邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
290 / 290

最終回 邪神ちゃんはもふもふ天使

しおりを挟む
 フェリスは真っ白な空間に居た。
 そこはどこか分からない場所だった。
「ここ……どこ?」
 地面に横たわっていたフェリスが体を起こす。
「よく我が呼び掛けに応えて来て下さいましたね、フェリス」
 どこからともなく、フェリスを呼ぶ声がする。
「誰よ! 姿を見せなさいってば!」
 誰とも分からぬ声に、フェリスは怒鳴り声を上げる。
「私はそこに居て、どこにも居ない存在です。姿をお見せする事はできません」
 すると、その声はよく分からない事を言って、その姿を見せる事はなかった。
「一体何なのよ、ここは……」
 フェリスは辺りを見回すが、どこまで見てみても真っ白で何も見当たらなかった。
「ここは、地上ではないどこかです。見ていましたよ、あなたの重ねてきた行動の数々を」
 この言葉に、フェリスは何かピンとくる。
「なるほど、あんたは聖女様たちが崇める神様ってやつかしらね」
「……ふふっ、ずいぶんと頭の回る方のようですね」
 フェリスが言い放った推測はどうやら当たりだったようである。
 声の主はこの世界の神様のようだった。
「で、その神様が一体あたしに何の用なのかしら。夜中に急に呼び掛けてきたと思ったら、そのまま連れ去ってくれたんだものね。まったく、メルが心配してないか気になるじゃないのよ」
「眷属たちの事でしたら、何も心配は要りません。私から置き手紙を送っておきましたからね」
「はあ、信用ならないけれど、神様っていうのなら信じるしかないわね。邪神と呼ばれるくらいだもの。神様を信じなきゃ、あたしも否定する事になるわ」
 神様の回答を、フェリスは不本意ながらも信じる事にした。
「では、ここにお呼びした理由をお話しましょう」
 フェリスの不満げな顔を見ながらも、神様は話を続ける事にした。
 神様から告げられたその理由に、フェリスはただ驚いた。
「魔族の身でありながら、私に近しい力を持っているのです。その相反する状態を、いつまでも保てるとお思いでしたか?」
「思っているわ。第一、200年はこの状態を保っていられたんだもの。その均衡が今さらながらに崩れるとでも言うわけ?」
 神様の言葉を真っ向から否定するフェリス。だが、現実は非情だった。
「いいえ、その均衡は既に危うくなっています。すべてはあのオピスという蛇の邪神によるものです。あの時にあなたが使った能力、それがいよいよあなたの体を蝕み始めているのです」
「……嘘よ」
 神様から突きつけられた現実に、フェリスは身構えながら首を強く左右に振る。フェリスは突きつけられた言葉を信じたくないのである。
「多くの魔物を悲劇から救ったのです。私がここに呼んだのは、あなたの異変に気が付いたからこそ。残念ですが、今のままではあなたは元の世界に戻る事はできません」
 神様からの非情な宣告。フェリスはそのショックを隠し切れなかった。
 だが、すぐにある言葉に気が付いて顔を上げる。
「ちょっと待って……。今のままではという事は、戻るための方法があるというわけね?」
「その通りです」
 フェリスの瞳が大きく開く。
「だったら、今すぐにだって受けてやるわ。厳しい事だろうと乗り切ってやろうじゃないの!」
 覚悟を決めたフェリスの判断は早かった。おそらく、もう自分は邪神に戻る事はないだろう。それでも構わないという気持ちがあるからこそ、この判断に至ったのだ。
「……分かりました」
 そう声が聞こえたかと思うと、フェリスの目の前に扉が現れる。
「その扉をくぐりなさい。あなたが乗り越えるべき試練は、そこにあります」
 神様の言葉に強く頷いたフェリスは、まったく迷う事なくその扉を開けて中へと入っていった。
「健闘を祈りますよ、フェリス」
 神様はフェリスの姿を見送ったのだった。

 そして、どのくらい経っただろうか。
 真っ白の空間に浮かんだ不思議な扉が、突然光を放ち始めた。
 勢い良く扉が開いて、中からは白い毛並みの猫、フェリスが現れたのだった。
「よく無事に戻って来れましたね。おめでとうございます、フェリス」
「ありがとう。なんだか体が軽くなった気がするわ」
 フェリスの体は光に包まれており、白い毛並みという事以外はよく分からない状態だった。だが、薄らと見える表情からは、実にすっきりした様子が見て取れた。
「あなたは無事に、私の課した試練を乗り越えたのです。もうみんなの所に戻っても大丈夫です」
「そう……。それじゃ早速戻らせてもらうわ。世話になったわね」
 笑うフェリスの表情は、実に柔らかで満足そうな感じだった。
 その次の瞬間、ただでさえ真っ白な空間の中で、フェリスの体がさらに白く光り出していく。
「フェリス、あなたに更なる幸があらん事を」
 神様がそう告げると、白い空間からフェリスの姿は書き消えてしまった。

 その頃、すっかりフェリスの居なくなった状態にも慣れたフェリスメルでは、今日もメルは村の中で実家などの手伝いに奔走していた。
「すまないな、メル」
「いえ、実家の仕事を手伝うのは当然ですからね」
 すっかり今では自信のついたメルは、実に頼もしい存在となっていた。
 その時だった。メルが急に立ち止まったのだ。
「どうしたんだ、メル?」
「お父さん、ちょっとごめんなさい。私、急用を思い出しちゃった!」
「おい、メル?!」
 父親の制止も聞かず、メルは一目散に村の外へと走っていく。すると、フェリスメルとクレアールに住む邪神たちも同じようにフェリスメルの外に向かっていた。
「おう、メル。お前も感じたか?」
「はい、この感じは間違いないです!」
「まったく、勝手に居なくなったかと思えば、ずいぶんと心配をかけてくれたのう」
 フェリスメルを出て少し街道から離れた場所。そこにメルたちは集まっていた。
 そこでメルたちが目にしたのは、白い毛並みに真っ赤な髪の毛を生やした、見覚えのある姿だった。ただ、一点違うといえば、その背中には以前のような黒い羽ではなく白い翼が生えている事くらいだった。その姿は、まさにドラコが語った伝承の通りの姿だった。
「ただいま……。ずいぶんと留守にしちゃったみたいね」
 メルの姿を見たフェリスは、照れくさそうに喋っている。
「いいえ、私たちは、ずっと帰ってくると信じていました。……長くなんてなかったです」
 言葉を返すメルは、その瞳にあふれんばかりの涙を湛えていた。よく見れば、他の邪神たちも同じような状態だった。
「新生フェリス、無事に戻ってきたわよ」
「お帰りなさい、フェリス様!」
 フェリスとメルたちは再会に喜び、抱き合ったのだった。

 邪神ちゃんはもふもふ天使 ~ 完 ~
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫
ファンタジー
唯一の血縁者である姪っ子を引き取った月山(つきやま) 五郎(ごろう) 41歳は、住む場所を求めて空き家となっていた田舎の実家に引っ越すことになる。 そこで生活の糧を得るために父親が経営していた雑貨店を再開することになるが、その店はバックヤード側から店を開けると異世界に繋がるという謎多き店舗であった。 少ない資金で仕入れた日本製品を、異世界で販売して得た金貨・銀貨・銅貨を売り資金を増やして設備を購入し雑貨店を成長させていくために奮闘する。 この物語は、日本製品を異世界の冒険者に販売し、引き取った姪っ子と田舎で暮らすほのぼのスローライフである。 小説家になろう 日間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 週間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 月間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 四半期ジャンル別  1位獲得! 小説家になろう 年間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 総合日間 6位獲得! 小説家になろう 総合週間 7位獲得!

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...