裏切られ献身男は図らずも悪役貴族へと~わがまま令息に転生した男はもう他人の喰い物にならない~

こまの ととと

文字の大きさ
上 下
16 / 64

第16話 仕置の合図

しおりを挟む
 だが、前の俺は町に来たことがなかったのか。単にインドア派だから?
 いや、それだったらなんで俺が誘拐されてたのか……。そういや、事件について詳しく知らないな。

「ですがライベル君の言い分も一理あります。私の場合、騎士団の所属として護衛を任される事が多いですから、必然的に慣れて行きました」

「護衛ねえ。それってお袋か?」

「確かに侯爵様の守りについた経験はあります。しかし、主にはお嬢様方でした」

 お嬢様。あの屋敷でお嬢様と呼ばれるのは、未だ顔を見た事の無い俺の姉貴二人だ。
 お袋曰く遠い街に居るらしいが、一体どんな連中なんだか。

「その中でも御長女であらせられます小侯爵様とは同い年という事もあり、良くしていただきました」

 その顔は懐かしむようで、楽しい思い出に浸っているようにも……見えなくもない。
 微笑んでるわけでもないから何とも言えないが、そう悪い思い出があるわけでもなさそうだ。

 相手の顔を見て、察する。前世で身に着けた得意技の一つだ。完璧じゃないがな。
 もし完璧だったら……初めて目があった時でなら身を引いていたのかもしれない。まだ裏切られていなかったから。

「……どうなさったのですか?」

「ん?」

「いえ、お顔が急に……暗く見えたものですから」

 つまらない事を思い出していたせいか、コセルアに怪しまれたな。それにライベルまで不思議そうな顔をしてこっちを見てる。
 せっかく飯を食おうってのにこれじゃいけねぇ。

「別に何でも……気にすんなよ。それより何食うか決めようぜ? 午後からも回るんだ、腹満たしとかねぇと楽しめないからな」

「じゃあここはぼくのオススメを……」


「おいおい! まったくなんて鼻の曲がる店だ。卑しい身分の臭いが充満してるじゃないか。こんな店が何故成り立っているのか? 理解に苦しむな」


 途端に店中に響いた癇に障る声。俺を含めて店中の人間がそっちを向くと、派手なパンツドレスを着たジャラジャラした装飾の女がいた。目に痛い、黄色の使い方にセンスの疑う恰好の女は制服を着た騎士を二人伴って店の中に入って来やがった。

「なんだありゃあ?」

「おそらく貴族の女性でしょうが、しかし見覚えがありません。この領地の周辺の出身の方ではないかと」

「卑しい身分の臭いだなんて……いくらなんでもひど過ぎますよ。ここはそもそも平民の人達が気楽に利用出来るのが売りのカフェなんですから、貴族の方向けのお店はそもそもこことは方向が全く違います。佇まいからして分かりそうなものなのに」

 そんなこと向こうは承知だろ、この店に入って来たのは単に難癖付けて楽しもうって腹か。
 これから飯を頼もうって時に……。
 
 周りの奴らも口には出さないが、相当苛立ってるはずだ。……まあ、あの馬鹿にはそれすら楽しいのかもしれねぇがな。

「ふん、しかし見れば見るほど貧相な服に醜悪な顔立ち……ん?」

 その女は店内をニタニタと笑いながら見渡すと、不意に視線を固定していた。
 その視線の先は……。

「……え?」

 よりにもよってライベルだった。

(おい、まさか……)

 嫌な予想が当たり、そいつは口元をニヤつかせながらこっちに近づいてくる。
 そしてライベルの席にやってきて足を止めて見下ろしてきた。

「ほう……これはこれは。こんな卑しい庶民の店にしては中々……」

「え、えっとなんでしょうか……?」

「へへ、随分と可愛い顔してるのがいるじゃないか」

「ひっ!? な、なんですかあなた?!」

 獲物を見るような顔でライベルを見る女の姿は見てるだけでイラつく。
 コセルアに視線を向ける、向こうもこっちを見ていた。

 そうして、こいつらをどう店の外に連れ出すかとコンタクトを取っていた時だ。

「ん? おや、こっちの男も可愛い顔をしてるじゃないか。それでいて目つきの鋭さが妖艶さすら感じる。だが……」

 女は俺の顔を覗き込むなり好き勝手言うだけ言うと、首元のペンダントを見て来た。

「こんな安物のペンダントでは全く美が引き立たないな。ふん!」

 俺が止める間もなく、ペンダントを掴むと引き切りながら無理矢理奪い取っていきやがった……っ。

「全くなんて出来の悪いものを身に着けているのか? プレゼントだとしたらセンスを疑うな、ははははは!」

 ライベルがうつむいてビクっと体を震わせていた。

 それを見た俺は、左手に着けていた手袋を脱ぎ――そのカス女の顔面目掛けて叩きつけた。

「っ!? 何!!?」

「表出なァ、クソッタレが……!」
しおりを挟む
script?guid=on
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

処理中です...