態勢を立て直そうとするのが見えた。だがまだだ、まだ焦るな!
「き、キミ!?」
背後からアルストレーラの声が焦った聞こえてくる。だがまだだ……!!
(今までトレーニングじゃ出来無かった。だが、今なら――やるっきゃねぇ今なら……!)
あの時の感動と高揚感、そしてアルストレーラの心意気をこの足りねぇ頭に叩き込めば……!
体の奥、いや、そう言っていいのかもわからねえところから熱が生まれるのを感じる。
それがどこかなんて問題じゃねえ。クソッタレをブッ潰すだけの気概をこいつに叩き込む!
「……光った。キミ、まさかキミも……」
体は熱いのに、頭が冷えて来る。今なら出来るって確信をくれる。
体から腕へ、腕から得物へ広がる……!
「テメェのイキがりもこれまでだな……クソ犬ッ!!」
オーラが足に息を吹き込んでいく。
爆発するみてぇに地面を踏みぬいた俺の足裏が、まるでジェット噴射の勢いで俺の体をブッ飛ばす。
狙うもう一つの首!
「お別れの時間だ――」
「ッ……」
「――テメェの首にバイバイしな……!」
鉄の塊に過ぎない俺の棍が、オーラを纏って刃となって首を切り飛ばす。
草っぱらに血をぶちまけながら宙を舞っていた首は、ボトっという気の抜けた音と共に地面に落下した。
(ふぅ……、ッ!?)
途端、これまでにない頭痛が俺の脳みそに噛みついてきやがった!
「ぐぅうっ!」
「き、キミ? 一体どうしたんだいキミ!?」
(何だよこれよぉ……、力のツケとでも言いてぇのか。くそっ)
心配する声に振り向く暇は無い。
このままだと意識が……。
(ナメんじゃねぇ!!)
左手の拳を強く握った俺は、そいつで力一杯自分のドタマに叩きつけた。
「お、おい!? 本当にどうしたんだい!」
「…………何でもねぇ。さっさと行くぞ」
痛みで痛みを中和。馬鹿としか言いようのねぇ馬鹿理論に掛けて殴りつけた結果、少しはマシになった。
時間ぐらいにはなったはずだ。
「ついて来い!」
倒したボスだって本命じゃないんだ。
俺は言う事を聞かなくなりかけてる体を無理矢理従わせて、茂みに隠していた二人の元へと走った。
「……へっ、何とか。何とかってか……」
茂みを覗くと気絶したままのガキ。そして……。
「こっちも無事だ! やり遂げたね、ボク達……!」
はっ、元気のいい声を出しやがって……。
「ああキミ!?」
体の無理も限界だった。
倒れて行く体、必死の形相で駆け寄ってくるアルストレーラのツラを見て、ふと思った事。
(そういや、犬連中を見て無いな……)
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