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第1話 復讐を誓う男
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「デートのドタキャンなんてな。ま、そういう女のわがままを受け入れてこそ男の度量っていうものかもしれないけど」
休日の午後。
幼馴染で学校のアイドルにして恋人の水木桃子と、本来ならばデートをしていた。
そんな日だったが、生憎とその相手から都合が悪くなって行けなくなったと連絡を受けた。
今日の為にというわけじゃないが、愛しい彼女のために日頃からバイトなどをしてお金を貯めて、それでいてファッション雑誌などを参考に四苦八苦しながら格好を整えたり。
そんなことをしながらワクワクして待っていたのに……。過ぎたことは仕方がない。
いつまでもデートの待ち合わせ場所にいても仕方がないので、暇つぶしに街を探索しながら時間を潰すことにした。
「デートプランはまた今度かな。結構自信があるんだ」
いかん、つまらない独り言を言ってしまった。寂しい。
そんなつまらない時間を適当に過ごしている内に――どうやら俺はホテル街へと迷い込んだようだ。
「こんなところに用は無いしなぁ。いや、彼女が居たら……ああいやいや、それはまだ早いか」
これでも健全な学生なわけだから。
とっととこの場所を去ろうとしたその瞬間だった。
目の前のホテルの入り口から飛び出してきたカップル。仲睦まじい様子のその片方、女の方に見覚えがある。そう、どう見たって俺の彼女の水木桃子だ。
「お、お前? こんなところで何やって……」
「!? ど、どうしてこんなとこに悠が?!」
「俺が質問してるだろ! おい、その男は一体誰なんだよ?!」
「そ、それは……その」
言い淀む桃子。
確定している現実だが俺は受け入れたくなかった、頼むから否定してくれ。そう心から願った。
だが、隣に立つ長い金髪で長身の日に焼けた男が卑下た声で俺に話しかけてきたのだ。
「あ? なんだよお前? 桃子さ、こいつと知り合いなわけ?」
「う、うん……ただの幼馴染、だよ」
「お、おい……?」
そんなわけがない俺と桃子は親公認の恋人だ。この間だって桃子の家で笑いながら今日のデートについて話をしていたんだ。
だがその口で否定されてしまった。
「だよな。おいただの幼馴染のお坊ちゃんが俺の女に何か用かよ? お前だって高校生だろ? 何時までも仲良しこよしのお遊戯に桃子を付き合わせるのはやめろよ。いい加減にしてお前も彼女ってやつを作るんだな。これでも親切で言ってやってるんだぜ? ありがたく思えよ」
「そ、そういうわけだから悠。……悠は興味がないだろうから知らないかもしれないけど、この智君は学年でもトップクラスの成績で頭が良いし、女子に人気があるし……。ご両親やお姉さんも有名大学を出てる程なんだよ。いつまでも子供みたいには居られないよ」
「勝ち組に乗りたいってのか? そんなやり方で……。お前恥ずかしくないのかよ?!」
「おいおい、この程度の女のわがままなんて可愛いもんだろうが。見てくれで惚れさせて中身で本気にさせるのが男の度量だろ? どっちも持って無いからお前はただの幼馴染なんだよ! ほら桃子、いくら幼馴染だからって彼氏の前で他の男といつまでも喋るな。とっとと行こうぜ」
「ご、ごめんなさい。……じゃあそういうことだから、今度からはあまり話しかけないでね」
それだけ言ってそいつらは去って言った。
あいつが、あんな女だなんて思わなかった。
男は自らの戦利品を見せびらかすかのように、桃子の肩を強く抱きしめながら去って行った。
「なんだよ……俺との関係は単なるお遊びか? ふざけやがって……!」
怒りよりも悲しみに支配される。こんな経験も初めてだった。
俺はずっと昔からあいつが好きで、あいつも俺以外の男に興味が無いと言って、小中高と知られたカップルだった。それがこんなあっけなく終わるのか……。
あんなに愛していたのに、俺の人生だったのに……!
それだけ好きだった、俺の一番の理解者。どんな時でも俺の傍にいて笑ってくれていた大好きな桃子……。
涙が溢れて止まらない。
そんな状態で俺とぼとぼと歩きだし、気づいたら橋の上にいた。
「そうだ……、こんな現実は耐えられたもんじゃない。どうせ俺にはもう親だって居ないんだ、誰も悲しんじゃくれないし……死のう」
一年前に交通事故で亡くなった両親の元へ。情けない人生を生きた俺を叱ってくれる二人の元へと向かおう。
周りを見る、都合よく誰もいなかった。これで止めてくれる人間はいない。
「さようなら……」
そう言って俺は橋の上から川へと飛び込んだ。
だが――。
「ごほ!? ごほ! がぼッ!」
死ねない。苦しい。寒気がする。
自分の意志とは無関係に、体が勝手に苦しみから逃れるために岸へとたどり着いていた。
「ぁがっ! ……はっ……ぅぅ……。クソぉ、俺は死ぬこともできないって言うのかよ!」
こんなに苦しいのに。あいつらのせいでこんなに苦しいのに。
あいつらのせいで……。
…………そうだ。あいつらのせいでこんなに苦しいんだ。
頭の中がクリアになる。
その結論に至った時、俺は初めて心の底から怒りを覚えた。
「なんで俺ばっかり苦しまなくちゃいけないんだ? そうだよ!なんで俺が苦しまなくちゃいけないんだよ! 恋人だった女は俺を踏み台にして自分だけ幸せになろうとして……なのに俺は死ぬ事も出来ずに生きなきゃなんねぇのかよ! ああ?! ふざけやがって! ふざけるな……ッ!」
俺の生きる理由が見えた。それと同時に、新しい目標ができた。
あいつらに復讐をして、そして俺をこんな目に遭わせたことへの罪で苦しめてやるんだ。
そうと決まれば早速行動だ……。
俺はその日一日、桃子の本命君についての情報を学校の知り合いに聞いて調べ上げた。
俺が復讐を決意した翌日、日曜日の夕方。
桃子との楽しいデートを終えてきたであろう、智君こと永田智樹が一人になっているのを確認していた。
当たりが暗くなり始め、そして周りに人はいない。あいつはこの先にある家に帰るところだろう。
今が絶好の機会だ。
俺は気づかれないように背後へと忍び寄った。バクバクと動く心臓の痛みを抑えながら――鉄パイプを振り下ろした。
「がッ!? …………」
うまくいったようだ。気絶した永田を誰にも見られないように近くの廃倉庫へと背負って行った。
その暗い倉庫の真ん中には、その辺の置いてあった椅子が設置されてある。
そしてその周りにはデート資金を全額使い、俺が調達した”道具”が置かれていた。
俺は椅子に座らせロープで固定する。
それから色々と準備に入って数分後。俺から桃子を奪ったクソ野郎が目を覚ました。
「……ぁ。いっ! ……頭がズキズキしやがる。……なんだここ? ――な、誰だお前は?!」
「俺が誰か忘れたか? まあお前からしたら取るに足らない雑魚かもしれないがな。俺はやられたことは忘れてないぜ」
「何をわけのわからないこと言ってやがる! 離せ!! 警察を――」
「呼べるもんなら呼んでみろよ? どうせその気も直ぐ失せるさ」
俺は持っていた”道具”をわざと見せびらかすように手入れをする。
「なっ!? な、なんなんだよそれ?! お前!! そんなもんで一体何を!!?」
「これか? これはな――お前の人生をめちゃくちゃにする為のもんだよ」
自分自身聞いたことがないような低い声が出た。
今はただ、怒りが俺を支えてくれる。
「ふざけやがって!! ふざけんなよ! なんで……なんで俺がこんな目に遭わなくちゃならないんだよ?!!」
「今までやってきたことのツケだろ。聞いたぞ? 今までだって色んな女に手を出して来たそうじゃないか。だからさ――そろそろ清算して貰おうじゃないか」
「ぃ……! や、やめ……来るなぁぁぁぁ!!!!!?」
どれほど絶叫しようとこの時間、そしてこの薄暗い倉庫では虚しく響いて消えるだけだ。
永田の人生を変貌させる、その一日目が幕を開けた。
それから三週間後。
休日の午後。
幼馴染で学校のアイドルにして恋人の水木桃子と、本来ならばデートをしていた。
そんな日だったが、生憎とその相手から都合が悪くなって行けなくなったと連絡を受けた。
今日の為にというわけじゃないが、愛しい彼女のために日頃からバイトなどをしてお金を貯めて、それでいてファッション雑誌などを参考に四苦八苦しながら格好を整えたり。
そんなことをしながらワクワクして待っていたのに……。過ぎたことは仕方がない。
いつまでもデートの待ち合わせ場所にいても仕方がないので、暇つぶしに街を探索しながら時間を潰すことにした。
「デートプランはまた今度かな。結構自信があるんだ」
いかん、つまらない独り言を言ってしまった。寂しい。
そんなつまらない時間を適当に過ごしている内に――どうやら俺はホテル街へと迷い込んだようだ。
「こんなところに用は無いしなぁ。いや、彼女が居たら……ああいやいや、それはまだ早いか」
これでも健全な学生なわけだから。
とっととこの場所を去ろうとしたその瞬間だった。
目の前のホテルの入り口から飛び出してきたカップル。仲睦まじい様子のその片方、女の方に見覚えがある。そう、どう見たって俺の彼女の水木桃子だ。
「お、お前? こんなところで何やって……」
「!? ど、どうしてこんなとこに悠が?!」
「俺が質問してるだろ! おい、その男は一体誰なんだよ?!」
「そ、それは……その」
言い淀む桃子。
確定している現実だが俺は受け入れたくなかった、頼むから否定してくれ。そう心から願った。
だが、隣に立つ長い金髪で長身の日に焼けた男が卑下た声で俺に話しかけてきたのだ。
「あ? なんだよお前? 桃子さ、こいつと知り合いなわけ?」
「う、うん……ただの幼馴染、だよ」
「お、おい……?」
そんなわけがない俺と桃子は親公認の恋人だ。この間だって桃子の家で笑いながら今日のデートについて話をしていたんだ。
だがその口で否定されてしまった。
「だよな。おいただの幼馴染のお坊ちゃんが俺の女に何か用かよ? お前だって高校生だろ? 何時までも仲良しこよしのお遊戯に桃子を付き合わせるのはやめろよ。いい加減にしてお前も彼女ってやつを作るんだな。これでも親切で言ってやってるんだぜ? ありがたく思えよ」
「そ、そういうわけだから悠。……悠は興味がないだろうから知らないかもしれないけど、この智君は学年でもトップクラスの成績で頭が良いし、女子に人気があるし……。ご両親やお姉さんも有名大学を出てる程なんだよ。いつまでも子供みたいには居られないよ」
「勝ち組に乗りたいってのか? そんなやり方で……。お前恥ずかしくないのかよ?!」
「おいおい、この程度の女のわがままなんて可愛いもんだろうが。見てくれで惚れさせて中身で本気にさせるのが男の度量だろ? どっちも持って無いからお前はただの幼馴染なんだよ! ほら桃子、いくら幼馴染だからって彼氏の前で他の男といつまでも喋るな。とっとと行こうぜ」
「ご、ごめんなさい。……じゃあそういうことだから、今度からはあまり話しかけないでね」
それだけ言ってそいつらは去って言った。
あいつが、あんな女だなんて思わなかった。
男は自らの戦利品を見せびらかすかのように、桃子の肩を強く抱きしめながら去って行った。
「なんだよ……俺との関係は単なるお遊びか? ふざけやがって……!」
怒りよりも悲しみに支配される。こんな経験も初めてだった。
俺はずっと昔からあいつが好きで、あいつも俺以外の男に興味が無いと言って、小中高と知られたカップルだった。それがこんなあっけなく終わるのか……。
あんなに愛していたのに、俺の人生だったのに……!
それだけ好きだった、俺の一番の理解者。どんな時でも俺の傍にいて笑ってくれていた大好きな桃子……。
涙が溢れて止まらない。
そんな状態で俺とぼとぼと歩きだし、気づいたら橋の上にいた。
「そうだ……、こんな現実は耐えられたもんじゃない。どうせ俺にはもう親だって居ないんだ、誰も悲しんじゃくれないし……死のう」
一年前に交通事故で亡くなった両親の元へ。情けない人生を生きた俺を叱ってくれる二人の元へと向かおう。
周りを見る、都合よく誰もいなかった。これで止めてくれる人間はいない。
「さようなら……」
そう言って俺は橋の上から川へと飛び込んだ。
だが――。
「ごほ!? ごほ! がぼッ!」
死ねない。苦しい。寒気がする。
自分の意志とは無関係に、体が勝手に苦しみから逃れるために岸へとたどり着いていた。
「ぁがっ! ……はっ……ぅぅ……。クソぉ、俺は死ぬこともできないって言うのかよ!」
こんなに苦しいのに。あいつらのせいでこんなに苦しいのに。
あいつらのせいで……。
…………そうだ。あいつらのせいでこんなに苦しいんだ。
頭の中がクリアになる。
その結論に至った時、俺は初めて心の底から怒りを覚えた。
「なんで俺ばっかり苦しまなくちゃいけないんだ? そうだよ!なんで俺が苦しまなくちゃいけないんだよ! 恋人だった女は俺を踏み台にして自分だけ幸せになろうとして……なのに俺は死ぬ事も出来ずに生きなきゃなんねぇのかよ! ああ?! ふざけやがって! ふざけるな……ッ!」
俺の生きる理由が見えた。それと同時に、新しい目標ができた。
あいつらに復讐をして、そして俺をこんな目に遭わせたことへの罪で苦しめてやるんだ。
そうと決まれば早速行動だ……。
俺はその日一日、桃子の本命君についての情報を学校の知り合いに聞いて調べ上げた。
俺が復讐を決意した翌日、日曜日の夕方。
桃子との楽しいデートを終えてきたであろう、智君こと永田智樹が一人になっているのを確認していた。
当たりが暗くなり始め、そして周りに人はいない。あいつはこの先にある家に帰るところだろう。
今が絶好の機会だ。
俺は気づかれないように背後へと忍び寄った。バクバクと動く心臓の痛みを抑えながら――鉄パイプを振り下ろした。
「がッ!? …………」
うまくいったようだ。気絶した永田を誰にも見られないように近くの廃倉庫へと背負って行った。
その暗い倉庫の真ん中には、その辺の置いてあった椅子が設置されてある。
そしてその周りにはデート資金を全額使い、俺が調達した”道具”が置かれていた。
俺は椅子に座らせロープで固定する。
それから色々と準備に入って数分後。俺から桃子を奪ったクソ野郎が目を覚ました。
「……ぁ。いっ! ……頭がズキズキしやがる。……なんだここ? ――な、誰だお前は?!」
「俺が誰か忘れたか? まあお前からしたら取るに足らない雑魚かもしれないがな。俺はやられたことは忘れてないぜ」
「何をわけのわからないこと言ってやがる! 離せ!! 警察を――」
「呼べるもんなら呼んでみろよ? どうせその気も直ぐ失せるさ」
俺は持っていた”道具”をわざと見せびらかすように手入れをする。
「なっ!? な、なんなんだよそれ?! お前!! そんなもんで一体何を!!?」
「これか? これはな――お前の人生をめちゃくちゃにする為のもんだよ」
自分自身聞いたことがないような低い声が出た。
今はただ、怒りが俺を支えてくれる。
「ふざけやがって!! ふざけんなよ! なんで……なんで俺がこんな目に遭わなくちゃならないんだよ?!!」
「今までやってきたことのツケだろ。聞いたぞ? 今までだって色んな女に手を出して来たそうじゃないか。だからさ――そろそろ清算して貰おうじゃないか」
「ぃ……! や、やめ……来るなぁぁぁぁ!!!!!?」
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