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第5話 磨き上げたもの

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「ちぃっ! 相手は速度が乗ってるわ、でもそんな程度のスピードなら……!」

 いくら横並びの状態とはいえ相手はアウト。インのこちらが確実に有利。
 それに馬力差から考えて、いくらスピードが乗った相手でも……!

 コーナー入口、ブレーキングに入った私の隣にあの醜いFAが並ぶ。
 それだけでも嫌気が差す。貧弱なくせにバトルマシンを装うその姿、反吐が出て仕方が無い。

 ここでちぎって……何!?

「前に出たですって!? ……大丈夫よ何を焦ってるの私。バトルはまだ始まったばかり、このくらいの華……持たせた方がむしろこちらの格好がつくというものッ」

 それに相手はまだ抜け切れたというわけじゃない。

 この先はコース最長のストレート。パワーで勝る以上どうとでもなるポイントだ。

「そうよ……。ふふ、むしろあの娘の希望を摘むのにいいポイントだわ」

 そう思っていた、こちらにはまだ全くの余裕があると……。

 ◇◇◇

 このストレート、コースで最も加速が要求されるポイントですの。
 パワーの無いこの子にとっては最大の泣き所でもありますわ。

 力強くアクセルを踏み切るわたくしのFASの隣、彼女のLKがブースト圧を上げていましたわ。

 彼女にとってもここは仕掛けるポイント、むしろLKが最も得意とする戦場でございましてよ。

 たやすく前に出た……いえ、出させたこのストレート。
 さあ――今こそ度肝を抜く瞬間ですわッ!!

 狙うはそう、コーナーのイン……そのさらに内側にある――ッ。

 狙いは決して外しませんわ!!

 ◇◇◇

 また抜かれた!?

 いえ、あの娘はさっき私よりも前に出ていた。
 加速が乗っていた分、此方を抜きやすかったという事ね。

 でもそれだけじゃ――なんですって!!?

「あ、ありえない……! そ、そんなバカな!?」

 だってそうでしょう。確かにFAはオーバースピードでコーナーへと入った。
 横並びにアウトを取らざるを得なかったとはいえ、焦る必要はない。
 あんな無茶な加速ではブレーキにも相応に気を付けなければならないからだ。

 このLKの戦闘力ならアウトからでも抜き返せる。
 相手が立ち上がりに手間取ってる間に優雅に再加速出来る。そのはずだったのに……。


 ありえないものを見た。


 ◇◇◇

 ガードレール外。
 ギャラリーたちは派手な立ち回りを見せたFAに大歓声をあげざるを得なかった。

「うおおお!! な、なんだあのFA!? こ、コーナリングで加速して行きやがったぞ!!」

「うそだろおい!? どうやったらあんな事が出来る?!」

「普通コーナリングってのはスピードを落とさなきゃ抜けないはずだぜ? お、俺目がおかしくなっちまったのか!?」

 ◇◇◇

 遠くに歓声を置き去りにしてわたくしは前へと出ましたの。

 きっと皆さん驚いた事でしょうね。
 これこそが師匠との特訓の成果……! この峠だからこそ使用できる秘技!

 あのストレート終点のコーナーには小さな側溝が彫られておりますの。
 これにイン側のタイヤを引っ掛ける事によって――スピードの減速をコーナリング中に取り戻す事が出来るんですわ!

 本来オーバースピードで進入すればアウト側へ膨らむのは確実。
 しかし、側溝に落としたタイヤがそれを防ぐんですわ!

 進入時よりも鋭さを増しながら、コーナーを抜けて行くこの感覚っ!

 わたくしも初めて聞いた時は耳を疑いました。
 しかし師匠はこの技を熱心に教えて下さいましたわ。マシンのスペック差を埋める数少ない方法。

 それは、マシンの軽さと旋回性能と――この技ですわ!
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