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第7話 一難去ってまた一難

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 その日は朝から不思議なことが起きていた。
 誰も身元を把握していない女子生徒が急に校内に出没するようになった。それも皆、決まって男子生徒の服装をしている。さらにおかしな事は、それら全員が自分は男であると主張しているのだ。

 しかしその容姿は誰がどう見ても男性には見えないときた。

 僕自身も実際にこの目で確かめたわけじゃない、実は誰かが流した噂に尾ひれがついただけという可能性もある。
 普段なら何を馬鹿なと思うが、先生たちの動きが慌ただしくなっているのも事実。信憑性が高い。
 そしてもしそうなら、全く新しい奇病の可能性もある。僕は別に医学をかじっているわけでもないが、今後の学生生活に支障をきたす可能性があるのならば真相の確認は必要だろうと思う。

 それに、せっかく病院生活から戻ってきた隣の席の主――江野耀司君がこの件について不安を覚える可能性もある。
 彼はまだこの学校での生活は同級生よりも浅い。日常生活に戻れるようになったのだから、是非、この学校で青春を謳歌して欲しいと考えるのは、僕の勝手な思いだろうか。

 しかし、その江野君はこの件についてどう思っているのだろう? 彼は比島の挑発に乗るような多少無謀な人間には見えたが、基本的に大人しいタイプだろう。余計な揉め事を起こすような人物ではないだろうし、噂との関連性があるとは思えない。

 だが、登校を再開したその日にこのような不可思議な噂が流れ始めたのだ、思慮の浅い人間なら彼と噂と簡単に直結していても不思議じゃない。いらぬ誤解で、もしいじめの被害にあったならば……。

「いけない、そんなに簡単に決めつけては。それでは僕こそが思慮の浅い人間になる、何事もよく観察してから行動すべきだ……ここはやはり、彼と友になってそれと無く不良をけん制するのがベストか」

 簡単に決めつけるべきではない。が、もしもを考えないのも浅慮だ。
 暴力事は嫌いだが、幼い頃から護身術に覚えがある。いざという時を覚悟しておいてもいいだろう。

 だからこそまずは落ち着いて観察だ。慎重に真相を探るべきだ。

 ◇◇◇

 放課後、自由に解き放たれた不良が日中の鬱憤を晴らすか如く、いじめられっ子を襲い始める。
 俺の読み通りだな。

「な、なんだ!? なんで急に俺の胸が膨らんで……!?」

 そりゃあお前がロクデナシだからさ。

 急な肉体の美少女(偽)化に戸惑い、上納金とやらを手から零す名も知らぬ不良。
 それを俺は何食わぬ顔で横を通りながら素早く回収する。ほんの一瞬とはいえ、横で人が不自然にしゃがんだのも気づかないあたり、相当焦ってやがるな。

 さてと、さっきの少年に届けるとするか……。

 回収した金を握り、カツアゲされた男子生徒の所へと踵を返す。一応同い年相手に少年呼ばわりもどうかと思うが、精神的には二歳程歳食ってるせいでこういう感覚になってしまうな。口に出さないように気を付けないと。

 しかし、俺があからさまに来た道を戻ってるのにも気づかないとは。やっぱり俺の存在に気づいてないな、この元カッコよくない不良にして現美少女(偽)。人を喰い物にするからこういう目に合う、これからは心を入れ替えて真面目な女装生徒でも目指すんだな。

「女装生徒ってなんだよ?」

 自分で思いついておきながら、得体の知れない単語だと思ってしまった。


「ああ、江野君。まだ校内に残っていたんだね?」

「黄畠か。まぁちょっと、な」

 金を盗られた男子生徒に返しに行く途中、黄畠とばったり鉢合わせした。こういうタイプの放課後は学習塾にでも行くと思っていたんだが、意外とそうでも無いのか。

「いやしかし今日は助かった。流石に一月も学校を空けると勉強についていけなくてよ、教えてくれてサンキュー」

「あまり気にしないでくれ。人に物を教えるのが好きな人間程度に受け止めてくれて構わないさ。……それより何かしていたのか? どこの部活に入るかの見回りとか」

「いや、そういうわけじゃないんだ。なんと言うかその……そう、個人的な美化作業だ」

 比喩表現を多分に含んだ出まかせに過ぎないが、真面目な学級委員様にはすこぶる受けのいい回答だったらしい。感心したような顔を向けて来る。

「ほう。君は病み上がりの身で自主的に校内の美化活動に勤しんでいたのか。それは素晴らしい、僕は君がこの学校生活を楽しんでくれているようで嬉しいよ!」

「あ、ああ……そうだな」

「僕も微力ながら手伝わせて貰えないだろうか? 是非、君の手助けがしたい」

 いかんな、てき面が過ぎたようだ。はっきり言ってついてこられると困る。ここは丁重にお断りしなければ。

「あ、いや。ほら、あくまでも個人的な細々とした作業だからさ。正直メインは校内の構造の把握だったりするわけで、美化作業ってのはそのついでな感じぃ~みたいな?」

「いや、それでも感心する。この学校に早く馴染む為に施設の場所などの確認を行うというのは……それも校内を綺麗にしながらならば余計に賞賛に値するよ! やはり僕も……」

 こいつ意外に押しが強いな。眼鏡の奥の端正な眼差しがキラキラしてやがる。

「い、いいよ別に。あくまでもプライベートなアレだからさ。勉強も見ても貰ったのにこんな事にまで付き合わせるのは心苦しいって」

 流石にここまで言われたからか、身を乗り出していた黄畠もスッと落ち着きを取り戻したようだ。

「そうか……。残念だが、そこまで言われれば迷惑になるな。ここは大人しく引き下がるとしよう。しかしだ、何か困った事があったら遠慮なく言って欲しい。君とは良き友人になりたい」

「その気持ちだけは、まあ一旦受け止めてやるよ。……じゃあな」

 やっと解放されるぜ。適当に返事をしてそそくさとその場を離れようとした、その時だった。

「その金……!? お前! そいつを寄こしやがれ!!!」

「は?」

 突如、前方の廊下の角からイケメンが飛び出して来て、訳の分からない因縁をつけて来た。
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