邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

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第287話 邪神ちゃんの残った気がかり

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 フェリスが住んでいた祠に久々に顔を出していた。ちなみにドラコも一緒に来ている。
「あーあ、ずいぶんと放っておいたから、荒れたい放題ね」
「まあ仕方あるまいて。わしがある程度は引き取っておいたから、ここにあるのは比較的どうでもいいようなものじゃがな」
 祠の中の様子を見ながら、フェリスとドラコは呟いていた。
 祠にあったものはほぼ朽ち果ててしまっており、散らかりまくった残骸をさらしていた。
「1年くらいは経つんじゃろうなぁ。こうなってしまうのも仕方あるまいて。フェリスの魔力があったから、今までもっておったようなものじゃしなぁ」
 祠の中を見ながらドラコはそう話している。
「あたしの魔力って、そんなに影響あるものなの?!」
「あれだけいろいろとやらかしておいて、今さら言う事か?」
 驚くフェリスに冷静にツッコミを入れるドラコである。本当に頼れるツッコミ役のドラコである。
「まあ、そうだけど。それよりもここをどうしましょうかね」
「そうじゃのう。幸い魔物の巣になっていないわけじゃしな。本格的な祠にするか、埋めてしまうかのどちらかじゃろうな」
 フェリスの質問にもすんなりと答えるドラコ。さすがは年の功というか、頼れる知恵袋である。
「しかし、位置関係を見ておると、バルボルのサイコシスの屋敷からわしの住処を通って、マイムの森からここまでと、見事に一直線につながっているもんじゃのう」
「確かにそうね。訳も分からないうちに進んでいたとはいえ、うまくつながってるものよね。おかげでフェリスメルの発展のためにマイムの力も借りれたわけだし」
 二人の言う通りである。
 フェリスメルのほぼ東にあるのがクレアールで、そこから北東に上がってモスレがある。そこから東に進んでレックス、そしてサイコシスの屋敷である。それらのすべてを南側に少しずつずらしていくと、ドラコの住処、マイムの住処、それとフェリスが住んでいた祠とがつながるのである。これはもう何かに導かれたような軌跡である。
「それにしても不思議なもんよなぁ。わしと初めて会った時のフェリスは、それはもう抜け殻のように呆然とした様子じゃったのになぁ。今じゃ周りを振り回すようなトラブルメーカーになるとは思うてみなんだぞ」
 ドラコはフェリスの額を突きながら茶化している。それに対して、フェリスは突かれた額を擦りながら不満な表情をしていた。
「トラブルメーカーって、言ってくれるじゃないのよ。あたしはこうだったらいいなを実行しているだけよ」
「相談も了承も無しにやるからトラブルなんじゃろうが……」
 文句を言うフェリスに、ドラコはただただ呆れるばかりだった。本当に反省してくれない気ままな猫の邪神である。
 本当に、現在フェリスメルと呼ばれている村にやって来たフェリスはやりたい放題だった。一体どのくらいの人数がやる事に驚かされ、頭を悩ませ、胃を痛めてきたのだろうか。もう数えるのも難しい話である。
 今となってはすべてが懐かしいものではあるが、恐ろしい事にそれはまだ現在進行形であった。
「それよりもじゃ、ここはどうするとしようかのう」
「あたしとして思い出深い場所なだけに、残しておきたいわね。ドラコたちみんなと一緒に過ごした場所だからね」
「あい分かった」
 フェリスに確認を取ったドラコは、すっと息を吸い込み、集中して魔力を練り始める。
「ワシの住処だった場所のようにしてやれば、ここも半永久的にこのままの形が残るじゃろう。それこそわしが死なん限りな」
 ドラコはそう言いながら、魔法を展開していく。
 ドラコの使った魔法は、フェリスも見た事のない知らない魔法だった。さすがは古からの時を生きる古龍である。今は失われた魔法もこの通り使いこなしてしまうのだった。
 次の瞬間、祠は眩いばかりの光に包まれた。その光は遠くフェリスメルやクレアールからでも余裕で確認できるくらいであった。
「うむ、これでここはこのまま残るぞ。わしの魔力の影響下にあるから、下手な魔物どもも寄り付きはせん」
 ドラコはものすごく自信満々に言ってのけていた。なんだろうか、ドラコが言うとものすごく説得力がある。
「今まではフェリスが住んでおったから、わしも遠慮しておったんじゃがな。許可が下りれば遠慮なくやらせてもらうというものじゃ。かっかっかっ!」
 他人に配慮できる古龍、それがドラコなのである。どこぞの猫の邪神とは大違いだった。
「それにしても、もう人間だの魔族だのだとか言っているような世の中ではなくなってきたのう。まあ、その原因はわしらなんじゃがな!」
 自慢げに笑うドラコに、フェリスもついつられて笑ってしまう。性格的には逆な二人だが、方向性は同じだからか結構気が合うのである。だからこそ、こうやって一緒に行動する事が多いのである。
「とりあえず、これで気がかりがまた1個消えたわ。ありがとうね、ドラコ」
「なに、気にするでないぞ。わしにとってもここは思い出の場所じゃからのう」
「ふふっ、そうね。それじゃ、戻りましょうか」
「うむ、そうじゃな」
 お互いに言うだけ言うと、ちらっと祠の中を振り返る二人。そして、静かに祠から立ち去ったのだった。

 この祠がのちのち、聖地として整備されるのはまた別のお話である。
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