2 / 2
第二話
しおりを挟む
浮気相手のシュウを送り出した後、私は二人で楽しんだ跡を消すために掃除機をかけたり、消臭スプレーを振りかけたりしていた。
今の彼氏と出会って六年ほど。別に彼が嫌いなわけじゃないけど、最近マンネリ気味。
私としては刺激が欲しいんだけど、奥手気味の彼とじゃなかなか難しくて。
一人寂しさを感じた私はマッチングアプリに手を出し、今の浮気相手と出会った。
自信家でグイグイとくる彼。最初は少し押され気味だったけど、今ではすっかり私の方が虜になってしまった。
それに彼氏に隠れて浮気をするスリルがたまらない。すっかり癖になってしまった。しばらくはやめられそうにないかなぁ。
「あ~も~、なんでこんなにハマっちゃうかなぁ」
彼氏には申し訳ないけど、浮気の彼の方が断然いい体してるのよね。
掃除機をかけ終わり、最後に念押しの消臭スプレーを部屋中に振りかける。
「うん完璧!」
あとはいつも通りの甲斐甲斐しい彼女に変身して愛しの彼氏様の帰りを待つだけ。
こういう切り替えも癖になる。
自分が出来る女としてステップアップしたという実感が沸くからだ。
「さて、朝ご飯作らなきゃ」
シュウが食べた朝ご飯分の食器は既に綺麗に洗った後、キッチンペーパーでキッチリと水気を拭いて棚に戻してある。
万が一にもバレる心配は無い。うん、やっぱり私は完璧だ。
ガチャ。扉の開く音が聞こえた。
ご飯を作る前に帰って来ちゃったらしい。ちょっと完璧じゃ無くなったな。
彼はリビングに顔を出して来た。
「ただいまー」
「おかえり~。どう? 久しぶりに友達と会って、盛り上がったんじゃないの?」
「はは、ああそうだな。正直ハメはずしちゃったかな」
彼は朗らかに笑いながらそう返事をした。よっぽど楽しかったんだろうな。
そういえば、彼は肩から大きな黒いバッグを下げている。
あんなの持っていたっけ? バイトに持っていくバッグはあんなに大きくなかったはずだけど……。
「ああ、これ気になる?」
「う、うん。そんなに大きいバッグ、どうしたのかなって? 買ったの?」
「ああちょっとお土産があってな。それ入れるの買ったんだよ」
なんだそうなのか。
お土産はきっと友達から貰ったんだろうな、結構大きめだけど何が入ってるんだろ?
でもいいかそれは後で、今は彼の為に朝ご飯を作ってあげようじゃないか!
「まだ何も食べて無いんでしょ? ちょっと待ってて、すぐに作ってあげるから」
「ああいいよ。あんまりお腹空いて無いんだよね」
「そう?」
お酒と一緒におつまみを沢山食べて来たとか?
あれ? そういえばお酒臭くないような……。
「とりあえずさ、このお土産受け取ってくれる。きっと驚くと思うぜ」
「へえ。なんだろ? 楽しみだな~」
それ程言うなら、きっと凄いのが出て来るんだろう。
でも正直今朝まで彼に言えない凄い事をしていたから、あんまり驚いてあげられないかも。
(ここは頑張ってリアクションしてあげるところだぞ、私!)
彼は大きいバッグを床に降ろすと、チャックを開いて中から何かを――ッ!!?
「はは、驚いたろ? これ。上手いこと切り出せたって、自分でも惚れ惚れするよ」
「な……に、それ……?」
見覚えはある、でもそれについて勝手が口が動いて聞いてしまった。
「何って? 酷い事言うなぁ――
――お前の浮気相手じゃないか」
彼が取り出して来たもの、それは今朝まで一緒に過ごしていた浮気相手のシュウの……頭だった。
「ひっ……!?」
「楽しく過ごしてくれた相手にそんな反応は失礼だろ? お前もそう思うよな? はは! 応えるわけないか」
何が可笑しいのか、彼は腹話術人形に話し掛けるみたいにシュウの生首に笑いかけていた。
どうしてこんな……? バレていた? でもだからってなんでここまで!?
「なんでって顔してるな? ここまでやったのに分からないのか? はは、仕方ないか。お前浮気してるくせに鈍感だもんな」
彼は頭を持ち上げるとそれを優しく撫でると語り出した。
それはまるでぬいぐるみでも愛でるかのような手つきで……。
「俺が気付いてないとでも思ってたのか? 俺に隠れて他の男と楽しんでたんだろ?」
やっぱりバレてたんだ……。
「なんで、こんな事……」
「う~ん、なんでって言われれば……やっぱりお前に対する詫びかな?」
「お、詫び? 何を言ってるの……?!」
「だってさ。俺がお前に寂しい思いをさせたから浮気なんてしたんだろ? やっぱその事は反省しなきゃだよな? これはそのお詫びさ。こいつも寂しさを埋めてくれたしな、もう浮気はさせて上げられないけど、せめて手元には置いて上げようかなって。『うん、俺も一緒に過ごせるからうれしい!』だってさ。健気な奴だなぁ、ははは!」
「そ、そんな……」
彼はシュウの生首を撫でている。
私は恐怖と絶望で体が固まってしまった。
もうダメだ、彼が何を言っているのかも分からない。
「ほら」
「ひぃっ!?」
彼が手に持っていたシュウの生首をこちらに向けて投げてきて、思わず払いのけてしまった。
首の断面から滴っていた血が手について、それが怖くて足から力が抜けていった。
「おいおい、酷い奴だな。仮にも今朝まで楽しませてくれた相手にさ。……でもいいや」
彼は足元に転がっていたシュウの首を、まるでゴミでも退けるように蹴とばすと私に向かって歩いてきて――抱きしめてきた。
「……ぅ……ぁ」
歯がガチガチ震えて声が出せない。
彼は私を抱きしめたまま、優しい手つきで髪の毛を梳くように撫でてくる。
「はは、震えてるじゃないか。可愛い奴め」
「……ぁ……ぅ……ぃ……」
恐怖で頭が真っ白になって何も考えられない。
なんでなんでなんで!? なんでこんなことになったの?!!
そんな私を余所に彼は私の体をより強く抱きしめてくる。
まるでもう逃がさないとでもいうかのように……ッ!
彼は私の耳元に口を近づけ、静かに愛おしくささやいた。
「ああ、ごめんな。怖がらせちゃったな。でも安心してくれ、これからは寂しさを感じなようにちゃあんと努力するから、さ」
足だけじゃない、体中の力が抜けて行く。
まるで、今起こっている現実を否定するように――私の意識は暗く落ちて行った。
今の彼氏と出会って六年ほど。別に彼が嫌いなわけじゃないけど、最近マンネリ気味。
私としては刺激が欲しいんだけど、奥手気味の彼とじゃなかなか難しくて。
一人寂しさを感じた私はマッチングアプリに手を出し、今の浮気相手と出会った。
自信家でグイグイとくる彼。最初は少し押され気味だったけど、今ではすっかり私の方が虜になってしまった。
それに彼氏に隠れて浮気をするスリルがたまらない。すっかり癖になってしまった。しばらくはやめられそうにないかなぁ。
「あ~も~、なんでこんなにハマっちゃうかなぁ」
彼氏には申し訳ないけど、浮気の彼の方が断然いい体してるのよね。
掃除機をかけ終わり、最後に念押しの消臭スプレーを部屋中に振りかける。
「うん完璧!」
あとはいつも通りの甲斐甲斐しい彼女に変身して愛しの彼氏様の帰りを待つだけ。
こういう切り替えも癖になる。
自分が出来る女としてステップアップしたという実感が沸くからだ。
「さて、朝ご飯作らなきゃ」
シュウが食べた朝ご飯分の食器は既に綺麗に洗った後、キッチンペーパーでキッチリと水気を拭いて棚に戻してある。
万が一にもバレる心配は無い。うん、やっぱり私は完璧だ。
ガチャ。扉の開く音が聞こえた。
ご飯を作る前に帰って来ちゃったらしい。ちょっと完璧じゃ無くなったな。
彼はリビングに顔を出して来た。
「ただいまー」
「おかえり~。どう? 久しぶりに友達と会って、盛り上がったんじゃないの?」
「はは、ああそうだな。正直ハメはずしちゃったかな」
彼は朗らかに笑いながらそう返事をした。よっぽど楽しかったんだろうな。
そういえば、彼は肩から大きな黒いバッグを下げている。
あんなの持っていたっけ? バイトに持っていくバッグはあんなに大きくなかったはずだけど……。
「ああ、これ気になる?」
「う、うん。そんなに大きいバッグ、どうしたのかなって? 買ったの?」
「ああちょっとお土産があってな。それ入れるの買ったんだよ」
なんだそうなのか。
お土産はきっと友達から貰ったんだろうな、結構大きめだけど何が入ってるんだろ?
でもいいかそれは後で、今は彼の為に朝ご飯を作ってあげようじゃないか!
「まだ何も食べて無いんでしょ? ちょっと待ってて、すぐに作ってあげるから」
「ああいいよ。あんまりお腹空いて無いんだよね」
「そう?」
お酒と一緒におつまみを沢山食べて来たとか?
あれ? そういえばお酒臭くないような……。
「とりあえずさ、このお土産受け取ってくれる。きっと驚くと思うぜ」
「へえ。なんだろ? 楽しみだな~」
それ程言うなら、きっと凄いのが出て来るんだろう。
でも正直今朝まで彼に言えない凄い事をしていたから、あんまり驚いてあげられないかも。
(ここは頑張ってリアクションしてあげるところだぞ、私!)
彼は大きいバッグを床に降ろすと、チャックを開いて中から何かを――ッ!!?
「はは、驚いたろ? これ。上手いこと切り出せたって、自分でも惚れ惚れするよ」
「な……に、それ……?」
見覚えはある、でもそれについて勝手が口が動いて聞いてしまった。
「何って? 酷い事言うなぁ――
――お前の浮気相手じゃないか」
彼が取り出して来たもの、それは今朝まで一緒に過ごしていた浮気相手のシュウの……頭だった。
「ひっ……!?」
「楽しく過ごしてくれた相手にそんな反応は失礼だろ? お前もそう思うよな? はは! 応えるわけないか」
何が可笑しいのか、彼は腹話術人形に話し掛けるみたいにシュウの生首に笑いかけていた。
どうしてこんな……? バレていた? でもだからってなんでここまで!?
「なんでって顔してるな? ここまでやったのに分からないのか? はは、仕方ないか。お前浮気してるくせに鈍感だもんな」
彼は頭を持ち上げるとそれを優しく撫でると語り出した。
それはまるでぬいぐるみでも愛でるかのような手つきで……。
「俺が気付いてないとでも思ってたのか? 俺に隠れて他の男と楽しんでたんだろ?」
やっぱりバレてたんだ……。
「なんで、こんな事……」
「う~ん、なんでって言われれば……やっぱりお前に対する詫びかな?」
「お、詫び? 何を言ってるの……?!」
「だってさ。俺がお前に寂しい思いをさせたから浮気なんてしたんだろ? やっぱその事は反省しなきゃだよな? これはそのお詫びさ。こいつも寂しさを埋めてくれたしな、もう浮気はさせて上げられないけど、せめて手元には置いて上げようかなって。『うん、俺も一緒に過ごせるからうれしい!』だってさ。健気な奴だなぁ、ははは!」
「そ、そんな……」
彼はシュウの生首を撫でている。
私は恐怖と絶望で体が固まってしまった。
もうダメだ、彼が何を言っているのかも分からない。
「ほら」
「ひぃっ!?」
彼が手に持っていたシュウの生首をこちらに向けて投げてきて、思わず払いのけてしまった。
首の断面から滴っていた血が手について、それが怖くて足から力が抜けていった。
「おいおい、酷い奴だな。仮にも今朝まで楽しませてくれた相手にさ。……でもいいや」
彼は足元に転がっていたシュウの首を、まるでゴミでも退けるように蹴とばすと私に向かって歩いてきて――抱きしめてきた。
「……ぅ……ぁ」
歯がガチガチ震えて声が出せない。
彼は私を抱きしめたまま、優しい手つきで髪の毛を梳くように撫でてくる。
「はは、震えてるじゃないか。可愛い奴め」
「……ぁ……ぅ……ぃ……」
恐怖で頭が真っ白になって何も考えられない。
なんでなんでなんで!? なんでこんなことになったの?!!
そんな私を余所に彼は私の体をより強く抱きしめてくる。
まるでもう逃がさないとでもいうかのように……ッ!
彼は私の耳元に口を近づけ、静かに愛おしくささやいた。
「ああ、ごめんな。怖がらせちゃったな。でも安心してくれ、これからは寂しさを感じなようにちゃあんと努力するから、さ」
足だけじゃない、体中の力が抜けて行く。
まるで、今起こっている現実を否定するように――私の意識は暗く落ちて行った。
3
お気に入りに追加
6
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ
海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。
あぁ、大丈夫よ。
だって彼私の部屋にいるもん。
部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる