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第281話 邪神ちゃんの思い出語り
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オピス。蛇の邪神の名前である。
元々は下半身が蛇のラミアといわれる種族だったのだが、彼女はサイコシスの弟子となった時に完全な人型となった。
純粋な魔族だったオピスがサイコシスに見出されたのはたまたまだった。
ある日、オピスの住んでいたラミアの集落が別の魔物に襲われた。魔法を得意とするラミアとはいえど、奇襲を食らえばひとたまりもなかった。
気が付けばオピス以外のラミア族は全滅。オピスも殺されかかったところにサイコシスが颯爽と現れたのだ。
残虐な事で知られる魔族サイコシスだが、その時のオピスにとってしてみれば、サイコシスは自分を救ってくれた英雄だった。
「ふん、下等な魔物の分際で、よくも俺の目の届く範囲で暴れてくれたものだな。……これでは使い物にならんではないか」
そう呟いたサイコシスは、地面にへたり込んで震えるオピスに目が留まる。
「ほう、生き残りが居たか。……どうだ、俺の助手をやる気はないか?」
その時のサイコシスの目は実に冷たいものだった。生きている相手を見るようなそんな目ではない。
だが、命を救われたオピスにしてみれば、サイコシスは自分にとっての命の恩人であり、命を捧げてでも仕えるべき相手と感じてしまったのだ。ぶっちゃけて言えば、一目惚れのようなものだろう。この時から、オピスは熱心なサイコシス信者となったのだった。
「ふん、その足では移動しづらいだろう。これでどうだ」
助手の要請を了承したオピスは、サイコシスの手によって人型の姿を手に入れたのだった。そして、仲間を弔うとサイコシスの屋敷に住みついたのだった。
サイコシスの助手となったオピスは、一番の助手となるべく必死に勉強した。当時のサイコシスの下には、多くの弟子が居たのである。
残虐の限りを尽くすサイコシスだが、有能だと思えば自分の所に拾ってくる癖があった。オピスが拾われたのもそういう背景があり、実はサイコシスの弟子たちはみんなそういう背景がある者ばかりだった。
そして、サイコシスも拾った相手の事は簡単に捨てはしなかった。分からなければちゃんと教えてくれるし、地味に面倒見がよかったのである。そのために、サイコシスは身内とそれ以外とでは評価がまったく異なっていたのである。
それからのオピスは、サイコシスの役に立とうと必死に勉強した。魔法だってたくさん覚えたし、ラミア族のもう一つの特徴である邪眼だって鍛えた。
その中では他の弟子たちと衝突する事もあったが、その必死の努力で身に付けた能力で黙らせてやった。オピスはサイコシスの弟子の中ではトップクラスの実力となっていたのだった。
めきめきと才能の頭角を現してきたオピスは、他の弟子たちを束ねるようになっていた。しかし、それでもサイコシスの関心を引く事はできなかった。サイコシスは研究以外の事にはほとんど目もくれなかったのである。
他の弟子たちが脱落していく中でも、オピスは根気強くサイコシスを支え続けた。
そんなある日の事だった。サイコシスが白猫を拾ってきたのは。
「サイコシス様、その猫は?」
「くくくっ、こいつはただの猫じゃない。いい実験体になりそうな、実に素質のある猫だ」
サイコシスはぐったりとした白猫を持ったまま、研究室へと消えていった。
そして、誕生したのが忌まわしき白猫の魔族フェリスだった。
サイコシスが長年続けてきた研究の唯一の成功体であるフェリスは、サイコシスにとても可愛がられていた。その姿を目の当たりにしたオピスは、フェリスに対して歪んだ感情を募らせていく。
サイコシスの眷属として屋敷に迎え入れられたフェリスは、とても天真爛漫で眩しすぎた。
絶望も経験した事のあるオピスの目にはとても直視できない存在だったのだ。それと同時に、無視もできない存在となっていた。
なぜなら、自分が欲しかったサイコシスの隣を、あっさりと手に入れてしまっていたからだ。フェリスがサイコシスに可愛がられる姿は、とてもではないが、オピスにとって受け入れられないものだったのだ。
それからというもの、オピスのフェリスに対する一方的な仕打ちが始まった。ただ幸いなのは、フェリスがその辺りの事をすっかりと忘れてしまっている事だ。ただ、オピスに対していい感情を持っていないのは確かで、心の奥底ではその記憶が残っているのだろう。
「はあ、ちょっとやりすぎちゃったわね……」
昔を思い出しながら、がれきの山と化したサイコシスの屋敷を見ているオピス。フェリスに対する憎悪の再燃させたせいで、自分の楽しかった記憶までもががれきと化してしまっていたのだ。
今さら後悔しても遅いのは分かっている。それでも、やっぱりフェリスを許す事はできそうになかった。そのくらいに、オピスのサイコシスに対する感情は特別なものだったのである。
だが、サイコシス亡き今となっては、その感情も行き場のないものとなっていた。
それでも今回、その縋り付くような思いも、ものの見事にフェリスたちによって粉砕されてしまったオピス。そのせいか、少し気持ちは落ち着いたようだった。
(でも、こうしてあの人との思い出の場所に留まれるのなら、それも悪くないかもね……)
オピスは魔物たちの面倒を押し付けられつつも、オピスはひっそりと笑顔を見せたのだった。
元々は下半身が蛇のラミアといわれる種族だったのだが、彼女はサイコシスの弟子となった時に完全な人型となった。
純粋な魔族だったオピスがサイコシスに見出されたのはたまたまだった。
ある日、オピスの住んでいたラミアの集落が別の魔物に襲われた。魔法を得意とするラミアとはいえど、奇襲を食らえばひとたまりもなかった。
気が付けばオピス以外のラミア族は全滅。オピスも殺されかかったところにサイコシスが颯爽と現れたのだ。
残虐な事で知られる魔族サイコシスだが、その時のオピスにとってしてみれば、サイコシスは自分を救ってくれた英雄だった。
「ふん、下等な魔物の分際で、よくも俺の目の届く範囲で暴れてくれたものだな。……これでは使い物にならんではないか」
そう呟いたサイコシスは、地面にへたり込んで震えるオピスに目が留まる。
「ほう、生き残りが居たか。……どうだ、俺の助手をやる気はないか?」
その時のサイコシスの目は実に冷たいものだった。生きている相手を見るようなそんな目ではない。
だが、命を救われたオピスにしてみれば、サイコシスは自分にとっての命の恩人であり、命を捧げてでも仕えるべき相手と感じてしまったのだ。ぶっちゃけて言えば、一目惚れのようなものだろう。この時から、オピスは熱心なサイコシス信者となったのだった。
「ふん、その足では移動しづらいだろう。これでどうだ」
助手の要請を了承したオピスは、サイコシスの手によって人型の姿を手に入れたのだった。そして、仲間を弔うとサイコシスの屋敷に住みついたのだった。
サイコシスの助手となったオピスは、一番の助手となるべく必死に勉強した。当時のサイコシスの下には、多くの弟子が居たのである。
残虐の限りを尽くすサイコシスだが、有能だと思えば自分の所に拾ってくる癖があった。オピスが拾われたのもそういう背景があり、実はサイコシスの弟子たちはみんなそういう背景がある者ばかりだった。
そして、サイコシスも拾った相手の事は簡単に捨てはしなかった。分からなければちゃんと教えてくれるし、地味に面倒見がよかったのである。そのために、サイコシスは身内とそれ以外とでは評価がまったく異なっていたのである。
それからのオピスは、サイコシスの役に立とうと必死に勉強した。魔法だってたくさん覚えたし、ラミア族のもう一つの特徴である邪眼だって鍛えた。
その中では他の弟子たちと衝突する事もあったが、その必死の努力で身に付けた能力で黙らせてやった。オピスはサイコシスの弟子の中ではトップクラスの実力となっていたのだった。
めきめきと才能の頭角を現してきたオピスは、他の弟子たちを束ねるようになっていた。しかし、それでもサイコシスの関心を引く事はできなかった。サイコシスは研究以外の事にはほとんど目もくれなかったのである。
他の弟子たちが脱落していく中でも、オピスは根気強くサイコシスを支え続けた。
そんなある日の事だった。サイコシスが白猫を拾ってきたのは。
「サイコシス様、その猫は?」
「くくくっ、こいつはただの猫じゃない。いい実験体になりそうな、実に素質のある猫だ」
サイコシスはぐったりとした白猫を持ったまま、研究室へと消えていった。
そして、誕生したのが忌まわしき白猫の魔族フェリスだった。
サイコシスが長年続けてきた研究の唯一の成功体であるフェリスは、サイコシスにとても可愛がられていた。その姿を目の当たりにしたオピスは、フェリスに対して歪んだ感情を募らせていく。
サイコシスの眷属として屋敷に迎え入れられたフェリスは、とても天真爛漫で眩しすぎた。
絶望も経験した事のあるオピスの目にはとても直視できない存在だったのだ。それと同時に、無視もできない存在となっていた。
なぜなら、自分が欲しかったサイコシスの隣を、あっさりと手に入れてしまっていたからだ。フェリスがサイコシスに可愛がられる姿は、とてもではないが、オピスにとって受け入れられないものだったのだ。
それからというもの、オピスのフェリスに対する一方的な仕打ちが始まった。ただ幸いなのは、フェリスがその辺りの事をすっかりと忘れてしまっている事だ。ただ、オピスに対していい感情を持っていないのは確かで、心の奥底ではその記憶が残っているのだろう。
「はあ、ちょっとやりすぎちゃったわね……」
昔を思い出しながら、がれきの山と化したサイコシスの屋敷を見ているオピス。フェリスに対する憎悪の再燃させたせいで、自分の楽しかった記憶までもががれきと化してしまっていたのだ。
今さら後悔しても遅いのは分かっている。それでも、やっぱりフェリスを許す事はできそうになかった。そのくらいに、オピスのサイコシスに対する感情は特別なものだったのである。
だが、サイコシス亡き今となっては、その感情も行き場のないものとなっていた。
それでも今回、その縋り付くような思いも、ものの見事にフェリスたちによって粉砕されてしまったオピス。そのせいか、少し気持ちは落ち着いたようだった。
(でも、こうしてあの人との思い出の場所に留まれるのなら、それも悪くないかもね……)
オピスは魔物たちの面倒を押し付けられつつも、オピスはひっそりと笑顔を見せたのだった。
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