例えば、彼女に浮気されて自殺しようとした俺を止めて恋人宣言をしてきたのが美少女のお嬢様だったら

こまの ととと

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第11話 もし、調子に乗って胃を痛めたら

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「ふぅ~、やっと終わった。……お待たせしました先輩たち。こっちはもう終わりましたんで、そっちもいい感じに切り上げてください。はい、データは後でお見せしますんで」

 データのコピーを終えて、無線で先輩たちに連絡を取る裕。その顔は一仕事終えた後のようにスッキリとしていた。

「さてともう一人。……滝、危ない橋を渡らせて悪かったな。こっちの仕事はひとまず終わった、スマホ取りに来てくれ。それと、後で何か奢らせてくれよ。お前がいなきゃそもそも何も始められなかった。一番のMVPは間違いなくお前だぜ?」

 滝にまで無線を持たせてたなんて、用意周到だな。

「奢るのは俺の役目だろ裕? このくらいはさせてくれ、ここまで他人任せだったんだから」

「お、そうか? ま、それでお前の気が済むんだったらな」

 もしかしてこいつの一番すごいところは、相手の気を晴らさせるところなんじゃないか?
 後を引かないように、相手にさせたい事をさせる。友達が多い理由も納得だ。


 数分後、やって来た滝にスマホを渡した。

「突然だがお前の好物って何だ、滝?」

「僕? う~ん、ラーメンかなぁ」

「よし、決まりだな」

 滝から好きな食べ物を聞いた俺は、生徒会の仕事が終わるものを待って、駅前に新しくできたラーメン屋に連れて行った。勿論、裕も連れてな。

「僕、家族以外とこういうところに来るなんて初めてだよ。なんだかワクワクするなぁ」

「それは良かったな、俺も連れてきた甲斐があったってもんだ」

「遠慮なんてするなよ滝、景気よくチャーシュー麺でも頼むといい。……おっちゃーんチャーシュー麺三人前!」

「お前もかよ。……ま、いいか。前祝いにパッとやってくれ!」

 芽亜里とのデート代に溜めた金で、今は懐が潤ってる。気兼ねなく使えるって訳だ。

 俺たち3人、チャーシュー麺に舌鼓を打つ。胃が荒れてるはずなのにするする入っていった。
 久しぶりに誰かと食べる夕飯、やっぱりいいもんだよな。

 ……しかし裕の奴、さりげなく味玉頼んでたな。まあいいけども。

 ◇◇◇

「う! やっぱりちょっと無理があったかな」

 ラーメン屋から出て解散した俺は、一人帰路についていた。
 時より胃痛に襲われながら。

 元気が出てきたとはいえ、さすがにラーメンはちょっときつかったか? いや、せっかくの機会だしな。たまにはこんな日があっても悪くはない。

 そんなことは思いながら、暗い夜道をとぼとぼと歩いていた時だ。

 見覚えのある後ろ姿が見えた、女の後ろ姿――芽亜里だ。
 面倒に思いながらも、物陰に隠れて様子を見ることにした。
 スマホを耳に当てて誰かと話をしてる。どうせだから耳をすませる。

「……で、……から……」

 といってもさすがに、全部聞き取れるわけじゃないな。

「えぇ……うん、……だから……」

 断片的に聞こえる声。そのどれもが真剣なもので、俺が聞いているような世間話ではないことが分かる。そしてその言葉の端々から、相手との話の内容も察しがつく。

 俺は、お守りとして裕から持たされたボイスレコーダーを起動した。
 スマホのアプリじゃだめなのか? と聞いたら、スマホの音声はどうしてもノイズが入るから、直接録音できるこれのほうがいいと言われた。
 小さくてバレにくい上に音声が綺麗に録音できる、その上ワンタッチで起動ができるからスマホよりも使い勝手がいいんだそうだ。

 ちなみに例によって例のごとくこれも借り物らしい、確か演劇部だったか?
 まあ何にせよ、これで準備は整った。

「……うん、ありがとう。私も大好きだよそー君」

 そー? 確か木山の下の名前は宗太だったか? ということは今電話している相手は奴ってことか。しかしなんでこんな夜道で電話なんかしてるんだ? 自分の部屋でやればいいのに。

 ん? いや、待てよ。

 そういえば、この近くに木山の住んでるマンションがあると聞いた事がある。
 この女はそこからの帰りか?

「うん、分かってる。……また今度ね。バイバ~イ」

 芽亜里は通話を切って、スマホをポケットにしまう。
 その顔は恋人との一時に満足そうな表情を浮かべていた。

「チッ……」

 思わず舌打ちが出てしまった。せっかくの気分が台無しだ。
 だが、これで芽亜里と木山繋がりの証拠を手に入れた事になる。
 でもまだ弱いな、もっと二人の会話でも録音出来ればいいんだが。

 ボイスレコーダーを懐にしまうと、俺は芽亜里に見つからないようにその場を後にした。
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