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第12話 楽しみのその日
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ここしばらくは記憶の無い俺の代わりに、ライベルが教師役としてあれこれと教えてくれた。
ちゃんとした家庭教師をつける話もあったが、子供でも知ってる最低限の知識すらない俺には荷が重いと判断されての事、らしい。
実際そうだ。俺には地球の常識しか知らんし、教師をつけられても授業なんか分からない。
高校じゃバイトで出席もあまり出来てなかったしな。あの時点で同年代よりも馬鹿の自覚はあった。今は精神的にもキツイ。
その点ライベルと話すだけの時間はいい気晴らしにもなる。
幼稚園児レベルの疑問を口に出したって何とも思われないしな。
「そういや、男よか女の方がみんなデカいんだな。この屋敷とあの村しか知らねえが」
「? …………あ、確かにそうです。なんというか当たり前過ぎて、疑問に思った事もありませんでしたが。女性の方が平均身長が高いんですよ。男性としてはお坊ちゃまくらいがちょうど平均的だそうです」
「ふぅん。じゃあお前は男から見てもチビなんだな」
「そ、そんなハッキリ言わなくても……。でも、ぼくより小さい子だってそんなに珍しくは」
こんな風にライベルは俺の質問を怪しむ事も無く応えてくれる。常識の引き出し先としてこれ程利用しやすい奴もいねえな。
今の俺になって気づいた事のいくつかの内の一つが男と女の身長差だ。
例外なんて料理長のシーレルくらいなもんで、この屋敷の男は背が低い。こうなると地球と逆になってると考えるべきか。
今の俺が精々一六〇半ばなのに対して、コセルアなんかは一八〇を確実に超えている。前の俺と同じくらいか?
身長に差がある上に力も女の方がある。騎士にしてもそうだが、この屋敷で働いてる女は力仕事をしてる場合が多い。
で、男は何をしてるかと言えば……。
「お前って最初から俺の侍従だったのか?」
「いえ、ぼくは元々メイドとしてこの屋敷に連れてこられたんです。ただ坊ちゃまとお歳が近い事もあり、割とすぐに身の回りのお世話兼遊び相手として侍従を任されたんです」
「へぇ。メイド、ねぇ……」
「そうですよ。いや侍従に選ばれた時は苦労しました。他の貴族様の前に坊ちゃまと出ても恥をかかせないように貴族式のマナーを教えられて。侍従長ってとっても厳しいんですよ? あの頃は一日が終わるとほっとしてました」
「その上わがままなお坊ちゃまに色んな意味で遊ばれてたって事か」
「ええそうです! そうなんですよ! ただでさえ仕事を覚えるのも大変なのに毎日意地悪されて、元同僚の子達に愚痴を聞いてもらわないと身が持たないというか。何でお坊ちゃまってこんなにわがままなんだろうって……あ、今は違いますからね!? そんな事思ってないですから!」
「遅ぇよ馬鹿。……お前がドジなのはきっとこの先も変わんないだろうから諦めろ」
「ひどぃ……」
基本的に使用人として働いているらしい。それ以外には厨房だとか。
メイドの恰好はズボンとスカートの選択式らしいが、こいつはどっちだったんだろう?
そんなやり取りを二ヶ月程繰り返して、こっちの知識を子供程度には手に入れた。と思う。
シャワーと朝飯を済ませ、実のところ今日の俺は気分が良かった。
相変わらずの頭痛に悩まされているが、それでもあのクソ不味い薬を飲んでなお機嫌がいいのには訳がある。
『お前だからさ、薬は液体じゃなくて錠剤で持って来いって言ってんだろ』
『ご、ごめんなさい! ほら、以前のお坊ちゃまは錠剤を嫌ってらしたのでつい』
『もう二ヶ月目だろうがお前』
……そんなやり取りがありはしたが機嫌がいいのには訳がある。
「さ、行きましょう坊ちゃま! ぼくこの日を楽しみにしてたんですよ?」
(なんで侍従のお前の方が身支度長いんだよ?)
外行きの恰好に着替えて部屋に入ってきたライベルを伴い、俺は玄関へと向かう。
俺達が今日を楽しみにしていた理由――町への外出許可が下りたからだ。
ちゃんとした家庭教師をつける話もあったが、子供でも知ってる最低限の知識すらない俺には荷が重いと判断されての事、らしい。
実際そうだ。俺には地球の常識しか知らんし、教師をつけられても授業なんか分からない。
高校じゃバイトで出席もあまり出来てなかったしな。あの時点で同年代よりも馬鹿の自覚はあった。今は精神的にもキツイ。
その点ライベルと話すだけの時間はいい気晴らしにもなる。
幼稚園児レベルの疑問を口に出したって何とも思われないしな。
「そういや、男よか女の方がみんなデカいんだな。この屋敷とあの村しか知らねえが」
「? …………あ、確かにそうです。なんというか当たり前過ぎて、疑問に思った事もありませんでしたが。女性の方が平均身長が高いんですよ。男性としてはお坊ちゃまくらいがちょうど平均的だそうです」
「ふぅん。じゃあお前は男から見てもチビなんだな」
「そ、そんなハッキリ言わなくても……。でも、ぼくより小さい子だってそんなに珍しくは」
こんな風にライベルは俺の質問を怪しむ事も無く応えてくれる。常識の引き出し先としてこれ程利用しやすい奴もいねえな。
今の俺になって気づいた事のいくつかの内の一つが男と女の身長差だ。
例外なんて料理長のシーレルくらいなもんで、この屋敷の男は背が低い。こうなると地球と逆になってると考えるべきか。
今の俺が精々一六〇半ばなのに対して、コセルアなんかは一八〇を確実に超えている。前の俺と同じくらいか?
身長に差がある上に力も女の方がある。騎士にしてもそうだが、この屋敷で働いてる女は力仕事をしてる場合が多い。
で、男は何をしてるかと言えば……。
「お前って最初から俺の侍従だったのか?」
「いえ、ぼくは元々メイドとしてこの屋敷に連れてこられたんです。ただ坊ちゃまとお歳が近い事もあり、割とすぐに身の回りのお世話兼遊び相手として侍従を任されたんです」
「へぇ。メイド、ねぇ……」
「そうですよ。いや侍従に選ばれた時は苦労しました。他の貴族様の前に坊ちゃまと出ても恥をかかせないように貴族式のマナーを教えられて。侍従長ってとっても厳しいんですよ? あの頃は一日が終わるとほっとしてました」
「その上わがままなお坊ちゃまに色んな意味で遊ばれてたって事か」
「ええそうです! そうなんですよ! ただでさえ仕事を覚えるのも大変なのに毎日意地悪されて、元同僚の子達に愚痴を聞いてもらわないと身が持たないというか。何でお坊ちゃまってこんなにわがままなんだろうって……あ、今は違いますからね!? そんな事思ってないですから!」
「遅ぇよ馬鹿。……お前がドジなのはきっとこの先も変わんないだろうから諦めろ」
「ひどぃ……」
基本的に使用人として働いているらしい。それ以外には厨房だとか。
メイドの恰好はズボンとスカートの選択式らしいが、こいつはどっちだったんだろう?
そんなやり取りを二ヶ月程繰り返して、こっちの知識を子供程度には手に入れた。と思う。
シャワーと朝飯を済ませ、実のところ今日の俺は気分が良かった。
相変わらずの頭痛に悩まされているが、それでもあのクソ不味い薬を飲んでなお機嫌がいいのには訳がある。
『お前だからさ、薬は液体じゃなくて錠剤で持って来いって言ってんだろ』
『ご、ごめんなさい! ほら、以前のお坊ちゃまは錠剤を嫌ってらしたのでつい』
『もう二ヶ月目だろうがお前』
……そんなやり取りがありはしたが機嫌がいいのには訳がある。
「さ、行きましょう坊ちゃま! ぼくこの日を楽しみにしてたんですよ?」
(なんで侍従のお前の方が身支度長いんだよ?)
外行きの恰好に着替えて部屋に入ってきたライベルを伴い、俺は玄関へと向かう。
俺達が今日を楽しみにしていた理由――町への外出許可が下りたからだ。
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