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第10話 新たなはじまり
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「ですから、その……坊ちゃま。ぼくとの関係は第一歩じゃなかったんですか?」
「はぁ何言ってんだお前? んな事よりとっとと行くぞ。何時までもここに居たら邪魔だろうが」
「ああそんな!? ……ひどぃ」
「何が酷いだ。あと疲れてるからって歯磨くの忘れんなよ? それから風呂はともかく体くらい拭いて寝ろ。服もちゃんと明日洗濯に出せよ」
「ぼ、ぼくそんな子供じゃありませんよ!?」
「ふふっ」
シーレルの微笑みに見送られながら、ライベルの腕を引っ張ってキッチンをあとにした。
◇◇◇
翌朝。
まだ早い時間なのか、部屋の中が薄暗い。今日は気持ち良く朝を迎えられそうだ。
……そう思ったのもつかの間、また頭痛に襲われた。
「……っ、どうにもな。だが昨日よかマシだ。どこでか知らないが、頭を打った影響か? それとも記憶がぶっ飛んじまった後遺症か」
考えても仕方ない。
あっちでの習慣が残っているのか、俺は今日も早く起きた。健康な肉体作りに励んでいた名残だろう。
どれだけバイトに追われようと睡眠時間だけは確保していた。強い体があれば好きな女の手助けが出来るから……。
「今の俺には……。いや、それでも丈夫な体作りは大事だ。ちょっとランニングでもすっか」
昨日の内にクローゼットから見繕っていた比較的動きやすそうなズボンを履いて、上はロクなのが無かったからワイシャツだ。
服にしてもそうだが、この部屋の悪趣味な置物やらは売っぱらうか。”俺”が集めた事には変わらないんだから、”俺”が処分するのも問題ないよな。貴族の部屋にあるもんなんだからそこそこの値が付くだろう。
そんな事を考えながら俺は部屋を出る。ついでに水道の場所でも確認するか、タオルは部屋に無かったからやたら肌障りのいいハンカチを持ってきたが、やっぱタオルが欲しい。
◇◇◇
デカい屋敷の外は広い。周りを囲った塀まで結構な距離がある。俺も昨日よくこの距離をバレずに……。
こっから門まで歩くだけでも、今の体なら運動になるだろう。外に出たらどこまで体力があるか確かめないとな。
「よし、いっちょやるか」
「何を為されるのですか、坊ちゃま」
いざ歩き出した時に不意に声を掛けられた。後ろに誰か居たようだ。
玄関の扉に顔を向けると、数少ない見知った顔があった。昨日みたいな制服を着ていないラフな格好のその女。
「アンタ、確か……コセルアって名前だったな?」
「はい、改めて覚えて下さって光栄です坊ちゃま。しかし、このような早朝に如何なされたのですか?」
「ああそうだな……きっと、アンタと似たような理由だと思うぜ?」
コセルアの恰好はこれから一汗掻きますと言わんばかりに軽装だった。
いいなこういう服、俺も正直欲しい。こんな妥協した服装じゃなくて。
「まさか坊ちゃまが朝の運動に興味を持たれる日が来るとは思いませんでした。ですが昨日の今日ですので、監督役を務めさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「別に無理する訳じゃないんだがな。ちょっと外をブラっと走って来るだけだ」
「それはいけません。坊ちゃまは誘拐の経験をされたばかりですので、代わりと言ってはなんですが、我々騎士団が利用している演習場へ案内致します」
「……じゃ、お言葉に甘えて」
前を歩くコセルアの黒い髪、その揺れるポニーテールにどこか新鮮さを感じながら後を追う。
それから、このいまいち接し方の分からない騎士様やチビのライベルらと出会い、そして俺が改めて人生を始めてから――二ヶ月程の月日が経った。
「はぁ何言ってんだお前? んな事よりとっとと行くぞ。何時までもここに居たら邪魔だろうが」
「ああそんな!? ……ひどぃ」
「何が酷いだ。あと疲れてるからって歯磨くの忘れんなよ? それから風呂はともかく体くらい拭いて寝ろ。服もちゃんと明日洗濯に出せよ」
「ぼ、ぼくそんな子供じゃありませんよ!?」
「ふふっ」
シーレルの微笑みに見送られながら、ライベルの腕を引っ張ってキッチンをあとにした。
◇◇◇
翌朝。
まだ早い時間なのか、部屋の中が薄暗い。今日は気持ち良く朝を迎えられそうだ。
……そう思ったのもつかの間、また頭痛に襲われた。
「……っ、どうにもな。だが昨日よかマシだ。どこでか知らないが、頭を打った影響か? それとも記憶がぶっ飛んじまった後遺症か」
考えても仕方ない。
あっちでの習慣が残っているのか、俺は今日も早く起きた。健康な肉体作りに励んでいた名残だろう。
どれだけバイトに追われようと睡眠時間だけは確保していた。強い体があれば好きな女の手助けが出来るから……。
「今の俺には……。いや、それでも丈夫な体作りは大事だ。ちょっとランニングでもすっか」
昨日の内にクローゼットから見繕っていた比較的動きやすそうなズボンを履いて、上はロクなのが無かったからワイシャツだ。
服にしてもそうだが、この部屋の悪趣味な置物やらは売っぱらうか。”俺”が集めた事には変わらないんだから、”俺”が処分するのも問題ないよな。貴族の部屋にあるもんなんだからそこそこの値が付くだろう。
そんな事を考えながら俺は部屋を出る。ついでに水道の場所でも確認するか、タオルは部屋に無かったからやたら肌障りのいいハンカチを持ってきたが、やっぱタオルが欲しい。
◇◇◇
デカい屋敷の外は広い。周りを囲った塀まで結構な距離がある。俺も昨日よくこの距離をバレずに……。
こっから門まで歩くだけでも、今の体なら運動になるだろう。外に出たらどこまで体力があるか確かめないとな。
「よし、いっちょやるか」
「何を為されるのですか、坊ちゃま」
いざ歩き出した時に不意に声を掛けられた。後ろに誰か居たようだ。
玄関の扉に顔を向けると、数少ない見知った顔があった。昨日みたいな制服を着ていないラフな格好のその女。
「アンタ、確か……コセルアって名前だったな?」
「はい、改めて覚えて下さって光栄です坊ちゃま。しかし、このような早朝に如何なされたのですか?」
「ああそうだな……きっと、アンタと似たような理由だと思うぜ?」
コセルアの恰好はこれから一汗掻きますと言わんばかりに軽装だった。
いいなこういう服、俺も正直欲しい。こんな妥協した服装じゃなくて。
「まさか坊ちゃまが朝の運動に興味を持たれる日が来るとは思いませんでした。ですが昨日の今日ですので、監督役を務めさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「別に無理する訳じゃないんだがな。ちょっと外をブラっと走って来るだけだ」
「それはいけません。坊ちゃまは誘拐の経験をされたばかりですので、代わりと言ってはなんですが、我々騎士団が利用している演習場へ案内致します」
「……じゃ、お言葉に甘えて」
前を歩くコセルアの黒い髪、その揺れるポニーテールにどこか新鮮さを感じながら後を追う。
それから、このいまいち接し方の分からない騎士様やチビのライベルらと出会い、そして俺が改めて人生を始めてから――二ヶ月程の月日が経った。
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