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第16話 終幕
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ああ……サーライル! 君だけが私を昂ぶらせる!! 私に生の歓びを感じさせてくれる!!!
私はその興奮を抑えながら、彼の復讐を正面から受け止める。
こうなると彼を手に掛けるのは実に惜しい、ですから一つ質問を投げかけます。
「どうです? この際、今度こそ私達二人だけで旅を再び始めるというのは? 賑やかさは物足りないかも知れませんが……そういう静かな関係を楽しむというのも趣があると思うのですが……」
「聞く耳持たん!! 何が旅だ? お前はそうやってこれから先もっ、この俺を馬鹿にし続けるってのか!!」
そんなつもりは無いのですが、すれ違いというものは悲しいものですね。
しかし、仕方がありません。彼が旅を望まないのであれば……今度こそこの手で彼という作品を私の心の中心で永遠のものと変えて差し上げましょう。
いつも二人、この一つの身に存在する。思わず高揚してしまいますね。
なにより……彼が他人の物となる事も無い。
「どうしてだ?! どうして俺を傷つける! 俺の何がそこまで気に入らなかった?!!」
おや? やはりと言いますか、彼は誤解をしているようです。
気に入らない。そんなはずはありません。
私にとって、サーライル程に愛おしい存在などない。
「逆ですよ。さっきも言いましたが、好きだからこそ手に掛けたい。君と共に過ごしたこの記憶は私の最大の宝物。君のその感情も――」
拳打を掻い潜り、その懐へと潜り込むと……彼の耳元へ口を近づけ囁きました。
「――君の声もその肌の匂いも、全て。さらなる芸術へと完成させる為には私の手で終わらせなけれなばならない」
「ッ!!? イカれてやがる……!」
「一般的なまともな感性など持っていては……愛というものは理屈で手には出来ないものですので」
「聖職者の言う事か!!」
「神に仕えるからこそ、ですよ。人の考えのままでは人を助ける事も導く事も出来ません。超越とは倫理を超える事です。おわかりになりましたか?」
「わかってたまるかよッ!」
この問答は楽しい。命のやりとりの中に生の実感を得られ、私は彼の魂がさらなる輝きを放つのを感じずにはいられません。
ですが、時間とは限りあるもの。いつまでも楽しんではいられません。
この両手の籠手に力を込め、次の一撃に全てを掛けて挑む。
「わからない……わからねぇが――」
「ん?」
彼が両手をだらりと下ろし、ブツブツと何かを呟いていました。
とうとう覚悟を決めたのでしょうか? 私の物となる覚悟を。
では、その期待に応えてその”死”を頂くといたしましょうか。
「さあ――フィナーレですッ!」
足に込めた力を解放、勢いよく飛び出して彼に向けて拳を向けます。
(これからは私の中で溶け合いましょう……今度こそ、私の……っ)
この拳が彼に到達した時、――そこに感触は無く、彼はその身を黒く染めると霧のように消えてしまいました。
「え? ――がッ!?」
突然、後頭部を万力のような力で押さえられ、激しい痛みが襲いました。
一体何事かと思い、必死に視線だけを横に向けました。
「お前の考えはわからない。でもな! お前を絶望させる方法ならわかったぜ」
「な、なに……を……!?」
私の頭を掴んでいたのは彼の手。その彼が何かを叫ぶと、その黒い籠手が鈍く光ったような気がしました。
次の瞬間、私の中から”何か”が消えていく感覚に襲われました。
これは……記憶!?
次々と私の記憶が無くなっていく感覚。
まずは最近の……何故ここに私が居るのか?
何故私は旅に出たのか?
何故君が私を傷つける?
……どうして”ぼく”にこんなことをするの?
「あ、あなたは誰? 何をしてるの? ど、どうしてぼくの頭を……?」
「……さあ、大好きなお友達の名前でも叫んでみたらわかるんじゃないのか?」
「友達……? そ、そうだ! サー……あえ? とも、だち? ――アアアッッ!!?」
だれ? なに? ……ぼくは、だれ?
「あ、ああ……」
「一つわかった事があった。ただお前を殺したって、きっとそれはそれでお前は満足するんだってな」
「ぁ……」
「だから記憶を奪ってやった。お前の大事な”俺”の記憶もな。――あばよ、どこかの誰かさん」
だれかが、ぼくのむかってこぶしをむけてきた。
あれは……。
「おかあさ――」
◇◇◇
「……クアン、せめてまとな家庭で生まれてたなら」
最早物言わぬ死体となり果てたかつての親友の姿を見る。
虐待の末に引き取られたんだったな。
こいつの母親は幼いこいつを殴るだけ殴った後、浴びるように酒を飲んで……そのまま死んだらしい。父親はどこの誰かはわからない。
その話を聞いたのは俺が村を出る前の日、先生の呼び出されて聞かされたんだったな。
それはこいつも知らない話だ。孤児院に来る前の記憶があやふやになっていたから。
あの孤児院に来た時点で、こいつはもう壊れてたんだろう。
「だからって、同情なんて全く出来ないがな……」
こいつが俺にした事は、何があったって許せるもんじゃない。
俺の人生を滅茶苦茶にしていい権利がこんな奴にあっていい訳がない。
……もう、滅茶苦茶になっちまった後だけどな。
周りに人も居ない廃教会だ、いくら騒いでも問題無かった。
死体も庭に埋めたし、発見される頃には骨になってるだろう。
あいつが持っていたアイテムは、あいつが死ぬと同時に綺麗に消えてなくなった。
そんな俺が持っていたあの籠手にしたって、同じように消えてしまったしな。
結局何だったのか……。
夜になって賑わいを見せる街を、その街から離れた丘の上から見下ろしながら物思いに軽くふけっていた。
「……これで終わった。さて、これから一人で何処に行こうか……」
宛ては無い。だが故郷にはまだ戻る気にもなれない。
唯一つ確かなのは、色々あったあの街からは離れたいって気持ちだ。
もうここに来る事も無いだろうし、来たくも無い。
ペンダントが無くなった首元に寂しさを覚え、ふと、ポケットに入れていた物を取り出して代わりに身に着ける事にした。
俺がその昔、好きだった女にプレゼントした――。
私はその興奮を抑えながら、彼の復讐を正面から受け止める。
こうなると彼を手に掛けるのは実に惜しい、ですから一つ質問を投げかけます。
「どうです? この際、今度こそ私達二人だけで旅を再び始めるというのは? 賑やかさは物足りないかも知れませんが……そういう静かな関係を楽しむというのも趣があると思うのですが……」
「聞く耳持たん!! 何が旅だ? お前はそうやってこれから先もっ、この俺を馬鹿にし続けるってのか!!」
そんなつもりは無いのですが、すれ違いというものは悲しいものですね。
しかし、仕方がありません。彼が旅を望まないのであれば……今度こそこの手で彼という作品を私の心の中心で永遠のものと変えて差し上げましょう。
いつも二人、この一つの身に存在する。思わず高揚してしまいますね。
なにより……彼が他人の物となる事も無い。
「どうしてだ?! どうして俺を傷つける! 俺の何がそこまで気に入らなかった?!!」
おや? やはりと言いますか、彼は誤解をしているようです。
気に入らない。そんなはずはありません。
私にとって、サーライル程に愛おしい存在などない。
「逆ですよ。さっきも言いましたが、好きだからこそ手に掛けたい。君と共に過ごしたこの記憶は私の最大の宝物。君のその感情も――」
拳打を掻い潜り、その懐へと潜り込むと……彼の耳元へ口を近づけ囁きました。
「――君の声もその肌の匂いも、全て。さらなる芸術へと完成させる為には私の手で終わらせなけれなばならない」
「ッ!!? イカれてやがる……!」
「一般的なまともな感性など持っていては……愛というものは理屈で手には出来ないものですので」
「聖職者の言う事か!!」
「神に仕えるからこそ、ですよ。人の考えのままでは人を助ける事も導く事も出来ません。超越とは倫理を超える事です。おわかりになりましたか?」
「わかってたまるかよッ!」
この問答は楽しい。命のやりとりの中に生の実感を得られ、私は彼の魂がさらなる輝きを放つのを感じずにはいられません。
ですが、時間とは限りあるもの。いつまでも楽しんではいられません。
この両手の籠手に力を込め、次の一撃に全てを掛けて挑む。
「わからない……わからねぇが――」
「ん?」
彼が両手をだらりと下ろし、ブツブツと何かを呟いていました。
とうとう覚悟を決めたのでしょうか? 私の物となる覚悟を。
では、その期待に応えてその”死”を頂くといたしましょうか。
「さあ――フィナーレですッ!」
足に込めた力を解放、勢いよく飛び出して彼に向けて拳を向けます。
(これからは私の中で溶け合いましょう……今度こそ、私の……っ)
この拳が彼に到達した時、――そこに感触は無く、彼はその身を黒く染めると霧のように消えてしまいました。
「え? ――がッ!?」
突然、後頭部を万力のような力で押さえられ、激しい痛みが襲いました。
一体何事かと思い、必死に視線だけを横に向けました。
「お前の考えはわからない。でもな! お前を絶望させる方法ならわかったぜ」
「な、なに……を……!?」
私の頭を掴んでいたのは彼の手。その彼が何かを叫ぶと、その黒い籠手が鈍く光ったような気がしました。
次の瞬間、私の中から”何か”が消えていく感覚に襲われました。
これは……記憶!?
次々と私の記憶が無くなっていく感覚。
まずは最近の……何故ここに私が居るのか?
何故私は旅に出たのか?
何故君が私を傷つける?
……どうして”ぼく”にこんなことをするの?
「あ、あなたは誰? 何をしてるの? ど、どうしてぼくの頭を……?」
「……さあ、大好きなお友達の名前でも叫んでみたらわかるんじゃないのか?」
「友達……? そ、そうだ! サー……あえ? とも、だち? ――アアアッッ!!?」
だれ? なに? ……ぼくは、だれ?
「あ、ああ……」
「一つわかった事があった。ただお前を殺したって、きっとそれはそれでお前は満足するんだってな」
「ぁ……」
「だから記憶を奪ってやった。お前の大事な”俺”の記憶もな。――あばよ、どこかの誰かさん」
だれかが、ぼくのむかってこぶしをむけてきた。
あれは……。
「おかあさ――」
◇◇◇
「……クアン、せめてまとな家庭で生まれてたなら」
最早物言わぬ死体となり果てたかつての親友の姿を見る。
虐待の末に引き取られたんだったな。
こいつの母親は幼いこいつを殴るだけ殴った後、浴びるように酒を飲んで……そのまま死んだらしい。父親はどこの誰かはわからない。
その話を聞いたのは俺が村を出る前の日、先生の呼び出されて聞かされたんだったな。
それはこいつも知らない話だ。孤児院に来る前の記憶があやふやになっていたから。
あの孤児院に来た時点で、こいつはもう壊れてたんだろう。
「だからって、同情なんて全く出来ないがな……」
こいつが俺にした事は、何があったって許せるもんじゃない。
俺の人生を滅茶苦茶にしていい権利がこんな奴にあっていい訳がない。
……もう、滅茶苦茶になっちまった後だけどな。
周りに人も居ない廃教会だ、いくら騒いでも問題無かった。
死体も庭に埋めたし、発見される頃には骨になってるだろう。
あいつが持っていたアイテムは、あいつが死ぬと同時に綺麗に消えてなくなった。
そんな俺が持っていたあの籠手にしたって、同じように消えてしまったしな。
結局何だったのか……。
夜になって賑わいを見せる街を、その街から離れた丘の上から見下ろしながら物思いに軽くふけっていた。
「……これで終わった。さて、これから一人で何処に行こうか……」
宛ては無い。だが故郷にはまだ戻る気にもなれない。
唯一つ確かなのは、色々あったあの街からは離れたいって気持ちだ。
もうここに来る事も無いだろうし、来たくも無い。
ペンダントが無くなった首元に寂しさを覚え、ふと、ポケットに入れていた物を取り出して代わりに身に着ける事にした。
俺がその昔、好きだった女にプレゼントした――。
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