邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

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第286話 邪神ちゃんの残る問題

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「おお、来たか。飛んでくるのが見えたから、来るとは思っておったぞ」
 薬草園に到着すると、ドラコは笑顔で出迎えていた。相変わらずの幼女っぷりである。
「じゃが、フェリス。おぬしは触れるでないぞ。サイコシスの実験の影響とは分かっておるが、触れるだけで成長を促進させるのははっきり言って厄介じゃ」
「むぅ、分かったわよう」
 ドラコに最初から止められて、不機嫌そうにむくれるフェリスである。
 しかし、ドラコがこういうのも無理はない。薬草はたくましいが繊細なのである。
 この日はシンミアが薬草園を手伝っていた。トレジャーハンターをしている彼女は、草には詳しいのである。
「おう、フェリスにメル、それとヘンネじゃねえか。何の用なんだ?」
「様子を見に来ただけです。ただでさえこのクレアールの主力商品なのですからね、チェックは欠かせません」
 気さくに問い掛けてくるシンミアに、真面目に答えを返すヘンネである。
「いや、ヘンネは分かってる。フェリスたちの方だよ」
 あまりにも淡々と返されて、シンミアはどういうわけか困ったように反応していた。この反応は正直分からない。
「友人の様子を見に来るのが、何か問題でもあるのかしらね、シンミア」
 フェリスもフェリスでちょっと怒っているようである。なんでこんな反応をされるのか分からないシンミアは、正直たじたじになってしまっていた。
「分かった分かった、もう何も聞かない。じっくり見て行けばいいさ」
 訳の分からない反応をされてやさぐれるシンミアである。だが、フェリスたちはそれに構わずに薬草園の見学を始めたのだった。
 中に入れば相変わらずというか、以前よりかなりの量の薬草が生い茂っていた。ドラコの手によって管理された薬草は、順調に育っているのである。
「すごいわねぇ。一般的に育てるのは不可能とも言われた薬草がここまで生い茂ってるんですもの。さすが古龍の知識はバカにはできないわね」
「かっかっかっかっ。わしの中には蓄積されてきた数1000年の知識があるからのう。そこらの生半可なものとは違うぞ?」
 フェリスが感動していると、ドラコは高笑いをしながら自慢げに話している。
「じゃが、そんなわしの知識をもってしてもフェリスの能力はよく分からんからのう。世の中というのは不思議に満ちあふれていて、実に面白いぞ、かっかっかっ」
 ドラコは本当に楽しそうに笑っている。
「そうじゃ、この辺の薬草はオピスの所に持っていこうと思うんじゃ。あそこは魔物だらけじゃから、普通のポーションでは効果が期待できまいて」
「確かにそうですね。人間と魔物、魔族と効くものが変わるとも聞きますからね。コネッホの作るものは誰にでも効くんですけれど」
 ドラコの言葉を肯定するヘンネである。
「そうなんじゃよなぁ。万人に効く薬というのは、本当に希少じゃぞ。作っておるのが異常なだけでな」
 褒めてるのか貶しているのかよく分からないドラコである。
「かっかっかっ、とりあえずじゃ。気の済むまで薬草の出来栄えを見ていくとよいぞ。メルも手伝え」
「はい、ドラコ様」
「それと、何度も口酸っぱく言うが、フェリスは絶対触るなよ?」
「分かってるわよ!」
 ドラコに念押しされて、にこやかな怒り顔で返事をするフェリスである。仕方なく、ヘンネと一緒に薬草園の見物である。
「フェリスってばご機嫌斜めのようね」
「だってさ、あたしの能力のせいでこうやって仲間外れにされるんだもの。怒らない方が無理ってもんじゃないのよ」
「まあ確かにそうですが、無意識の能力を持っているのが悪いんです。さっさとコントロールできるようにならなければ、ずっとこの状況が続きますよ」
「そうなんだけどさ……。なんか納得いかないのよね」
 ヘンネに言われてもぶっすーと頬を膨らませ続けるフェリスである。
 とはいえ、能力をコントロールできるようになるのはフェリスにとって急務とも言える。なにせ、人間や魔族以外ならほぼ無差別にこの能力が発動してしまうのだから。その無差別的な発動があったからこそ、あのオピスの騒動は早く決着したのだが、普段の生活では著しく支障をきたす能力でしかなかったのだ。
「はあ……、なんでこんな能力持っちゃったのかしらね……」
 フェリスはぽつりと呟いて、メルたちの作業をじっと見守っていた。
「その能力のおかげで救われた者も居るのですから、そこまで卑下になる必要はないのでは? 問題なのはその力を使いこなせていないフェリスの方ですよ」
「うう、分かってる。分かってるけど、なんかこう納得いかないのよね……」
 フェリスは肘をついて不機嫌顔をまだ続けていた。
「それはあなたの努力次第です。周りに文句ばかり言っていてもどうにもなりませんよ」
「はあ……、結局そうなのよね」
 ヘンネに正論をぶつけられまくって、フェリスは正直落ち込みそうになる。
「その常識外れの能力と行動力で周りを振り回しはしましたが、こうやって多くを幸せにもしてきたのですから、そこはしっかり誇りに持ちなさい。今のフェリスに必要なのは、おそらく余裕だと思いますから」
「うーん、余裕はあると思うんだけどなぁ……」
「蛇の邪神の事ではそうとは言い切れませんでしたよね? 活力を与える能力はそこに根源があるのですから、無意識に発動するのはそのせいかも知れません」
「あー、そっか」
 フェリスはヘンネの言った事にどこか納得したようだった。
「うん、ありがとヘンネ。ちょっと気が楽になったわ」
「友人として当然の事ですよ」
 はにかんだ笑顔のフェリスを見て、ヘンネはとても満足そうに誇らしげな表情をするのだった。
 そして、二人はしばらくそのまま無言で薬草園の作業を眺めていたのだった。
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