愛する婚約者に裏切られた貧乏令嬢に手を差し伸べたのは果たして?

こまの ととと

文字の大きさ
上 下
2 / 10

第2話 絶望の日々

しおりを挟む
 見つめ合う二人。熱をぶつけ合う様に、周りも心からの祝福を贈る。

「エレット様、やはり貴方様こそが私の運命のお方」

「ベーレルっ!」

 王女と彼の互いの手を取り合い指を絡め合う。それはまさにお似合いの二人なのだろう。

 私の人生は……一体なんだったんだろう? 彼の眼差し、元は私のものだったのに……。

 私は声を震わしながらも、口を開く。

「これからの二人の未来に幸多からん事を」

「ありがとうございます。貴女のようなお人に祝ってもらえて感謝しかありません」

 王女はそう言って私に笑いかけた。

 そして……彼の視線には私に対する侮蔑の色が宿っていた。

 エレットにとって最高の晴れ舞台だったに違いない。何故なら彼はこの国の王女の婚約者となれたのだから。


 夜会の場を去る。

 もはや私は完全な異物だった。ここに居てもみじめになるだけ。周りの貴族の談笑のネタにされるだけだ。

 後ろを振り返れば、私の存在など最初から無かったかのように盛大に祝われていた。

 その人々のざわめきの何もかもが耳に障った。



 そこからどうやって屋敷に戻ったのか、正直覚えては居なかった。

 ただ気づくと玄関を潜りぬけ、私の視線はうつむいて下を向いていた。

 出迎えてくれたのは唯一の使用人、亡くなった私の母代わりでもあるメイドだった。彼女は私の様子を見るなりただ一言、「ごゆっくりお休みくださいませ」とだけ告げた。

 彼女に手を引かれるまま、部屋へと戻る……。

 一人になった自室、着替える事もせずに私は――ベッドで一晩、声を殺しながら泣き続けた。



 数日の後、王女の正式な婚約が国中を駆け巡った。

 王女の現婚約者であるエレット、彼と私が婚約をしていた事を知る人物は然程多くは無い。彼自身が言いふらすの嫌がったからだ。

 正式な結婚を迎えるまで周囲には内緒にして驚かせたい、そんな彼の言葉を聞いて、なんて慎ましいお方と思った……思っていた。

 なのに、今までが何だったのかと思える程に大勢の前で振られてしまった。
 国中ではないにしろ、貴族たちの間では笑い話になっている事だろう。

 もしかしたら、出会った時点で私は単なる滑り止め要員と見られていたのかもしれない。私の家は貧乏男爵家だが、それでも歴史だけはある。妥協点としては有り、程度の認識でしか無かったんだろうか?

 しかし彼の家である侯爵家は王家とも縁が深く、国でも屈指の大貴族だ。
 その令息と最も釣り合うのは王女ぐらいだろう。誰が見てもそうだ。

 そんな二人が結ばれるのは当然の事だったかもしれない。

「これじゃ唯の道化。私の人生ってなんだったんだろう? 貧乏人は人をまともに愛する事も許されないの?」

 私は今日もまた、一人の自室で呟く。

 食事以外この部屋から出れないでいる。その気が起きないのだ。

「みんなもそう思ってるんでしょ? 私なんかが夢を見るなって」

 誰にも聞かれないから……、誰も聞いてくれないから言葉を続けるのだった。

「エレットも王女の婚約者になれたんだし幸せだよね! ああそうよ! 今までその幸せ気分を味わえたんだから、私に文句を言う資格は無いって! ……元に戻っただけ。みじめが私にはお似合いよ」

 コンコン。ドアを叩く音が聞こえて来た。

「失礼します。お嬢様、お客様がお見えになられました」

 メイドが入ってくる。そして私の顔を見て少しだけ悲しそうな表情を浮かべた。

「……体調が優れないようでしたらお帰り頂きますが?」

「いや……いい。心配かけてごめんなさい」

 私はそう言って無理に微笑む。しかし彼女の表情は晴れない。

「わかりました。では応接室にてお待ちですので……お着換えが済み次第お越しくださいませ」

「うん、ありがとう」

 そう言って彼女は去って行く。

 私は部屋着から着替えるのだった。
しおりを挟む
script?guid=on
感想 1

あなたにおすすめの小説

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

愚者(バカ)は不要ですから、お好きになさって?

海野真珠
恋愛
「ついにアレは捨てられたか」嘲笑を隠さない言葉は、一体誰が発したのか。 「救いようがないな」救う気もないが、と漏れた本音。 「早く消えればよろしいのですわ」コレでやっと解放されるのですもの。 「女神の承認が下りたか」白銀に輝く光が降り注ぐ。

私を婚約破棄に追い込んだ令嬢は、あなた以外の男性とお付き合いしてるのはご存知ですか。

十条沙良
恋愛
あなたはご存知ですか?カミラは他の男性ともお付き合いしてる事を。

【完結】己の行動を振り返った悪役令嬢、猛省したのでやり直します!

みなと
恋愛
「思い出した…」 稀代の悪女と呼ばれた公爵家令嬢。 だが、彼女は思い出してしまった。前世の己の行いの数々を。 そして、殺されてしまったことも。 「そうはなりたくないわね。まずは王太子殿下との婚約解消からいたしましょうか」 冷静に前世を思い返して、己の悪行に頭を抱えてしまうナディスであったが、とりあえず出来ることから一つずつ前世と行動を変えようと決意。 その結果はいかに?! ※小説家になろうでも公開中

あなたがわたしを本気で愛せない理由は知っていましたが、まさかここまでとは思っていませんでした。

ふまさ
恋愛
「……き、きみのこと、嫌いになったわけじゃないんだ」  オーブリーが申し訳なさそうに切り出すと、待ってましたと言わんばかりに、マルヴィナが言葉を繋ぎはじめた。 「オーブリー様は、決してミラベル様を嫌っているわけではありません。それだけは、誤解なきよう」  ミラベルが、当然のように頭に大量の疑問符を浮かべる。けれど、ミラベルが待ったをかける暇を与えず、オーブリーが勢いのまま、続ける。 「そう、そうなんだ。だから、きみとの婚約を解消する気はないし、結婚する意思は変わらない。ただ、その……」 「……婚約を解消? なにを言っているの?」 「いや、だから。婚約を解消する気はなくて……っ」  オーブリーは一呼吸置いてから、意を決したように、マルヴィナの肩を抱き寄せた。 「子爵令嬢のマルヴィナ嬢を、あ、愛人としてぼくの傍に置くことを許してほしい」  ミラベルが愕然としたように、目を見開く。なんの冗談。口にしたいのに、声が出なかった。

婚約破棄されてしまいました。別にかまいませんけれども。

ココちゃん
恋愛
よくある婚約破棄モノです。 ざまぁあり、ピンク色のふわふわの髪の男爵令嬢ありなやつです。 短編ですので、サクッと読んでいただけると嬉しいです。 なろうに投稿したものを、少しだけ改稿して再投稿しています。  なろうでのタイトルは、「婚約破棄されました〜本当に宜しいのですね?」です。 どうぞよろしくお願いしますm(._.)m

処理中です...