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第22話 平穏の前に現れた獣
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何てやりとりを乗り越えて、いやいやながら並走する事になって一時間程だ。
山を一つ上った先に――目を見張る程の雄大な果樹林が広がっていた。
思わず口笛を吹いてしまう程、それは広大で、そして豊かだった。
斜面に立った木々が日の光を浴び、そして春の気候が育てた青々しい葉とその隙間からの鮮やかな色が遠くからでも見て取れる。
「今のキミが見るのは初めてだったね? そう、あれこそが王国の食糧庫の一つとまで呼ばれるこの領地が誇った果樹林さ。もう少し南にいくとサトウキビの取れるこれまた広大な畑があるんだ。よく覚えておくといいよ」
「そうだな、いいもんを見た。ぶどう……じゃねぇな」
「ぶどう畑は完全に逆方向だね。北方でもかなり他領地沿いにあるから、ここからだと一日じゃつかないよ。ボクもあのぶどうは好きなんだ。我が家の大人達はみんなキミのところで作られたぶどう酒がの虜なんだけれどジュースにしても芳醇で……スイーツにしてもジェントルから人気が高く、いやあ今が収穫時期じゃないのが残念なくらいだよ」
「わかったわかった。じゃあありゃあ……」
「そういえば南方には他にも収穫時期じゃないけど桃の畑があるんだ。これがまたみずみずしい! 山の恵みともいうべき栄養価の高い地下水を用いたそれは、人齧りするだけで」
「……聞いてねぇし」
相変わらず勝手に喋り続ける。何が楽しくてその舌はべらべらと回るんだか。
ライベルから聞いた話だと、お袋の領地は北と南で結構気候や土壌に違いがあるらしく、それで色んな果物やら野菜やら作れるらしい。
こいつが言ったように国の重要な食料産業に食い込んでいるんだとか。
細かい事は……ま、別に今はいいか。
俺達は馬を走らせ、その果樹林へと向かう。
山道を越えた先には草原が見えていたが、元々都会生まれの俺にはいまだ慣れない光景で新鮮で、はっきり言って嫌いじゃない。
一人煩いのが着いて来てなかったら、寝転んで空やら地平に広がる草を眺めているだけで一日使ってもいいと思えるくらいだ。
本当にそんな日がいつか来るか……? 誰にも気を遣わないで一日過ごす日が。
今の俺になって三ヶ月。はっきり言って、未だに俺は本当の意味で自分本位に生きるって事が分からないでいた。
他人の言いなりにならないって事なら何となく見えている。
だが、自分の為の生き方っては結局どこまでが為ってのを指すのか……見通しがまるで立ってない。
(焦ってるのかも知れない。生きる目的すらねぇ男が一丁前に何悩んでんのかって話だが……)
人生の問答にアレコレ悩む歳じゃないとは思うが、前世の最期があんまりだったからか頭にこびりついて離れない。
「っ……」
思わず顔をしかめる。悩んでるからじゃない、こういう事を考えると決まって頭が痛くなるからだ。だったら止めろって話だがそれも出来ない。
「あ、止まりたまえ!」
不意にアルストレーラが声を上げた。
それに倣って馬を急停止させる。
「キミはどうしたと思うだろうが――どうやらよくないお客さんが現れたようだ」
馬から降りて山の茂みを凝視するアルストレーラの姿に、不吉なものを感じた。
腰から剣を抜き、構える姿は様になっている。
お袋はこいつが騎士としての訓練を受けてきたと言っていたが、どうやら本当にそうらしいな。
日中だって言うのに仄暗い木々の奥から騒めきが起こったかと思うと、そいつは現れた。
「グルルルルッ……」
山を一つ上った先に――目を見張る程の雄大な果樹林が広がっていた。
思わず口笛を吹いてしまう程、それは広大で、そして豊かだった。
斜面に立った木々が日の光を浴び、そして春の気候が育てた青々しい葉とその隙間からの鮮やかな色が遠くからでも見て取れる。
「今のキミが見るのは初めてだったね? そう、あれこそが王国の食糧庫の一つとまで呼ばれるこの領地が誇った果樹林さ。もう少し南にいくとサトウキビの取れるこれまた広大な畑があるんだ。よく覚えておくといいよ」
「そうだな、いいもんを見た。ぶどう……じゃねぇな」
「ぶどう畑は完全に逆方向だね。北方でもかなり他領地沿いにあるから、ここからだと一日じゃつかないよ。ボクもあのぶどうは好きなんだ。我が家の大人達はみんなキミのところで作られたぶどう酒がの虜なんだけれどジュースにしても芳醇で……スイーツにしてもジェントルから人気が高く、いやあ今が収穫時期じゃないのが残念なくらいだよ」
「わかったわかった。じゃあありゃあ……」
「そういえば南方には他にも収穫時期じゃないけど桃の畑があるんだ。これがまたみずみずしい! 山の恵みともいうべき栄養価の高い地下水を用いたそれは、人齧りするだけで」
「……聞いてねぇし」
相変わらず勝手に喋り続ける。何が楽しくてその舌はべらべらと回るんだか。
ライベルから聞いた話だと、お袋の領地は北と南で結構気候や土壌に違いがあるらしく、それで色んな果物やら野菜やら作れるらしい。
こいつが言ったように国の重要な食料産業に食い込んでいるんだとか。
細かい事は……ま、別に今はいいか。
俺達は馬を走らせ、その果樹林へと向かう。
山道を越えた先には草原が見えていたが、元々都会生まれの俺にはいまだ慣れない光景で新鮮で、はっきり言って嫌いじゃない。
一人煩いのが着いて来てなかったら、寝転んで空やら地平に広がる草を眺めているだけで一日使ってもいいと思えるくらいだ。
本当にそんな日がいつか来るか……? 誰にも気を遣わないで一日過ごす日が。
今の俺になって三ヶ月。はっきり言って、未だに俺は本当の意味で自分本位に生きるって事が分からないでいた。
他人の言いなりにならないって事なら何となく見えている。
だが、自分の為の生き方っては結局どこまでが為ってのを指すのか……見通しがまるで立ってない。
(焦ってるのかも知れない。生きる目的すらねぇ男が一丁前に何悩んでんのかって話だが……)
人生の問答にアレコレ悩む歳じゃないとは思うが、前世の最期があんまりだったからか頭にこびりついて離れない。
「っ……」
思わず顔をしかめる。悩んでるからじゃない、こういう事を考えると決まって頭が痛くなるからだ。だったら止めろって話だがそれも出来ない。
「あ、止まりたまえ!」
不意にアルストレーラが声を上げた。
それに倣って馬を急停止させる。
「キミはどうしたと思うだろうが――どうやらよくないお客さんが現れたようだ」
馬から降りて山の茂みを凝視するアルストレーラの姿に、不吉なものを感じた。
腰から剣を抜き、構える姿は様になっている。
お袋はこいつが騎士としての訓練を受けてきたと言っていたが、どうやら本当にそうらしいな。
日中だって言うのに仄暗い木々の奥から騒めきが起こったかと思うと、そいつは現れた。
「グルルルルッ……」
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