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第288話 邪神ちゃんの賑やかな日々
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センティアの聖教会。
聖女マイオリーをトップとして据える一大組織だ。
だが、この聖教会もここしばらくの事でだいぶ様変わりしたようだった。
「あー、ビエールだ」
「可愛い~」
今日もマイオリーはラータとビエールを連れて街の様子を視察して回っていた。
ラータはネズミの邪神であり、普段は全身が忍者装束のような真っ黒な格好をしている。この日ばかりはマイオリーの隣に立つとあって、それなりの服装に着替えていた。
ビエールはフェリスとオピスの一件に巻き込まれた魔物のうちの一体で、リスのような姿をした小型の魔物である。フェリスの力によって眷属化したビエールは魔物としての特徴も失っており、人語を解する動物となっていたのだ。ただ、人語を理解して話すというだけでただの動物ではないのだが。
ただ、その見た目からか子どもや女性たちからは特に人気なようで、ちょくちょく餌を貰ったり撫でてもらったりしているようである。
「ふふっ、すっかり馴染んでしまっていますね」
その様子を見ているマイオリーが、実に微笑ましそうにしていた。
「おいら、ここが気に入ったぞ。人間の世界ってのもいいもんだな」
ビエールもビエールで非常に楽しんでいるようだった。魔物とはいっても、見た目的にはただの小動物で通るし、可愛げがあるから受け入れられているといった感じなのである。
それにしても、たった一人と一匹とはいっても魔族や魔物を受け入れたあたり、聖教会としてはだいぶ革新的な出来事だったに違いないだろう。
聖教会の起こりは古い。元々はこの世界の神を崇め讃えるという方向性から生まれた組織だった。
それがいつからだろうか、魔族や魔物との対立を明確にしたのは。
残念ながらその辺りの資料は残っていない。ただ、慣習として魔族や魔物は完全排除するという方針が受け継がれてきていた。
聖教会の方向性が動き出したのは、間違いなくマイオリーの生誕祭からだった。あの時に登場したドラコが、すべての方向性を決定づけたと言ってもいいだろう。
いつの頃からか失念されていた代々聖女が受け継いできた腕輪。実はこの腕輪が、邪神の一人として位置付けられているドラコから時の聖女であるマリアに贈られたものだと判明した事である。その事によって、邪神とはいってもその存在を認めざるを得なくなったという事である。なにせその腕輪のおかげで聖女は守られてきたのだから。
その流れの影響で、現代の聖女であるマイオリーが認めているフェリスとペコラ、それとラータの三人も認める方向となり、現在の状態に至っている。
そのように考えると、聖教会も柔軟になったと思われる。人間と魔族が争っていたのももう昔の話なのだから、いずれは起きていた可能性はあるのだが、この流れが急激すぎて聖教会の中には多少なりと混乱が起きているようだった。しかし、そんな混乱も、マイオリーたちの努力によって少しずつではあるものの落ち着き始めていた。
「このまま、みんなが平和に暮らせるといいですね」
「そうですな。ただ、私は隠密ゆえ、このように外を出歩くというのは緊張に堪えないのですがね」
「ふふっ、大丈夫ですよ。ラータも十分魅力的ですから、みなさん、きっと受け入れて下さいますよ」
マイオリーが笑いながら言うものだから、ラータは珍しく顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。
「あれ、ネズミ、顔真っ赤」
「う、うるさいですね、ビエール!」
ビエールが反応するものだから、ラータは思い切り怒鳴りつけていた。それを見て、マイオリーはまた笑っている。本当にこういうやり取りを見ていると平和だと思われるのである。
それにしても、よくよく思えばマイオリーが自由に外を出歩いているというのも、以前では考えられなかった事だった。聖女というのは結構箱入りにされる事が多いからだ。それこそ、ドラコと拳で語り合ったマリアくらいでなければ、外に出る事は叶わないのである。なんだかんだで司祭たちに言いくるめられてしまうからだ。
「ふふっ、フェリス様にドラコ様。フェリスメルの方々が仰る通り、天使様なのかも知れませんね」
街の中を歩くマイオリーは、ふとそんな事を呟いていた。
「ご主人はおいらの救い主だぞ。それ以外の何者でもないんだぞ」
「そうですね。フェリス様は本当に慈悲深い方です」
うるさく言うビエールに微笑みを向けながら、マイオリーはそれに同調する。そのマイオリーの姿を見て、どういうわけか威張るビエールだった。
「そうですね。フェリス様とドラコ様を、聖者認定するのはいかがでしょうか」
突然、とんでもない事を言い出すマイオリーである。
「聖女様、それ、本気で仰っていますか?」
「はい、お二人の功績を考えれば妥当だと思われます。早速聖教会に戻って、司祭たちに掛け合いましょう」
ラータが呆れ気味に確認するのだが、マイオリーは本気のようだった。浮かれて走って帰るマイオリーの後を、頭にビエールを乗せてラータは追いかけたのだった。
「やれやれ、まったく目が離せない聖女様だ……」
ラータがこんな風に評するマイオリーだが、結局このコンビは最後まで解消される事はなかったのだった。
聖女マイオリーをトップとして据える一大組織だ。
だが、この聖教会もここしばらくの事でだいぶ様変わりしたようだった。
「あー、ビエールだ」
「可愛い~」
今日もマイオリーはラータとビエールを連れて街の様子を視察して回っていた。
ラータはネズミの邪神であり、普段は全身が忍者装束のような真っ黒な格好をしている。この日ばかりはマイオリーの隣に立つとあって、それなりの服装に着替えていた。
ビエールはフェリスとオピスの一件に巻き込まれた魔物のうちの一体で、リスのような姿をした小型の魔物である。フェリスの力によって眷属化したビエールは魔物としての特徴も失っており、人語を解する動物となっていたのだ。ただ、人語を理解して話すというだけでただの動物ではないのだが。
ただ、その見た目からか子どもや女性たちからは特に人気なようで、ちょくちょく餌を貰ったり撫でてもらったりしているようである。
「ふふっ、すっかり馴染んでしまっていますね」
その様子を見ているマイオリーが、実に微笑ましそうにしていた。
「おいら、ここが気に入ったぞ。人間の世界ってのもいいもんだな」
ビエールもビエールで非常に楽しんでいるようだった。魔物とはいっても、見た目的にはただの小動物で通るし、可愛げがあるから受け入れられているといった感じなのである。
それにしても、たった一人と一匹とはいっても魔族や魔物を受け入れたあたり、聖教会としてはだいぶ革新的な出来事だったに違いないだろう。
聖教会の起こりは古い。元々はこの世界の神を崇め讃えるという方向性から生まれた組織だった。
それがいつからだろうか、魔族や魔物との対立を明確にしたのは。
残念ながらその辺りの資料は残っていない。ただ、慣習として魔族や魔物は完全排除するという方針が受け継がれてきていた。
聖教会の方向性が動き出したのは、間違いなくマイオリーの生誕祭からだった。あの時に登場したドラコが、すべての方向性を決定づけたと言ってもいいだろう。
いつの頃からか失念されていた代々聖女が受け継いできた腕輪。実はこの腕輪が、邪神の一人として位置付けられているドラコから時の聖女であるマリアに贈られたものだと判明した事である。その事によって、邪神とはいってもその存在を認めざるを得なくなったという事である。なにせその腕輪のおかげで聖女は守られてきたのだから。
その流れの影響で、現代の聖女であるマイオリーが認めているフェリスとペコラ、それとラータの三人も認める方向となり、現在の状態に至っている。
そのように考えると、聖教会も柔軟になったと思われる。人間と魔族が争っていたのももう昔の話なのだから、いずれは起きていた可能性はあるのだが、この流れが急激すぎて聖教会の中には多少なりと混乱が起きているようだった。しかし、そんな混乱も、マイオリーたちの努力によって少しずつではあるものの落ち着き始めていた。
「このまま、みんなが平和に暮らせるといいですね」
「そうですな。ただ、私は隠密ゆえ、このように外を出歩くというのは緊張に堪えないのですがね」
「ふふっ、大丈夫ですよ。ラータも十分魅力的ですから、みなさん、きっと受け入れて下さいますよ」
マイオリーが笑いながら言うものだから、ラータは珍しく顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。
「あれ、ネズミ、顔真っ赤」
「う、うるさいですね、ビエール!」
ビエールが反応するものだから、ラータは思い切り怒鳴りつけていた。それを見て、マイオリーはまた笑っている。本当にこういうやり取りを見ていると平和だと思われるのである。
それにしても、よくよく思えばマイオリーが自由に外を出歩いているというのも、以前では考えられなかった事だった。聖女というのは結構箱入りにされる事が多いからだ。それこそ、ドラコと拳で語り合ったマリアくらいでなければ、外に出る事は叶わないのである。なんだかんだで司祭たちに言いくるめられてしまうからだ。
「ふふっ、フェリス様にドラコ様。フェリスメルの方々が仰る通り、天使様なのかも知れませんね」
街の中を歩くマイオリーは、ふとそんな事を呟いていた。
「ご主人はおいらの救い主だぞ。それ以外の何者でもないんだぞ」
「そうですね。フェリス様は本当に慈悲深い方です」
うるさく言うビエールに微笑みを向けながら、マイオリーはそれに同調する。そのマイオリーの姿を見て、どういうわけか威張るビエールだった。
「そうですね。フェリス様とドラコ様を、聖者認定するのはいかがでしょうか」
突然、とんでもない事を言い出すマイオリーである。
「聖女様、それ、本気で仰っていますか?」
「はい、お二人の功績を考えれば妥当だと思われます。早速聖教会に戻って、司祭たちに掛け合いましょう」
ラータが呆れ気味に確認するのだが、マイオリーは本気のようだった。浮かれて走って帰るマイオリーの後を、頭にビエールを乗せてラータは追いかけたのだった。
「やれやれ、まったく目が離せない聖女様だ……」
ラータがこんな風に評するマイオリーだが、結局このコンビは最後まで解消される事はなかったのだった。
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