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第275話 邪神ちゃんを照らす夕陽
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「さて、オピス。事情を説明してもらおうじゃないかしらね」
フェリスはオピスを強く睨み付ける。
魔物との融合を使った後のオピスは、体を制御できているようには思えなかったからだ。なにしろ体が崩れかかっていたのだから。
じっと鋭い視線をフェリスから向けられ、オピスはくるりと顔を背けようとしていた。
「オピス。さすがにわしも事情を聞かせてもらいたいのう。なぜ、自分の事をわしらの記憶から消し去ろうとしたのか、その辺りからもすべてな」
顔を背けたオピスの前にはドラコが立ちはだかる。オピスは気まずくてさらに視線を外そうとするが、
「おっと、逃げる事は許しませんよ。あわや大惨事だったのですから、すべてをしっかり説明してもらいましょう」
ラータまでもがオピスを取り囲む。これにはさすがにオピスも分が悪すぎる。なにせ、三人ともオピスより実力が上なのだから。邪眼を使ってようやくどうにかできるような相手である。完全に分が悪かった。
さらに視線を逸らしてマイオリーを見るオピスだが、そのマイオリーはにこにこと笑ってオピスの事を見ている。
ところが、その視線にオピスは震え上がってしまう。その視線にすべてを察するオピス。もう明確に自分より下の相手は魔物たちしか居なかったのだ。しかもその魔物たちはフェリスの軍門に下っている。
「さあ、話してくれるわよね?」
観念したオピスは、フェリスの圧に屈して無言で頷いたのだった。
オピスが語ったサイコシスの研究はそれは恐ろしいものだった。簡単に言うと、魔物たちをいけにえにして新たな魔物を作り出すというものだったらしい。最終的にはあらゆる能力を持つ魔物を生み出し、それと自身を合成する事で神のような存在になろうとしていたのだそうだ。
フェリスはその唯一の成功例であり、フェリスがなんとも妙な姿をしている理由は、魔物の合成体だからというわけなのだ。
「サイコシス様からすれば、あなたの性格は完全に予想外でしたでしょうけどね。あのサイコシス様の眷属でありながら、残虐性の欠片すらないんですからね」
確かにそうである。
フェリスはまだ若い頃には悪戯もしていたが、どれもこれも可愛いものだった。そこまで深刻なものではなく、子どもの悪戯とも言っていいレベルだった。だからこそ、相手からしたら邪神(笑)くらいの認識だったのかも知れない。
オピスがフェリスに嫉妬したのは、そんな魔族らしからぬフェリスだというのに、サイコシスの愛情を一身に受けていた事だろう。フェリスは覚えていないが、実際かなりサイコシスに可愛がられていたようである。
ところが、結局フェリスはサイコシスの望んだ力は発揮しないままだった。それがゆえに、フェリスはオピスの邪眼によって意識を奪われ、そのまま地下に幽閉されてしまった。ちなみにその地下はオピスが侵入した地下室とは別のものである。
「なんて恐ろしい事なのでしょう。魔物の命を弄び、神になろうとしていたのですね」
マイオリーもかなり憤っているようである。聖女として、命を弄ぶ行為を許せるわけがなかったのだ。
だが、その研究がフェリスを生み出し、そのフェリスとマイオリーは友諠を結んでいるのだから、世の中は分からないというものである。
「そういう事よ。あたくしは弟子としてその研究を引き継ぎ、それを完成させようとしていたのよ。……結果は見ての通りでしたけれどね」
失敗に終わった事に、オピスはかなり落ち込んでいた。
「オピスよ、その研究はもうやめるんじゃな。お前さんの実力ではとてもではないが完成させる事ができぬ。今回の事で懲りたじゃろう?」
「……返す言葉もありませんわね」
ドラコの言葉に、オピスは悔しさをにじませながら返していた。この分だとまだ諦めていないようである。
「罰として、お前さんにはこいつらの面倒を見てもらうぞ。あんな目に遭わされながらも、こいつらはお前さんと一緒に居る事を選んだんだからな」
「えっ?!」
ドラコから聞かされた言葉に、オピスはとても驚いている。
実験のために抜け殻にされた魔物たちであり、無理やり合成させた事で体が崩れかかっていた事実もある。だというのに、自分を選んでくれたという事実が受け入れられなかったのである。
「そんな、何かの間違いでしょう?」
「間違いなんかじゃないよ」
魔物にはっきりと言われるオピス。これにはさすがに言葉を失った。
「あ、あたくしなんかでよろしいのかしら」
「構わないよ。これはボクたちの総意だからね」
おそるおそる確認するオピス。それに対して魔物たちははっきりとそう告げると、オピスは顔を伏せて大声で泣いていた。
フェリスたちは黙ってその姿を見ていた。この光景に言葉は要らなかったのである。
「さて、陽が暮れてきたのう。今日はここで休む事になりそうなじゃ」
「そうね。食事なら任せてちょうだい。しっかりと振る舞わせてもらうわよ」
完全に解消したわけではないが、少しわだかまりが無くなったのか、フェリスたちの間の雰囲気が少し和らいでいた。
賑やかなその光景を夕陽が優しく照らしている。気のせいか、崩れてボロボロになったサイコシスの屋敷も、少し輝いていたような気がした。
フェリスはオピスを強く睨み付ける。
魔物との融合を使った後のオピスは、体を制御できているようには思えなかったからだ。なにしろ体が崩れかかっていたのだから。
じっと鋭い視線をフェリスから向けられ、オピスはくるりと顔を背けようとしていた。
「オピス。さすがにわしも事情を聞かせてもらいたいのう。なぜ、自分の事をわしらの記憶から消し去ろうとしたのか、その辺りからもすべてな」
顔を背けたオピスの前にはドラコが立ちはだかる。オピスは気まずくてさらに視線を外そうとするが、
「おっと、逃げる事は許しませんよ。あわや大惨事だったのですから、すべてをしっかり説明してもらいましょう」
ラータまでもがオピスを取り囲む。これにはさすがにオピスも分が悪すぎる。なにせ、三人ともオピスより実力が上なのだから。邪眼を使ってようやくどうにかできるような相手である。完全に分が悪かった。
さらに視線を逸らしてマイオリーを見るオピスだが、そのマイオリーはにこにこと笑ってオピスの事を見ている。
ところが、その視線にオピスは震え上がってしまう。その視線にすべてを察するオピス。もう明確に自分より下の相手は魔物たちしか居なかったのだ。しかもその魔物たちはフェリスの軍門に下っている。
「さあ、話してくれるわよね?」
観念したオピスは、フェリスの圧に屈して無言で頷いたのだった。
オピスが語ったサイコシスの研究はそれは恐ろしいものだった。簡単に言うと、魔物たちをいけにえにして新たな魔物を作り出すというものだったらしい。最終的にはあらゆる能力を持つ魔物を生み出し、それと自身を合成する事で神のような存在になろうとしていたのだそうだ。
フェリスはその唯一の成功例であり、フェリスがなんとも妙な姿をしている理由は、魔物の合成体だからというわけなのだ。
「サイコシス様からすれば、あなたの性格は完全に予想外でしたでしょうけどね。あのサイコシス様の眷属でありながら、残虐性の欠片すらないんですからね」
確かにそうである。
フェリスはまだ若い頃には悪戯もしていたが、どれもこれも可愛いものだった。そこまで深刻なものではなく、子どもの悪戯とも言っていいレベルだった。だからこそ、相手からしたら邪神(笑)くらいの認識だったのかも知れない。
オピスがフェリスに嫉妬したのは、そんな魔族らしからぬフェリスだというのに、サイコシスの愛情を一身に受けていた事だろう。フェリスは覚えていないが、実際かなりサイコシスに可愛がられていたようである。
ところが、結局フェリスはサイコシスの望んだ力は発揮しないままだった。それがゆえに、フェリスはオピスの邪眼によって意識を奪われ、そのまま地下に幽閉されてしまった。ちなみにその地下はオピスが侵入した地下室とは別のものである。
「なんて恐ろしい事なのでしょう。魔物の命を弄び、神になろうとしていたのですね」
マイオリーもかなり憤っているようである。聖女として、命を弄ぶ行為を許せるわけがなかったのだ。
だが、その研究がフェリスを生み出し、そのフェリスとマイオリーは友諠を結んでいるのだから、世の中は分からないというものである。
「そういう事よ。あたくしは弟子としてその研究を引き継ぎ、それを完成させようとしていたのよ。……結果は見ての通りでしたけれどね」
失敗に終わった事に、オピスはかなり落ち込んでいた。
「オピスよ、その研究はもうやめるんじゃな。お前さんの実力ではとてもではないが完成させる事ができぬ。今回の事で懲りたじゃろう?」
「……返す言葉もありませんわね」
ドラコの言葉に、オピスは悔しさをにじませながら返していた。この分だとまだ諦めていないようである。
「罰として、お前さんにはこいつらの面倒を見てもらうぞ。あんな目に遭わされながらも、こいつらはお前さんと一緒に居る事を選んだんだからな」
「えっ?!」
ドラコから聞かされた言葉に、オピスはとても驚いている。
実験のために抜け殻にされた魔物たちであり、無理やり合成させた事で体が崩れかかっていた事実もある。だというのに、自分を選んでくれたという事実が受け入れられなかったのである。
「そんな、何かの間違いでしょう?」
「間違いなんかじゃないよ」
魔物にはっきりと言われるオピス。これにはさすがに言葉を失った。
「あ、あたくしなんかでよろしいのかしら」
「構わないよ。これはボクたちの総意だからね」
おそるおそる確認するオピス。それに対して魔物たちははっきりとそう告げると、オピスは顔を伏せて大声で泣いていた。
フェリスたちは黙ってその姿を見ていた。この光景に言葉は要らなかったのである。
「さて、陽が暮れてきたのう。今日はここで休む事になりそうなじゃ」
「そうね。食事なら任せてちょうだい。しっかりと振る舞わせてもらうわよ」
完全に解消したわけではないが、少しわだかまりが無くなったのか、フェリスたちの間の雰囲気が少し和らいでいた。
賑やかなその光景を夕陽が優しく照らしている。気のせいか、崩れてボロボロになったサイコシスの屋敷も、少し輝いていたような気がした。
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