裏切られ献身男は図らずも悪役貴族へと~わがまま令息に転生した男はもう他人の喰い物にならない~

こまの ととと

文字の大きさ
上 下
23 / 64

第23話 初退治

しおりを挟む

羽黒の戦いに敗北した羽柴軍は小牧山城攻撃を諦め、今度は徳川軍の陣地を迂回し本拠地である岡崎城を攻めるべく三河中入りを開始。
羽柴軍の三河中入りを知った我ら徳川軍は、榊原康政・大須賀康高率いる五千の兵を急ぎ出陣させる。そして、徳川家康公率いる一万の本隊も間髪入れずに出陣。三河中入りの途上、徳川方の岩崎城を攻撃中の羽柴軍に背後から襲いかかるのでありました。

天正十二年四月九日寅の刻 尾張国 白山林

「・・・ありゃ~飯食ってんな」
拙者は前方の林から出ている煙を見て呟く。
「呑気なものだ」
拙者の隣にいる武者がそう答える。立派な髭を生やした大柄な男・大須賀五郎左衛門康高殿である。
五郎左殿は、木の隙間から微かに見える敵の陣旗を判別する。
「あれは、三好秀次の軍勢か」
「三好秀次って言うと、羽柴秀吉の甥の」
「うむ。おそらく、この中入りの総大将であろう」
五郎左殿の言葉に拙者は嬉々とした表情を見せる。そして、拙者が何も言わずに馬に飛び乗ると、五郎左殿は拙者を呼び止める。
「こら、抜け駆けは許さんぞ」
ちっ、ばればれか。
拙者が釘を刺されその場で落胆している間に五郎左殿も自身の馬に飛び乗る。
「よし、そろそろ婿殿も背後に回っておる頃だろう」
そう言うと五郎左殿は配下の兵たちに向けて大声を上げる。
「皆の者、行くぞ!」
「おおう!」
五郎左殿の掛け声と共に徳川の兵たちが林の中を駆け抜けて行く。
「うおおお!」
地鳴りのような叫び声で羽柴軍に向かって行く徳川の兵たち。
それに気づいた羽柴軍は、羽黒の戦い同様慌てふためき出す。
まったく、こやつらは毎度毎度反省が足らんな~。
拙者も他の兵たちに遅れをとるまいと馬を走らせる。すると、目の前に怯えて動けない足軽が。拙者は、そやつを容赦なく槍で突く。
「うぐっ!」
一瞬で絶命する足軽。
怖いのであれば是が非でも逃げんか。
拙者は心の中でそう呟くと足軽から槍を引き抜く。そして、そのまま今度は反対側にいた足軽に槍を突き刺す。
これで二人。
拙者は槍を引き抜き、次の相手を探すべく周囲を見渡す。
そろそろ兜首でも・・・おった!
拙者は、数間先にいる後ろ姿の騎馬武者に目をつける。
馬を走らせ騎馬武者に近づくと、相手も拙者に気づき振り返る。
遅い。
拙者は槍で騎馬武者を突こうとしたが、その直前に槍を止める。
なぜなら、その騎馬武者が拙者の見知った人物であったからでございます。
「惣兵衛殿」
拙者がそう口にすると、騎馬武者は苦笑いを浮かべながら答える。
「おいおい、儂を殺そうとしたのか?」
この御方は、水野惣兵衛忠重殿。刈屋城の城主で家康公の叔父にあたる方でございまする。拙者は、惣兵衛殿に頭を下げ謝罪しようとするのですが・・・。
「乱戦故、お許し・・・」
惣兵衛殿は、拙者が謝り終わる前に話を切り出す。
「それよりも半蔵殿、儂の息子の藤十郎を見てはおらんか?」
周囲を見渡しながらそう言う惣兵衛殿に拙者は首を傾げて答える。
「藤十郎?見ていませんな」
「そうか・・・あやつめ、兜も着けずに突っ込んで行きおって」
苛立つ惣兵衛殿。その直後、羽柴軍の後方が突如崩れ始める。
拙者と惣兵衛殿は瞬時に状況を理解する。
「小平太か」
おそらく迂回して敵の背後に回り込んだ榊原小平太の隊が羽柴軍を襲撃しているのでありましょう。後方まで乱れた為、さらに混乱を増す羽柴軍。拙者は、にやりと笑い惣兵衛殿に声をかける。
「この戦、勝ちましたな」
「ああ」
散り散りになり逃げ惑う羽柴軍。その光景に惣兵衛殿は大声を上げる。
「皆の者、追えー追うのだ!」
惣兵衛殿の掛け声に応え羽柴軍を追撃する徳川軍。拙者も透かさず馬を駆ける。
「逃げろ逃げろ~生き延びたい奴は必死で逃げろ!」
拙者は馬上で笑みを浮かべながら槍を振り回す。
これが白山林の戦いでございまする。羽黒の戦い同様、奇襲により羽柴軍を撃退した徳川軍。勢いに乗る我らは、敗走する羽柴軍を尚も追撃するのですが・・・。
しおりを挟む
script?guid=on
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

実家から追放されたが、狐耳の嫁がいるのでどうでも良い

竹桜
ファンタジー
 主人公は職業料理人が原因でアナリア侯爵家を追い出されてしまった。  追い出された後、3番目に大きい都市で働いていると主人公のことを番だという銀狐族の少女に出会った。  その少女と同棲した主人公はある日、頭を強く打ち、自身の前世を思い出した。  料理人の職を失い、軍隊に入ったら、軍団長まで登り詰めた記憶を。  それから主人公は軍団長という職業を得て、緑色の霧で体が構成された兵士達を呼び出すことが出来るようになった。  これは銀狐族の少女を守るために戦う男の物語だ。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...