280 / 290
第280話 邪神ちゃんの別れの時
しおりを挟む
ひと晩、フェリスの眷属となった魔物たちと一緒に過ごした冒険者組合の職員たち。その結果、問題ないと判断したために、報告のためにレックスに戻る事になった。
「このような魔物も居るとは勉強になりました」
そう言って、フェリスたちに敬礼のようなポーズを取っていた。そこまでされると、悪い気はしないもののどこかむず痒くなるフェリスたちである。
「まぁ、魔物とはひと口にいっても、野良か主持ちでも変わるし、主持ちでも主によって変わるからね。まぁ、あたしが主ならこんなものよ」
フェリスはそう言いながら、腰に手を当てて笑っている。さすがにこの自慢げな態度にドラコとオピスはジト目を向けて、ラータは呆れ、マイオリーは笑っていた。変なところで調子に乗るのがフェリスの悪い癖である。
「では、ご主人様。ここの事は僕たちに任せて下さい」
「そうですよ。いい思い出はないですけれど、ここはご主人様と会った記念の場所ですからね」
魔物たちは口々にそう言ってくれている。これにはフェリスはにっこりするし、オピスは複雑な表情で顔を背けていた。やはりオピスはどこか後ろめたいのだろう。単純に慕われているフェリスが気に食わないだけかも知れないが、オピスはこれからそんな魔物たちを相手にしなければならないので、もしそうであるならばこれから先が思いやられるばかりである。
わいわいと話をする魔物たちを横目に、フェリスは改めてオピスを見る。
「まっ、別にあたしの事を好きになれなんて言わないわ。多分これから先も気が合う事はないでしょうし、変に合わせようとするよりも、自分のやりたい事をやる方がいいんじゃないの? コネッホみたいにさ」
フェリスの言葉に、きょとんと目を丸くするオピスだった。
「あたくしの……やりたい事か……」
「占いをしてるみたいだし、来た人占ってみるのもいいかもよ。当たるって評判らしいじゃないの」
フェリスはにししと笑いながらオピスに提案する。だが、文句を言ってくるかと思っていたフェリスに、予想外な反応が返ってくる。
「そうね、それもいいかも知れないですわね」
「おっとぉ?!」
前向きなオピスの言葉だった。
「勘違いしないで下さいな。あたくしは、あなたを許したわけではありません。ただ確かに、恨んで生きていくだけというのもつまらないと感じましたの。サイコシス様の研究も、純粋な気持ちで続けていきたいですしね」
やけにしおらしいオピスである。
「そっか。まっ、その決意が本物か、ドラコとたまに確認させてもらうわよ」
「あたくしを舐めている事を、後悔させて差し上げますわよ」
フェリスとオピスは、その間でバチバチと火花を散らしていた。本当に根本的に仲の悪い二人なのである。
「おい、そろそろいいか、二人とも。みんな待たされ過ぎて飽きてきておるぞ」
様子を見かねたドラコが声を掛けてくる。これにはさすがにフェリスも慌てたようである。
「悪いわね、みんな」
とりあえず謝るフェリスである。
「いえいえ。フェリス様が気の済むまでお話されてるのでしたら、いくらでもお待ちしますよ」
マイオリーはそういう事を言っていたが、さすがに今回はレックスの人間も居るので限度があるというものだった。そんなわけで、ラータがマイオリーを諫めていた。そしたらマイオリーは、
「それもそうでしたね。失礼致しました」
こちらもこちらで笑いながら謝罪していた。まったく、聖女がそれでいいのかと思うフェリスである。
「……ねえ、帰るのか帰らないのかはっきりして下さいません?」
オピスも呆れてツッコミを入れるくらいである。
「わしもさすがに付き合いきれん。さあ、とっとと背中に乗らんか」
ドラコはドラゴンの姿となって地べたに横たわる。レックスの職員たちは、ラータに手伝ってもらいながらその背中に乗り込んでいた。
「それじゃ、あたしたちは行くわよ。まあ心配要らないだろうけど、元気にやんなさいよね」
「あなたに心配されるほど、あたくしはやわではないわ。さっさと行ったらどうなのかしら」
口げんかをしているフェリスとオピスだが、どことなくその空気は和やかのように思えた。
「これ、そのくらいにしておかんか。そのまましてると置いていくぞ、フェリス」
すでに堪忍袋の緒が切れかかっているドラコは、フェリスを急かしている。なにせフェリス以外は既に全員が背中に乗っている状態だからだ。ちなみにマイオリーに懐いたビエールもちゃんと乗っている。
「それじゃ、あたしは行くわね。寂しくなってちょっかい掛けに来るんじゃないわよ」
「だ、誰が行くもんですか!」
意地悪そうに言うフェリスに、顔を真っ赤にして文句を返すオピス。その光景にドラコたちは苦笑いをするばかりだった。
そして、ぴょんと跳び上がって、フェリスはドラコの背中に乗った。
「それじゃあの、オピス。元気にしておるんじゃぞ」
「フェリスの鼻を明かすまで、死んでたまるものですか!」
上空へ舞い上がるドラコに、最後まで憎まれ口を叩くオピスである。
だが、その小さくなっていく姿を見ながら、オピスの頬には確かに光るものが流れていたのだった。
「このような魔物も居るとは勉強になりました」
そう言って、フェリスたちに敬礼のようなポーズを取っていた。そこまでされると、悪い気はしないもののどこかむず痒くなるフェリスたちである。
「まぁ、魔物とはひと口にいっても、野良か主持ちでも変わるし、主持ちでも主によって変わるからね。まぁ、あたしが主ならこんなものよ」
フェリスはそう言いながら、腰に手を当てて笑っている。さすがにこの自慢げな態度にドラコとオピスはジト目を向けて、ラータは呆れ、マイオリーは笑っていた。変なところで調子に乗るのがフェリスの悪い癖である。
「では、ご主人様。ここの事は僕たちに任せて下さい」
「そうですよ。いい思い出はないですけれど、ここはご主人様と会った記念の場所ですからね」
魔物たちは口々にそう言ってくれている。これにはフェリスはにっこりするし、オピスは複雑な表情で顔を背けていた。やはりオピスはどこか後ろめたいのだろう。単純に慕われているフェリスが気に食わないだけかも知れないが、オピスはこれからそんな魔物たちを相手にしなければならないので、もしそうであるならばこれから先が思いやられるばかりである。
わいわいと話をする魔物たちを横目に、フェリスは改めてオピスを見る。
「まっ、別にあたしの事を好きになれなんて言わないわ。多分これから先も気が合う事はないでしょうし、変に合わせようとするよりも、自分のやりたい事をやる方がいいんじゃないの? コネッホみたいにさ」
フェリスの言葉に、きょとんと目を丸くするオピスだった。
「あたくしの……やりたい事か……」
「占いをしてるみたいだし、来た人占ってみるのもいいかもよ。当たるって評判らしいじゃないの」
フェリスはにししと笑いながらオピスに提案する。だが、文句を言ってくるかと思っていたフェリスに、予想外な反応が返ってくる。
「そうね、それもいいかも知れないですわね」
「おっとぉ?!」
前向きなオピスの言葉だった。
「勘違いしないで下さいな。あたくしは、あなたを許したわけではありません。ただ確かに、恨んで生きていくだけというのもつまらないと感じましたの。サイコシス様の研究も、純粋な気持ちで続けていきたいですしね」
やけにしおらしいオピスである。
「そっか。まっ、その決意が本物か、ドラコとたまに確認させてもらうわよ」
「あたくしを舐めている事を、後悔させて差し上げますわよ」
フェリスとオピスは、その間でバチバチと火花を散らしていた。本当に根本的に仲の悪い二人なのである。
「おい、そろそろいいか、二人とも。みんな待たされ過ぎて飽きてきておるぞ」
様子を見かねたドラコが声を掛けてくる。これにはさすがにフェリスも慌てたようである。
「悪いわね、みんな」
とりあえず謝るフェリスである。
「いえいえ。フェリス様が気の済むまでお話されてるのでしたら、いくらでもお待ちしますよ」
マイオリーはそういう事を言っていたが、さすがに今回はレックスの人間も居るので限度があるというものだった。そんなわけで、ラータがマイオリーを諫めていた。そしたらマイオリーは、
「それもそうでしたね。失礼致しました」
こちらもこちらで笑いながら謝罪していた。まったく、聖女がそれでいいのかと思うフェリスである。
「……ねえ、帰るのか帰らないのかはっきりして下さいません?」
オピスも呆れてツッコミを入れるくらいである。
「わしもさすがに付き合いきれん。さあ、とっとと背中に乗らんか」
ドラコはドラゴンの姿となって地べたに横たわる。レックスの職員たちは、ラータに手伝ってもらいながらその背中に乗り込んでいた。
「それじゃ、あたしたちは行くわよ。まあ心配要らないだろうけど、元気にやんなさいよね」
「あなたに心配されるほど、あたくしはやわではないわ。さっさと行ったらどうなのかしら」
口げんかをしているフェリスとオピスだが、どことなくその空気は和やかのように思えた。
「これ、そのくらいにしておかんか。そのまましてると置いていくぞ、フェリス」
すでに堪忍袋の緒が切れかかっているドラコは、フェリスを急かしている。なにせフェリス以外は既に全員が背中に乗っている状態だからだ。ちなみにマイオリーに懐いたビエールもちゃんと乗っている。
「それじゃ、あたしは行くわね。寂しくなってちょっかい掛けに来るんじゃないわよ」
「だ、誰が行くもんですか!」
意地悪そうに言うフェリスに、顔を真っ赤にして文句を返すオピス。その光景にドラコたちは苦笑いをするばかりだった。
そして、ぴょんと跳び上がって、フェリスはドラコの背中に乗った。
「それじゃあの、オピス。元気にしておるんじゃぞ」
「フェリスの鼻を明かすまで、死んでたまるものですか!」
上空へ舞い上がるドラコに、最後まで憎まれ口を叩くオピスである。
だが、その小さくなっていく姿を見ながら、オピスの頬には確かに光るものが流れていたのだった。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~
エール
ファンタジー
古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。
彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。
経営者は若い美人姉妹。
妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。
そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。
最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる