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第9話 改めた男
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「あむっ……! ぐぐぐ……。ふぃ」
「そ、そんなに急いで食べると喉につまらせちゃいますよ! ……あむ」
「気にすんな、こっちは食欲が沸いてそれどころじゃねんだ。それに……本当なら飯の時間は終わってるってのに作ってくれたおっさんの為にも、何時までもお邪魔する訳にもいかねえ」
「おっ……。んん! いえ、お気になさらず。むしろお坊ちゃまの食欲が戻った事、嬉しく思います。しかし、何もこのような所で直接召し上がらなくても」
屋敷に戻った俺は気力が戻ってきたせいか、食欲まで復活してしまった。
だがもう飯の時間はとうに過ぎてる。
屋敷のキッチンに行って余った食材から適当に作ろうと考えていた時、そのキッチンで後片付けをしている一人のおっさんがいた。
いや、まあおっさんと言うには顔が綺麗すぎるぐらいだな。髭も生えてないし、顔もいかつくないが。全体的に線も細いし、優男のイケメンだ。そして俺より背が高い。
当然ここに来た時は驚かれた。部屋で休んでいるはずの人間、それも仕えてる一族のバカ息子がこんな時間にやって来たってんならな。
それに今の俺の姿は無理矢理外に出せいでボロボロになってるし、もっと言えばライベルもゴロツキに襲われたせいで服が汚れている。
その上見つからないにまたあの穴から戻って来たから二人共酷いもんだ。
確かに、これじゃあ失礼だと思って上着は脱いで上はシャツだけになってる。そしてライベルも。
「まさか私室以外でこのような格好になるなんて。侍従長に見つかったら大目玉ですよぉ」
「バレねえように部屋まで送ってやるから心配すんな。……ふぅ、食った食った。おかげで今日はぐっすり寝られそうだ。サンキュー」
急にやって来た俺達二人分の軽食を用意してくれた事には感謝しかない。
「いえ、この家に仕えるものとして当然の事をしたまでの事。それに……」
「ん?」
「あ、いえ。私の料理を召し上がられてこのようにお礼を言われる日が来るなどと、失礼を承知で申し上げれば思ってもいませんでした。記憶を失くされる前のお坊ちゃまは何かにつけて、その……」
「つまんねえ文句を付けて困らせてたって訳だ。全く覚えてねぇが、今まで悪かったな」
やっぱり記憶を取り戻す前の俺は悪ガキだったようだな。
きっとこの家の人間からは影で嫌われている事だろう。
「その言葉をお聞き出来ただけでも、今日まで料理長を任されてきた甲斐があるというものです。お坊ちゃまこそ、そのように他人に気を配れるお方に成長され……このような事を今のお坊ちゃまに言うの流石に失礼でしたね。申し訳ありません」
「それこそ気にする事無ぇだろ。アンタから見て、今の俺と前の俺、どっちがいい?」
「それは……なんとも意地悪な質問をなさいますね。ですがそうですね、多少……粗野な言動や振る舞いは貴族の令息としては、と思うところはございますが……しかし、きっと今のお坊ちゃまの方が皆から好かれるのではないかと。君はどうだい、ライベル?」
「あ、はい。そうですね。……ぼくも正直前のお坊ちゃまの事は苦手でした。歳が近い事もあってか意地悪ばかりされてきたので。今も思い出すと……ぅ」
途端に顔色を悪くするライベル。こりゃあ相当やられてやがったな。
だがこの顔、嫌がらせなんかするつもりはないが、悪戯心が出てきそうな気もする。
その手の連中にはよくも悪くも好かれるタイプだろう。
「んな事思い出さくて結構だ。だけどよ、俺の記憶は一生戻らないかもしれねえが、それでもこんな俺を好きでいてくれる奴がここに二人もいれば、一人の人間としては上等だろ」
「……変わられましたなお坊ちゃま。ええ、非常に良い意味で」
「何も泣く事ねぇだろ。ああそうだ。改めて名前、教えてくれよ? 新しい人間関係の第一歩だ」
「え? あの、坊ちゃまぼくは……?」
「はい、では改めまして――私はシーレル・グレスレル。この御屋敷で台所を任されているコックです。お食事やティータイムの時間以外にもお腹が空きましたら、是非お尋ね下さい。満足のいくものを提供させて頂きます」
「よろしく頼む。つまらねえ青二才の舌と腹でよかったら、いつでも実験台になるぜ」
お互いに満足した顔で握手する俺達。握ったシーレルの手は温かかった。これが心の温かみなら俺はまだ人間ってもんを信じられそうだ。
「そ、そんなに急いで食べると喉につまらせちゃいますよ! ……あむ」
「気にすんな、こっちは食欲が沸いてそれどころじゃねんだ。それに……本当なら飯の時間は終わってるってのに作ってくれたおっさんの為にも、何時までもお邪魔する訳にもいかねえ」
「おっ……。んん! いえ、お気になさらず。むしろお坊ちゃまの食欲が戻った事、嬉しく思います。しかし、何もこのような所で直接召し上がらなくても」
屋敷に戻った俺は気力が戻ってきたせいか、食欲まで復活してしまった。
だがもう飯の時間はとうに過ぎてる。
屋敷のキッチンに行って余った食材から適当に作ろうと考えていた時、そのキッチンで後片付けをしている一人のおっさんがいた。
いや、まあおっさんと言うには顔が綺麗すぎるぐらいだな。髭も生えてないし、顔もいかつくないが。全体的に線も細いし、優男のイケメンだ。そして俺より背が高い。
当然ここに来た時は驚かれた。部屋で休んでいるはずの人間、それも仕えてる一族のバカ息子がこんな時間にやって来たってんならな。
それに今の俺の姿は無理矢理外に出せいでボロボロになってるし、もっと言えばライベルもゴロツキに襲われたせいで服が汚れている。
その上見つからないにまたあの穴から戻って来たから二人共酷いもんだ。
確かに、これじゃあ失礼だと思って上着は脱いで上はシャツだけになってる。そしてライベルも。
「まさか私室以外でこのような格好になるなんて。侍従長に見つかったら大目玉ですよぉ」
「バレねえように部屋まで送ってやるから心配すんな。……ふぅ、食った食った。おかげで今日はぐっすり寝られそうだ。サンキュー」
急にやって来た俺達二人分の軽食を用意してくれた事には感謝しかない。
「いえ、この家に仕えるものとして当然の事をしたまでの事。それに……」
「ん?」
「あ、いえ。私の料理を召し上がられてこのようにお礼を言われる日が来るなどと、失礼を承知で申し上げれば思ってもいませんでした。記憶を失くされる前のお坊ちゃまは何かにつけて、その……」
「つまんねえ文句を付けて困らせてたって訳だ。全く覚えてねぇが、今まで悪かったな」
やっぱり記憶を取り戻す前の俺は悪ガキだったようだな。
きっとこの家の人間からは影で嫌われている事だろう。
「その言葉をお聞き出来ただけでも、今日まで料理長を任されてきた甲斐があるというものです。お坊ちゃまこそ、そのように他人に気を配れるお方に成長され……このような事を今のお坊ちゃまに言うの流石に失礼でしたね。申し訳ありません」
「それこそ気にする事無ぇだろ。アンタから見て、今の俺と前の俺、どっちがいい?」
「それは……なんとも意地悪な質問をなさいますね。ですがそうですね、多少……粗野な言動や振る舞いは貴族の令息としては、と思うところはございますが……しかし、きっと今のお坊ちゃまの方が皆から好かれるのではないかと。君はどうだい、ライベル?」
「あ、はい。そうですね。……ぼくも正直前のお坊ちゃまの事は苦手でした。歳が近い事もあってか意地悪ばかりされてきたので。今も思い出すと……ぅ」
途端に顔色を悪くするライベル。こりゃあ相当やられてやがったな。
だがこの顔、嫌がらせなんかするつもりはないが、悪戯心が出てきそうな気もする。
その手の連中にはよくも悪くも好かれるタイプだろう。
「んな事思い出さくて結構だ。だけどよ、俺の記憶は一生戻らないかもしれねえが、それでもこんな俺を好きでいてくれる奴がここに二人もいれば、一人の人間としては上等だろ」
「……変わられましたなお坊ちゃま。ええ、非常に良い意味で」
「何も泣く事ねぇだろ。ああそうだ。改めて名前、教えてくれよ? 新しい人間関係の第一歩だ」
「え? あの、坊ちゃまぼくは……?」
「はい、では改めまして――私はシーレル・グレスレル。この御屋敷で台所を任されているコックです。お食事やティータイムの時間以外にもお腹が空きましたら、是非お尋ね下さい。満足のいくものを提供させて頂きます」
「よろしく頼む。つまらねえ青二才の舌と腹でよかったら、いつでも実験台になるぜ」
お互いに満足した顔で握手する俺達。握ったシーレルの手は温かかった。これが心の温かみなら俺はまだ人間ってもんを信じられそうだ。
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