邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
287 / 290

第287話 邪神ちゃんの残った気がかり

しおりを挟む
 フェリスが住んでいた祠に久々に顔を出していた。ちなみにドラコも一緒に来ている。
「あーあ、ずいぶんと放っておいたから、荒れたい放題ね」
「まあ仕方あるまいて。わしがある程度は引き取っておいたから、ここにあるのは比較的どうでもいいようなものじゃがな」
 祠の中の様子を見ながら、フェリスとドラコは呟いていた。
 祠にあったものはほぼ朽ち果ててしまっており、散らかりまくった残骸をさらしていた。
「1年くらいは経つんじゃろうなぁ。こうなってしまうのも仕方あるまいて。フェリスの魔力があったから、今までもっておったようなものじゃしなぁ」
 祠の中を見ながらドラコはそう話している。
「あたしの魔力って、そんなに影響あるものなの?!」
「あれだけいろいろとやらかしておいて、今さら言う事か?」
 驚くフェリスに冷静にツッコミを入れるドラコである。本当に頼れるツッコミ役のドラコである。
「まあ、そうだけど。それよりもここをどうしましょうかね」
「そうじゃのう。幸い魔物の巣になっていないわけじゃしな。本格的な祠にするか、埋めてしまうかのどちらかじゃろうな」
 フェリスの質問にもすんなりと答えるドラコ。さすがは年の功というか、頼れる知恵袋である。
「しかし、位置関係を見ておると、バルボルのサイコシスの屋敷からわしの住処を通って、マイムの森からここまでと、見事に一直線につながっているもんじゃのう」
「確かにそうね。訳も分からないうちに進んでいたとはいえ、うまくつながってるものよね。おかげでフェリスメルの発展のためにマイムの力も借りれたわけだし」
 二人の言う通りである。
 フェリスメルのほぼ東にあるのがクレアールで、そこから北東に上がってモスレがある。そこから東に進んでレックス、そしてサイコシスの屋敷である。それらのすべてを南側に少しずつずらしていくと、ドラコの住処、マイムの住処、それとフェリスが住んでいた祠とがつながるのである。これはもう何かに導かれたような軌跡である。
「それにしても不思議なもんよなぁ。わしと初めて会った時のフェリスは、それはもう抜け殻のように呆然とした様子じゃったのになぁ。今じゃ周りを振り回すようなトラブルメーカーになるとは思うてみなんだぞ」
 ドラコはフェリスの額を突きながら茶化している。それに対して、フェリスは突かれた額を擦りながら不満な表情をしていた。
「トラブルメーカーって、言ってくれるじゃないのよ。あたしはこうだったらいいなを実行しているだけよ」
「相談も了承も無しにやるからトラブルなんじゃろうが……」
 文句を言うフェリスに、ドラコはただただ呆れるばかりだった。本当に反省してくれない気ままな猫の邪神である。
 本当に、現在フェリスメルと呼ばれている村にやって来たフェリスはやりたい放題だった。一体どのくらいの人数がやる事に驚かされ、頭を悩ませ、胃を痛めてきたのだろうか。もう数えるのも難しい話である。
 今となってはすべてが懐かしいものではあるが、恐ろしい事にそれはまだ現在進行形であった。
「それよりもじゃ、ここはどうするとしようかのう」
「あたしとして思い出深い場所なだけに、残しておきたいわね。ドラコたちみんなと一緒に過ごした場所だからね」
「あい分かった」
 フェリスに確認を取ったドラコは、すっと息を吸い込み、集中して魔力を練り始める。
「ワシの住処だった場所のようにしてやれば、ここも半永久的にこのままの形が残るじゃろう。それこそわしが死なん限りな」
 ドラコはそう言いながら、魔法を展開していく。
 ドラコの使った魔法は、フェリスも見た事のない知らない魔法だった。さすがは古からの時を生きる古龍である。今は失われた魔法もこの通り使いこなしてしまうのだった。
 次の瞬間、祠は眩いばかりの光に包まれた。その光は遠くフェリスメルやクレアールからでも余裕で確認できるくらいであった。
「うむ、これでここはこのまま残るぞ。わしの魔力の影響下にあるから、下手な魔物どもも寄り付きはせん」
 ドラコはものすごく自信満々に言ってのけていた。なんだろうか、ドラコが言うとものすごく説得力がある。
「今まではフェリスが住んでおったから、わしも遠慮しておったんじゃがな。許可が下りれば遠慮なくやらせてもらうというものじゃ。かっかっかっ!」
 他人に配慮できる古龍、それがドラコなのである。どこぞの猫の邪神とは大違いだった。
「それにしても、もう人間だの魔族だのだとか言っているような世の中ではなくなってきたのう。まあ、その原因はわしらなんじゃがな!」
 自慢げに笑うドラコに、フェリスもついつられて笑ってしまう。性格的には逆な二人だが、方向性は同じだからか結構気が合うのである。だからこそ、こうやって一緒に行動する事が多いのである。
「とりあえず、これで気がかりがまた1個消えたわ。ありがとうね、ドラコ」
「なに、気にするでないぞ。わしにとってもここは思い出の場所じゃからのう」
「ふふっ、そうね。それじゃ、戻りましょうか」
「うむ、そうじゃな」
 お互いに言うだけ言うと、ちらっと祠の中を振り返る二人。そして、静かに祠から立ち去ったのだった。

 この祠がのちのち、聖地として整備されるのはまた別のお話である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ
ファンタジー
目の前に、女神を名乗る女性が立っていた。 麗しい彼女の願いは「自分の代わりに世界を見て欲しい」それだけ。 使命も何もなく、ただ、その世界で楽しく生きていくだけでいいらしい。 厳しい異世界で生き抜く為のスキルも色々と貰い、食いしん坊だけど優しくて可愛い従魔も一緒! 忙しくて自由のない女神の代わりに、異世界を楽しんでこよう♪ 13話目くらいから話が動きますので、気長にお付き合いください! 最初はとっつきにくいかもしれませんが、どうか続きを読んでみてくださいね^^ ※お気に入り登録や感想がとても励みになっています。 ありがとうございます!  (なかなかお返事書けなくてごめんなさい) ※小説家になろう様にも投稿しています

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

処理中です...