4 / 64
第4話 そして出会い
しおりを挟む
ごちゃごちゃした小汚い部屋から小汚い二人を置き去りにして、俺は外へと扉を潜った。
薄暗い廊下といくつかの部屋。
外に出るのが目的なのでそのまま進んで行き、おそらく玄関だと思われる場所を見つける。
「さて、あの世の国ってのはどうなってるんだろうな? こうなると、ちと楽しみになって来たか」
ロクでも無い幕締めだったんだ、せめてあの世の始まりには期待したいもんだが……さて。
ドアノブに手を掛けようとした時、何故かガチャという音が聞こえ、開かれた。
「坊ちゃまご無事ですか!! ……はっ、坊ちゃま!? 脱出なされたのですね」
開いた先から出て来たのは――何故か俺を見て坊ちゃまだとかほざく、これまた俺よりも背の高い女だった。
その女が心配そうな顔をして俺の体をベタベタと触って来る。
一体なんだこの状況は?
「お怪我はありませんか? もし御身に傷の一つでもついたかと思うと……」
「おいちょっと待ちな」
「……何でしょうか? それにそのお言葉遣いは……」
「さっきから随分と気安いけどよ……アンタ誰だ?」
そうすると、つい今まで冷静に気を遣っていた顔が驚いて目を開いていた。
「……私の事が分からないのですか坊ちゃま?」
「分からねえな。そも、その坊ちゃまってのは何だ? 人違いじゃねぇのか? ここには他にも捕まった奴がいるかもしれねぇし、その一人なんじゃ」
「いえ、そのはずがありません。その端正なお顔に気品溢れる雰囲気を私が見間違えるはずなど。ですが確かに言葉遣いなどは……やはりどこかお体に不調を?」
「あん? ああ……確かに頭が痛い。どっかでぶつけたのか……どっかは知らねぇが」
ここに運ばれる時に雑に扱われたって所か。人の事誘拐しておいてこんな扱いとはな、誘拐犯としては三流以下だな。
「なるほど。ではそれでしょう」
「は? 何が?」
「頭を強く打ったショックで記憶を失われている。そのような言葉遣いもその影響なのでしょう。……なんという」
何故か勝手に哀れみ始めた謎の女。よく見れば腰に剣をぶら下げているし、この服装。何かの制服だろう。
……もしくは危ないコスプレ女の道楽に付き合わされているかだ。
付き合い切れねえ。
「何の用か知らないがな、俺は行くぜ。集合時間があるのかは知らないが、人を待たせるってのは嫌いなんでな」
人、と言っていいのか。この場合は死神か?
とりあえず三途の川の案内人の所に行って、あの世ってのを案内して貰わないと。
「お待ちください! 一体誰と待ち合わせをしているというのです?」
「ああ? だからあれだよ……死神的な?」
「何を仰っているのですか!? まるで死人のような事を」
「アンタこそ何言ってんだ? その死人なんだから、勝手な都合で待たせたら悪いだろうが」
「坊ちゃまはこうしてここに生きていらっしゃるではありませんか。質の悪い冗談はお止め下さい」
生きてる? 何を馬鹿な、あんな風に車で跳ねられて助かる訳ねぇだろ。
仮に助かったとしても病室でうずくまってるはずだ。
それともこれがあの世ジョークか? こっちの常識やらトレンドやらはからっきしだから分かんねぇんだよな。
どうにも引き下がりそうにねえし……ここは一旦気が済むまで付き合うか。それで後で一緒に頭下げて貰おう。
「わかったわかった。何時まで付き合えばいいか知らんが、そっちに合わせてやるよ。その代わり後でちょっと付き合って貰うぜ」
「坊ちゃまの頼みとあれば。……さあ、参りましょう。皆、心配しておられます」
はあ、茶番に付き合ってくれる仲間までいるとはな。意外にダチの多いタイプらしい。
俺はコスプレ女と一緒に建物から出る事にした。
薄暗い廊下といくつかの部屋。
外に出るのが目的なのでそのまま進んで行き、おそらく玄関だと思われる場所を見つける。
「さて、あの世の国ってのはどうなってるんだろうな? こうなると、ちと楽しみになって来たか」
ロクでも無い幕締めだったんだ、せめてあの世の始まりには期待したいもんだが……さて。
ドアノブに手を掛けようとした時、何故かガチャという音が聞こえ、開かれた。
「坊ちゃまご無事ですか!! ……はっ、坊ちゃま!? 脱出なされたのですね」
開いた先から出て来たのは――何故か俺を見て坊ちゃまだとかほざく、これまた俺よりも背の高い女だった。
その女が心配そうな顔をして俺の体をベタベタと触って来る。
一体なんだこの状況は?
「お怪我はありませんか? もし御身に傷の一つでもついたかと思うと……」
「おいちょっと待ちな」
「……何でしょうか? それにそのお言葉遣いは……」
「さっきから随分と気安いけどよ……アンタ誰だ?」
そうすると、つい今まで冷静に気を遣っていた顔が驚いて目を開いていた。
「……私の事が分からないのですか坊ちゃま?」
「分からねえな。そも、その坊ちゃまってのは何だ? 人違いじゃねぇのか? ここには他にも捕まった奴がいるかもしれねぇし、その一人なんじゃ」
「いえ、そのはずがありません。その端正なお顔に気品溢れる雰囲気を私が見間違えるはずなど。ですが確かに言葉遣いなどは……やはりどこかお体に不調を?」
「あん? ああ……確かに頭が痛い。どっかでぶつけたのか……どっかは知らねぇが」
ここに運ばれる時に雑に扱われたって所か。人の事誘拐しておいてこんな扱いとはな、誘拐犯としては三流以下だな。
「なるほど。ではそれでしょう」
「は? 何が?」
「頭を強く打ったショックで記憶を失われている。そのような言葉遣いもその影響なのでしょう。……なんという」
何故か勝手に哀れみ始めた謎の女。よく見れば腰に剣をぶら下げているし、この服装。何かの制服だろう。
……もしくは危ないコスプレ女の道楽に付き合わされているかだ。
付き合い切れねえ。
「何の用か知らないがな、俺は行くぜ。集合時間があるのかは知らないが、人を待たせるってのは嫌いなんでな」
人、と言っていいのか。この場合は死神か?
とりあえず三途の川の案内人の所に行って、あの世ってのを案内して貰わないと。
「お待ちください! 一体誰と待ち合わせをしているというのです?」
「ああ? だからあれだよ……死神的な?」
「何を仰っているのですか!? まるで死人のような事を」
「アンタこそ何言ってんだ? その死人なんだから、勝手な都合で待たせたら悪いだろうが」
「坊ちゃまはこうしてここに生きていらっしゃるではありませんか。質の悪い冗談はお止め下さい」
生きてる? 何を馬鹿な、あんな風に車で跳ねられて助かる訳ねぇだろ。
仮に助かったとしても病室でうずくまってるはずだ。
それともこれがあの世ジョークか? こっちの常識やらトレンドやらはからっきしだから分かんねぇんだよな。
どうにも引き下がりそうにねえし……ここは一旦気が済むまで付き合うか。それで後で一緒に頭下げて貰おう。
「わかったわかった。何時まで付き合えばいいか知らんが、そっちに合わせてやるよ。その代わり後でちょっと付き合って貰うぜ」
「坊ちゃまの頼みとあれば。……さあ、参りましょう。皆、心配しておられます」
はあ、茶番に付き合ってくれる仲間までいるとはな。意外にダチの多いタイプらしい。
俺はコスプレ女と一緒に建物から出る事にした。
55
お気に入りに追加
195
あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。
大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。
ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。
主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。
マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。
しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。
主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。
これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです
かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。
強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。
これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

実家から追放されたが、狐耳の嫁がいるのでどうでも良い
竹桜
ファンタジー
主人公は職業料理人が原因でアナリア侯爵家を追い出されてしまった。
追い出された後、3番目に大きい都市で働いていると主人公のことを番だという銀狐族の少女に出会った。
その少女と同棲した主人公はある日、頭を強く打ち、自身の前世を思い出した。
料理人の職を失い、軍隊に入ったら、軍団長まで登り詰めた記憶を。
それから主人公は軍団長という職業を得て、緑色の霧で体が構成された兵士達を呼び出すことが出来るようになった。
これは銀狐族の少女を守るために戦う男の物語だ。


母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる