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第16話 仕置の合図
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だが、前の俺は町に来たことがなかったのか。単にインドア派だから?
いや、それだったらなんで俺が誘拐されてたのか……。そういや、事件について詳しく知らないな。
「ですがライベル君の言い分も一理あります。私の場合、騎士団の所属として護衛を任される事が多いですから、必然的に慣れて行きました」
「護衛ねえ。それってお袋か?」
「確かに侯爵様の守りについた経験はあります。しかし、主にはお嬢様方でした」
お嬢様。あの屋敷でお嬢様と呼ばれるのは、未だ顔を見た事の無い俺の姉貴二人だ。
お袋曰く遠い街に居るらしいが、一体どんな連中なんだか。
「その中でも御長女であらせられます小侯爵様とは同い年という事もあり、良くしていただきました」
その顔は懐かしむようで、楽しい思い出に浸っているようにも……見えなくもない。
微笑んでるわけでもないから何とも言えないが、そう悪い思い出があるわけでもなさそうだ。
相手の顔を見て、察する。前世で身に着けた得意技の一つだ。完璧じゃないがな。
もし完璧だったら……初めて目があった時でなら身を引いていたのかもしれない。まだ裏切られていなかったから。
「……どうなさったのですか?」
「ん?」
「いえ、お顔が急に……暗く見えたものですから」
つまらない事を思い出していたせいか、コセルアに怪しまれたな。それにライベルまで不思議そうな顔をしてこっちを見てる。
せっかく飯を食おうってのにこれじゃいけねぇ。
「別に何でも……気にすんなよ。それより何食うか決めようぜ? 午後からも回るんだ、腹満たしとかねぇと楽しめないからな」
「じゃあここはぼくのオススメを……」
「おいおい! まったくなんて鼻の曲がる店だ。卑しい身分の臭いが充満してるじゃないか。こんな店が何故成り立っているのか? 理解に苦しむな」
途端に店中に響いた癇に障る声。俺を含めて店中の人間がそっちを向くと、派手なパンツドレスを着たジャラジャラした装飾の女がいた。目に痛い、黄色の使い方にセンスの疑う恰好の女は制服を着た騎士を二人伴って店の中に入って来やがった。
「なんだありゃあ?」
「おそらく貴族の女性でしょうが、しかし見覚えがありません。この領地の周辺の出身の方ではないかと」
「卑しい身分の臭いだなんて……いくらなんでもひど過ぎますよ。ここはそもそも平民の人達が気楽に利用出来るのが売りのカフェなんですから、貴族の方向けのお店はそもそもこことは方向が全く違います。佇まいからして分かりそうなものなのに」
そんなこと向こうは承知だろ、この店に入って来たのは単に難癖付けて楽しもうって腹か。
これから飯を頼もうって時に……。
周りの奴らも口には出さないが、相当苛立ってるはずだ。……まあ、あの馬鹿にはそれすら楽しいのかもしれねぇがな。
「ふん、しかし見れば見るほど貧相な服に醜悪な顔立ち……ん?」
その女は店内をニタニタと笑いながら見渡すと、不意に視線を固定していた。
その視線の先は……。
「……え?」
よりにもよってライベルだった。
(おい、まさか……)
嫌な予想が当たり、そいつは口元をニヤつかせながらこっちに近づいてくる。
そしてライベルの席にやってきて足を止めて見下ろしてきた。
「ほう……これはこれは。こんな卑しい庶民の店にしては中々……」
「え、えっとなんでしょうか……?」
「へへ、随分と可愛い顔してるのがいるじゃないか」
「ひっ!? な、なんですかあなた?!」
獲物を見るような顔でライベルを見る女の姿は見てるだけでイラつく。
コセルアに視線を向ける、向こうもこっちを見ていた。
そうして、こいつらをどう店の外に連れ出すかとコンタクトを取っていた時だ。
「ん? おや、こっちの男も可愛い顔をしてるじゃないか。それでいて目つきの鋭さが妖艶さすら感じる。だが……」
女は俺の顔を覗き込むなり好き勝手言うだけ言うと、首元のペンダントを見て来た。
「こんな安物のペンダントでは全く美が引き立たないな。ふん!」
俺が止める間もなく、ペンダントを掴むと引き切りながら無理矢理奪い取っていきやがった……っ。
「全くなんて出来の悪いものを身に着けているのか? プレゼントだとしたらセンスを疑うな、ははははは!」
ライベルがうつむいてビクっと体を震わせていた。
それを見た俺は、左手に着けていた手袋を脱ぎ――そのカス女の顔面目掛けて叩きつけた。
「っ!? 何!!?」
「表出なァ、クソッタレが……!」
いや、それだったらなんで俺が誘拐されてたのか……。そういや、事件について詳しく知らないな。
「ですがライベル君の言い分も一理あります。私の場合、騎士団の所属として護衛を任される事が多いですから、必然的に慣れて行きました」
「護衛ねえ。それってお袋か?」
「確かに侯爵様の守りについた経験はあります。しかし、主にはお嬢様方でした」
お嬢様。あの屋敷でお嬢様と呼ばれるのは、未だ顔を見た事の無い俺の姉貴二人だ。
お袋曰く遠い街に居るらしいが、一体どんな連中なんだか。
「その中でも御長女であらせられます小侯爵様とは同い年という事もあり、良くしていただきました」
その顔は懐かしむようで、楽しい思い出に浸っているようにも……見えなくもない。
微笑んでるわけでもないから何とも言えないが、そう悪い思い出があるわけでもなさそうだ。
相手の顔を見て、察する。前世で身に着けた得意技の一つだ。完璧じゃないがな。
もし完璧だったら……初めて目があった時でなら身を引いていたのかもしれない。まだ裏切られていなかったから。
「……どうなさったのですか?」
「ん?」
「いえ、お顔が急に……暗く見えたものですから」
つまらない事を思い出していたせいか、コセルアに怪しまれたな。それにライベルまで不思議そうな顔をしてこっちを見てる。
せっかく飯を食おうってのにこれじゃいけねぇ。
「別に何でも……気にすんなよ。それより何食うか決めようぜ? 午後からも回るんだ、腹満たしとかねぇと楽しめないからな」
「じゃあここはぼくのオススメを……」
「おいおい! まったくなんて鼻の曲がる店だ。卑しい身分の臭いが充満してるじゃないか。こんな店が何故成り立っているのか? 理解に苦しむな」
途端に店中に響いた癇に障る声。俺を含めて店中の人間がそっちを向くと、派手なパンツドレスを着たジャラジャラした装飾の女がいた。目に痛い、黄色の使い方にセンスの疑う恰好の女は制服を着た騎士を二人伴って店の中に入って来やがった。
「なんだありゃあ?」
「おそらく貴族の女性でしょうが、しかし見覚えがありません。この領地の周辺の出身の方ではないかと」
「卑しい身分の臭いだなんて……いくらなんでもひど過ぎますよ。ここはそもそも平民の人達が気楽に利用出来るのが売りのカフェなんですから、貴族の方向けのお店はそもそもこことは方向が全く違います。佇まいからして分かりそうなものなのに」
そんなこと向こうは承知だろ、この店に入って来たのは単に難癖付けて楽しもうって腹か。
これから飯を頼もうって時に……。
周りの奴らも口には出さないが、相当苛立ってるはずだ。……まあ、あの馬鹿にはそれすら楽しいのかもしれねぇがな。
「ふん、しかし見れば見るほど貧相な服に醜悪な顔立ち……ん?」
その女は店内をニタニタと笑いながら見渡すと、不意に視線を固定していた。
その視線の先は……。
「……え?」
よりにもよってライベルだった。
(おい、まさか……)
嫌な予想が当たり、そいつは口元をニヤつかせながらこっちに近づいてくる。
そしてライベルの席にやってきて足を止めて見下ろしてきた。
「ほう……これはこれは。こんな卑しい庶民の店にしては中々……」
「え、えっとなんでしょうか……?」
「へへ、随分と可愛い顔してるのがいるじゃないか」
「ひっ!? な、なんですかあなた?!」
獲物を見るような顔でライベルを見る女の姿は見てるだけでイラつく。
コセルアに視線を向ける、向こうもこっちを見ていた。
そうして、こいつらをどう店の外に連れ出すかとコンタクトを取っていた時だ。
「ん? おや、こっちの男も可愛い顔をしてるじゃないか。それでいて目つきの鋭さが妖艶さすら感じる。だが……」
女は俺の顔を覗き込むなり好き勝手言うだけ言うと、首元のペンダントを見て来た。
「こんな安物のペンダントでは全く美が引き立たないな。ふん!」
俺が止める間もなく、ペンダントを掴むと引き切りながら無理矢理奪い取っていきやがった……っ。
「全くなんて出来の悪いものを身に着けているのか? プレゼントだとしたらセンスを疑うな、ははははは!」
ライベルがうつむいてビクっと体を震わせていた。
それを見た俺は、左手に着けていた手袋を脱ぎ――そのカス女の顔面目掛けて叩きつけた。
「っ!? 何!!?」
「表出なァ、クソッタレが……!」
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