9 / 11
第9話
しおりを挟む
内心スカッとしていた私に、お嬢様が小声で話しかけてきた。
「ロモラッドさんはこの方とお知り合いですの?」
「ああ、元婚約者ですよ。昨日の朝、破棄されちゃいましてねぇ。ま、こっちとしてはこんなアホと縁が切れて万々歳だったんですが。……まさかお嬢様に粉を掛けていたとはねぇ」
ここ数ヶ月、いつにも増してこの男の態度が調子に乗っていたのも、お嬢様に粉を掛けていたからか。勝手にお嬢様が自分に惚れ込んでいると勘違いして私と正式に婚約を破棄したって訳ね。
公爵家と言えば王室とも強い繋がりがある家柄な訳で、いくら伯爵令息といって相手にされる訳が無いでしょうに。この男の自信過剰と言うか、自分の力に溺れる性格は昔から変わらないらしい。
「よくも……」
「あん? 何、聞こえないんだけど?」
「……よくも俺の婚約を邪魔してくれたなぁあ!!」
「いや自滅でしょ? アンタってばその無条件で誰からも好かれると思ってるところ治しなよ。そんなんだから男友達だって一人もいないんじゃん」
そう、この男には友達が一人もいない。よって来るのは伯爵の家名に釣られた人間だけで、個人的に親しい人間など居ないのだ。何度言っても性格治さないんだから仕方ないね。
「ロモラッド! お前は二日続けてこの俺に恥をかかせてッ……何が楽しい!!?」
「そうね、昨日まではなんだかんだ情があったけど、今となってはアンタが恥かいてるところ見ると本当面白い。そう思える程度には愛想が尽きてるわけ、お分かり?」
「ぐ、ぐぐぐ……!!」
「それに昨日のは、アンタが婚約を破棄したのにいつまでも帰らずに喚き散らすから、私の従者に外まで殴り飛ばされたんでしょうが。こっちはいい迷惑だっての、感じなくてもいい責任感で従者辞めるって言うんだもん。取り敢えず生まれ故郷に帰らせて落ち着かせてるけど」
そう、私の従者はこいつが婚約を破棄した後も私の悪口を止めなかったからキレてしまったのだ。彼は本来そういう事するタイプじゃなかったのに。
だいたい朝っぱらから学園に乗り込んでくるんじゃないっての。ああ思い出しただけでも腹立つ!
「というわけでアンタの出る幕なんて無いの。しっしっ、とっとと帰って昔みたいにベッドに地図でも作ったら?」
「ちょっとロモラッドさん、流石にお下品ですわよ」
「あ、これはお見苦しいところ見せちゃって。皆様もすいません! お詫びにこの後私のマンドリン捌きでも……」
「もう許さんぞロモラッドォ!!」
何? 折角、うまいことまとまりかけたのに。この男はまた蒸し返そうって言うのか。いい加減にしないと強制的につまみ出されるっての。
「ドゥローさん、これ以上は看過出来ません。……誰か! この方を外までお連れなさい!」
「な!? 離せ! 俺は伯爵令息だぞ!!」
あ~あ。私が穏便に終わらせて、後はアンタが素直に帰るだけで済んだものを。
「ええい!! ならば明日、俺の屋敷に来いルーゼンス! そこで俺との結婚について改めて話合おうじゃないか! ……がっ! 痛い!? 離せ、どこを掴んでる?! 離せぇぇ!!!」
アホがアホみたいな事喚き散らしながら、屈強な黒服達に連れてかれてしまった。
「まったく、困った人ですわ。……ロモラッドさん大丈夫でしたか?」
「私は何も。それよりもお嬢様こそ、あんな男の言う事なんて忘れて、今日は親戚一同とパァーっと楽しんで……」
「私、決めましたの。明日、彼の屋敷に行ってハッキリ婚約の意思が無い事を伝えますわ!」
え、何のスイッチが入ったの? ちょっとついていけないかな~って。
「折角ですし、ロモラッドさんも一緒に来て下さらないかしら? わたくしはもう逃げません。貴女も彼との因縁を終わらせましょう!」
私の場合、もう終わってるようなもんなんだけど……。
一度決めたお嬢様は頑なで、どうにもこっちの言い分を聞きそうに無いねこれ。
その後はつつがなくパーティーが進んで行って終わりを迎えた。結局私のマンドリンと扇子が戻ってきたのはパーティーが終わった後だったよ~ん。
「やはり、彼女は面白いな。心から充実出来た。……しかし、ドゥローと言ったか? 流石に目に余るね。少し考えなくては」
「ロモラッドさんはこの方とお知り合いですの?」
「ああ、元婚約者ですよ。昨日の朝、破棄されちゃいましてねぇ。ま、こっちとしてはこんなアホと縁が切れて万々歳だったんですが。……まさかお嬢様に粉を掛けていたとはねぇ」
ここ数ヶ月、いつにも増してこの男の態度が調子に乗っていたのも、お嬢様に粉を掛けていたからか。勝手にお嬢様が自分に惚れ込んでいると勘違いして私と正式に婚約を破棄したって訳ね。
公爵家と言えば王室とも強い繋がりがある家柄な訳で、いくら伯爵令息といって相手にされる訳が無いでしょうに。この男の自信過剰と言うか、自分の力に溺れる性格は昔から変わらないらしい。
「よくも……」
「あん? 何、聞こえないんだけど?」
「……よくも俺の婚約を邪魔してくれたなぁあ!!」
「いや自滅でしょ? アンタってばその無条件で誰からも好かれると思ってるところ治しなよ。そんなんだから男友達だって一人もいないんじゃん」
そう、この男には友達が一人もいない。よって来るのは伯爵の家名に釣られた人間だけで、個人的に親しい人間など居ないのだ。何度言っても性格治さないんだから仕方ないね。
「ロモラッド! お前は二日続けてこの俺に恥をかかせてッ……何が楽しい!!?」
「そうね、昨日まではなんだかんだ情があったけど、今となってはアンタが恥かいてるところ見ると本当面白い。そう思える程度には愛想が尽きてるわけ、お分かり?」
「ぐ、ぐぐぐ……!!」
「それに昨日のは、アンタが婚約を破棄したのにいつまでも帰らずに喚き散らすから、私の従者に外まで殴り飛ばされたんでしょうが。こっちはいい迷惑だっての、感じなくてもいい責任感で従者辞めるって言うんだもん。取り敢えず生まれ故郷に帰らせて落ち着かせてるけど」
そう、私の従者はこいつが婚約を破棄した後も私の悪口を止めなかったからキレてしまったのだ。彼は本来そういう事するタイプじゃなかったのに。
だいたい朝っぱらから学園に乗り込んでくるんじゃないっての。ああ思い出しただけでも腹立つ!
「というわけでアンタの出る幕なんて無いの。しっしっ、とっとと帰って昔みたいにベッドに地図でも作ったら?」
「ちょっとロモラッドさん、流石にお下品ですわよ」
「あ、これはお見苦しいところ見せちゃって。皆様もすいません! お詫びにこの後私のマンドリン捌きでも……」
「もう許さんぞロモラッドォ!!」
何? 折角、うまいことまとまりかけたのに。この男はまた蒸し返そうって言うのか。いい加減にしないと強制的につまみ出されるっての。
「ドゥローさん、これ以上は看過出来ません。……誰か! この方を外までお連れなさい!」
「な!? 離せ! 俺は伯爵令息だぞ!!」
あ~あ。私が穏便に終わらせて、後はアンタが素直に帰るだけで済んだものを。
「ええい!! ならば明日、俺の屋敷に来いルーゼンス! そこで俺との結婚について改めて話合おうじゃないか! ……がっ! 痛い!? 離せ、どこを掴んでる?! 離せぇぇ!!!」
アホがアホみたいな事喚き散らしながら、屈強な黒服達に連れてかれてしまった。
「まったく、困った人ですわ。……ロモラッドさん大丈夫でしたか?」
「私は何も。それよりもお嬢様こそ、あんな男の言う事なんて忘れて、今日は親戚一同とパァーっと楽しんで……」
「私、決めましたの。明日、彼の屋敷に行ってハッキリ婚約の意思が無い事を伝えますわ!」
え、何のスイッチが入ったの? ちょっとついていけないかな~って。
「折角ですし、ロモラッドさんも一緒に来て下さらないかしら? わたくしはもう逃げません。貴女も彼との因縁を終わらせましょう!」
私の場合、もう終わってるようなもんなんだけど……。
一度決めたお嬢様は頑なで、どうにもこっちの言い分を聞きそうに無いねこれ。
その後はつつがなくパーティーが進んで行って終わりを迎えた。結局私のマンドリンと扇子が戻ってきたのはパーティーが終わった後だったよ~ん。
「やはり、彼女は面白いな。心から充実出来た。……しかし、ドゥローと言ったか? 流石に目に余るね。少し考えなくては」
0
お気に入りに追加
150
あなたにおすすめの小説

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~
華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。
突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。
襲撃を受ける元婚約者の領地。
ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!!
そんな数奇な運命をたどる女性の物語。
いざ開幕!!

処刑から始まる私の新しい人生~乙女ゲームのアフターストーリー~
キョウキョウ
恋愛
前世の記憶を保持したまま新たな世界に生まれ変わった私は、とあるゲームのシナリオについて思い出していた。
そのゲームの内容と、今の自分が置かれている状況が驚くほどに一致している。そして私は思った。そのままゲームのシナリオと同じような人生を送れば、16年ほどで生涯を終えることになるかもしれない。
そう思った私は、シナリオ通りに進む人生を回避することを目的に必死で生きた。けれど、運命からは逃れられずに身に覚えのない罪を被せられて拘束されてしまう。下された判決は、死刑。
最後の手段として用意していた方法を使って、処刑される日に死を偽装した。それから、私は生まれ育った国に別れを告げて逃げた。新しい人生を送るために。
※カクヨムにも投稿しています。
婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。
国樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。
声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。
愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。
古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。
よくある感じのざまぁ物語です。
ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

【短編完結】記憶なしで婚約破棄、常識的にざまあです。だってそれまずいって
鏑木 うりこ
恋愛
お慕いしておりましたのにーーー
残った記憶は強烈な悲しみだけだったけれど、私が目を開けると婚約破棄の真っ最中?!
待って待って何にも分からない!目の前の人の顔も名前も、私の腕をつかみ上げている人のことも!
うわーーうわーーどうしたらいいんだ!
メンタルつよつよ女子がふわ~り、さっくりかる~い感じの婚約破棄でざまぁしてしまった。でもメンタルつよつよなので、ザクザク切り捨てて行きます!

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
偽聖女の汚名を着せられ婚約破棄された元聖女ですが、『結界魔法』がことのほか便利なので魔獣の森でもふもふスローライフ始めます!
南田 此仁
恋愛
「システィーナ、今この場をもっておまえとの婚約を破棄する!」
パーティー会場で高らかに上がった声は、数瞬前まで婚約者だった王太子のもの。
王太子は続けて言う。
システィーナの妹こそが本物の聖女であり、システィーナは聖女を騙った罪人であると。
突然婚約者と聖女の肩書きを失ったシスティーナは、国外追放を言い渡されて故郷をも失うこととなった。
馬車も従者もなく、ただ一人自分を信じてついてきてくれた護衛騎士のダーナンとともに馬に乗って城を出る。
目指すは西の隣国。
八日間の旅を経て、国境の門を出た。しかし国外に出てもなお、見届け人たちは後をついてくる。
魔獣の森を迂回しようと進路を変えた瞬間。ついに彼らは剣を手に、こちらへと向かってきた。
「まずいな、このままじゃ追いつかれる……!」
多勢に無勢。
窮地のシスティーナは叫ぶ。
「魔獣の森に入って! 私の考えが正しければ、たぶん大丈夫だから!」
■この三連休で完結します。14000文字程度の短編です。

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます
21時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。
エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。
悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。
婚約破棄でかまいません!だから私に自由を下さい!
桗梛葉 (たなは)
恋愛
第一皇太子のセヴラン殿下の誕生パーティーの真っ最中に、突然ノエリア令嬢に対する嫌がらせの濡れ衣を着せられたシリル。
シリルの話をろくに聞かないまま、婚約者だった第二皇太子ガイラスは婚約破棄を言い渡す。
その横にはたったいまシリルを陥れようとしているノエリア令嬢が並んでいた。
そんな2人の姿が思わず溢れた涙でどんどんぼやけていく……。
ざまぁ展開のハピエンです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる