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第16話 悩みを打ち明ける昼食
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俺は半ば放心しながら売店前のテーブルの一つに座った。
「あれ? 良くん、食べないの? 折角作ったんだし麺が伸びちゃうよ」
「んあー……」
ぼやけて聞こえる誰かの声に促されるまま、カップラーメンに箸を突っ込んで口元へと……。
「ぶっあっっつぃい!!?」
「良くん、ご飯は口で食べるものであって顎で食べるものじゃないよ」
今度は鮮明に聞こえた、誰かこと崇吾の声。
俺は無意識のうちに、麺を顎に押し当ててしまったらしい。
熱い、ちょっとヒリヒリする。
涙目になる俺と、そんな俺を半ば呆れた目で見ながらパンを齧る崇吾。
今二人の間にある温度差は、物理的にも精神的にも開きがある事だろう。
折角のラーメンが……。驚いてちょっとこぼれてしまった。
「はい、布巾をどうぞ」
「さんきゅ」
崇吾から布巾を受け取り、テーブルを拭きながら俺は話を切り出す。
「こぼれた分、補填してくれ。頼むよぉ」
「それは君の不注意じゃないか。自業自得だと思って諦めるべきじゃないかな?」
「そんな冷たいこと言うなよ友達だろう? 何もパンを丸ごと一つと言ってるんじゃないんだ、一口分けてくれ」
「もう、しょうがないなあ」
根負けしてくれた崇吾が仕方なさそうに、齧っていた焼きそばパンを千切って分けてくれた。
「おお、助かるぜ」
「全く……あんまり調子に乗らないでね。はい」
「んぐぐ」
崇吾はパンを俺の口に押し込んできた。……うん、旨い。冷めてても焼きそばの風味は失われていないな。これが手渡しなら喉に突っかかり掛ける事もなかったんだが。
「おいし?」
「ああ」
「それは良かった。……で、結局何でぼーっとしてた訳なの?」
そう、何も飯時に好き好んでわざわざぼーっとする程俺も酔狂な人間じゃない。当然そこに並々ならならない理由がある。押しに押されぬ、重大な理由が。
「実はな……」
「まあ別に、言いたくもなかったらいいんだけどね。正直そこまで興味がある訳でもないし」
「人が話そうしてるんだから腰を折らんでくれ! ちょっとくらい興味持ってくれたっていいじゃないか友達として」
「えぇ……。まあでも、そこまで言うならお好きにどうぞ」
崇吾はやれやれといった様子で肩を竦めながら、俺に話の続きを促す。
いや促してるのか? またパンを食い始めたぞ。ああ、だから勝手に話してろって……薄情な奴。
……俺はそれに促されるように、事の顛末を話し始めた。
「……という訳なんだ」
「ごちそうさまでした。……それで、元カノさんが接近して来たから動揺しちゃったんだって? 吹っ切れたんじゃなかったの?」
「そこなんだよな。意外と世の中ままならないと言うか……」
「君の事だから、吹っ切れたとか言っておきながら実は未練たらたらだったってオチでしょ?」
思わず押し黙る俺。い、いや、そんな馬鹿な……俺はそんなに間抜けじゃない。
「そ、そう結論付けるもんじゃない。突然の事でビックリしてしまっただけなんだよ。俺が普段通り冷静ならば、近づくんじゃないとピシャリと言ってのけるぐらいは……」
「出来そうもないと思うけどね」
バッサリと切られた。こいつ普段は真面目なのに、時折毒を吐いてくるから油断ならない。
……という話をこの間共通の知り合いに言ったら、そんな所見たことないと言われ、俺がホラを吹いてるように思われてしまった。でもこいつはこういう奴なんだぞ。
「今に見てろよ、今度近づいて来ようものならガツンと言ってやる!」
「ガツン」
「……お前俺をおちょくってるんじゃないだろうな?」
「え? 何の事?」
……こいつ、とぼけやがって。俺が同じようにガツンなんて言ったところで、何言ってるの? としか言わないだろう事が想像に難くない。きっと冷たい目で言うんだぜ。
まあでも、そんな崇吾の態度に俺はどこか安心しているのかもしれない。そう思える程、こいつとの会話で気も楽になった。やっぱり持つべきものは何とやら、だな。
「そんなことよりも良くんさ」
「そんなことだ? 俺にとって固い決意の表明を……」
「ラーメン伸びてると思うけど、いつ食べるの?」
「…………あ!?」
多少こぼしたといっても、まだまだカップの中にはラーメンが入っているわけで。そして出来上がってからそれなりの時間も経ってるわけで。
俺は慌てて箸を突っ込むも麺は伸びきっていて、我慢して口に持っていくも、正直あまり美味しくない。折角の塩の風味も飛んでるよこれ。
結局、分けてもらった一口分のパンしかまともな物食えてないじゃないか!?
「ふふっ、どんまい」
「お前なぁ。くそ、他人事だからって笑いやがって」
「だって他人事だし」
「こ、この野郎……!」
「ご~め~ん。ふふっ」
もうちょっと友達の扱いというやつをだな!?
「あれ? 良くん、食べないの? 折角作ったんだし麺が伸びちゃうよ」
「んあー……」
ぼやけて聞こえる誰かの声に促されるまま、カップラーメンに箸を突っ込んで口元へと……。
「ぶっあっっつぃい!!?」
「良くん、ご飯は口で食べるものであって顎で食べるものじゃないよ」
今度は鮮明に聞こえた、誰かこと崇吾の声。
俺は無意識のうちに、麺を顎に押し当ててしまったらしい。
熱い、ちょっとヒリヒリする。
涙目になる俺と、そんな俺を半ば呆れた目で見ながらパンを齧る崇吾。
今二人の間にある温度差は、物理的にも精神的にも開きがある事だろう。
折角のラーメンが……。驚いてちょっとこぼれてしまった。
「はい、布巾をどうぞ」
「さんきゅ」
崇吾から布巾を受け取り、テーブルを拭きながら俺は話を切り出す。
「こぼれた分、補填してくれ。頼むよぉ」
「それは君の不注意じゃないか。自業自得だと思って諦めるべきじゃないかな?」
「そんな冷たいこと言うなよ友達だろう? 何もパンを丸ごと一つと言ってるんじゃないんだ、一口分けてくれ」
「もう、しょうがないなあ」
根負けしてくれた崇吾が仕方なさそうに、齧っていた焼きそばパンを千切って分けてくれた。
「おお、助かるぜ」
「全く……あんまり調子に乗らないでね。はい」
「んぐぐ」
崇吾はパンを俺の口に押し込んできた。……うん、旨い。冷めてても焼きそばの風味は失われていないな。これが手渡しなら喉に突っかかり掛ける事もなかったんだが。
「おいし?」
「ああ」
「それは良かった。……で、結局何でぼーっとしてた訳なの?」
そう、何も飯時に好き好んでわざわざぼーっとする程俺も酔狂な人間じゃない。当然そこに並々ならならない理由がある。押しに押されぬ、重大な理由が。
「実はな……」
「まあ別に、言いたくもなかったらいいんだけどね。正直そこまで興味がある訳でもないし」
「人が話そうしてるんだから腰を折らんでくれ! ちょっとくらい興味持ってくれたっていいじゃないか友達として」
「えぇ……。まあでも、そこまで言うならお好きにどうぞ」
崇吾はやれやれといった様子で肩を竦めながら、俺に話の続きを促す。
いや促してるのか? またパンを食い始めたぞ。ああ、だから勝手に話してろって……薄情な奴。
……俺はそれに促されるように、事の顛末を話し始めた。
「……という訳なんだ」
「ごちそうさまでした。……それで、元カノさんが接近して来たから動揺しちゃったんだって? 吹っ切れたんじゃなかったの?」
「そこなんだよな。意外と世の中ままならないと言うか……」
「君の事だから、吹っ切れたとか言っておきながら実は未練たらたらだったってオチでしょ?」
思わず押し黙る俺。い、いや、そんな馬鹿な……俺はそんなに間抜けじゃない。
「そ、そう結論付けるもんじゃない。突然の事でビックリしてしまっただけなんだよ。俺が普段通り冷静ならば、近づくんじゃないとピシャリと言ってのけるぐらいは……」
「出来そうもないと思うけどね」
バッサリと切られた。こいつ普段は真面目なのに、時折毒を吐いてくるから油断ならない。
……という話をこの間共通の知り合いに言ったら、そんな所見たことないと言われ、俺がホラを吹いてるように思われてしまった。でもこいつはこういう奴なんだぞ。
「今に見てろよ、今度近づいて来ようものならガツンと言ってやる!」
「ガツン」
「……お前俺をおちょくってるんじゃないだろうな?」
「え? 何の事?」
……こいつ、とぼけやがって。俺が同じようにガツンなんて言ったところで、何言ってるの? としか言わないだろう事が想像に難くない。きっと冷たい目で言うんだぜ。
まあでも、そんな崇吾の態度に俺はどこか安心しているのかもしれない。そう思える程、こいつとの会話で気も楽になった。やっぱり持つべきものは何とやら、だな。
「そんなことよりも良くんさ」
「そんなことだ? 俺にとって固い決意の表明を……」
「ラーメン伸びてると思うけど、いつ食べるの?」
「…………あ!?」
多少こぼしたといっても、まだまだカップの中にはラーメンが入っているわけで。そして出来上がってからそれなりの時間も経ってるわけで。
俺は慌てて箸を突っ込むも麺は伸びきっていて、我慢して口に持っていくも、正直あまり美味しくない。折角の塩の風味も飛んでるよこれ。
結局、分けてもらった一口分のパンしかまともな物食えてないじゃないか!?
「ふふっ、どんまい」
「お前なぁ。くそ、他人事だからって笑いやがって」
「だって他人事だし」
「こ、この野郎……!」
「ご~め~ん。ふふっ」
もうちょっと友達の扱いというやつをだな!?
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