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第2話 突き落とされた男
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それから次の面会の時、あいつに今は合わせる顔がないと拒絶された。
また目が見え始めたばっかりだから、リハビリが必要なんだろうと思って俺も素直に引き下がった。
そっからだ、何もかもがおかしくなったのは。
何度行っても合わせて貰えず、電話にもまともに出て貰えなくなった。
親御さんに会う機会があった時、ずっと暗い顔をしていた。
まさか再発したのか? そう思って聞いてみたがそうじゃないらしい。
だが理由は教えて貰えなかった。とにかく今は会えない。
なんせ親御さんから直々にそう言われた以上、しばらくは連絡もしなかった。
落ち着いたら電話がかかってくるだろうと思って、我慢した。
ある日のこと、デートの資金集めの為のバイト――といっても掛け持ちは止めたが――の帰りの事だ。
夜の街がピカピカ光る時間帯、カップル共が他人の目も気にせずイチャついている中を一人で歩いている時――俺は目を疑った。
あいつが、俺の彼女が知らない男と笑いながら歩いてやがったからだ。
当然駆け出し、問い詰める。
夜とは言え人通りがある。周りから視線を感じたがどうでもよかった。
「お、お前……俺と会えないって」
「……ここじゃ目立つし、その話は別の日でいいでしょ? ほら、彼にも迷惑だから」
「そんな事どうでもいいだろうが!! おいこりゃどういう意味だ? ……俺はお前の何だ? その男がただのダチってなら別にそれでも構わねぇ。口出しする権利はねぇからな。でもよ、俺とは会えねえつって他の野郎と会うなら一言くらいは筋通すべきだろうが」
俺達の間で困惑する男。この状況が理解出来無いようだ。
って事は、こいつは俺の事を知らない。さっきまで一緒に笑っていた女に彼氏がいた事を知らないのか。
「ハッキリ言えよ。俺に会えない理由と、それでいて他の男に会える理由ってのはなんだ? こいつがダチなら騒ぎ立てた事は謝る。だから教えろ。一体どういう理由で……」
「……だってしょうがないじゃない」
「は?」
うつむいたこいつから微かに聞こえてきた言葉の意味は分からない?
何がしょうがないってんだ。
「だってさ、しょうがないじゃん! ――全然好みじゃなかったんだもん! その顔がさ!!」
「か、顔? お前何言って――」
「やっと目が見えるようになって、期待してたの! どんな見た目してるんだろうって。こんなに私に優しいならきっと優しい顔してるって! なのに――何でそんなに目つきがキツイの?! 背だって思った以上に高くて……怖いのよあなたが!!」
何を言われてるのか、分かるのに時間が掛かった。
目つき? 背? そんな理由で俺は避けられてたってのか?
だったら俺がこいつと過ごした数年間は何だ? ずっと目が閉じたままでも俺は好きだった。やっと目が開いたこいつの瞳でさらに好きになった。
俺達は分かりあえてなんか無かったのか……。
「そういう訳だから。大体こういう事されて迷惑だって分からない? 見てよ周りからも見られちゃって。……ありがとう、余計嫌になれた。もう私達に付きまとわないで」
「お、おい……」
「やめてよもう!! ――あっ」
どうしても受け入れられなかった俺は、近づこうとした。
だがそれを強く後ろに押されるという形で拒否された。
あまり力の強くないこいつの力なんて、両手で押されても怯みもしないが、とてつもないショックのせいか簡単に後ろに倒れ始めた。
その時だ。
歩道から解き飛ばされたのと同時に、ヘッドライトの光が俺の顔を覆い始めたのは……。
キキィィインッ!!
それがブレーキを利かせたタイヤの音だと理解したのは体が宙から落ちた後だった。
頭から血が流れていく感覚が段々と無くなって行って、最後に分かったのは野次馬の騒ぎ声とスマホのシャッター音。
好きな女が抱きしめてくれたりなんて――そんな最後は迎えられ無かったようだ。
………………
…………
……。
また目が見え始めたばっかりだから、リハビリが必要なんだろうと思って俺も素直に引き下がった。
そっからだ、何もかもがおかしくなったのは。
何度行っても合わせて貰えず、電話にもまともに出て貰えなくなった。
親御さんに会う機会があった時、ずっと暗い顔をしていた。
まさか再発したのか? そう思って聞いてみたがそうじゃないらしい。
だが理由は教えて貰えなかった。とにかく今は会えない。
なんせ親御さんから直々にそう言われた以上、しばらくは連絡もしなかった。
落ち着いたら電話がかかってくるだろうと思って、我慢した。
ある日のこと、デートの資金集めの為のバイト――といっても掛け持ちは止めたが――の帰りの事だ。
夜の街がピカピカ光る時間帯、カップル共が他人の目も気にせずイチャついている中を一人で歩いている時――俺は目を疑った。
あいつが、俺の彼女が知らない男と笑いながら歩いてやがったからだ。
当然駆け出し、問い詰める。
夜とは言え人通りがある。周りから視線を感じたがどうでもよかった。
「お、お前……俺と会えないって」
「……ここじゃ目立つし、その話は別の日でいいでしょ? ほら、彼にも迷惑だから」
「そんな事どうでもいいだろうが!! おいこりゃどういう意味だ? ……俺はお前の何だ? その男がただのダチってなら別にそれでも構わねぇ。口出しする権利はねぇからな。でもよ、俺とは会えねえつって他の野郎と会うなら一言くらいは筋通すべきだろうが」
俺達の間で困惑する男。この状況が理解出来無いようだ。
って事は、こいつは俺の事を知らない。さっきまで一緒に笑っていた女に彼氏がいた事を知らないのか。
「ハッキリ言えよ。俺に会えない理由と、それでいて他の男に会える理由ってのはなんだ? こいつがダチなら騒ぎ立てた事は謝る。だから教えろ。一体どういう理由で……」
「……だってしょうがないじゃない」
「は?」
うつむいたこいつから微かに聞こえてきた言葉の意味は分からない?
何がしょうがないってんだ。
「だってさ、しょうがないじゃん! ――全然好みじゃなかったんだもん! その顔がさ!!」
「か、顔? お前何言って――」
「やっと目が見えるようになって、期待してたの! どんな見た目してるんだろうって。こんなに私に優しいならきっと優しい顔してるって! なのに――何でそんなに目つきがキツイの?! 背だって思った以上に高くて……怖いのよあなたが!!」
何を言われてるのか、分かるのに時間が掛かった。
目つき? 背? そんな理由で俺は避けられてたってのか?
だったら俺がこいつと過ごした数年間は何だ? ずっと目が閉じたままでも俺は好きだった。やっと目が開いたこいつの瞳でさらに好きになった。
俺達は分かりあえてなんか無かったのか……。
「そういう訳だから。大体こういう事されて迷惑だって分からない? 見てよ周りからも見られちゃって。……ありがとう、余計嫌になれた。もう私達に付きまとわないで」
「お、おい……」
「やめてよもう!! ――あっ」
どうしても受け入れられなかった俺は、近づこうとした。
だがそれを強く後ろに押されるという形で拒否された。
あまり力の強くないこいつの力なんて、両手で押されても怯みもしないが、とてつもないショックのせいか簡単に後ろに倒れ始めた。
その時だ。
歩道から解き飛ばされたのと同時に、ヘッドライトの光が俺の顔を覆い始めたのは……。
キキィィインッ!!
それがブレーキを利かせたタイヤの音だと理解したのは体が宙から落ちた後だった。
頭から血が流れていく感覚が段々と無くなって行って、最後に分かったのは野次馬の騒ぎ声とスマホのシャッター音。
好きな女が抱きしめてくれたりなんて――そんな最後は迎えられ無かったようだ。
………………
…………
……。
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