裏切られ献身男は図らずも悪役貴族へと~わがまま令息に転生した男はもう他人の喰い物にならない~

こまの ととと

文字の大きさ
上 下
27 / 64

第27話 共闘の二人

しおりを挟む
「ちぃッ!!」

 俺達は咄嗟に散開して直撃を避ける。
 巨体が落ちて来てとんでもなくデカい音がしたが、なんとかなった。

 都合が良かったのはゲートがあった地点が開けていた避け易かった事、そして偶々逃げ込んだ先の茂みが俺の武器を置いていた場所だった。

 抱えていた女をその辺に投げ捨て、武器を構えてそいつの前へと出る。
 同じように別の茂みからアルストレーラが現れて、コセルア達とは違う佩び方をした腰の剣に手を当てていた。

 子供が居ないのはやっぱり俺と同じように茂みにおいてきたからだろう。

「キミ、ここで戦ってはせっかくの手掛かり君達の身が危ない。ここは一旦この場から引き離すべきじゃないかな?」

「同意見だ。女の方は癪だが、ここで死なせたらそれこそ何も分からなくなる」

 顔を見合わせた俺達は、対峙する化け物の視線を誘導する為に駆け出す。

「グルルル……ッ」

 俺達が背を向けて逃げ出したのを好機と捉えたのか、そいつは唸り声を上げながら追って来た。
 だが幸いな事に巨体だ。足が速いが小回りは効かない。

 俺達はそいつに追われながら森を駆け抜ける。そして――。

「ちょうどいいところに出たな」

「天運はどうやらボクたちを愛しているようだ!」

 この状況で随分な言い分だが、俺達は森の奥の草原へと出ることが出来た。
 ここでなら思う存分戦うことが出来るだろう。

「時間は掛けられねぇ。厄介なのはこいつだけじゃねえんだ」

 おそらくこいつの手下らしい化け犬が、そこかしこにいる。
 せっかくこいつを引き離しても、手間取ってそいつらが子供と女を食ったら俺達の負けだ。

 ここからが正念場だ、さあ気合入れて行くぞ!

「グォオオオオ!!!」

「何時までも威勢よく吠えられると思うんじゃねえぞ……ッ」

「その通りさ! そして――それを今から証明してあげよう!!」

 アルストレーラが腰の剣に手を掛けた時、勢いをつけて駆け出す。
 目標は目の前の図体のデカい化け犬だ。

「もらうよッ、二つ頭君!!」

 鞘から抜き放ったと同時にその勢いのまま、残像を生み出しながらその首の一つへと刃が歯を立てる。

 だが……。

「グルル……ッ」

 敵も図体だけで群れのボスになったんじゃねえんだろう。とてつもない速さもそれに反応を示して、頭の向きを反らしてわずかに回避する。
 腕を伸ばし切ったアルストレーラの隙も見逃すはずがない。

「おっとっ!」

 反らした首を再び動かし、その重量を武器に跳ね飛ばした。
 だがアルストレーラもやるもので、その動きにすら反応して反対の手で鞘を抜いて盾代わりにして直撃を避ける。

 しかしその重さだ、ショックは殺せるものじゃない。吹き飛びながらも空中で回転し、地面へと着地する。

 注意がアルストレーラに行った隙を狙って、俺も棍を叩きつけるが、もう一つの口に噛まれそのまま弾き飛ばされてしまった。
 その最中に棍を地面に突き立てる事で、俺も手傷を負わずに地面に立つことに成功。

「チっ」

「流石に簡単じゃないね。それに――今にも不味いものを放ちそうだよッ!」

 その言葉通りだ。
 化け犬のボスはその二つの口に電気を帯びさせ、今にも解き放とうとしている。

「ちっ、早いとこケリをつけてやる……ッ」

 俺は再び駆け出す。だが今度はさっきとは真逆の方向からだ。
 ボスが電気を溜めている隙に、懐へと潜り込む。

「ガァアアア!!」

 吠えると同時にその口から電撃が放たれる。しかしそれは俺を狙ったものじゃなかったようだ。
 狙いはアルストレーラの方だったようで、俺の横を通り過ぎていく雷光を見て確信する。

 来る!

 その読み通り、余所を向いた俺をボスの爪が襲う。

「くっ……!」

 棍を爪に向けて突き出し、なんとかそいつが俺の体に当たる事は無かったが、咄嗟の行動じゃそれが限界だった。

「かはっ!?」

 吹き飛ばされた俺は、宙を舞って地面に叩きつけられる。その一瞬で背中の痛みと共に肺の空気が全部外に出た。

「クソッタレが……っ」

 足が震えながらも、棍を杖代わりになんとか立ち上がる。
 犬畜生の癖してムカつくんだよ……ッ。

 雷撃が飛んで行った方向を見る、そっちにはアルストレーラが居たからだ。

「ぐ……っ」

 だがその心配は杞憂に終わる。アルストレーラも無事だ。
 無事なだけ、って言った方がいいな。

 剣で防いだんだろうが、所々服が破れ、血も流れている。
 それでもその顔から笑みと闘争心が消えてないのは、騎士の意地ってところか。

(やるじゃねぇか。正直見直したぜアルストレーラ、ただもんじゃねえとは思っていたがな)

 だが、次はもうねぇはずだ。
しおりを挟む
script?guid=on
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

処理中です...