上 下
25 / 40

第25話 蹴散らす二人

しおりを挟む
 奥へ奥へ、進みながら化け犬が増えて来る。
 別にそれ自体は読めていた事だ。周りを囲まれてもこっちだって二人だ、有象無象も敵じゃないが……こいつらの出処はどこだ?

 こんだけ出て来るんだから巣なりなんなり何処かにあるはずだ。
 一匹ずつちまちまと相手してたら切りがねぇ、元を絶たない限り我慢比べだぜ。

「ふんっ」

「ガァ!?」

 今も飛び出してきた化け犬を一匹どついたところだ。
 ここに来て突きの技術が上がったようだ。長物を満足に振り回せない環境だからか、自然とそいつの精度が鍛えられたみたいだな。

「しかし彼らは凄いな! まるでボク達の動きが見えているかのように的確に攻めてくるじゃないか」

「何で褒めてんだよ……。だが、確かにジロジロと見られてる感じがして気に入らねえ」

 この状況でこんなことが言えるんだからある意味で大物かもしれないが……。
 もしかしたら、どっかに頭の切れるボスがいるのかもしれねえ。

 連中を叩き潰しながら進むこと、一時間くらいか。
 埒が明かないと思っていたところ、妙に大人しくトボトボと歩く化け犬を偶然にも発見した。

 それは木々の奥、まるで周りを警戒する様に怪しいものを感じたのは二人同時だったようだ。

「おいあれ……」

「おや? キミも気づいたかい。あのあとを、ついていくともしかしたら……もしかするかもしれないね」

 結構な数を叩きのめした後だから、ある程度は連中も大人しくなったが、それでもどこかに潜んでいるはずだ。

 今までは堂々と進んで絡んできたやつを叩いていたが、これからは逆に息を殺して進んだ方がケリをつけられるかもしれない。

 そう思った俺達は周りを警戒して、その化け犬の後ろを気づかれないようについていく。


 そうして、少し開けた場所に出て……俺達はこれまた奇妙な穴を発見。そこに入っていく化け犬の姿を見た。

「こりゃまたどういうことだ? 何もねえ場所に穴が開いてやがる」

「空間に穴……そうか! しかし、これはどういう事だ? 何故こんな所に”ゲート”が開いているのか……」

「ゲート? ……どっかに繋がってるって事か。おい、そりゃあ自然に出来るもんなのか?」

「あんな小さいものは自然には出来ないはず。……例えば魔界の魔物がこちらに来る場合は特定の、大昔からある大きなゲートを通るしかないんだ。そしてそこは普段、国の軍が管理しているし、キミの領地には存在しない」

「まさか、誰かが開けたって言いてぇのか?」

「これは不味いものを見てしまった。もしそうなら明らかな犯罪行為だよ。誰かが罪を犯してキミの領地を脅かしている。その目的は分からないけど」

 舐めた真似してくれるヤツがいるわけだ。
 その穴をじっと見る。向こう側は見えねぇが、多分こっから先は化け犬の巣に繋がっているんだろう。

 人ン地の畑の近くにこいつを繋げたって事は、目的は畑荒らしか? ……そんな単純なものじゃねぇな。
 化け物が食い荒らす畑、なんて事実を作ってうちのブランドに傷をつける。それだけで終わる話ならこんな手の込んだ事はしないはずだ。

 目的はお袋の顔に泥を塗る。つまり、侯爵家に付け入る隙を無理矢理作ろうって腹か。
 お抱えの騎士団は化け物の巣も発見出来ず、駆除が遅れた無能の集まりってシナリオをでっち上げようとしている人間、もしくは連中がいる。

 それだけで評判が地に落ちるとまでは行かないが、蹴落とす足がかりにはなる。

 ……ざっと考えただけだが、そんな程度の悪知恵が浮かぶ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私をもう愛していないなら。

水垣するめ
恋愛
 その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。  空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。  私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。  街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。  見知った女性と一緒に。  私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。 「え?」  思わず私は声をあげた。  なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。  二人に接点は無いはずだ。  会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。  それが、何故?  ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。  結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。  私の胸の内に不安が湧いてくる。 (駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)  その瞬間。  二人は手を繋いで。  キスをした。 「──」  言葉にならない声が漏れた。  胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。  ──アイクは浮気していた。

もふもふ相棒と異世界で新生活!! 神の愛し子? そんなことは知りません!!

ありぽん
ファンタジー
[第3回次世代ファンタジーカップエントリー] 特別賞受賞 書籍化決定!! 応援くださった皆様、ありがとうございます!! 望月奏(中学1年生)は、ある日車に撥ねられそうになっていた子犬を庇い、命を落としてしまう。 そして気づけば奏の前には白く輝く玉がふわふわと浮いていて。光り輝く玉は何と神様。 神様によれば、今回奏が死んだのは、神様のせいだったらしく。 そこで奏は神様のお詫びとして、新しい世界で生きることに。 これは自分では規格外ではないと思っている奏が、規格外の力でもふもふ相棒と、 たくさんのもふもふ達と楽しく幸せに暮らす物語。

彼女がいなくなった6年後の話

こん
恋愛
今日は、彼女が死んでから6年目である。 彼女は、しがない男爵令嬢だった。薄い桃色でサラサラの髪、端正な顔にある2つのアーモンド色のキラキラと光る瞳には誰もが惹かれ、それは私も例外では無かった。 彼女の墓の前で、一通り遺書を読んで立ち上がる。 「今日で貴方が死んでから6年が経ったの。遺書に何を書いたか忘れたのかもしれないから、読み上げるわ。悪く思わないで」 何回も読んで覚えてしまった遺書の最後を一息で言う。 「「必ず、貴方に会いに帰るから。1人にしないって約束、私は破らない。」」 突然、私の声と共に知らない誰かの声がした。驚いて声の方を振り向く。そこには、見たことのない男性が立っていた。 ※ガールズラブの要素は殆どありませんが、念の為入れています。最終的には男女です! ※なろう様にも掲載

異世界定食屋 八百万の日替わり定食日記 ー素人料理はじめましたー 幻想食材シリーズ

夜刀神一輝
ファンタジー
異世界定食屋 八百万 -素人料理はじめましたー   八意斗真、田舎から便利な都会に出る人が多い中、都会の生活に疲れ、田舎の定食屋をほぼただ同然で借りて生活する。     田舎の中でも端っこにある、この店、来るのは定期的に食材を注文する配達員が来ること以外人はほとんど来ない、そのはずだった。     でかい厨房で自分のご飯を作っていると、店の外に人影が?こんな田舎に人影?まさか物の怪か?と思い開けてみると、そこには人が、しかもけもみみ、コスプレじゃなく本物っぽい!?     どういう原理か知らないが、異世界の何処かの国?の端っこに俺の店は繋がっているみたいだ。     だからどうしたと、俺は引きこもり、生活をしているのだが、料理を作ると、その匂いに釣られて人が一人二人とちらほら、しょうがないから、そいつらの分も作ってやっていると、いつの間にか、料理の店と勘違いされる事に、料理人でもないので大した料理は作れないのだが・・・。     そんな主人公が時には、異世界の食材を使い、めんどくさい時はインスタント食品までが飛び交う、そんな素人料理屋、八百万、異世界人に急かされ、渋々開店!?

死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く

miniko
恋愛
お茶会の参加中に魔獣に襲われたオフィーリアは前世を思い出し、自分が乙女ゲームの2番手悪役令嬢に転生してしまった事を悟った。 ゲームの結末によっては、断罪されて火あぶりの刑に処されてしまうかもしれない立場のキャラクターだ。 断罪を回避したい彼女は、攻略対象者である公爵令息との縁談を丁重に断ったのだが、何故か婚約する代わりに彼と友人になるはめに。 ゲームのキャラとは距離を取りたいのに、メインの悪役令嬢にも妙に懐かれてしまう。 更に、ヒロインや王子はなにかと因縁をつけてきて……。 平和的に悪役の座を降りたかっただけなのに、どうやらそれは無理みたいだ。 しかし、オフィーリアが人助けと自分の断罪回避の為に行っていた地道な根回しは、徐々に実を結び始める。 それがヒロインにとってのハッピーエンドを阻む結果になったとしても、仕方の無い事だよね? だって本来、悪役って主役を邪魔するものでしょう? ※主人公以外の視点が入る事があります。主人公視点は一人称、他者視点は三人称で書いています。 ※連載開始早々、タイトル変更しました。(なかなかピンと来ないので、また変わるかも……) ※感想欄は、ネタバレ有り/無しの分類を一切おこなっておりません。ご了承下さい。

婚約者である皇帝は今日別の女と結婚する

アオ
恋愛
公爵家の末娘として転生した美少女マリーが2つ上の幼なじみであり皇帝であるフリードリヒからプロポーズされる。 しかしその日のうちにプロポーズを撤回し別の女と結婚すると言う。 理由は周辺の国との和平のための政略結婚でマリーは泣く泣くフリードのことを諦める。しかしその結婚は実は偽装結婚で 政略結婚の相手である姫の想い人を振り向かせるための偽装結婚式だった。 そんなこととはつゆ知らず、マリーは悩む。すれ違うがその後誤解はとけマリーとフリードは幸せに暮らしました。

【完結】記憶を失くした旦那さま

山葵
恋愛
副騎士団長として働く旦那さまが部下を庇い頭を打ってしまう。 目が覚めた時には、私との結婚生活も全て忘れていた。 彼は愛しているのはリターナだと言った。 そんな時、離縁したリターナさんが戻って来たと知らせが来る…。

【完結】私の婚約者は、親友の婚約者に恋してる。

山葵
恋愛
私の婚約者のグリード様には好きな人がいる。 その方は、グリード様の親友、ギルス様の婚約者のナリーシャ様。 2人を見詰め辛そうな顔をするグリード様を私は見ていた。

処理中です...