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第21話 もし、俺が彼氏面を見せたら
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昼休みが終わり、授業再開のチャイムがなっても担当教師が入ってこない。
ざわつく周囲の連中。その理由は、当然いつまでも授業が始まらないからではなく……。
「おい、あの噂聞いたかよ? 木山の奴が三年の先輩と放課後に教室でキスしたって話」
「俺は一年の子を家に連れ込んだって聞いたぜ」
「俺が聞いたのは女教師と密会してたって噂だ」
「え? マジ? 私は他校に彼女が何人もいるって……」
どれが本当かどうかで話し合っているが、残念ながら全部外れで全部正解だ。
答えは、今上げた全員とやることやってるし、もっと言えば本当は何人そういう相手がいるのか俺ですら把握してない。
内心ほくそ笑みながら、この状況を楽しんでいた時だ。5限目の担当じゃなくて、担任の教師が大慌てて教室に駆け込んできた。
「っはぁ! ……急なことで申し訳ないが、午後の授業は全部自習になった! 各々騒がないように過ごしてくれ。先生もまたこれから職員室に戻らなきゃならないから、静かに過ごせよ」
言うだけ言うと、担任はまた大急ぎで教室を出て行った。
おそらく緊急会議だろう。その途中で、要件だけ伝えるために抜け出してきたんだ。
心の中で笑いが止まらなかった。確実に、俺たちがばらまいたあの証拠は効果を発揮してるんだろう。
さあ木山、お前はこの窮地をどうやって切り抜けるんだ? 是非教えて欲しいもんだ、自分でばらまいた種の責任の取り方ってやつをよぉ!
自習に決まったと言って、素直に勉強に励む奴はどれだけいるだろう?
少なくともこの瞬間に、この教室から出て行った奴は何人か確認できている。
周りを見渡せば教科書を開いてるやつなんかいない。それもそうだ、どうあがいてもあの学校の人気者、木山宗太の不祥事の噂の方に意識が向いてしまうんだから。
俺は自分の仕事の仕上がりがどんなものかを確認するため、教室から離れた。
向かう先は決まってる。
たどり着いたのは俺の教室から三つ離れた木山と芽亜里の教室だ。
ドアの陰に隠れながらちらりと見れば――やっぱりと思うべきか残念と思うべきか、木山の姿はなかった。
今頃職員室に呼び出されてるんだろうな。慌てふためく姿が見れないのは正直寂しい。
まあ仕方がない、今はそれよりも……。
「ど、どうしたの芽亜里? 何で泣いてるのよ?」
「ひぃっ……ぐ、ご、ごめっ……。な、……っ! ぃから……!」
涙を流す芽亜里と心配する取り巻きの女。
そうだ俺はこれが見たかった!
俺は今回、データをばらまく際に芽亜里のデータだけ抜き取るように裕に頼んだ。そしてそのデータは今、俺のスマホの中にある。
だから、芽亜里があいつと付き合っていたなんて誰も知らない。誰も知らないから、こいつが泣いている理由だって誰も分からない。
関係を秘密にしていた芽亜里だ、周囲にばれまいと必死に耐えてる姿は……今まで見てきたこいつのどんな姿よりも惨めで卑しくて、それでいて――どこか美しさすら感じてしまう。
内心興奮しながらも俺は、教室のドアから見えない辺りでわざとらしく咳き込んでみせた。
「ごほっ! んん……」
誰かが席から立ち上がる音が教室から聞こえた。その相手はよく知ってる女のはずだ。
「こー君!!」
飛び出してきたのは、全く持って俺の想定通りにその目を涙で腫らした芽亜里だった。
「どうしたんだ一体? 何をそんなに泣きそうな顔してるんだ?」
心の中で笑いながら、俺は必死に心配そうな顔を作って芽亜里に近寄った。
「こ、こー君っ……!」
俺の顔を見た途端に、せきを切ったかのようにぼろぼろと涙を流し始める。
ああ、ああ! 俺はこの時を待っていた!
「おいおい、大丈夫か芽亜里? ほらハンカチ貸すぞ」
「う、うんっ……。ありがと、こーく……っ!」
「泣くなよ芽亜里。俺はお前の味方だろ?」
「う、……ひっく……!」
「お前の悩みなら何でも聞くよ。当たり前だろ」
「……う、……っく……!」
俺の言葉一つ一つが芽亜里の心に染み込んでいるのがよく分かる。
そうさ、お前が俺を裏切ってまで手に入れたかったものは、もう俺の手の平の上にあるのだから。
お前の苦しみも悲しみも全部、全部俺のものだ!
はぁあっはっはっはっはっは!!!!
それを今からぐちゃぐちゃに捨ててやるんだ!
こんなに興奮できることがあるかよぉ?!!
ざわつく周囲の連中。その理由は、当然いつまでも授業が始まらないからではなく……。
「おい、あの噂聞いたかよ? 木山の奴が三年の先輩と放課後に教室でキスしたって話」
「俺は一年の子を家に連れ込んだって聞いたぜ」
「俺が聞いたのは女教師と密会してたって噂だ」
「え? マジ? 私は他校に彼女が何人もいるって……」
どれが本当かどうかで話し合っているが、残念ながら全部外れで全部正解だ。
答えは、今上げた全員とやることやってるし、もっと言えば本当は何人そういう相手がいるのか俺ですら把握してない。
内心ほくそ笑みながら、この状況を楽しんでいた時だ。5限目の担当じゃなくて、担任の教師が大慌てて教室に駆け込んできた。
「っはぁ! ……急なことで申し訳ないが、午後の授業は全部自習になった! 各々騒がないように過ごしてくれ。先生もまたこれから職員室に戻らなきゃならないから、静かに過ごせよ」
言うだけ言うと、担任はまた大急ぎで教室を出て行った。
おそらく緊急会議だろう。その途中で、要件だけ伝えるために抜け出してきたんだ。
心の中で笑いが止まらなかった。確実に、俺たちがばらまいたあの証拠は効果を発揮してるんだろう。
さあ木山、お前はこの窮地をどうやって切り抜けるんだ? 是非教えて欲しいもんだ、自分でばらまいた種の責任の取り方ってやつをよぉ!
自習に決まったと言って、素直に勉強に励む奴はどれだけいるだろう?
少なくともこの瞬間に、この教室から出て行った奴は何人か確認できている。
周りを見渡せば教科書を開いてるやつなんかいない。それもそうだ、どうあがいてもあの学校の人気者、木山宗太の不祥事の噂の方に意識が向いてしまうんだから。
俺は自分の仕事の仕上がりがどんなものかを確認するため、教室から離れた。
向かう先は決まってる。
たどり着いたのは俺の教室から三つ離れた木山と芽亜里の教室だ。
ドアの陰に隠れながらちらりと見れば――やっぱりと思うべきか残念と思うべきか、木山の姿はなかった。
今頃職員室に呼び出されてるんだろうな。慌てふためく姿が見れないのは正直寂しい。
まあ仕方がない、今はそれよりも……。
「ど、どうしたの芽亜里? 何で泣いてるのよ?」
「ひぃっ……ぐ、ご、ごめっ……。な、……っ! ぃから……!」
涙を流す芽亜里と心配する取り巻きの女。
そうだ俺はこれが見たかった!
俺は今回、データをばらまく際に芽亜里のデータだけ抜き取るように裕に頼んだ。そしてそのデータは今、俺のスマホの中にある。
だから、芽亜里があいつと付き合っていたなんて誰も知らない。誰も知らないから、こいつが泣いている理由だって誰も分からない。
関係を秘密にしていた芽亜里だ、周囲にばれまいと必死に耐えてる姿は……今まで見てきたこいつのどんな姿よりも惨めで卑しくて、それでいて――どこか美しさすら感じてしまう。
内心興奮しながらも俺は、教室のドアから見えない辺りでわざとらしく咳き込んでみせた。
「ごほっ! んん……」
誰かが席から立ち上がる音が教室から聞こえた。その相手はよく知ってる女のはずだ。
「こー君!!」
飛び出してきたのは、全く持って俺の想定通りにその目を涙で腫らした芽亜里だった。
「どうしたんだ一体? 何をそんなに泣きそうな顔してるんだ?」
心の中で笑いながら、俺は必死に心配そうな顔を作って芽亜里に近寄った。
「こ、こー君っ……!」
俺の顔を見た途端に、せきを切ったかのようにぼろぼろと涙を流し始める。
ああ、ああ! 俺はこの時を待っていた!
「おいおい、大丈夫か芽亜里? ほらハンカチ貸すぞ」
「う、うんっ……。ありがと、こーく……っ!」
「泣くなよ芽亜里。俺はお前の味方だろ?」
「う、……ひっく……!」
「お前の悩みなら何でも聞くよ。当たり前だろ」
「……う、……っく……!」
俺の言葉一つ一つが芽亜里の心に染み込んでいるのがよく分かる。
そうさ、お前が俺を裏切ってまで手に入れたかったものは、もう俺の手の平の上にあるのだから。
お前の苦しみも悲しみも全部、全部俺のものだ!
はぁあっはっはっはっはっは!!!!
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