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第7話 打ちのめされた男
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「――ああ、ライベル君。何故部屋の外に? 坊ちゃまは今どうして……」
「その、今は誰にも会いたくないそうで。御食事も召し上がらないと言ってます。ぼくはあんなに落ち込んだ坊ちゃまを見るのも初めて……。どうしたらいいんでしょうかコセルア卿」
「そうか……。いや、無理も無い事だろう。ここに戻ってくるまで気丈に振る舞われていたとはいえ、坊ちゃまは記憶が混濁しておられる。今のあの方は自分が見知らぬ土地に放り込まれたように感じていらっしゃるはずだ。今はそっとしておこう」
「わかりました。侯爵様にもそのようにお伝いした方がよろしいかもしれません」
「ああ……。先ほどお会いしたが、やはり心配なさっているはず。それをお顔に出す方では無いけれど、今の坊ちゃまに無理を強いる事も無いだろう」
◇◇◇
「は……はは……。冗談キツいぜおい」
鏡を見た時、そこに立っていたのは知らない顔だった。何のホラーだこりゃあ。
背も俺より二十センチは低いし、顔立ちも若く見える。目つきだけは鋭いが……共通点なんてそんなもんだ。
死んだ。そう死んだはずだ。
だが目覚めて見れば全くの別人。死後の世界とやらはどこに行った?
「……俺はとっくの昔に生まれ変わっていたってのか? それを今まで知らずに」
俺の中で沸々と湧いて出て来るものがある。死人になって諦めたもの――未練だ。
思わず手を握りしめる。爪が食い込んで赤くなった。血の通っている証拠だ。
「なんて事してくれたんだよ、ええ? 生き返えすんだったら同じ場所にしてくれよ。それが駄目ってんなら――何で記憶を完全に消してくれなかった……!」
あいつとの思い出が簡単に浮かぶ。何一つ忘れる事もなく。笑顔も声も仕草も好きな歌や食い物だってなんでも思い出せる。
唯一人愛した女――この俺を殺した女。
生きてるのは同じなのに、決して出会う事の出来ない女。
文句の一つもぶつける事も出来ない。今までの俺達の関係を本当はどう思っていたとか聞くことも出来ない。
あいつの為に生きた人生はどこにも無い。なら全て忘れて生きていたかった。
俺が何したってんだ? 今の人生の記憶は全部無くして、要らねえ記憶だけ何もかも思い出せるなんてよ……。
「神様とやら、アンタ残酷だぜ。これじゃあ……これじゃあ唯の――」
――生き地獄じゃねぇか……!!
頭がズキズキと痛み始める。今の俺がこんな風になった時も頭が痛かったな。
(へ、何がサプライズだ。とんだお笑いモンだぜ。……今更俺に何をして生きて行けってんだ?)
無駄にフカフカなベッドに背中を預ける。
体中の力が抜けて行く感覚だ。もう何もしたくない。
………………
…………
……。
気づいたら陽も落ちていた。
部屋の灯りもつけてないから、窓からの光だけだ。
「……横になるってのも疲れるんだな」
ベッドの寝心地はいいが何時間も同じ態勢でいたせいか、体が疲れてる。
眠れもしなかったせいで寝返りも打ててない。そりゃ、体も疲れる。
だが、頭の痛みはマシにはなった。
「どっか行くか……」
立ち上がってクローゼットを覗きこむも、そこにあったのは悪趣味で派手で動きにくそうなもんばかりだった。
それでも何とか探し当てたものは、それでも趣味じゃないが比較的地味な配色でまだ動きやすそうなものだ。
着替えて見ると、何年も放置されていたのか多少キツかった。それにいかにもなタンスの臭いがするのも……どうでもいいか。
悪趣味な部屋の扉から顔を出す。今は誰も近くに居なさそうだ。
それでも人に会わないように気を付けながら、俺は屋敷から出る道を探して歩き回った。
「あれ坊ちゃま? 部屋から出て来たんだ。でもどこに行くんだろう?」
「その、今は誰にも会いたくないそうで。御食事も召し上がらないと言ってます。ぼくはあんなに落ち込んだ坊ちゃまを見るのも初めて……。どうしたらいいんでしょうかコセルア卿」
「そうか……。いや、無理も無い事だろう。ここに戻ってくるまで気丈に振る舞われていたとはいえ、坊ちゃまは記憶が混濁しておられる。今のあの方は自分が見知らぬ土地に放り込まれたように感じていらっしゃるはずだ。今はそっとしておこう」
「わかりました。侯爵様にもそのようにお伝いした方がよろしいかもしれません」
「ああ……。先ほどお会いしたが、やはり心配なさっているはず。それをお顔に出す方では無いけれど、今の坊ちゃまに無理を強いる事も無いだろう」
◇◇◇
「は……はは……。冗談キツいぜおい」
鏡を見た時、そこに立っていたのは知らない顔だった。何のホラーだこりゃあ。
背も俺より二十センチは低いし、顔立ちも若く見える。目つきだけは鋭いが……共通点なんてそんなもんだ。
死んだ。そう死んだはずだ。
だが目覚めて見れば全くの別人。死後の世界とやらはどこに行った?
「……俺はとっくの昔に生まれ変わっていたってのか? それを今まで知らずに」
俺の中で沸々と湧いて出て来るものがある。死人になって諦めたもの――未練だ。
思わず手を握りしめる。爪が食い込んで赤くなった。血の通っている証拠だ。
「なんて事してくれたんだよ、ええ? 生き返えすんだったら同じ場所にしてくれよ。それが駄目ってんなら――何で記憶を完全に消してくれなかった……!」
あいつとの思い出が簡単に浮かぶ。何一つ忘れる事もなく。笑顔も声も仕草も好きな歌や食い物だってなんでも思い出せる。
唯一人愛した女――この俺を殺した女。
生きてるのは同じなのに、決して出会う事の出来ない女。
文句の一つもぶつける事も出来ない。今までの俺達の関係を本当はどう思っていたとか聞くことも出来ない。
あいつの為に生きた人生はどこにも無い。なら全て忘れて生きていたかった。
俺が何したってんだ? 今の人生の記憶は全部無くして、要らねえ記憶だけ何もかも思い出せるなんてよ……。
「神様とやら、アンタ残酷だぜ。これじゃあ……これじゃあ唯の――」
――生き地獄じゃねぇか……!!
頭がズキズキと痛み始める。今の俺がこんな風になった時も頭が痛かったな。
(へ、何がサプライズだ。とんだお笑いモンだぜ。……今更俺に何をして生きて行けってんだ?)
無駄にフカフカなベッドに背中を預ける。
体中の力が抜けて行く感覚だ。もう何もしたくない。
………………
…………
……。
気づいたら陽も落ちていた。
部屋の灯りもつけてないから、窓からの光だけだ。
「……横になるってのも疲れるんだな」
ベッドの寝心地はいいが何時間も同じ態勢でいたせいか、体が疲れてる。
眠れもしなかったせいで寝返りも打ててない。そりゃ、体も疲れる。
だが、頭の痛みはマシにはなった。
「どっか行くか……」
立ち上がってクローゼットを覗きこむも、そこにあったのは悪趣味で派手で動きにくそうなもんばかりだった。
それでも何とか探し当てたものは、それでも趣味じゃないが比較的地味な配色でまだ動きやすそうなものだ。
着替えて見ると、何年も放置されていたのか多少キツかった。それにいかにもなタンスの臭いがするのも……どうでもいいか。
悪趣味な部屋の扉から顔を出す。今は誰も近くに居なさそうだ。
それでも人に会わないように気を付けながら、俺は屋敷から出る道を探して歩き回った。
「あれ坊ちゃま? 部屋から出て来たんだ。でもどこに行くんだろう?」
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