3 / 9
第3話
しおりを挟む
「さようなら、我が生家」
長年過ごしたこの屋敷。
これで離れると思うと、やっぱり寂しいものがありま……。
やっぱやめよう、この口調向いてないわ。
せっかく家を出たんだからもう、お嬢様らしい喋り方とかやってらんないわ。
ああ、凝った凝った肩が凝った。
心なしか腰も痛い気がする。
やっぱり心の不調は体に出るもんなんだなあ。
さあて、どこさ行きますかねえ?
「ちょっとお待ちなさい」
「ん?」
屋敷に背を向けて、さあ旅立ちとなったところで。まさかの全くかけられた。
一体誰なんだと思ったけれども、この声の主は
振り返りざまやはりと思った
「お母様。……あっ」
「お母様ですって?」
この屋敷の当主の夫人である、ベレテレスティ・ランブレッタ様。
詰まるところ私の義母。いや、元義母である。
齢四十を超えているにも拘らず、その若さにイマイチ衰えが見えない。
どんな健康法を行なっているのだろうか? ふと思った。
それはさておき、つい癖でまたお母様と読んでしまった。
元義母が、額にしわを寄せながら私に距離を詰めてくる。
そうして飛び出してくるのはきっといつものセリフだろう。
「貴女にお母様などと呼ばれる筋合いはありません。――私のことはママと呼びなさいといつも言っているでしょう!」
「ご、ごめんなさいママ上様」
お母様。
その呼び名は私の実の母のみを指すものだから、自分のことはママと呼べと常日頃からおっしゃる。
私としては、そこにこだわりなんてあまりないんだけどね。
だいたい、ボルディにはお母様と呼ばれてるんだからいいじゃないのさ。ダメ?
ダメか。
「それで、ママ上様は一体何をしにここへ? 御付きもつけずに、外へ出るなんて珍しい」
「貴女、それは本気でおっしゃっているのですか? まあよいでしょう。折角ですので、元娘に対してせめてもの、せめてものッ! お見送りでもして差し上げようかと、そう思った次第です」
「は、はあ……」
何故だろう、いつも以上に当たりが強いようなそんな気がしてくる。
ふとそんなことが疑問に思ったが、気が付くと私は手を強く握りしめられていた。
「あ、あの……」
「当主様のお決めになられた事故《ことゆえ》、こちらも口出すつもりはございませんが。これが母としての最期の語らいにもなりましょう。しかし私は多くは語りません、風邪などひかぬよう健康には気を使いなさい。それだけです」
「はあ……」
いや、それだけって言うけれどもね。
「あの、ママ上様? でしたらそろそろ手を離して頂きたいのですが?」
「何をおっしゃるのです? この私の細腕など、すぐに振り払えるでしょう?それが出来ないということは貴女にまだ未練があるということです」
「え、普通に手が痛いんですが? ちょ、ちょっとそんなに握りしめられても……。強い、強いかなって。そろそろやめてほしいかなって」
「言い訳ですか? しかしそれでも手に痛みを感じると言い張るのであれば、それは母の痛……、いえ、もう母娘ではありませんね。では、あれです、やはり物理的な握力です」
「本当にそう言い切っていいんですね!? もうむちゃくちゃですよ!」
そんなやり取りもあったが、なんやかんやで私はやはり家を出ることになった。
そうこれは新しい門出、新しい私のスタートであるのだ。
見よ! この軽やかな足取りを!
……勢いで街へと飛び出したはいいものの、
やっぱり勢いで行動するもんじゃないなぁ。
とりあえずお小遣いはあるし、安宿を拠点にして住み込みのバイトでも探すか。
長年過ごしたこの屋敷。
これで離れると思うと、やっぱり寂しいものがありま……。
やっぱやめよう、この口調向いてないわ。
せっかく家を出たんだからもう、お嬢様らしい喋り方とかやってらんないわ。
ああ、凝った凝った肩が凝った。
心なしか腰も痛い気がする。
やっぱり心の不調は体に出るもんなんだなあ。
さあて、どこさ行きますかねえ?
「ちょっとお待ちなさい」
「ん?」
屋敷に背を向けて、さあ旅立ちとなったところで。まさかの全くかけられた。
一体誰なんだと思ったけれども、この声の主は
振り返りざまやはりと思った
「お母様。……あっ」
「お母様ですって?」
この屋敷の当主の夫人である、ベレテレスティ・ランブレッタ様。
詰まるところ私の義母。いや、元義母である。
齢四十を超えているにも拘らず、その若さにイマイチ衰えが見えない。
どんな健康法を行なっているのだろうか? ふと思った。
それはさておき、つい癖でまたお母様と読んでしまった。
元義母が、額にしわを寄せながら私に距離を詰めてくる。
そうして飛び出してくるのはきっといつものセリフだろう。
「貴女にお母様などと呼ばれる筋合いはありません。――私のことはママと呼びなさいといつも言っているでしょう!」
「ご、ごめんなさいママ上様」
お母様。
その呼び名は私の実の母のみを指すものだから、自分のことはママと呼べと常日頃からおっしゃる。
私としては、そこにこだわりなんてあまりないんだけどね。
だいたい、ボルディにはお母様と呼ばれてるんだからいいじゃないのさ。ダメ?
ダメか。
「それで、ママ上様は一体何をしにここへ? 御付きもつけずに、外へ出るなんて珍しい」
「貴女、それは本気でおっしゃっているのですか? まあよいでしょう。折角ですので、元娘に対してせめてもの、せめてものッ! お見送りでもして差し上げようかと、そう思った次第です」
「は、はあ……」
何故だろう、いつも以上に当たりが強いようなそんな気がしてくる。
ふとそんなことが疑問に思ったが、気が付くと私は手を強く握りしめられていた。
「あ、あの……」
「当主様のお決めになられた事故《ことゆえ》、こちらも口出すつもりはございませんが。これが母としての最期の語らいにもなりましょう。しかし私は多くは語りません、風邪などひかぬよう健康には気を使いなさい。それだけです」
「はあ……」
いや、それだけって言うけれどもね。
「あの、ママ上様? でしたらそろそろ手を離して頂きたいのですが?」
「何をおっしゃるのです? この私の細腕など、すぐに振り払えるでしょう?それが出来ないということは貴女にまだ未練があるということです」
「え、普通に手が痛いんですが? ちょ、ちょっとそんなに握りしめられても……。強い、強いかなって。そろそろやめてほしいかなって」
「言い訳ですか? しかしそれでも手に痛みを感じると言い張るのであれば、それは母の痛……、いえ、もう母娘ではありませんね。では、あれです、やはり物理的な握力です」
「本当にそう言い切っていいんですね!? もうむちゃくちゃですよ!」
そんなやり取りもあったが、なんやかんやで私はやはり家を出ることになった。
そうこれは新しい門出、新しい私のスタートであるのだ。
見よ! この軽やかな足取りを!
……勢いで街へと飛び出したはいいものの、
やっぱり勢いで行動するもんじゃないなぁ。
とりあえずお小遣いはあるし、安宿を拠点にして住み込みのバイトでも探すか。
0
お気に入りに追加
207
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたのたが、兄上がチートでツラい。
藤宮
恋愛
「ローズ。貴様のティルナシア・カーターに対する数々の嫌がらせは既に明白。そのようなことをするものを国母と迎え入れるわけにはいかぬ。よってここにアロー皇国皇子イヴァン・カイ・アローとローザリア公爵家ローズ・ロレーヌ・ローザリアの婚約を破棄する。そして、私、アロー皇国第二皇子イヴァン・カイ・アローは真に王妃に相応しき、このカーター男爵家令嬢、ティルナシア・カーターとの婚約を宣言する」
婚約破棄モノ実験中。名前は使い回しで←
うっかり2年ほど放置していた事実に、今驚愕。
執着王子の唯一最愛~私を蹴落とそうとするヒロインは王子の異常性を知らない~
犬の下僕
恋愛
公爵令嬢であり第1王子の婚約者でもあるヒロインのジャンヌは学園主催の夜会で突如、婚約者の弟である第二王子に糾弾される。「兄上との婚約を破棄してもらおう」と言われたジャンヌはどうするのか…
悪役令嬢は、いつでも婚約破棄を受け付けている。
ao_narou
恋愛
自身の愛する婚約者――ソレイル・ディ・ア・ユースリアと平民の美少女ナナリーの密会を知ってしまった悪役令嬢――エリザベス・ディ・カディアスは、自身の思いに蓋をしてソレイルのため「わたくしはいつでも、あなたからの婚約破棄をお受けいたしますわ」と言葉にする。
その度に困惑を隠せないソレイルはエリザベスの真意に気付くのか……また、ナナリーとの浮気の真相は……。
ちょっとだけ変わった悪役令嬢の恋物語です。
とある悪役令嬢は婚約破棄後に必ず処刑される。けれど彼女の最期はいつも笑顔だった。
三月叶姫
恋愛
私はこの世界から嫌われている。
みんな、私が死ぬ事を望んでいる――。
とある悪役令嬢は、婚約者の王太子から婚約破棄を宣言された後、聖女暗殺未遂の罪で処刑された。だが、彼女は一年前に時を遡り、目を覚ました。
同じ時を繰り返し始めた彼女の結末はいつも同じ。
それでも、彼女は最期の瞬間は必ず笑顔を貫き通した。
十回目となった処刑台の上で、ついに貼り付けていた笑顔の仮面が剥がれ落ちる。
涙を流し、助けを求める彼女に向けて、誰かが彼女の名前を呼んだ。
今、私の名前を呼んだのは、誰だったの?
※こちらの作品は他サイトにも掲載しております
悪役公爵の養女になったけど、可哀想なパパの闇墜ちを回避して幸せになってみせる! ~原作で断罪されなかった真の悪役は絶対にゆるさない!
朱音ゆうひ
恋愛
孤児のリリーは公爵家に引き取られる日、前世の記憶を思い出した。
「私を引き取ったのは、愛娘ロザリットを亡くした可哀想な悪役公爵パパ。このままだとパパと私、二人そろって闇墜ちしちゃう!」
パパはリリーに「ロザリットとして生きるように」「ロザリットらしく振る舞うように」と要求してくる。
破滅はやだ! 死にたくない!
悪役令嬢ロザリットは、悲劇回避のためにがんばります!
別サイトにも投稿しています(https://ncode.syosetu.com/n0209ip/)
婚約破棄されたおっとり令嬢は「実験成功」とほくそ笑む
柴野
恋愛
おっとりしている――つまり気の利かない頭の鈍い奴と有名な令嬢イダイア。
周囲からどれだけ罵られようとも笑顔でいる様を皆が怖がり、誰も寄り付かなくなっていたところ、彼女は婚約者であった王太子に「真実の愛を見つけたから気味の悪いお前のような女はもういらん!」と言われて婚約破棄されてしまう。
しかしそれを受けた彼女は悲しむでも困惑するでもなく、一人ほくそ笑んだ。
「実験成功、ですわねぇ」
イダイアは静かに呟き、そして哀れなる王太子に真実を教え始めるのだった。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
断罪されて婚約破棄される予定のラスボス公爵令嬢ですけど、先手必勝で目にもの見せて差し上げましょう!
ありあんと
恋愛
ベアトリクスは突然自分が前世は日本人で、もうすぐ婚約破棄されて断罪される予定の悪役令嬢に生まれ変わっていることに気がついた。
気がついてしまったからには、自分の敵になる奴全部酷い目に合わせてやるしか無いでしょう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる