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第10話 払拭
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人込みに紛れたそれらしき人物を追って、それがいつの間にか消えた。と思えばまた見つけて追いかける。
何をしているんだと自分でも思う。どうかしてるんじゃないかと、正気ではない。
そもそも、何故死人に似た姿を追いかける必要がある? 私の人生において価値の無い男の幻影など、拭い去るように忘れてしまえばいいだけなのに。
そう自分に言い聞かせても、私の足はそれを追いかけ、私の目はそれを捉え続ける。
無駄な時間を続ける事、どれくらいか?
気付けば奴と私の周りには人など居なくなっていて、此処は街の裏通り。
それでも足を止めない奴は、未だ先を進んで行く。
(何処へ……?)
何処だろうと、私には関係が無いというのに。
悟られらないように気配を消して後をつける。
ついには人の喧騒すらも聞こえなくなってしまった。
街はずれ、朝だというのに薄暗い森の中へと入ってから気づいた。
「まさかついて来るなんてな」
ついに奴が振り向いた。
(気づいていたのか。誘い込まれた……?)
いや、そういう口ぶりではない。
「お前は誰だ? 何故、私の知っている男の姿をしている?」
外れてくれという思いがほとんど、そうであってくれという思いを僅かに抱きながらも私は質問した。
「知っているだろうさ。だが信じられもしねえはずだ。自分の殺した男が姿を見せて、それで動揺もしないっては……それほど俺の事がどうでもいいって証拠か?」
そう言われて、こちらは返す言葉に迷う。
声が聴こえた時、半ば確信していた。その男の正体。
この数ヶ月、私を惑わして来た男だ。悪霊ではない。生きて再び私の前に現れたのだ。
あの頃、私の話し掛けてきた優しい声色など微塵もなく。
唾を吐き捨てるような侮蔑が、その声とそしてその目元に浮かんでいた。
腰から剣を抜く。そして男に剣先を向けるように突き付ける。
敵を見れば行ういつもの行為。だが、私は剣に対していつもと違い感情を乗せていた。そんな気がする。
敵とは処理するもの。あの時、この男にそうしたように。
だが今は……。
「何故現れた? 生き延びたから復讐でもしたいとでも? お前はっ、恐怖に慄いたまま身を隠して過ごせばよかったのだ。そうすれば二度も死に目に合わずに済んだ」
「驕りってんだよ。お前、俺がそのつもりならそもそもこんな街にやって来やしないって分からないかよ?」
「……勝てるものか」
呟く私の声に、さして思うところもないのか鼻を鳴らすだけで返してくる。
(何を恐れる、ただ死が先延ばしになっていただけだ。ここで仕留めればよし)
そうだ、ここで悪縁を払い除ける。
かつての恋人といっても、所詮は偽りのものでしかない。少なくとも私にとってはそうだ。
『ラキナ。お前には必要ないかもしれないけどもさ、何かあったら盾くらいにはなって逃がすくらいやってやるさ。情けない彼氏じゃ終われないってところをちゃんと見せてやるよ』
『馬鹿を言うな。私の男ならばらしき生きてみせろ。お前の骨など拾ってはやらんぞ』
……黙れ!
「今更っ、――私をまやかすんじゃない!!」
何をしているんだと自分でも思う。どうかしてるんじゃないかと、正気ではない。
そもそも、何故死人に似た姿を追いかける必要がある? 私の人生において価値の無い男の幻影など、拭い去るように忘れてしまえばいいだけなのに。
そう自分に言い聞かせても、私の足はそれを追いかけ、私の目はそれを捉え続ける。
無駄な時間を続ける事、どれくらいか?
気付けば奴と私の周りには人など居なくなっていて、此処は街の裏通り。
それでも足を止めない奴は、未だ先を進んで行く。
(何処へ……?)
何処だろうと、私には関係が無いというのに。
悟られらないように気配を消して後をつける。
ついには人の喧騒すらも聞こえなくなってしまった。
街はずれ、朝だというのに薄暗い森の中へと入ってから気づいた。
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いや、そういう口ぶりではない。
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外れてくれという思いがほとんど、そうであってくれという思いを僅かに抱きながらも私は質問した。
「知っているだろうさ。だが信じられもしねえはずだ。自分の殺した男が姿を見せて、それで動揺もしないっては……それほど俺の事がどうでもいいって証拠か?」
そう言われて、こちらは返す言葉に迷う。
声が聴こえた時、半ば確信していた。その男の正体。
この数ヶ月、私を惑わして来た男だ。悪霊ではない。生きて再び私の前に現れたのだ。
あの頃、私の話し掛けてきた優しい声色など微塵もなく。
唾を吐き捨てるような侮蔑が、その声とそしてその目元に浮かんでいた。
腰から剣を抜く。そして男に剣先を向けるように突き付ける。
敵を見れば行ういつもの行為。だが、私は剣に対していつもと違い感情を乗せていた。そんな気がする。
敵とは処理するもの。あの時、この男にそうしたように。
だが今は……。
「何故現れた? 生き延びたから復讐でもしたいとでも? お前はっ、恐怖に慄いたまま身を隠して過ごせばよかったのだ。そうすれば二度も死に目に合わずに済んだ」
「驕りってんだよ。お前、俺がそのつもりならそもそもこんな街にやって来やしないって分からないかよ?」
「……勝てるものか」
呟く私の声に、さして思うところもないのか鼻を鳴らすだけで返してくる。
(何を恐れる、ただ死が先延ばしになっていただけだ。ここで仕留めればよし)
そうだ、ここで悪縁を払い除ける。
かつての恋人といっても、所詮は偽りのものでしかない。少なくとも私にとってはそうだ。
『ラキナ。お前には必要ないかもしれないけどもさ、何かあったら盾くらいにはなって逃がすくらいやってやるさ。情けない彼氏じゃ終われないってところをちゃんと見せてやるよ』
『馬鹿を言うな。私の男ならばらしき生きてみせろ。お前の骨など拾ってはやらんぞ』
……黙れ!
「今更っ、――私をまやかすんじゃない!!」
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