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第285話 邪神ちゃんはのんびりしたい
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「やっぱりここが落ち着くわー」
今日もフェリスは家でのんびりとしていた。ルディはジャイアントスパイダーの世話へと出ているので、家に居るのはフェリスとメルの二人だけだった。
「昔のお知り合いの方の様子はどうでしたか、フェリス様」
「そうね、昨夜説明できなかったものね。いいわよ、話してあげる。昔ほどのわだかまりもないし、気楽に話せるっていいわね」
フェリスはなんともご機嫌だった。
それというのも、訪問を重ねるたびにオピスの態度が柔軟になっていたからだ。なんだかんだで昔からの脱却をしようとしているオピスの姿に、フェリスもようやく態度を改め始めたのである。
いろいろと愚痴を言いながらも、フェリスのその表情は柔らかかった。そのフェリスの姿に、メルもなんだか嬉しそうにしていた。
そんなフェリスメルだが、かつてののんびりとした村の風景はどこへやら、人の往来の激しいまるで街のような状況になっていた。
一番の理由はスパイダーヤーンだったが、ペコラの食堂にハバリーの金属工房など、目玉となる場所が増えていた。定期的の農産物の取引に来ていたゼニスの手によって、フェリスメルでの取引の管理者の座に就いたアファカの手腕も大きい。フェリスメルは今日も活気にあふれているのである。
「これだけ賑やかだと、外に出る気はしないわね」
「そうですね。のんびりとした村でしたのに、なんだかあの頃が懐かしいです」
フェリスとメルは笑い合う。
「でも、今日は閉じこもっているのもなんだから、クレアールに行きましょうか」
「はい、フェリス様」
そういうわけで、外へ出たフェリスはメルを抱えると、空を飛んでクレアールへと向かったのだった。
クレアールに到着したフェリスは、まずはヘンネの所へ向かう。つまりはクレアールの商業組合である。
「ヘンネ、居るかしら?」
バーンと扉を開けて中に入るフェリス。後ろではメルが戸惑っていた。
「あら、フェリス。もう戻ってきていたのですね」
入口が騒がしくなると同時に、ヘンネがフェリスたちの前に姿を現す。それはまるで、来る事が分かっていたかのようなタイミングだった。
「フェリス、奥に来てちょうだい。話す事があるのでしょう?」
「さっすがヘンネ。話が早くて助かるわ」
嬉しそうにヘンネの後ろへついて行くフェリス。
「メル。あなたも早く来なさい」
「は、はい。フェリス様」
フェリスが入口でぼーっとしていたメルを呼ぶと、メルは我に返ってフェリスの後を追いかけていった。
クレアール商業組合のヘンネの私室。さすが真面目なヘンネの部屋らしく、整理整頓されていてとてもきれいだった。
「はあ、コネッホと比べて安心するわね、この部屋は」
「あら、相変わらずの汚部屋なの? コネッホって」
「まったく片付けられないんだから、コネッホってば。あれで錬金術師なんだから信じられないわよね」
いきなりぼろっかすに言われるコネッホである。部屋の片づけをするように言われて、泣きながらするような邪神だから仕方がない。
「で、蛇の邪神はどうだったのかしらね」
ヘンネはオピスの話題を振ってくる。オピスの名前は直接会った事のある面々しか思い出せていないので、会っていないヘンネはこの通り『蛇の邪神』呼びなのである。
「とりあえず元気そうだったわね。あたしが行くとけんかになるかと思ったんだけど、思ったより落ち着いていたわ」
「なるほど、フェリスとは仲悪い感じでしたからね。彼女もどこか吹っ切れたのでしょうね」
フェリスから聞いた話に、ヘンネはそのような感想を持ったようである。あーだこーだとけんかしないで済むのなら、この状況はフェリスとしても大歓迎である。
「しかし、魔物が氾濫しているというバルボルですけど、どうなるのでしょうかね」
「んー、正直分からないわね。でも、あたしの眷属になった魔物があれだけ居るんだし、まあどうにかなるんじゃないかしら」
ヘンネの話す懸念に、フェリスは意外とあっけらかんとしていた。フェリスの魔力を受けた魔物たちはそれなりに強いはずだし、それを束ねるオピスだって、決して弱い部類ではない。多分どうにかなるはずである。
バルボルの話をしながら、フェリスとヘンネはとにかく盛り上がっていた。メルは話について来れなかったようだが、楽しそうに話すフェリスの姿を見て満足しているようだった。
「ドラコの育てる薬草も売り込めないかしらね。ゼニス殿はバルボルともつながりがあるようだし、便乗して販路を広げたいですね」
ひと通りの話を終えたところで、ヘンネは本気で悩んでいるようだった。根っからではないもののヘンネは商売人なのである。
「それだったら、ドラコのところに行きましょうか。あたしたちがどうのこうの言っても、ドラコにその気があるかないかを確認しておかないとね」
「確かにそうですね。それでは参りましょうか」
フェリスとヘンネが立ち上がるので、メルも立ち上がって商業組合を出ていく。そして、すぐ近くにあるドラコの薬草園へと向かったのだった。
今日もフェリスは家でのんびりとしていた。ルディはジャイアントスパイダーの世話へと出ているので、家に居るのはフェリスとメルの二人だけだった。
「昔のお知り合いの方の様子はどうでしたか、フェリス様」
「そうね、昨夜説明できなかったものね。いいわよ、話してあげる。昔ほどのわだかまりもないし、気楽に話せるっていいわね」
フェリスはなんともご機嫌だった。
それというのも、訪問を重ねるたびにオピスの態度が柔軟になっていたからだ。なんだかんだで昔からの脱却をしようとしているオピスの姿に、フェリスもようやく態度を改め始めたのである。
いろいろと愚痴を言いながらも、フェリスのその表情は柔らかかった。そのフェリスの姿に、メルもなんだか嬉しそうにしていた。
そんなフェリスメルだが、かつてののんびりとした村の風景はどこへやら、人の往来の激しいまるで街のような状況になっていた。
一番の理由はスパイダーヤーンだったが、ペコラの食堂にハバリーの金属工房など、目玉となる場所が増えていた。定期的の農産物の取引に来ていたゼニスの手によって、フェリスメルでの取引の管理者の座に就いたアファカの手腕も大きい。フェリスメルは今日も活気にあふれているのである。
「これだけ賑やかだと、外に出る気はしないわね」
「そうですね。のんびりとした村でしたのに、なんだかあの頃が懐かしいです」
フェリスとメルは笑い合う。
「でも、今日は閉じこもっているのもなんだから、クレアールに行きましょうか」
「はい、フェリス様」
そういうわけで、外へ出たフェリスはメルを抱えると、空を飛んでクレアールへと向かったのだった。
クレアールに到着したフェリスは、まずはヘンネの所へ向かう。つまりはクレアールの商業組合である。
「ヘンネ、居るかしら?」
バーンと扉を開けて中に入るフェリス。後ろではメルが戸惑っていた。
「あら、フェリス。もう戻ってきていたのですね」
入口が騒がしくなると同時に、ヘンネがフェリスたちの前に姿を現す。それはまるで、来る事が分かっていたかのようなタイミングだった。
「フェリス、奥に来てちょうだい。話す事があるのでしょう?」
「さっすがヘンネ。話が早くて助かるわ」
嬉しそうにヘンネの後ろへついて行くフェリス。
「メル。あなたも早く来なさい」
「は、はい。フェリス様」
フェリスが入口でぼーっとしていたメルを呼ぶと、メルは我に返ってフェリスの後を追いかけていった。
クレアール商業組合のヘンネの私室。さすが真面目なヘンネの部屋らしく、整理整頓されていてとてもきれいだった。
「はあ、コネッホと比べて安心するわね、この部屋は」
「あら、相変わらずの汚部屋なの? コネッホって」
「まったく片付けられないんだから、コネッホってば。あれで錬金術師なんだから信じられないわよね」
いきなりぼろっかすに言われるコネッホである。部屋の片づけをするように言われて、泣きながらするような邪神だから仕方がない。
「で、蛇の邪神はどうだったのかしらね」
ヘンネはオピスの話題を振ってくる。オピスの名前は直接会った事のある面々しか思い出せていないので、会っていないヘンネはこの通り『蛇の邪神』呼びなのである。
「とりあえず元気そうだったわね。あたしが行くとけんかになるかと思ったんだけど、思ったより落ち着いていたわ」
「なるほど、フェリスとは仲悪い感じでしたからね。彼女もどこか吹っ切れたのでしょうね」
フェリスから聞いた話に、ヘンネはそのような感想を持ったようである。あーだこーだとけんかしないで済むのなら、この状況はフェリスとしても大歓迎である。
「しかし、魔物が氾濫しているというバルボルですけど、どうなるのでしょうかね」
「んー、正直分からないわね。でも、あたしの眷属になった魔物があれだけ居るんだし、まあどうにかなるんじゃないかしら」
ヘンネの話す懸念に、フェリスは意外とあっけらかんとしていた。フェリスの魔力を受けた魔物たちはそれなりに強いはずだし、それを束ねるオピスだって、決して弱い部類ではない。多分どうにかなるはずである。
バルボルの話をしながら、フェリスとヘンネはとにかく盛り上がっていた。メルは話について来れなかったようだが、楽しそうに話すフェリスの姿を見て満足しているようだった。
「ドラコの育てる薬草も売り込めないかしらね。ゼニス殿はバルボルともつながりがあるようだし、便乗して販路を広げたいですね」
ひと通りの話を終えたところで、ヘンネは本気で悩んでいるようだった。根っからではないもののヘンネは商売人なのである。
「それだったら、ドラコのところに行きましょうか。あたしたちがどうのこうの言っても、ドラコにその気があるかないかを確認しておかないとね」
「確かにそうですね。それでは参りましょうか」
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