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第1話 愛しい日常
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俺には、中学頃から付き合っている彼女がいた。
俺の彼女は大人しく、自分を強く主張しない。恋人の俺以外には、だが。
世間擦れしていない、天然というか……クールだが不思議な性格をしている。
例えば、彼女に対して俺という彼氏がいる事を知らずに告白して来た男がいたのだが……。
「好き? 私もあなたの事は好き。大事なクラスメートだから」
という感じで、その気は無いだろうが一撃で相手の気持ちを折ってしまった。
肩を落とすその男を見て、彼女はそう言ったらしい。
「あの人、どうして暗くなったの? さっきまで顔が赤かったのに」
遠くで見ていた俺の元へとやって来て、そんな疑問を口にした。
相手の好意の種類が分からない、そういう不思議な女だ。
「期待持ってたんだろ? 男なら仕方ないさ」
「?」
そんな女と恋人になれたのは、今思っても不思議だけれど。でもこうなった事になんの後悔も無い。
だって可愛い彼女だ。多少の疑問やらには目をつむるべきだろ。
そうだ、いつも隣にいてくれるこの――晴空ちかりがいる限り俺は果てしなく幸せなんだ。
腕の中にすっぽりと収まるような、小柄で儚い愛らしさが、俺の胸の内をくすぐってくる。
「帰ろう」
「ああ、そうだな。このまま残っても俺には用事はないしな」
今は放課後、別に部活に入ってるわけでもない俺たちは、このまま残ってもやることがない。
友達とお約束をしているとかそういうわけでもないから。
外に出たら日差しが傾いて、赤が眩しいぜ。真昼間ほどじゃないが、夏のこの時期は夕方でも勝手に汗が流れてくる。
そんな中であっても、俺の彼女は涼しい顔。これは年中だが、夏のこの時期は一緒にいるだけでなんとなく俺自身も涼しい気分になれる。そういう意味でも必須なんだ。
「手」
一言そう言って、俺の手を握ってくる。ちかりは俺と一緒に歩くときは必ずと言っていいこと手をつないでくる。
落ち着いていて自己主張が薄いように見えるけど、実は結構積極的。そこに優越感。だってそうだろ? これは彼氏の俺だけが知っている特権なんだ。
だからこんないたずらみたいに、からかう事が出来る。
「お前って、意外と男子から声をかけられるよな。どうしてかわかるか?」
「? よくわからないけど、きっとみんないい子だから。構ってくれるのは嬉しい」
俺の質問の意味をよくわかってない。お前は意外とモテるんだぞとそう言ってるんだが、こいつの中では気さくに友人になりに来てるんだと思ってるんだろう。
自分に向けられる好意に鈍い、そんな女を彼女に出来ている俺は自分でもすごいんじゃないかと思う。
でもそれはそれとして、やっぱり彼氏として嫉妬もするわけだ。いくら好意に鈍くて男子を無意識で不意にしているといっても、こんな風にいたずらな質問の一つでもしないとストレスが溜まってしまう。自分でも意地が悪いな。
「でもどうしてそんなこと聞いたの?」
「……ちょっとした興味本位だよ。お前が他のやつとどんな話をして盛り上がるのかとか、そういうの知っておかないといつか愛想尽かされるかもなって」
「そんなことない。私はあなたと話してるの、楽しいから」
これだ、ストレートにこういうことを言われるとくすぐったくて仕方がない。
にやけるのを抑えるのも、結構必死なんだ。
「どうしたの?」
怪しまれた。
「なんでもないよ。……それよりもうすぐ夏休みだな。ほら、デート先とか考えないと」
「ん、どこでもいい」
可愛らしい言い分だけれど正直それは困る、やっぱり彼氏として見栄を見せたいもんだ。どこでもと言われるとその甲斐がなくなってしまう。
こいつの場合どこに行っても楽しめると思うんだけど、こっちはこっちでやっぱり張り切りたい。
悩む俺を、クリクリとした眼で覗いてくるちかりはやっぱり可愛い。
いや可愛いじゃなくて、流されるな。ここはしっかりと男としてデートプランを考えなければ。
俺の彼女は大人しく、自分を強く主張しない。恋人の俺以外には、だが。
世間擦れしていない、天然というか……クールだが不思議な性格をしている。
例えば、彼女に対して俺という彼氏がいる事を知らずに告白して来た男がいたのだが……。
「好き? 私もあなたの事は好き。大事なクラスメートだから」
という感じで、その気は無いだろうが一撃で相手の気持ちを折ってしまった。
肩を落とすその男を見て、彼女はそう言ったらしい。
「あの人、どうして暗くなったの? さっきまで顔が赤かったのに」
遠くで見ていた俺の元へとやって来て、そんな疑問を口にした。
相手の好意の種類が分からない、そういう不思議な女だ。
「期待持ってたんだろ? 男なら仕方ないさ」
「?」
そんな女と恋人になれたのは、今思っても不思議だけれど。でもこうなった事になんの後悔も無い。
だって可愛い彼女だ。多少の疑問やらには目をつむるべきだろ。
そうだ、いつも隣にいてくれるこの――晴空ちかりがいる限り俺は果てしなく幸せなんだ。
腕の中にすっぽりと収まるような、小柄で儚い愛らしさが、俺の胸の内をくすぐってくる。
「帰ろう」
「ああ、そうだな。このまま残っても俺には用事はないしな」
今は放課後、別に部活に入ってるわけでもない俺たちは、このまま残ってもやることがない。
友達とお約束をしているとかそういうわけでもないから。
外に出たら日差しが傾いて、赤が眩しいぜ。真昼間ほどじゃないが、夏のこの時期は夕方でも勝手に汗が流れてくる。
そんな中であっても、俺の彼女は涼しい顔。これは年中だが、夏のこの時期は一緒にいるだけでなんとなく俺自身も涼しい気分になれる。そういう意味でも必須なんだ。
「手」
一言そう言って、俺の手を握ってくる。ちかりは俺と一緒に歩くときは必ずと言っていいこと手をつないでくる。
落ち着いていて自己主張が薄いように見えるけど、実は結構積極的。そこに優越感。だってそうだろ? これは彼氏の俺だけが知っている特権なんだ。
だからこんないたずらみたいに、からかう事が出来る。
「お前って、意外と男子から声をかけられるよな。どうしてかわかるか?」
「? よくわからないけど、きっとみんないい子だから。構ってくれるのは嬉しい」
俺の質問の意味をよくわかってない。お前は意外とモテるんだぞとそう言ってるんだが、こいつの中では気さくに友人になりに来てるんだと思ってるんだろう。
自分に向けられる好意に鈍い、そんな女を彼女に出来ている俺は自分でもすごいんじゃないかと思う。
でもそれはそれとして、やっぱり彼氏として嫉妬もするわけだ。いくら好意に鈍くて男子を無意識で不意にしているといっても、こんな風にいたずらな質問の一つでもしないとストレスが溜まってしまう。自分でも意地が悪いな。
「でもどうしてそんなこと聞いたの?」
「……ちょっとした興味本位だよ。お前が他のやつとどんな話をして盛り上がるのかとか、そういうの知っておかないといつか愛想尽かされるかもなって」
「そんなことない。私はあなたと話してるの、楽しいから」
これだ、ストレートにこういうことを言われるとくすぐったくて仕方がない。
にやけるのを抑えるのも、結構必死なんだ。
「どうしたの?」
怪しまれた。
「なんでもないよ。……それよりもうすぐ夏休みだな。ほら、デート先とか考えないと」
「ん、どこでもいい」
可愛らしい言い分だけれど正直それは困る、やっぱり彼氏として見栄を見せたいもんだ。どこでもと言われるとその甲斐がなくなってしまう。
こいつの場合どこに行っても楽しめると思うんだけど、こっちはこっちでやっぱり張り切りたい。
悩む俺を、クリクリとした眼で覗いてくるちかりはやっぱり可愛い。
いや可愛いじゃなくて、流されるな。ここはしっかりと男としてデートプランを考えなければ。
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