邪神ちゃんはもふもふ天使

未羊

文字の大きさ
上 下
285 / 290

第285話 邪神ちゃんはのんびりしたい

しおりを挟む
「やっぱりここが落ち着くわー」
 今日もフェリスは家でのんびりとしていた。ルディはジャイアントスパイダーの世話へと出ているので、家に居るのはフェリスとメルの二人だけだった。
「昔のお知り合いの方の様子はどうでしたか、フェリス様」
「そうね、昨夜説明できなかったものね。いいわよ、話してあげる。昔ほどのわだかまりもないし、気楽に話せるっていいわね」
 フェリスはなんともご機嫌だった。
 それというのも、訪問を重ねるたびにオピスの態度が柔軟になっていたからだ。なんだかんだで昔からの脱却をしようとしているオピスの姿に、フェリスもようやく態度を改め始めたのである。
 いろいろと愚痴を言いながらも、フェリスのその表情は柔らかかった。そのフェリスの姿に、メルもなんだか嬉しそうにしていた。
 そんなフェリスメルだが、かつてののんびりとした村の風景はどこへやら、人の往来の激しいまるで街のような状況になっていた。
 一番の理由はスパイダーヤーンだったが、ペコラの食堂にハバリーの金属工房など、目玉となる場所が増えていた。定期的の農産物の取引に来ていたゼニスの手によって、フェリスメルでの取引の管理者の座に就いたアファカの手腕も大きい。フェリスメルは今日も活気にあふれているのである。
「これだけ賑やかだと、外に出る気はしないわね」
「そうですね。のんびりとした村でしたのに、なんだかあの頃が懐かしいです」
 フェリスとメルは笑い合う。
「でも、今日は閉じこもっているのもなんだから、クレアールに行きましょうか」
「はい、フェリス様」
 そういうわけで、外へ出たフェリスはメルを抱えると、空を飛んでクレアールへと向かったのだった。

 クレアールに到着したフェリスは、まずはヘンネの所へ向かう。つまりはクレアールの商業組合である。
「ヘンネ、居るかしら?」
 バーンと扉を開けて中に入るフェリス。後ろではメルが戸惑っていた。
「あら、フェリス。もう戻ってきていたのですね」
 入口が騒がしくなると同時に、ヘンネがフェリスたちの前に姿を現す。それはまるで、来る事が分かっていたかのようなタイミングだった。
「フェリス、奥に来てちょうだい。話す事があるのでしょう?」
「さっすがヘンネ。話が早くて助かるわ」
 嬉しそうにヘンネの後ろへついて行くフェリス。
「メル。あなたも早く来なさい」
「は、はい。フェリス様」
 フェリスが入口でぼーっとしていたメルを呼ぶと、メルは我に返ってフェリスの後を追いかけていった。

 クレアール商業組合のヘンネの私室。さすが真面目なヘンネの部屋らしく、整理整頓されていてとてもきれいだった。
「はあ、コネッホと比べて安心するわね、この部屋は」
「あら、相変わらずの汚部屋なの? コネッホって」
「まったく片付けられないんだから、コネッホってば。あれで錬金術師なんだから信じられないわよね」
 いきなりぼろっかすに言われるコネッホである。部屋の片づけをするように言われて、泣きながらするような邪神だから仕方がない。
「で、蛇の邪神はどうだったのかしらね」
 ヘンネはオピスの話題を振ってくる。オピスの名前は直接会った事のある面々しか思い出せていないので、会っていないヘンネはこの通り『蛇の邪神』呼びなのである。
「とりあえず元気そうだったわね。あたしが行くとけんかになるかと思ったんだけど、思ったより落ち着いていたわ」
「なるほど、フェリスとは仲悪い感じでしたからね。彼女もどこか吹っ切れたのでしょうね」
 フェリスから聞いた話に、ヘンネはそのような感想を持ったようである。あーだこーだとけんかしないで済むのなら、この状況はフェリスとしても大歓迎である。
「しかし、魔物が氾濫しているというバルボルですけど、どうなるのでしょうかね」
「んー、正直分からないわね。でも、あたしの眷属になった魔物があれだけ居るんだし、まあどうにかなるんじゃないかしら」
 ヘンネの話す懸念に、フェリスは意外とあっけらかんとしていた。フェリスの魔力を受けた魔物たちはそれなりに強いはずだし、それを束ねるオピスだって、決して弱い部類ではない。多分どうにかなるはずである。
 バルボルの話をしながら、フェリスとヘンネはとにかく盛り上がっていた。メルは話について来れなかったようだが、楽しそうに話すフェリスの姿を見て満足しているようだった。
「ドラコの育てる薬草も売り込めないかしらね。ゼニス殿はバルボルともつながりがあるようだし、便乗して販路を広げたいですね」
 ひと通りの話を終えたところで、ヘンネは本気で悩んでいるようだった。根っからではないもののヘンネは商売人なのである。
「それだったら、ドラコのところに行きましょうか。あたしたちがどうのこうの言っても、ドラコにその気があるかないかを確認しておかないとね」
「確かにそうですね。それでは参りましょうか」
 フェリスとヘンネが立ち上がるので、メルも立ち上がって商業組合を出ていく。そして、すぐ近くにあるドラコの薬草園へと向かったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

悪役令嬢は始祖竜の母となる

葉柚
ファンタジー
にゃんこ大好きな私はいつの間にか乙女ゲームの世界に転生していたようです。 しかも、なんと悪役令嬢として転生してしまったようです。 どうせ転生するのであればモブがよかったです。 この乙女ゲームでは精霊の卵を育てる必要があるんですが・・・。 精霊の卵が孵ったら悪役令嬢役の私は死んでしまうではないですか。 だって、悪役令嬢が育てた卵からは邪竜が孵るんですよ・・・? あれ? そう言えば邪竜が孵ったら、世界の人口が1/3まで減るんでした。 邪竜が生まれてこないようにするにはどうしたらいいんでしょう!?

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...